終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章26 【帝国奪還編】戦士集結
「……アステナ王国の騎士、エレス・ラーツィット。ハイラント王国騎士、シルヴィア・アセンコット……だな?」
荒野を抜け、ライガたちから遅れること数時間。
エレスとシルヴィアの二人は地竜に乗って帝国ガリアを目指していた。
異形の大地での戦いを巡って気まずい空気が流れる中で、二人はなんとか遠目に帝国ガリアを見ることに成功する。要塞と形容するのに相応しい外見をした帝国を前にして、エレスたちはどのようにして侵入するべきなのかを模索する。
しかし、そんなことを考える暇もなく、突如として姿を現した帝国兵士たちにエレスとシルヴィアは取り囲まれてしまう。
「これはこれは……まずいことになりましたね……」
「どうして私たちがここに居るって分かったの……?」
長時間、立ち止まっていた訳ではない。
辿り着いたばかりのエレスたちがやってくることを知っていたかのように、帝国兵士たちは準備万端といった様子で出てきたのだ。
「ライガさんたちが捕まって、私たちがやってくることを伝えた……それか、ここまでの道中で姿を見られていたか……」
「ライガたちが捕まる……そんなことは、あまり考えたくないけど。道中、誰かの気配なんて感じなかったし……」
四方八方を帝国兵士たちに囲まれた状態で、エレスたちは何とか切り抜けようと頭を回転させるが有効的な策は浮かんでこない。
「帝国騎士様がお呼びである。大人しく付いてきてもらおうか」
「……帝国騎士」
兵士の一人が漏らした言葉に、エレスたちの表情が一層険しくなる。
帝国騎士と言えば、異形の力を行使する帝国ガリアの中でもトップクラスの実力を誇る精鋭たちである。これまでの異世界生活において、航大たちがただの一度も勝利を収めたことがない敵である。
今回の奪還作戦において、最も遭遇したくない人物からの呼び出し。
帝国ガリアを目前にして、厳しい状況に置かれてしまったことを実感しつつも、この状況で抵抗する道を選んだとしても帝国の警戒レベルを上昇させる結果にしか結びつかず、まさに八方塞がりといった現状に頭を抱えたくなる。
「どうするの、エレス……?」
「……ここは素直に従うとしましょう」
「でもッ……」
「とりあえずは従って帝国内部に入りましょう。そして脱出するチャンスを伺います」
「…………」
エレスの言葉に口を開こうとするシルヴィアだが、しかし帝国に入るための手段すら見つからない現状においては、その選択も正しいのかもしれないと表情を歪ませる。
「……何をコソコソ話している。大人しく付いてくるのか、否か……聞かせてもらおうか」
「この状況で抵抗するほど、頭は悪くないつもりですよ」
「それが堅実な選択だな」
エレスたちの返答を聞いて、帝国兵士たちは踵を返して歩き始める。
向かうは帝国ガリア。
いきなりピンチな場面を迎えるエレスたちの前に待つものとは――。
◆◆◆◆◆
「あれ……お城へ向かうんじゃないの……?」
「……どうやら違うようですね」
ハイラント王国、アステナ王国と比べて明らかに人影が少ない帝国ガリアの城下町。
町の内部は常に白煙と黒煙が漂っているような劣悪な環境にあり、ただ歩いているだけでシルヴィアは表情を顰めてしまう。エレスもまた、周囲を見渡して険しい表情を浮かべている。
「……男の人の姿が見えないけど」
「帝国ガリアにおいて、男性というのは強制的な肉体労働を科せられているのかもしれませんね」
「肉体労働……」
「そうです。遠目に鉱山がたくさん見えていますね……あそこで労働しているのだと推測します」
エレスの視線が向ける先。
そこにはもくもくと煙を吐き出し続ける山の姿がある。
「……みんなの顔から笑顔が消えてる」
「控え目に見ても、国民は幸福を感じていないことは明白ですね」
「帝国ガリアの絶対王政……」
城下町に入ってまだ時間も浅いが、街の様子を少し見るだけで、帝国ガリアという悪の権化たる国家の異常性が垣間見える。
元々、ハイラント王国でも貧民街と呼ばれる地域出身であるシルヴィアは、人の幸福、不幸には敏感である。
