終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第三章8 大森林に佇む幽霊屋敷
「あぐッ、あがぁッ……うぅッ、ああああぁぁぁぁーーーーーーーッ!」
アステナ大森林へと足を踏み入れ、順調な旅を続けていた航大たち一行。
王国へ向かう玄関口である港町・シーラでオレンジの髪が印象的な少女・レイナと細身の剣を腰にぶら下げた中性的な外見をした成年・エレスを加え、賑やかな様子で大森林を突き進んでいた。
しかし、そんな和やかな空気も魔獣たちの襲撃によって一瞬にして消失すると、航大は円卓の騎士・ガウェインを召喚することで、魔獣の迎撃を試みようとしていた。
「ユイッ!?」
「嬢ちゃんッ!?」
大森林の奥から無限に湧いてくる魔獣たちを相手に、航大たちは圧倒的な戦力を持って戦場を支配していた。戦いに終わりは見えなかったが、それでもライガ、ユイ、リエル、シルヴィア、エレスの力があれば負ける気はしなかった。
――そんな淡い期待を胸に抱いた瞬間だった。
円卓の騎士・ガウェインをその身に憑依させ、異形の力を行使していた白髪の少女に異変が現れる。それは航大たちが全く予想だにしていなかった展開であり、この場に存在する全員に衝撃が走った。
「ユイーーーーーーーーーーッ!」
まず最初に動きを見せたのは、漆黒の装丁をしたグリモワールを片手に英霊を召喚していた航大だった。眼前で地面に倒れ伏すユイの姿に、表情を驚愕に染めて走り出していた。
力なく横たわるユイの身体を抱き起こすと、航大は何度も少女の名前を呼ぶ。
航大の呼びかけに対して、ユイは苦しげに表情を歪めて身体を痙攣させるだけで返事はない。英霊とのシンクロも強制的に解除されており、更に彼女の身体からは黒い光が溢れ出していて、尋常じゃない様子に航大は戸惑いを隠せない。
「ちょっとッ、ユイちゃんどうしちゃったのッ!?」
「……そんなことは分からぬッ! 今は、戦いに集中するんじゃッ!」
「でもッ!」
ユイが倒れ伏したのを見て、戦場には強い動揺が走っていた。
シルヴィアとリエルは絶え間なく襲ってくる魔獣たちを相手にしながらも、意識はユイに向いている。一瞬でも油断すれば命を落とす戦いの中、それでもシルヴィアたちは一刻も早くユイの傍に駆けつけたいと願わずにはいられない。
しかし、森林から湧き出てくる魔獣たちに終わりはない。むしろ、その数を増やしていくばかりであり、一体一体の力は大したことはなくても数で圧倒されると、ライガたちは防戦一方な展開を余儀なくされていく。
「くそッ……マジでキリがねぇぞッ……!」
「あぁもう、鬱陶しいなぁーーーッ!」
「ちッ……どんどん数が増えておるッ……このままでは、押し切られるぞッ!」
「うーん、困りましたねぇ……」
森林の奥から弾丸のように飛び出してきては、ライガたちに襲い掛かってくる小型魔獣たち。終わりの見えない戦いの中で、ライガたちは焦る気持ちを抑えることが出来ないでいた。
「どうするの、ライガッ! このまま戦い続ける気ッ!?」
「んなこと言ってもッ……どうすんだよッ、コレッ……!」
「それを考えるのがライガの仕事でしょッ……その無い頭を少しは働かせてよねッ!」
剣を振るう度に魔獣たちはその命を散らしていく。
足を切断され、胴体を両断していく。
鮮血が噴出して地面を汚していく。
「確かに、このまま終わりが見えない中で戦ったとしても、消耗戦になるだけですね……」
シルヴィアの言葉にライガ、エレスがそれぞれ反応を返す。
このままの継戦は分が悪いというのがこの場で剣を振るう戦士たちの共通認識である。
「クソがッ……ここは一旦退くかッ……」
「……その方が良いかと。逃げ切れるかは分かりませんが、あちらのお嬢様を治療する必要もありますしね」
「……嬢ちゃん。うしッ、全員よく聞け――逃げるぞッ!」
「カッコつけて言ってるけど、やることはカッコ悪いことだからねッ……」
「しかし、それもしょうがないじゃろッ……今はユイが心配じゃッ」
それは苦渋の決断だった。
逃げ切れるかも分からない状況ではあるが、このままこの場に留まって消耗した後に敗北を喫するより変化することを望んでの判断だった。
