終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第三章23 世界を守護する女神VS世界を破滅させる影
「――さぁ、永劫に続く殺し合いを再開しましょう」
ここは神谷航大という存在が持つ深層世界。
そこには航大が持つ負の感情が具現化した『影』と、北方の守り神・シュナが存在しており、この二人は航大が知らない所で延々と殺し合いを演じてきていた。
「ちッ……生意気な……」
全身を傷だらけにしながらも果敢に立ち向かってくる女神シュナを前にして、漆黒の影に身を包んだもう一人の『神谷航大』は忌々しげに舌打ちを漏らす。
『――ふん、忌々しい女神め。滅してくれようぞ』
航大と女神シュナが対峙するのは、航大と同じ姿をした影だけではない。影の背後には見上げるほどの巨体を誇る『ギヌス』と呼ばれる魔竜が存在していた。
――魔竜ギヌス。
それはかつて世界を滅ぼした四神竜と呼ばれる魔竜の一体であり、夢の中で邂逅を果たした魔竜は封印されていても尚、航大と接触を図った末に己が持つ『異形の力』の一部を航大に与えていた。
魔竜・ギヌスの身体からは無数の木々が生えており、その大きさも相まって遠目からは小さな島が動いているようにも見えた。
「……シュナ、お前大丈夫なのか?」
「はい。大丈夫ですよ。さっきはちょっと油断してやられちゃっただけですし」
「ちょっと油断してってレベルの傷じゃないような……」
「……確かにそうですね。主を前にしているのに恥ずかしい格好はできませんね」
「……え?」
全身を傷だらけにして美しい肌の露出が多くなっていることを理解すると、シュナはちらっと後ろに立つ航大を振り返って可愛らしく舌を出した。
そしていつしか手に持っていた魔法の杖を空にかざすと、航大には聞き取れない魔法の詠唱を始める。すると、杖の先端から溢れ出た光が彼女の身体を優しく包み込んで、次の瞬間にはあれだけ存在していた傷が一つも残らず消え失せていたのであった。
「……私は貴方に出会えて本当によかったと思っています」
「……なんだよ、急に」
「日頃、貴方の視線を介して可愛い妹の姿を見ます。何年も、何十年も、何百年もの間……あの娘は笑うことが出来なかったんです。しかし、貴方と出会って……色んな人と出会って……あの娘は自然に笑うようになったんです」
「…………」
「私とリエルが己の使命に気付く前……私たちはよく笑っていました。私が女神として封印されるその時も、最後は笑ってお別れをしたんです。しかし、長すぎる孤独の時間はあの娘から笑顔を奪ってしまった。そのことが、私にとって何よりも辛かったんです」
「…………」
「あの娘に笑顔を取り戻してくれた……それだけで、私はこんなにも嬉しいんです。ありがとうございます」
「お、俺は特別なにも……」
「そんなことありませんよ。今や、私は貴方の身体に憑依することでしか生きることは出来ません。そんな私が出来ること……それは、貴方の中に眠る忌々しい力を抑えることくらいです」
「…………」
「……航大さん。貴方が望むのなら、私はいつでも力を貸しましょう。闇に飲まれそうになるのなら、私がその闇を打ち払いましょう」
「……シュナ」
「――だからもう絶望することなんか無いんです。貴方には貴方を想ってくれる仲間がいるのですから」
優しく吹き付ける風にドレスと美しいライトブルーの髪を靡かせながら、女神シュナは航大に背中を見せて強大な敵に立ち向かおうとしていた。
「ふん、話はもう終わりか?」
「はい。お待たせしましたね」
「てめぇが何と言おうとも、もう一人の俺は力を求めるぜ? それが世界を破滅させる力だったとしてもなッ」
「もし、主が道を外そうとするのなら、それを正しい方向へ導くのが女神である私の仕事です」
「はぁ……話はここまでだ。おい、ギヌス。俺に力をよこせッ」
『――いいだろう。魔竜の力、受け取るがいい』
航大と瓜二つの外見をして実体化した漆黒の影は、自身の背後に存在する魔竜へ乱暴に言葉を投げかける。かつて魔竜と呼ばれ、世界を破滅させた魔竜ギヌスは悦楽の声を漏らすと、己の力を影に与えていく。
「うぐッ、ぐあああああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
