終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章15 【帝国奪還編】氷獄の竜
「――去るがいい。無力な人間たちよ」
軍港の町・ズイガンから帝国ガリアへ向かうライガ、リエル、シルヴィア、エレスの四人は移動の途中で突如発生した暴風に飲み込まれてしまった。
その結果、シルヴィアとエレスは氷と吹雪が支配する氷獄の大地へと吹き飛ばされてしまい、ライガとリエルの二人と別々の行動を余儀なくされてしまった。大きな怪我がないことは不幸中の幸いであると言えるが、シルヴィアとエレスの二人の前には、美しい青の鱗が印象的な竜の魔獣が立ち塞がったのだった。
魔獣は現実世界の『青龍』と呼ばれる伝説上の生き物と酷似していた。
その圧倒的なまでの存在感と、魔獣の身体から発せられる威圧感を前にして、一時はシルヴィアも慄いていたが、彼女たちにはこんなところで立ち止まっている暇はないのだ。
――大切な人が帝国で苦しんでいる。
自分たちの力が不足していた結果、共に戦う仲間を連れ去られてしまった。何としてでも、シルヴィアたちは航大とユイの二人を助け出さなければならない。
「……どうしますか、戦いますか?」
「戦うよ。そうしないと、先に進めないんだから」
吹雪で荒れる大地に立ち尽くすシルヴィアとエレス。
それと対峙するように立ち塞がる竜の魔獣。
静寂が支配するのも一瞬であり、先に動き出すのはハイラント王国の騎士・シルヴィアだった。
「――剣姫覚醒ッ!」
姿勢を低くして、素早い身のこなしを見せるシルヴィアは、自身の内に眠る異形の力を呼び起こす。眩い光を全身に纏わせ、それが消えるのと同時にシルヴィアの容姿は一変していた。
純白の甲冑ドレスに身を包み、美しい金髪は腰まで伸びてつむじを中心に白銀の色を混じらせる。両手には双対の剣が握られており、それぞれ『緋剣』『蒼剣』と名付けられている。
「私が先陣を切るッ……エレスは後ろをお願いッ!」
「承知しました。バックアップはお任せください」
シルヴィアの少し後ろをエレスが付いていく。剣姫の力を解放したシルヴィアに遅れを取らない身のこなしを見せるエレスもまた、右手には宝石が輝く細剣が握られている。
「――愚かなり」
剣山の頂点で立ち塞がる竜の魔獣は、やはりその場から動くこともなく淡々とシルヴィアたちを見下ろしている。
「飛んで行くよッ!」
「シルヴィアさんッ、気をつけてくださいッ!」
「――来るッ!?」
剣山の山を跳躍を繰り返すことで進んでいくシルヴィアの身体目掛けて、凄まじい速さで接近してくる物体があった。それは鋭利に尖った水晶の形をしており、シルヴィアの身体を貫こうとしているのは明白だった。
「……私は二度と、負けたりしないッ!」
視界の外から接近してくる水晶にも動じることはなく、シルヴィアは険しい表情を浮かべると、右手に持った緋剣に炎を纏わせていく。
「――紅蓮の刃ッ」
シルヴィアが剣術の名を響くのと同時に、甲冑ドレスを身に纏った少女を中心に炎を纏った爆発が発生する。シルヴィアが持つ緋剣の力であり、炎を纏った刀身に触れるものを見境なく破壊し尽くす技だった。
「大丈夫ですか、シルヴィアさんッ!?」
「――全く問題なしッ!」
粉塵を切り裂くようにして飛び出してきたシルヴィアの身体には一切の怪我などはなく健在である。そのまま勢いを殺すことなく剣山を飛び続けるシルヴィアは、目前まで迫った竜の魔獣へありったけの力を解き放っていく。
「――聖なる剣輝ッ」
両手に持った『緋剣』と『蒼剣』を重ね合わせることで、強大な力を一点に集中させていく剣術。重なり合う双対の剣は眩い輝きを纏うと、眼前に立ち塞がる竜の魔獣を切り裂こうとする。
「喰らえええええええええぇぇぇぇッ!」
高く振り上げた双対の剣を思い切り振り下ろす。
すると、刀身に集まった膨大な力が一気に解放され、巨大な聖なる斬撃が魔獣に襲いかかっていく。凄まじい轟音が響き、剣山が真っ二つに両断されていく。
「これはこれは、すごいですね……」
「…………」
粉塵の中から姿を現したのはシルヴィアとエレス。崩壊していく剣山から脱出し、雪が積もる大地へと着地していく。
竜の魔獣が佇んでいた剣山は跡形もなく消失しており、今はまだ粉塵の中に姿を隠している。竜の魔獣がどうなったのか、それはまだ確認できておらず、シルヴィアは両手に双対の剣を握ったまま、険しい表情で前方を睨みつけている。
「とてつもない破壊力ですね」
「……ちょっと、消耗が大きいけどね」
息一つ乱すことなく、しっかりと大地に足をつけて立つシルヴィア。