「道は切り開くッ……全員走れッ!」
「おにーさんッ、ユイちゃんは抱えていけるッ!?」
「任せとけッ……」
「はぁっ、はぁっ……くッ……うぁッ……」
額に大粒の汗を浮かばせながら、未だに苦しみ続けているユイ。全身を脱力させた少女を、少年はしっかりと抱えると強く地面を踏みしめる。
「よしッ、行くぞッ!」
その言葉を合図に、航大たちは走り出す。
先陣を切って走り出したライガに続く形で、リエル、シルヴィア、エレス、レイナ、そしてユイを抱えた航大が続く。木々が立ち並ぶ森林の中を疾走する航大たち。相変わらず魔獣たちはどこから湧き出ると襲い掛かってくるが、戦う力を持つライガたちが一匹残すことなくしっかりと駆逐していく。
「このままアステナ王国に着いたりしないかなッ!」
「それだったらいいのですが、残念ながらアステナ王国はまだ先になりますね」
「そう上手くはいかんってことじゃなッ……」
「やべッ……一匹、そっちに行ったぞッ!」
「せいやあああああああぁぁぁッ!」
ライガが放つ風の刃を躱した魔獣が航大へと迫る。
「――ッ!」
魔獣の咆哮が静かな森林に轟き、その牙が航大へ迫ろうとした瞬間だった。航大と魔獣の間に甲冑ドレスを靡かせるシルヴィアが入り込んでくると、怒号を上げて両手に持った二対の剣で切り伏せていく。
「こいつら、俺を狙って……?」
「いやッ、おにーさんだけじゃないッ……こいつらは最初からおにーさんと、ユイちゃん……二人を狙ってるッ!」
「な、なんでッ……!?」
「それは私たちには分かりかねますが、どうやらそういうことみたいですね」
最前線ではライガとリエルが道を切り開き、航大とユイを護衛する形でシルヴィアとエレスが後方という配置になる。
「主様は儂たちが守るッ……今はとにかく走るんじゃッ!」
「そうだぜッ……難しい話はここを抜けることが出来てからだッ……!」
様々な思いが脳裏に錯綜するが、今はこの危機的状況を乗り切らなければならない。
息を切らしながら走るのはどこまでも続く大森林。
大陸全土を覆っている迷いの森とも呼ばれる森林の中を、航大たちは当てもなく走り続ける。足を踏み出す度に心臓が悲鳴を上げ、身体が重くなっていく。
それでも航大は抱えた少女を手放す訳にはいかなかった。
「光が見えてきたぞッ……!」
延々と続く森林の風景に変化が現れた。
太陽の光も僅かにしか差さない森林は常に薄暗いのだが、航大たちの前方に見えてくるその光は明らかに異質なものであり、それが眩い太陽の光が差していることで生まれていることを理解する。
「どうするの、ライガッ!?」
「……行くしかねぇだろッ!」
近づく度に光が強くなっていくのを感じる。
この森林の中でこれほどまでに光が差している。それは、どこか開けた場所に出るのだと推測されるが、その先に何が待っているのかまでは分からない。
「もしかしたら、崖が広がってたりして……」
「たわけッ、変なこと言うんじゃないッ!」
光へ飛び込もうとする中、周囲の緊張を和らげようとしたのかシルヴィアが苦笑いを浮かべながら冗談を漏らす。それをリエルが冷静に叱責して、いよいよ航大たちは間近に迫ってきた光へと飛び込もうとしていた。
「全員ッ、気を抜くなよッ!」
ライガのそんな言葉を合図に、太陽の光が指す空間へと飛び込む。
「な、なんだこれッ!?」
「あ、あれを見るのだッ!」
――光へと飛び込んだ航大たちの眼前には不自然に切り開かれた空間が広がっていた。
森林の中にいることは間違いない。
しかし、この場所だけ木々が綺麗に伐採されており、上空から見れば円形に大きな空間が広がっているように見えるだろう。この風景は自然に出来たものではなく、人工的な物であると推測することができた。
明らかに異質な風景を前にして唖然とする航大たちだが、声を上げたのはレイナだった。
レイナが指差す先、そこにはこの場所が人工的に作られたと証明するものが存在していた。
「こんな場所に家……?」
森林の中に広がる円形空間。
その中心には西洋風の洋館が建っていて、この場所に誰かが住んでいることを表していた。
「とにかく匿ってもらおうッ!」
森林を抜け出した航大たちの背後から、魔獣たちの咆哮が轟いてくる。