だからこそ、過去の自分が持っていた負の感情に似たものを持って日々を過ごしている国民を見て嫌悪感を禁じ得ない。
「……こっちだ」
帝国兵士の案内で城下町を歩くエレスたち。しかし、向かう先は眼前に存在する王城ではない。一直線に王城へ行くものだと思っていたエレスたちは、自分たちが向かう場所に不安を隠しきれない。
こうして二人を拘束したのは帝国騎士である。
人の命をゴミとしか見ていない帝国騎士の呼び出しである。碌な未来が待っていないことは確実であると言わざるを得ず、エレスは歩を進めながらも何とか脱出のチャンスを伺っている。
「それにしても、まだ何もしてない善良な一般人に対して、こんなにも兵士を使うとは……あまりの好待遇に驚きますね」
「それもこれも、帝国騎士様の指示である。この国において、総統を除けば帝国騎士様たちは最上の人間である。我々には及びもつかない考えをお持ちなのだろう」
エレスたちを取り囲む兵士たちの中でも、先頭を歩き続ける兵士へ声をかける。
兵士の返答を聞いて、帝国ガリアにおける帝国騎士の地位を再確認する。
帝国騎士と邂逅を果たす前に逃げなければならない。頭の中ではそれを理解しているのだが、連行される際にエレスたちは手持ちの武器を没収されている。シルヴィアはなんとかなるかもしれないが、エレスに限って言えば体術しか使えない状況である。
この場所で暴れまわって、それこそ複数人の帝国騎士を呼び寄せる訳にもいかない。
初っ端から苦戦を強いられる現状にエレスは苛立ちを隠すことが出来ず、しかしそんなことを考えている間に、エレスたちは城下町の隅に存在する一際大きな洋館の前までやってくるのであった。
「この中に帝国騎士様がお待ちである。進め」
「え、あんた達は来ないの?」
「帝国騎士様より、許可を頂いていない。我々の仕事は貴様たちをこの場へ連れてくることだけだ」
「…………」
帝国騎士が考えること、それはエレスたちからすると謎が多いものだった。
相手の目的が不明であり、より一層とエレスの警戒心は上がるのだが、兵士たちはエレスとシルヴィアが洋館に入るまで見張っているつもりらしく、その場から一歩も動くことはない。
「行ってみましょう」
「……でも、やっぱり帝国騎士と会うのはやめたほうがいいんじゃ?」
「憶測ですが、すぐに私たちを殺そうとする意思はないと見ます。それならば、会って話を聞いてみるのも悪くないかと」
「はぁ……まぁ、私は頭がそんなに良くないし。とりあえず、エレスに任せる」
「……ありがとうございます」
言葉を交わし、覚悟を決めたエレスとシルヴィアは洋館へ向けて一歩を踏み出す。
その先に待つ帝国騎士が何を考え、エレスたちをどうしようと言うのか。
不安だけが脳裏を支配する中、エレスとシルヴィアは洋館の扉に手をかけるのであった。
◆◆◆◆◆
「おっ、やっと来たな」
「全く、待ちくたびれたぞ」
「――はっ?」
洋館に入るなり、エレスたちを出迎えた人物。
それは残忍な帝国騎士ではなく、よく見慣れた顔だった。
「な、なんでライガとリエルがこの場所にッ!?」
最初に驚きの声を上げたのはシルヴィアだった。
目を丸くして驚きを露わにする彼女が向ける視線の先。そこにはニヤニヤと笑みを浮かべるライガとリエルの姿があった。隣に立つエレスもまた驚きを隠すことが出来ず、僅かに目を見開いている。
「まぁ、小難しい話は後だな」
「うむ、そうじゃな」
色々と積もる話はあるが、それを語る前にライガとリエルの二人は洋館のある場所へと視線を向ける。それに釣られるようにして、エレスたちも視線の向きを変えていく。
「……これで全員揃った」
「――ッ!?」
そこには帝国騎士が身につける純白の軍服に身を包んだ少女が立っている。
褐色の肌に艶のある黒髪。
今までに見たことのない帝国騎士の登場に驚くエレスたちを尻目に、褐色の少女はマイペースに話を続ける。
「……航大とユイを助ける。その手助けを私がする」
「――――はいっ?」
少女の言葉をすぐに理解することができず、エレスとシルヴィアの二人は目を丸くして呆気に取られるのであった。
帝国ガリアを舞台にした奪還作戦。