魔竜ギヌスの身体が禍々しい光を放つ光球に姿を変えると、影であるもう一人の航大の身体へと取り込まれていく。
「これがッ……魔竜の力ッ……!」
溢れんばかりの力をその身に宿した影は、その背中に巨大な竜の翼を生やすと、全身に滾る魔竜の力に雄叫びを上げる。
「な、なんて力だ……あ、あんなの……勝てる訳が……」
「……航大さん。恐れないでください」
「――ッ!?」
無力な航大にでも一瞬で理解できる、圧倒的な力の本流。
魔竜と融合を果たしたもう一人の自分が放つ禍々しい力を前にして、航大は勝てる訳がないという絶望感に身体を震わせていた。そんな航大に声をかけるのは、異形の存在と最前線で対峙する女神シュナだった。
「その感情があの存在に力を与えるのです。貴方はただ安心して待っていてください。私はこの世界を守護する女神の一人。負けるはずがありません」
「……分かった。頼むぞ、シュナ」
「……はいッ」
誰もが恐怖する魔竜と融合した禍々しき存在を前にしても、女神シュナは諦めることはなかった。毅然とした様子で一歩も引くことなく眼前を睨みつける。
「……次こそは、完全に殺してやるよ」
「女神の力、甘く見ないでくださいねッ」
その言葉を合図に、二つの影が深層世界の空を飛翔する。
「――ヒャノアッ!」
「――ッ!?」
詠唱することなく、魔法の名前を呼ぶだけで虚空に巨大な両剣水晶を生成するシュナ。その大きさはリエルが使うものとは明らかに違っていて、大きさは倍以上を誇っていた。
「ふんッ、今更そんな攻撃が通用するかよッ!」
翼を持ち、空を自由に滑空することが出来るようになった影は、一瞬の内に接近を果たす両剣水晶による攻撃を容易く回避すると、右手を突き出して反撃に転じる。
「――創世魔法・グランフォルッ!」
「――ッ!?」
同じく空を滑空するシュナよりも高く飛ぶと、もう一人の航大は小さく魔法の名前を口にした。静かな声音が深層世界に響くと、女神シュナの瞳が驚愕に見開かれていく。
次の瞬間、深層世界のあらゆる場所から大樹が生成された。
「な、なんだこれッ……!?」
「これはッ……魔竜が使ったとされる世界創造の魔法……」
「せ、世界創造……ッ!?」
「そうです。見た通りにあらゆる木々を自由に生み出し、使役することが出来る魔法です……現代の魔法史においても魔竜しか使うことが出来ず、伝説とされている魔法です……」
「お喋りしてる暇があるのかよぉッ!?」
驚く航大に魔法について説明するシュナに、創世魔法を使役した影が怒りに満ちた声を漏らしていく。
深層世界の足元に広がる空を突き破るようにして生まれた大樹は、その幹を天空へと伸ばしていくと、女神シュナの身体を飲み込もうとしていく。
「――アニラッ!」
瞬速の速さで女神シュナの身体を飲み込もうとする大樹に対して、彼女はリエルも使っていた氷系の防御魔法を唱える。
「おせぇッ……そのまま飲み込まれろッ!」
「――ッ!?」
シュナが防御魔法を展開するのと同時に、彼女の小さな身体を巨大な大樹の幹が渦を巻くようにして飲み込んでいく。
「シュナッ!」
女神シュナの身体が大樹の中に消えたのを見て、航大が声を上げる。
「――創世魔法グランド・デスフォルッ!」
「――ッ!?」
シュナの身体を大樹の中に取り込んだだけでは飽き足らず、飛翔する影は魔法の詠唱をすることなく次の創世魔法を繰り出していく。興奮した様子で魔法を詠唱した直後、生み出された大樹が何の前触れもなく突如、轟音を響かせながら爆散したのだった。
「うあああああああああぁぁぁッ!?」
あまりの衝撃に航大の小さな身体は呆気なく吹き飛ばされてしまう。
深層世界全体が揺れるような錯覚の中、大樹が膨大なエネルギーを発しながら爆散を続けていく。
「シュナああああああああああぁぁぁッ!」
見上げるほどに成長した大樹が爆発して消失していく様子を見て、航大は思わず声を上げていた。
――創世魔法。
それは異世界にやってきて、様々な魔法を見てきた航大にとっても異次元の力を誇っていた。この世に存在する大自然を意のままに操る力。それはまさしく世界を創造した力なのであると納得できる物であり、その直撃を受けたシュナの安否を航大はまだ確認することが出来ない。
「――グラン・ブリザード」
「――ッ!?」