ライガの言葉に頷く航大たちは、最後の力を振り絞るようにして再び走り出す。
アステナ大森林の中にひっそりと佇む謎の洋館。
魔獣たちの猛攻を凌ぐため、航大たちは一時的な避難場所として飛び込むのであった。
◆◆◆◆◆
「ふぅ……何とか一息つけるって感じか……」
「……外には魔獣がウロウロしてるけどね」
森林の中に広がる謎の空間。そして、そこに佇む洋館へと足を踏み入れる航大たち一行。幸いにも洋館には鍵が掛かっておらず、更に人が住んでいる気配もない。外観以上に内装はボロボロな状態であり、雰囲気も相まって幽霊屋敷といった様子を見せている。
「魔獣たちも、何故かこの屋敷には入って来ようとしないな……」
「不思議ですね。何かしらの結果でもあるのでしょうか?」
「まぁ、とりあえず休憩できるのならラッキーだなッ」
屋敷の玄関口で身体を休める航大たち。
窓から外の様子を見るレイナ、エレスの二人は屋敷の外をうろつく魔獣たちの様子を観察している。
「ユイッ、おいッ……ユイッ……しっかりしろッ……」
「うッ……あッ……はぁ、くッ……」
「体内を循環する魔力に不純物が……今、治癒魔法を掛けるッ……」
ユイの身体を屋敷の床に横たわらせると、焦燥の表情を浮かべたリエルが治療に当たる。
依然としてユイは苦しげな様子を見せたままであり、身体を蝕む自らの魔力によって急速に衰弱している。
「ユイちゃん、大丈夫なの……?」
「分からぬ。こんな状態になったのを、儂は見たことがないッ……」
苦しむユイを心配するシルヴィアも声を震わせている。
一刻を争う事態に航大たちの間に重苦しい空気が漂い始めたその時だった。
静寂が支配する幽霊屋敷の中で足音が響いたかと思えば、その人物は突然姿を現した。
「――これは驚きました。まさか、こんな場所までお客様がお見えになるとは」
無人だと思っていた屋敷に現れたその人物は、メイド服に身を包んでおり短く切り揃えた桃色の髪、そしてリエル、レイナと同じくらいの背丈をしており、一切の感情を殺した表情で航大たちを見下ろしていた。
ぼそりと呟かれたその言葉に歓迎の色は皆無であり、異様な空気を纏うメイド少女の出現に、航大たちの間に緊張が走るのであった。
アステナ大森林へと足を踏み入れ、順調な旅を続けていた航大たち一行。
王国へ向かう玄関口である港町・シーラでオレンジの髪が印象的な少女・レイナと細身の剣を腰にぶら下げた中性的な外見をした成年・エレスを加え、賑やかな様子で大森林を突き進んでいた。
しかし、そんな和やかな空気も魔獣たちの襲撃によって一瞬にして消失すると、航大は円卓の騎士・ガウェインを召喚することで、魔獣の迎撃を試みようとしていた。
「ユイッ!?」
「嬢ちゃんッ!?」
大森林の奥から無限に湧いてくる魔獣たちを相手に、航大たちは圧倒的な戦力を持って戦場を支配していた。戦いに終わりは見えなかったが、それでもライガ、ユイ、リエル、シルヴィア、エレスの力があれば負ける気はしなかった。
――そんな淡い期待を胸に抱いた瞬間だった。
円卓の騎士・ガウェインをその身に憑依させ、異形の力を行使していた白髪の少女に異変が現れる。それは航大たちが全く予想だにしていなかった展開であり、この場に存在する全員に衝撃が走った。
「ユイーーーーーーーーーーッ!」
まず最初に動きを見せたのは、漆黒の装丁をしたグリモワールを片手に英霊を召喚していた航大だった。眼前で地面に倒れ伏すユイの姿に、表情を驚愕に染めて走り出していた。
力なく横たわるユイの身体を抱き起こすと、航大は何度も少女の名前を呼ぶ。
航大の呼びかけに対して、ユイは苦しげに表情を歪めて身体を痙攣させるだけで返事はない。英霊とのシンクロも強制的に解除されており、更に彼女の身体からは黒い光が溢れ出していて、尋常じゃない様子に航大は戸惑いを隠せない。
「ちょっとッ、ユイちゃんどうしちゃったのッ!?」
「……そんなことは分からぬッ! 今は、戦いに集中するんじゃッ!」
「でもッ!」
ユイが倒れ伏したのを見て、戦場には強い動揺が走っていた。
シルヴィアとリエルは絶え間なく襲ってくる魔獣たちを相手にしながらも、意識はユイに向いている。一瞬でも油断すれば命を落とす戦いの中、それでもシルヴィアたちは一刻も早くユイの傍に駆けつけたいと願わずにはいられない。