それは静かに、そして異質な形で終盤へと差し掛かっていく。
荒野を抜け、ライガたちから遅れること数時間。
エレスとシルヴィアの二人は地竜に乗って帝国ガリアを目指していた。
異形の大地での戦いを巡って気まずい空気が流れる中で、二人はなんとか遠目に帝国ガリアを見ることに成功する。要塞と形容するのに相応しい外見をした帝国を前にして、エレスたちはどのようにして侵入するべきなのかを模索する。
しかし、そんなことを考える暇もなく、突如として姿を現した帝国兵士たちにエレスとシルヴィアは取り囲まれてしまう。
「これはこれは……まずいことになりましたね……」
「どうして私たちがここに居るって分かったの……?」
長時間、立ち止まっていた訳ではない。
辿り着いたばかりのエレスたちがやってくることを知っていたかのように、帝国兵士たちは準備万端といった様子で出てきたのだ。
「ライガさんたちが捕まって、私たちがやってくることを伝えた……それか、ここまでの道中で姿を見られていたか……」
「ライガたちが捕まる……そんなことは、あまり考えたくないけど。道中、誰かの気配なんて感じなかったし……」
四方八方を帝国兵士たちに囲まれた状態で、エレスたちは何とか切り抜けようと頭を回転させるが有効的な策は浮かんでこない。
「帝国騎士様がお呼びである。大人しく付いてきてもらおうか」
「……帝国騎士」
兵士の一人が漏らした言葉に、エレスたちの表情が一層険しくなる。
帝国騎士と言えば、異形の力を行使する帝国ガリアの中でもトップクラスの実力を誇る精鋭たちである。これまでの異世界生活において、航大たちがただの一度も勝利を収めたことがない敵である。
今回の奪還作戦において、最も遭遇したくない人物からの呼び出し。
帝国ガリアを目前にして、厳しい状況に置かれてしまったことを実感しつつも、この状況で抵抗する道を選んだとしても帝国の警戒レベルを上昇させる結果にしか結びつかず、まさに八方塞がりといった現状に頭を抱えたくなる。
「どうするの、エレス……?」
「……ここは素直に従うとしましょう」
「でもッ……」
「とりあえずは従って帝国内部に入りましょう。そして脱出するチャンスを伺います」
「…………」
エレスの言葉に口を開こうとするシルヴィアだが、しかし帝国に入るための手段すら見つからない現状においては、その選択も正しいのかもしれないと表情を歪ませる。
「……何をコソコソ話している。大人しく付いてくるのか、否か……聞かせてもらおうか」
「この状況で抵抗するほど、頭は悪くないつもりですよ」
「それが堅実な選択だな」
エレスたちの返答を聞いて、帝国兵士たちは踵を返して歩き始める。
向かうは帝国ガリア。
いきなりピンチな場面を迎えるエレスたちの前に待つものとは――。
◆◆◆◆◆
「あれ……お城へ向かうんじゃないの……?」
「……どうやら違うようですね」
ハイラント王国、アステナ王国と比べて明らかに人影が少ない帝国ガリアの城下町。
町の内部は常に白煙と黒煙が漂っているような劣悪な環境にあり、ただ歩いているだけでシルヴィアは表情を顰めてしまう。エレスもまた、周囲を見渡して険しい表情を浮かべている。
「……男の人の姿が見えないけど」
「帝国ガリアにおいて、男性というのは強制的な肉体労働を科せられているのかもしれませんね」
「肉体労働……」
「そうです。遠目に鉱山がたくさん見えていますね……あそこで労働しているのだと推測します」
エレスの視線が向ける先。
そこにはもくもくと煙を吐き出し続ける山の姿がある。
「……みんなの顔から笑顔が消えてる」
「控え目に見ても、国民は幸福を感じていないことは明白ですね」
「帝国ガリアの絶対王政……」
城下町に入ってまだ時間も浅いが、街の様子を少し見るだけで、帝国ガリアという悪の権化たる国家の異常性が垣間見える。
元々、ハイラント王国でも貧民街と呼ばれる地域出身であるシルヴィアは、人の幸福、不幸には敏感である。
だからこそ、過去の自分が持っていた負の感情に似たものを持って日々を過ごしている国民を見て嫌悪感を禁じ得ない。
「……こっちだ」