その姿を見て、エレスはニコリと笑みを浮かべると一歩前に出る。
「……エレス?」
「やはり、あれだけの魔獣ですからね……簡単には倒れてくれないようですよ?」
「――えっ?」
エレスはやはりニコッと柔らかな笑みを浮かべると、右手に持った細剣を天に掲げる。
「――宝剣・結晶防壁」
静かに呟かれる言葉。それに呼応するようにして、エレスが持つ細剣が輝きを放ち始める。剣の中心に存在する宝石が眩く輝き、それと同時にエレスとシルヴィアの周囲に無数の宝石が展開される。
「なに、これッ……!?」
「動かないでください――来ますよ」
「――ッ!?」
宝石がエレスとシルヴィアの身体を包み込むように展開された瞬間だった、崩壊した剣山を包む粉塵の中から、今までに感じたことのない威圧感がシルヴィアたちの肌を突き刺す。
「――――ッ!」
氷獄の大地に轟く咆哮と同時に、粉塵の中から青白い閃光が走る。
閃光はシルヴィアたちの身体を正確に捉えており、その身体を貫こうとする。
「きゃッ!?」
「――さすがは魔獣。凄まじい力ですね」
瞬速で接近する閃光はしかし、エレスが展開する宝石に行く先を阻まれる。
エレスが召喚した宝石は防壁の役割を担っており、竜の魔獣が放つ攻撃すらもしっかりと防ぎ切る。
「……死する覚悟は出来たか?」
放たれた閃光は瞬く間の内に粉塵を消失させ、竜の魔獣はその身体に一つの傷も負うことなく氷獄の大地に存在していた。全くの無傷であることに驚きを隠せないシルヴィアであったが、エレスは眼前に立つ魔獣を前にしても表情を変えることはない。
「やはり、そう簡単には倒れてくれませんね」
「嘘……あの攻撃、直撃してたのに……」
「そうですね。間違いなくシルヴィアさんの攻撃はヒットしました。しかし、傷一つ無し……これは厄介ですね」
「……厄介どころの話じゃないんだけど」
「私はどちらかというと支援タイプの戦いを好みますので、火力重視の攻撃は持っていないのです」
「…………」
竜の魔獣が放つ閃光を凌ぐと、エレスたちの身体を守るように展開された宝石は砕け散って消失する。
そして再びの静寂が場を支配すると、シルヴィアとエレスは眼前に佇む竜の魔獣を睨みつける。
「――さぁ、死ぬがいい」
魔獣の言葉に呼応するように、周囲を舞う吹雪が一層強くなっていく。
氷獄の大地での壮絶なる戦いは、徐々に激しさを増していく。
その先に待つのは生か死か――。
軍港の町・ズイガンから帝国ガリアへ向かうライガ、リエル、シルヴィア、エレスの四人は移動の途中で突如発生した暴風に飲み込まれてしまった。
その結果、シルヴィアとエレスは氷と吹雪が支配する氷獄の大地へと吹き飛ばされてしまい、ライガとリエルの二人と別々の行動を余儀なくされてしまった。大きな怪我がないことは不幸中の幸いであると言えるが、シルヴィアとエレスの二人の前には、美しい青の鱗が印象的な竜の魔獣が立ち塞がったのだった。
魔獣は現実世界の『青龍』と呼ばれる伝説上の生き物と酷似していた。
その圧倒的なまでの存在感と、魔獣の身体から発せられる威圧感を前にして、一時はシルヴィアも慄いていたが、彼女たちにはこんなところで立ち止まっている暇はないのだ。
――大切な人が帝国で苦しんでいる。
自分たちの力が不足していた結果、共に戦う仲間を連れ去られてしまった。何としてでも、シルヴィアたちは航大とユイの二人を助け出さなければならない。
「……どうしますか、戦いますか?」
「戦うよ。そうしないと、先に進めないんだから」
吹雪で荒れる大地に立ち尽くすシルヴィアとエレス。
それと対峙するように立ち塞がる竜の魔獣。
静寂が支配するのも一瞬であり、先に動き出すのはハイラント王国の騎士・シルヴィアだった。
「――剣姫覚醒ッ!」
姿勢を低くして、素早い身のこなしを見せるシルヴィアは、自身の内に眠る異形の力を呼び起こす。眩い光を全身に纏わせ、それが消えるのと同時にシルヴィアの容姿は一変していた。
純白の甲冑ドレスに身を包み、美しい金髪は腰まで伸びてつむじを中心に白銀の色を混じらせる。両手には双対の剣が握られており、それぞれ『緋剣』『蒼剣』と名付けられている。
「私が先陣を切るッ……エレスは後ろをお願いッ!」
「承知しました。バックアップはお任せください」
シルヴィアの少し後ろをエレスが付いていく。剣姫の力を解放したシルヴィアに遅れを取らない身のこなしを見せるエレスもまた、右手には宝石が輝く細剣が握られている。
「――愚かなり」
剣山の頂点で立ち塞がる竜の魔獣は、やはりその場から動くこともなく淡々とシルヴィアたちを見下ろしている。
「飛んで行くよッ!」