しかし、森林から湧き出てくる魔獣たちに終わりはない。むしろ、その数を増やしていくばかりであり、一体一体の力は大したことはなくても数で圧倒されると、ライガたちは防戦一方な展開を余儀なくされていく。
「くそッ……マジでキリがねぇぞッ……!」
「あぁもう、鬱陶しいなぁーーーッ!」
「ちッ……どんどん数が増えておるッ……このままでは、押し切られるぞッ!」
「うーん、困りましたねぇ……」
森林の奥から弾丸のように飛び出してきては、ライガたちに襲い掛かってくる小型魔獣たち。終わりの見えない戦いの中で、ライガたちは焦る気持ちを抑えることが出来ないでいた。
「どうするの、ライガッ! このまま戦い続ける気ッ!?」
「んなこと言ってもッ……どうすんだよッ、コレッ……!」
「それを考えるのがライガの仕事でしょッ……その無い頭を少しは働かせてよねッ!」
剣を振るう度に魔獣たちはその命を散らしていく。
足を切断され、胴体を両断していく。
鮮血が噴出して地面を汚していく。
「確かに、このまま終わりが見えない中で戦ったとしても、消耗戦になるだけですね……」
シルヴィアの言葉にライガ、エレスがそれぞれ反応を返す。
このままの継戦は分が悪いというのがこの場で剣を振るう戦士たちの共通認識である。
「クソがッ……ここは一旦退くかッ……」
「……その方が良いかと。逃げ切れるかは分かりませんが、あちらのお嬢様を治療する必要もありますしね」
「……嬢ちゃん。うしッ、全員よく聞け――逃げるぞッ!」
「カッコつけて言ってるけど、やることはカッコ悪いことだからねッ……」
「しかし、それもしょうがないじゃろッ……今はユイが心配じゃッ」
それは苦渋の決断だった。
逃げ切れるかも分からない状況ではあるが、このままこの場に留まって消耗した後に敗北を喫するより変化することを望んでの判断だった。
「道は切り開くッ……全員走れッ!」
「おにーさんッ、ユイちゃんは抱えていけるッ!?」
「任せとけッ……」
「はぁっ、はぁっ……くッ……うぁッ……」
額に大粒の汗を浮かばせながら、未だに苦しみ続けているユイ。全身を脱力させた少女を、少年はしっかりと抱えると強く地面を踏みしめる。
「よしッ、行くぞッ!」
その言葉を合図に、航大たちは走り出す。
先陣を切って走り出したライガに続く形で、リエル、シルヴィア、エレス、レイナ、そしてユイを抱えた航大が続く。木々が立ち並ぶ森林の中を疾走する航大たち。相変わらず魔獣たちはどこから湧き出ると襲い掛かってくるが、戦う力を持つライガたちが一匹残すことなくしっかりと駆逐していく。
「このままアステナ王国に着いたりしないかなッ!」
「それだったらいいのですが、残念ながらアステナ王国はまだ先になりますね」
「そう上手くはいかんってことじゃなッ……」
「やべッ……一匹、そっちに行ったぞッ!」
「せいやあああああああぁぁぁッ!」
ライガが放つ風の刃を躱した魔獣が航大へと迫る。
「――ッ!」
魔獣の咆哮が静かな森林に轟き、その牙が航大へ迫ろうとした瞬間だった。航大と魔獣の間に甲冑ドレスを靡かせるシルヴィアが入り込んでくると、怒号を上げて両手に持った二対の剣で切り伏せていく。
「こいつら、俺を狙って……?」
「いやッ、おにーさんだけじゃないッ……こいつらは最初からおにーさんと、ユイちゃん……二人を狙ってるッ!」
「な、なんでッ……!?」
「それは私たちには分かりかねますが、どうやらそういうことみたいですね」
最前線ではライガとリエルが道を切り開き、航大とユイを護衛する形でシルヴィアとエレスが後方という配置になる。
「主様は儂たちが守るッ……今はとにかく走るんじゃッ!」
「そうだぜッ……難しい話はここを抜けることが出来てからだッ……!」
様々な思いが脳裏に錯綜するが、今はこの危機的状況を乗り切らなければならない。
息を切らしながら走るのはどこまでも続く大森林。
大陸全土を覆っている迷いの森とも呼ばれる森林の中を、航大たちは当てもなく走り続ける。足を踏み出す度に心臓が悲鳴を上げ、身体が重くなっていく。
それでも航大は抱えた少女を手放す訳にはいかなかった。
「光が見えてきたぞッ……!」