広大な領域にまで広がった粉塵の中、シュナの言葉が深層世界に響き渡る。
すると、虚空から無数の氷槍が生成され、油断していた影へと飛翔していく。
「――ちッ!」
氷系魔法で最強の力を誇るグラン・ブリザードは、対象物の身体を貫くまで永続的に氷槍が生成され追尾していく魔法である。氷都市・ミノルアでの戦いにおいてリエルも使った魔法の一つである。
「この魔法でも、一発ではやられないってかッ……」
「はぁ、はぁ……言ったでしょう? 女神を甘く見ないでくださいって……」
「シュナッ、大丈夫かッ!?」
「……はい。まさか、創世魔法を使えるようになってるとは、想定外でしたが……問題ありません」
粉塵を切り裂くようにして飛び出してきたシュナは、その身体の至る所に火傷を負いながらもしっかりと意識を保っていた。
虚空から生成される氷槍は影の身体を貫こうとして飛翔を続けるが、その魔法を前にしても影は動じることなく冷静に対応を続けていく。
「――創世魔法・絶魔封陣ッ!」
「こ、今度はなんだッ!?」
「……本当に、四神竜は厄介ですね」
「――氷槍がッ!?」
影が魔法を詠唱した次の瞬間、シュナが生成した氷槍の全てが一瞬にして霧散した。
それだけではなく、影が自ら生成した大樹たちの全ても姿を消しており、深層世界には一瞬の静寂が支配するようになっていた。
「なんだ、これッ……」
「全ての魔法を無効化する創世魔法の一つです」
「む、無効化……?」
「自分の魔法も対象になりますが、一方的に全ての魔力を無に帰す魔法ですね」
「……マジかよ」
それは魔法が支配する異世界において、絶大な力を誇るものであると航大にでも認識することができた。
「さぁ、第二ラウンドと行こうじゃないか、女神さんよ」
「……そうですね」
瞬きの間に過ぎていく深層世界での戦い。
強大な魔法の応酬となった戦いの中、目に見えるダメージを負ったのはシュナだった。致命傷といえるダメージは皆無だとしても、創世魔法が持つ圧倒的な力を前に無傷ではいられない。
対するもう一人の航大として存在し、魔竜と融合を果たした影にはダメージはおろか余裕といった素振りすら見せている。
深層世界で繰り広げられる史上最大の戦いは熾烈を極め、中盤戦へと差し掛かっていく。
ここは神谷航大という存在が持つ深層世界。
そこには航大が持つ負の感情が具現化した『影』と、北方の守り神・シュナが存在しており、この二人は航大が知らない所で延々と殺し合いを演じてきていた。
「ちッ……生意気な……」
全身を傷だらけにしながらも果敢に立ち向かってくる女神シュナを前にして、漆黒の影に身を包んだもう一人の『神谷航大』は忌々しげに舌打ちを漏らす。
『――ふん、忌々しい女神め。滅してくれようぞ』
航大と女神シュナが対峙するのは、航大と同じ姿をした影だけではない。影の背後には見上げるほどの巨体を誇る『ギヌス』と呼ばれる魔竜が存在していた。
――魔竜ギヌス。
それはかつて世界を滅ぼした四神竜と呼ばれる魔竜の一体であり、夢の中で邂逅を果たした魔竜は封印されていても尚、航大と接触を図った末に己が持つ『異形の力』の一部を航大に与えていた。
魔竜・ギヌスの身体からは無数の木々が生えており、その大きさも相まって遠目からは小さな島が動いているようにも見えた。
「……シュナ、お前大丈夫なのか?」
「はい。大丈夫ですよ。さっきはちょっと油断してやられちゃっただけですし」
「ちょっと油断してってレベルの傷じゃないような……」
「……確かにそうですね。主を前にしているのに恥ずかしい格好はできませんね」
「……え?」
全身を傷だらけにして美しい肌の露出が多くなっていることを理解すると、シュナはちらっと後ろに立つ航大を振り返って可愛らしく舌を出した。
そしていつしか手に持っていた魔法の杖を空にかざすと、航大には聞き取れない魔法の詠唱を始める。すると、杖の先端から溢れ出た光が彼女の身体を優しく包み込んで、次の瞬間にはあれだけ存在していた傷が一つも残らず消え失せていたのであった。
「……私は貴方に出会えて本当によかったと思っています」
「……なんだよ、急に」
「日頃、貴方の視線を介して可愛い妹の姿を見ます。何年も、何十年も、何百年もの間……あの娘は笑うことが出来なかったんです。しかし、貴方と出会って……色んな人と出会って……あの娘は自然に笑うようになったんです」