「シルヴィアさんッ、気をつけてくださいッ!」
「――来るッ!?」
剣山の山を跳躍を繰り返すことで進んでいくシルヴィアの身体目掛けて、凄まじい速さで接近してくる物体があった。それは鋭利に尖った水晶の形をしており、シルヴィアの身体を貫こうとしているのは明白だった。
「……私は二度と、負けたりしないッ!」
視界の外から接近してくる水晶にも動じることはなく、シルヴィアは険しい表情を浮かべると、右手に持った緋剣に炎を纏わせていく。
「――紅蓮の刃ッ」
シルヴィアが剣術の名を響くのと同時に、甲冑ドレスを身に纏った少女を中心に炎を纏った爆発が発生する。シルヴィアが持つ緋剣の力であり、炎を纏った刀身に触れるものを見境なく破壊し尽くす技だった。
「大丈夫ですか、シルヴィアさんッ!?」
「――全く問題なしッ!」
粉塵を切り裂くようにして飛び出してきたシルヴィアの身体には一切の怪我などはなく健在である。そのまま勢いを殺すことなく剣山を飛び続けるシルヴィアは、目前まで迫った竜の魔獣へありったけの力を解き放っていく。
「――聖なる剣輝ッ」
両手に持った『緋剣』と『蒼剣』を重ね合わせることで、強大な力を一点に集中させていく剣術。重なり合う双対の剣は眩い輝きを纏うと、眼前に立ち塞がる竜の魔獣を切り裂こうとする。
「喰らえええええええええぇぇぇぇッ!」
高く振り上げた双対の剣を思い切り振り下ろす。
すると、刀身に集まった膨大な力が一気に解放され、巨大な聖なる斬撃が魔獣に襲いかかっていく。凄まじい轟音が響き、剣山が真っ二つに両断されていく。
「これはこれは、すごいですね……」
「…………」
粉塵の中から姿を現したのはシルヴィアとエレス。崩壊していく剣山から脱出し、雪が積もる大地へと着地していく。
竜の魔獣が佇んでいた剣山は跡形もなく消失しており、今はまだ粉塵の中に姿を隠している。竜の魔獣がどうなったのか、それはまだ確認できておらず、シルヴィアは両手に双対の剣を握ったまま、険しい表情で前方を睨みつけている。
「とてつもない破壊力ですね」
「……ちょっと、消耗が大きいけどね」
息一つ乱すことなく、しっかりと大地に足をつけて立つシルヴィア。
その姿を見て、エレスはニコリと笑みを浮かべると一歩前に出る。
「……エレス?」
「やはり、あれだけの魔獣ですからね……簡単には倒れてくれないようですよ?」
「――えっ?」
エレスはやはりニコッと柔らかな笑みを浮かべると、右手に持った細剣を天に掲げる。
「――宝剣・結晶防壁」
静かに呟かれる言葉。それに呼応するようにして、エレスが持つ細剣が輝きを放ち始める。剣の中心に存在する宝石が眩く輝き、それと同時にエレスとシルヴィアの周囲に無数の宝石が展開される。
「なに、これッ……!?」
「動かないでください――来ますよ」
「――ッ!?」
宝石がエレスとシルヴィアの身体を包み込むように展開された瞬間だった、崩壊した剣山を包む粉塵の中から、今までに感じたことのない威圧感がシルヴィアたちの肌を突き刺す。
「――――ッ!」
氷獄の大地に轟く咆哮と同時に、粉塵の中から青白い閃光が走る。
閃光はシルヴィアたちの身体を正確に捉えており、その身体を貫こうとする。
「きゃッ!?」
「――さすがは魔獣。凄まじい力ですね」
瞬速で接近する閃光はしかし、エレスが展開する宝石に行く先を阻まれる。
エレスが召喚した宝石は防壁の役割を担っており、竜の魔獣が放つ攻撃すらもしっかりと防ぎ切る。
「……死する覚悟は出来たか?」
放たれた閃光は瞬く間の内に粉塵を消失させ、竜の魔獣はその身体に一つの傷も負うことなく氷獄の大地に存在していた。全くの無傷であることに驚きを隠せないシルヴィアであったが、エレスは眼前に立つ魔獣を前にしても表情を変えることはない。
「やはり、そう簡単には倒れてくれませんね」
「嘘……あの攻撃、直撃してたのに……」
「そうですね。間違いなくシルヴィアさんの攻撃はヒットしました。しかし、傷一つ無し……これは厄介ですね」
「……厄介どころの話じゃないんだけど」
「私はどちらかというと支援タイプの戦いを好みますので、火力重視の攻撃は持っていないのです」
「…………」
竜の魔獣が放つ閃光を凌ぐと、エレスたちの身体を守るように展開された宝石は砕け散って消失する。
そして再びの静寂が場を支配すると、シルヴィアとエレスは眼前に佇む竜の魔獣を睨みつける。
「――さぁ、死ぬがいい」
魔獣の言葉に呼応するように、周囲を舞う吹雪が一層強くなっていく。
氷獄の大地での壮絶なる戦いは、徐々に激しさを増していく。
その先に待つのは生か死か――。
コメント