延々と続く森林の風景に変化が現れた。
太陽の光も僅かにしか差さない森林は常に薄暗いのだが、航大たちの前方に見えてくるその光は明らかに異質なものであり、それが眩い太陽の光が差していることで生まれていることを理解する。
「どうするの、ライガッ!?」
「……行くしかねぇだろッ!」
近づく度に光が強くなっていくのを感じる。
この森林の中でこれほどまでに光が差している。それは、どこか開けた場所に出るのだと推測されるが、その先に何が待っているのかまでは分からない。
「もしかしたら、崖が広がってたりして……」
「たわけッ、変なこと言うんじゃないッ!」
光へ飛び込もうとする中、周囲の緊張を和らげようとしたのかシルヴィアが苦笑いを浮かべながら冗談を漏らす。それをリエルが冷静に叱責して、いよいよ航大たちは間近に迫ってきた光へと飛び込もうとしていた。
「全員ッ、気を抜くなよッ!」
ライガのそんな言葉を合図に、太陽の光が指す空間へと飛び込む。
「な、なんだこれッ!?」
「あ、あれを見るのだッ!」
――光へと飛び込んだ航大たちの眼前には不自然に切り開かれた空間が広がっていた。
森林の中にいることは間違いない。
しかし、この場所だけ木々が綺麗に伐採されており、上空から見れば円形に大きな空間が広がっているように見えるだろう。この風景は自然に出来たものではなく、人工的な物であると推測することができた。
明らかに異質な風景を前にして唖然とする航大たちだが、声を上げたのはレイナだった。
レイナが指差す先、そこにはこの場所が人工的に作られたと証明するものが存在していた。
「こんな場所に家……?」
森林の中に広がる円形空間。
その中心には西洋風の洋館が建っていて、この場所に誰かが住んでいることを表していた。
「とにかく匿ってもらおうッ!」
森林を抜け出した航大たちの背後から、魔獣たちの咆哮が轟いてくる。
ライガの言葉に頷く航大たちは、最後の力を振り絞るようにして再び走り出す。
アステナ大森林の中にひっそりと佇む謎の洋館。
魔獣たちの猛攻を凌ぐため、航大たちは一時的な避難場所として飛び込むのであった。
◆◆◆◆◆
「ふぅ……何とか一息つけるって感じか……」
「……外には魔獣がウロウロしてるけどね」
森林の中に広がる謎の空間。そして、そこに佇む洋館へと足を踏み入れる航大たち一行。幸いにも洋館には鍵が掛かっておらず、更に人が住んでいる気配もない。外観以上に内装はボロボロな状態であり、雰囲気も相まって幽霊屋敷といった様子を見せている。
「魔獣たちも、何故かこの屋敷には入って来ようとしないな……」
「不思議ですね。何かしらの結果でもあるのでしょうか?」
「まぁ、とりあえず休憩できるのならラッキーだなッ」
屋敷の玄関口で身体を休める航大たち。
窓から外の様子を見るレイナ、エレスの二人は屋敷の外をうろつく魔獣たちの様子を観察している。
「ユイッ、おいッ……ユイッ……しっかりしろッ……」
「うッ……あッ……はぁ、くッ……」
「体内を循環する魔力に不純物が……今、治癒魔法を掛けるッ……」
ユイの身体を屋敷の床に横たわらせると、焦燥の表情を浮かべたリエルが治療に当たる。
依然としてユイは苦しげな様子を見せたままであり、身体を蝕む自らの魔力によって急速に衰弱している。
「ユイちゃん、大丈夫なの……?」
「分からぬ。こんな状態になったのを、儂は見たことがないッ……」
苦しむユイを心配するシルヴィアも声を震わせている。
一刻を争う事態に航大たちの間に重苦しい空気が漂い始めたその時だった。
静寂が支配する幽霊屋敷の中で足音が響いたかと思えば、その人物は突然姿を現した。
「――これは驚きました。まさか、こんな場所までお客様がお見えになるとは」
無人だと思っていた屋敷に現れたその人物は、メイド服に身を包んでおり短く切り揃えた桃色の髪、そしてリエル、レイナと同じくらいの背丈をしており、一切の感情を殺した表情で航大たちを見下ろしていた。
ぼそりと呟かれたその言葉に歓迎の色は皆無であり、異様な空気を纏うメイド少女の出現に、航大たちの間に緊張が走るのであった。
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