「…………」
「私とリエルが己の使命に気付く前……私たちはよく笑っていました。私が女神として封印されるその時も、最後は笑ってお別れをしたんです。しかし、長すぎる孤独の時間はあの娘から笑顔を奪ってしまった。そのことが、私にとって何よりも辛かったんです」
「…………」
「あの娘に笑顔を取り戻してくれた……それだけで、私はこんなにも嬉しいんです。ありがとうございます」
「お、俺は特別なにも……」
「そんなことありませんよ。今や、私は貴方の身体に憑依することでしか生きることは出来ません。そんな私が出来ること……それは、貴方の中に眠る忌々しい力を抑えることくらいです」
「…………」
「……航大さん。貴方が望むのなら、私はいつでも力を貸しましょう。闇に飲まれそうになるのなら、私がその闇を打ち払いましょう」
「……シュナ」
「――だからもう絶望することなんか無いんです。貴方には貴方を想ってくれる仲間がいるのですから」
優しく吹き付ける風にドレスと美しいライトブルーの髪を靡かせながら、女神シュナは航大に背中を見せて強大な敵に立ち向かおうとしていた。
「ふん、話はもう終わりか?」
「はい。お待たせしましたね」
「てめぇが何と言おうとも、もう一人の俺は力を求めるぜ? それが世界を破滅させる力だったとしてもなッ」
「もし、主が道を外そうとするのなら、それを正しい方向へ導くのが女神である私の仕事です」
「はぁ……話はここまでだ。おい、ギヌス。俺に力をよこせッ」
『――いいだろう。魔竜の力、受け取るがいい』
航大と瓜二つの外見をして実体化した漆黒の影は、自身の背後に存在する魔竜へ乱暴に言葉を投げかける。かつて魔竜と呼ばれ、世界を破滅させた魔竜ギヌスは悦楽の声を漏らすと、己の力を影に与えていく。
「うぐッ、ぐあああああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
魔竜ギヌスの身体が禍々しい光を放つ光球に姿を変えると、影であるもう一人の航大の身体へと取り込まれていく。
「これがッ……魔竜の力ッ……!」
溢れんばかりの力をその身に宿した影は、その背中に巨大な竜の翼を生やすと、全身に滾る魔竜の力に雄叫びを上げる。
「な、なんて力だ……あ、あんなの……勝てる訳が……」
「……航大さん。恐れないでください」
「――ッ!?」
無力な航大にでも一瞬で理解できる、圧倒的な力の本流。
魔竜と融合を果たしたもう一人の自分が放つ禍々しい力を前にして、航大は勝てる訳がないという絶望感に身体を震わせていた。そんな航大に声をかけるのは、異形の存在と最前線で対峙する女神シュナだった。
「その感情があの存在に力を与えるのです。貴方はただ安心して待っていてください。私はこの世界を守護する女神の一人。負けるはずがありません」
「……分かった。頼むぞ、シュナ」
「……はいッ」
誰もが恐怖する魔竜と融合した禍々しき存在を前にしても、女神シュナは諦めることはなかった。毅然とした様子で一歩も引くことなく眼前を睨みつける。
「……次こそは、完全に殺してやるよ」
「女神の力、甘く見ないでくださいねッ」
その言葉を合図に、二つの影が深層世界の空を飛翔する。
「――ヒャノアッ!」
「――ッ!?」
詠唱することなく、魔法の名前を呼ぶだけで虚空に巨大な両剣水晶を生成するシュナ。その大きさはリエルが使うものとは明らかに違っていて、大きさは倍以上を誇っていた。
「ふんッ、今更そんな攻撃が通用するかよッ!」
翼を持ち、空を自由に滑空することが出来るようになった影は、一瞬の内に接近を果たす両剣水晶による攻撃を容易く回避すると、右手を突き出して反撃に転じる。
「――創世魔法・グランフォルッ!」
「――ッ!?」
同じく空を滑空するシュナよりも高く飛ぶと、もう一人の航大は小さく魔法の名前を口にした。静かな声音が深層世界に響くと、女神シュナの瞳が驚愕に見開かれていく。
次の瞬間、深層世界のあらゆる場所から大樹が生成された。
「な、なんだこれッ……!?」
「これはッ……魔竜が使ったとされる世界創造の魔法……」
「せ、世界創造……ッ!?」