帝国兵士の案内で城下町を歩くエレスたち。しかし、向かう先は眼前に存在する王城ではない。一直線に王城へ行くものだと思っていたエレスたちは、自分たちが向かう場所に不安を隠しきれない。
こうして二人を拘束したのは帝国騎士である。
人の命をゴミとしか見ていない帝国騎士の呼び出しである。碌な未来が待っていないことは確実であると言わざるを得ず、エレスは歩を進めながらも何とか脱出のチャンスを伺っている。
「それにしても、まだ何もしてない善良な一般人に対して、こんなにも兵士を使うとは……あまりの好待遇に驚きますね」
「それもこれも、帝国騎士様の指示である。この国において、総統を除けば帝国騎士様たちは最上の人間である。我々には及びもつかない考えをお持ちなのだろう」
エレスたちを取り囲む兵士たちの中でも、先頭を歩き続ける兵士へ声をかける。
兵士の返答を聞いて、帝国ガリアにおける帝国騎士の地位を再確認する。
帝国騎士と邂逅を果たす前に逃げなければならない。頭の中ではそれを理解しているのだが、連行される際にエレスたちは手持ちの武器を没収されている。シルヴィアはなんとかなるかもしれないが、エレスに限って言えば体術しか使えない状況である。
この場所で暴れまわって、それこそ複数人の帝国騎士を呼び寄せる訳にもいかない。
初っ端から苦戦を強いられる現状にエレスは苛立ちを隠すことが出来ず、しかしそんなことを考えている間に、エレスたちは城下町の隅に存在する一際大きな洋館の前までやってくるのであった。
「この中に帝国騎士様がお待ちである。進め」
「え、あんた達は来ないの?」
「帝国騎士様より、許可を頂いていない。我々の仕事は貴様たちをこの場へ連れてくることだけだ」
「…………」
帝国騎士が考えること、それはエレスたちからすると謎が多いものだった。
相手の目的が不明であり、より一層とエレスの警戒心は上がるのだが、兵士たちはエレスとシルヴィアが洋館に入るまで見張っているつもりらしく、その場から一歩も動くことはない。
「行ってみましょう」
「……でも、やっぱり帝国騎士と会うのはやめたほうがいいんじゃ?」
「憶測ですが、すぐに私たちを殺そうとする意思はないと見ます。それならば、会って話を聞いてみるのも悪くないかと」
「はぁ……まぁ、私は頭がそんなに良くないし。とりあえず、エレスに任せる」
「……ありがとうございます」
言葉を交わし、覚悟を決めたエレスとシルヴィアは洋館へ向けて一歩を踏み出す。
その先に待つ帝国騎士が何を考え、エレスたちをどうしようと言うのか。
不安だけが脳裏を支配する中、エレスとシルヴィアは洋館の扉に手をかけるのであった。
◆◆◆◆◆
「おっ、やっと来たな」
「全く、待ちくたびれたぞ」
「――はっ?」
洋館に入るなり、エレスたちを出迎えた人物。
それは残忍な帝国騎士ではなく、よく見慣れた顔だった。
「な、なんでライガとリエルがこの場所にッ!?」
最初に驚きの声を上げたのはシルヴィアだった。
目を丸くして驚きを露わにする彼女が向ける視線の先。そこにはニヤニヤと笑みを浮かべるライガとリエルの姿があった。隣に立つエレスもまた驚きを隠すことが出来ず、僅かに目を見開いている。
「まぁ、小難しい話は後だな」
「うむ、そうじゃな」
色々と積もる話はあるが、それを語る前にライガとリエルの二人は洋館のある場所へと視線を向ける。それに釣られるようにして、エレスたちも視線の向きを変えていく。
「……これで全員揃った」
「――ッ!?」
そこには帝国騎士が身につける純白の軍服に身を包んだ少女が立っている。
褐色の肌に艶のある黒髪。
今までに見たことのない帝国騎士の登場に驚くエレスたちを尻目に、褐色の少女はマイペースに話を続ける。
「……航大とユイを助ける。その手助けを私がする」
「――――はいっ?」
少女の言葉をすぐに理解することができず、エレスとシルヴィアの二人は目を丸くして呆気に取られるのであった。
帝国ガリアを舞台にした奪還作戦。
それは静かに、そして異質な形で終盤へと差し掛かっていく。
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