「そうです。見た通りにあらゆる木々を自由に生み出し、使役することが出来る魔法です……現代の魔法史においても魔竜しか使うことが出来ず、伝説とされている魔法です……」
「お喋りしてる暇があるのかよぉッ!?」
驚く航大に魔法について説明するシュナに、創世魔法を使役した影が怒りに満ちた声を漏らしていく。
深層世界の足元に広がる空を突き破るようにして生まれた大樹は、その幹を天空へと伸ばしていくと、女神シュナの身体を飲み込もうとしていく。
「――アニラッ!」
瞬速の速さで女神シュナの身体を飲み込もうとする大樹に対して、彼女はリエルも使っていた氷系の防御魔法を唱える。
「おせぇッ……そのまま飲み込まれろッ!」
「――ッ!?」
シュナが防御魔法を展開するのと同時に、彼女の小さな身体を巨大な大樹の幹が渦を巻くようにして飲み込んでいく。
「シュナッ!」
女神シュナの身体が大樹の中に消えたのを見て、航大が声を上げる。
「――創世魔法グランド・デスフォルッ!」
「――ッ!?」
シュナの身体を大樹の中に取り込んだだけでは飽き足らず、飛翔する影は魔法の詠唱をすることなく次の創世魔法を繰り出していく。興奮した様子で魔法を詠唱した直後、生み出された大樹が何の前触れもなく突如、轟音を響かせながら爆散したのだった。
「うあああああああああぁぁぁッ!?」
あまりの衝撃に航大の小さな身体は呆気なく吹き飛ばされてしまう。
深層世界全体が揺れるような錯覚の中、大樹が膨大なエネルギーを発しながら爆散を続けていく。
「シュナああああああああああぁぁぁッ!」
見上げるほどに成長した大樹が爆発して消失していく様子を見て、航大は思わず声を上げていた。
――創世魔法。
それは異世界にやってきて、様々な魔法を見てきた航大にとっても異次元の力を誇っていた。この世に存在する大自然を意のままに操る力。それはまさしく世界を創造した力なのであると納得できる物であり、その直撃を受けたシュナの安否を航大はまだ確認することが出来ない。
「――グラン・ブリザード」
「――ッ!?」
広大な領域にまで広がった粉塵の中、シュナの言葉が深層世界に響き渡る。
すると、虚空から無数の氷槍が生成され、油断していた影へと飛翔していく。
「――ちッ!」
氷系魔法で最強の力を誇るグラン・ブリザードは、対象物の身体を貫くまで永続的に氷槍が生成され追尾していく魔法である。氷都市・ミノルアでの戦いにおいてリエルも使った魔法の一つである。
「この魔法でも、一発ではやられないってかッ……」
「はぁ、はぁ……言ったでしょう? 女神を甘く見ないでくださいって……」
「シュナッ、大丈夫かッ!?」
「……はい。まさか、創世魔法を使えるようになってるとは、想定外でしたが……問題ありません」
粉塵を切り裂くようにして飛び出してきたシュナは、その身体の至る所に火傷を負いながらもしっかりと意識を保っていた。
虚空から生成される氷槍は影の身体を貫こうとして飛翔を続けるが、その魔法を前にしても影は動じることなく冷静に対応を続けていく。
「――創世魔法・絶魔封陣ッ!」
「こ、今度はなんだッ!?」
「……本当に、四神竜は厄介ですね」
「――氷槍がッ!?」
影が魔法を詠唱した次の瞬間、シュナが生成した氷槍の全てが一瞬にして霧散した。
それだけではなく、影が自ら生成した大樹たちの全ても姿を消しており、深層世界には一瞬の静寂が支配するようになっていた。
「なんだ、これッ……」
「全ての魔法を無効化する創世魔法の一つです」
「む、無効化……?」
「自分の魔法も対象になりますが、一方的に全ての魔力を無に帰す魔法ですね」
「……マジかよ」
それは魔法が支配する異世界において、絶大な力を誇るものであると航大にでも認識することができた。
「さぁ、第二ラウンドと行こうじゃないか、女神さんよ」
「……そうですね」
瞬きの間に過ぎていく深層世界での戦い。
強大な魔法の応酬となった戦いの中、目に見えるダメージを負ったのはシュナだった。致命傷といえるダメージは皆無だとしても、創世魔法が持つ圧倒的な力を前に無傷ではいられない。
対するもう一人の航大として存在し、魔竜と融合を果たした影にはダメージはおろか余裕といった素振りすら見せている。
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