終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第三章1 コハナ大陸への旅路
「ガハハッ! また一緒の旅だな、航大ッ!」
「あははッ! ほら、すぐ会うことになったでしょ、おにーさん?」
「はぁ……まさか、一緒に旅するハイラント騎士がお前たちとは……」
ハイラント王国の王女・シャーリーから親書を手渡された夜から数日が経過した。
航大、ユイ、リエルの三人と、それに同行するのはハイラント王国騎士であるライガとシルヴィア。つい先ほどの氷都市・ミノルア決戦の時とメンツをほとんど変えず、なんとも賑やかなメンバーで目指すのはコハナ大陸と呼ばれる場所にある『アステナ王国』。
「……航大、この人たちが一緒って聞いてない。特にそこの女の子」
「そうじゃぞ。航大を守るだけなら、儂とユイだけでも十分に事足りる。今からでも帰って貰うのがいいぞ」
「まぁまぁ……そう言わずに……」
コハナ大陸を目指す航大たちが向かう先、それはバルベット大陸の東端に存在する小さな港町。コハナ大陸はバルベット大陸と隣り合う形で存在しているとは言っても、その間には広大な海が広がっている。
なので、大陸間の移動には船を使うのが一般的である。
「……航大、狭いでしょ? もっとこっちに寄りかかっていいよ?」
「えっ? いや、大丈夫だよ?」
「主様よ、儂を膝の上に乗せてもいいんじゃぞ? 儂くらいのサイズなら、気にもならないじゃろ?」
「膝の上にッ!?」
そんなこんなで六人乗りの馬車に身を寄せ合い、航大たちは港町へ向かっているのだが、荷台の中では早くも壮絶な『乙女たちの戦い』が繰り広げられていた。
「でも、おにーさんはきっと私の隣に座りたいって思ってるはずなんだけどなー?」
「「……むっ」」
航大を中心に置き、それぞれ左右に陣取るユイとリエルが熾烈な戦いを演じる中で、楽しげに様子を見守っていたはずのシルヴィアが、更なる燃料を投下していく。
「おい、シルヴィアッ! 変なこと言うなってッ」
「えー? おにーさんはもっと素直になるべきだよ? ちっちゃな胸よりも、大きな胸に挟まれたいって」
「む、胸ぇッ!?」
どこか小悪魔的な笑みを浮かべるシルヴィアが放つ爆弾。それは航大の両サイドをガッチリと固めているユイとリエルにクリーンヒットする。
「…………」
「…………」
航大は正面に座るシルヴィアへ視線を固定しているのだが、両腕から感じる確かな形を持った冷気に冷や汗を禁じ得ない。左右から突き刺さる視線が痛く、どうしてもそちらの方を見ることができない。
「……航大」
「主様よ」
無言を貫く航大に逃さないと言わんばかりに、感情の篭もらない声で名前を呼ぶのはユイとリエル。
「……航大は胸が好きなの?」
「主様よッ、小さくても良いところはあるんじゃぞッ!?」
「いや、あの……その……」
「……航大、私の胸……触ってみて?」
「そうじゃッ、小さい物の良さを主様に教えてやろうッ!」
「だああああぁぁッ! やめてくれええええぇぇッ!」
航大の腕をガッチリと握り、自分の胸を触らせようとしてくる女の子二人。
シルヴィアに負けたくないという一心から、無茶苦茶な行動に出る二人に航大は振り回される。あの手この手で自分が優位であると誇示するユイとリエルに対して、一線は超えてはならぬと航大は絶叫して抵抗する。
「あははははははッ! すっごいおもしろーーいッ!」
「はぁ……まだ城を出たばかりなのに、大丈夫なのか……コレ……」
阿鼻叫喚な様子を見せ始めた馬車の中で、ただ一人蚊帳の外といったライガは暴れまわる航大たちを見て溜息を禁じ得ない。
そんなこんなでコハナ大陸を目指す航大たち一行は、波乱の様子を見せながらもしっかりと一歩ずつ前進していくのであった。
◆◆◆◆◆
「へぇー、ここが港町なんだ。でっかい船があるねッ!」
「そうだな。ここから各大陸へ船が出るんだ」
馬車に揺られること数時間。
航大たちは眼前に広大な海が広がる小さな港町へと辿り着いた。
港には何隻も船が止まっていて、その大きさもそれぞれである。
元気な様子で飛び出してきたシルヴィアは、眼前の海と船を見て楽しげな声を漏らす。今までハイラント王国の貧民街で生活をしてきた彼女にとって、外の世界というには驚きの連続なのであった。
「それで、私たちはどの船に乗るの?」
「うーん、アレじゃないかな?」
シルヴィアの問いかけにライガは周囲を見渡して、一際大きな船を指差す。
「えっ、あんなに大きい船に乗るの!?」
「まぁ、大陸間の連絡船ってのは泊りがけの移動になるからな。人も大勢利用するし、そこそこの大きさがないとな」
ライガが指差す先。そこには豪華客船とは言わないまでも、人間が見上げるくらいの大きさを誇る船があり、航大たちと同じようにコハナ大陸を目指す人たちが列を成していた。既に船への搭乗手続きが進んでいるようで、航大たちも手続きをしなくてはならなかった。
「じゃあ、手続きしてくるからよ、航大たちはここで待っててくれよ?」
「…………了解」
後ろを振り返りライガが声をかけるのは、二人の少女に両側をガッチリと捕まれ、疲労困憊といった様子を見せる航大だった。
「……航大、まだちゃんとした答えを聞いてない」
「そうじゃそうじゃッ! あの無駄に大きな脂肪を蓄えた小娘と、儂たち……どっちを選ぶんじゃッ!」
「いや、どっちを選ぶって言われても……」
「……ハッキリしないのは良くないと思う」
「そうじゃそうじゃッ!」
ハイラント王国から港町へ向かう途中。
小悪魔な王国騎士の少女が放った爆弾の余韻はまだ残っていて、航大はユイとリエルから苛烈な質問攻めに遭っていた。
「大変そうだね、おにーさんもッ」
「お前のせいだろうがあああああああああああぁぁぁぁッ!」
まるで他人事のようにケラケラと笑う王国騎士・シルヴィアに、航大はありったけの怨嗟を込めた咆哮を上げるのであった。
コハナ大陸・アステナ王国を目指す旅路はドタバタの内に開幕を告げる。
長い旅路の果てにあるものとは――。
「あははッ! ほら、すぐ会うことになったでしょ、おにーさん?」
「はぁ……まさか、一緒に旅するハイラント騎士がお前たちとは……」
ハイラント王国の王女・シャーリーから親書を手渡された夜から数日が経過した。
航大、ユイ、リエルの三人と、それに同行するのはハイラント王国騎士であるライガとシルヴィア。つい先ほどの氷都市・ミノルア決戦の時とメンツをほとんど変えず、なんとも賑やかなメンバーで目指すのはコハナ大陸と呼ばれる場所にある『アステナ王国』。
「……航大、この人たちが一緒って聞いてない。特にそこの女の子」
「そうじゃぞ。航大を守るだけなら、儂とユイだけでも十分に事足りる。今からでも帰って貰うのがいいぞ」
「まぁまぁ……そう言わずに……」
コハナ大陸を目指す航大たちが向かう先、それはバルベット大陸の東端に存在する小さな港町。コハナ大陸はバルベット大陸と隣り合う形で存在しているとは言っても、その間には広大な海が広がっている。
なので、大陸間の移動には船を使うのが一般的である。
「……航大、狭いでしょ? もっとこっちに寄りかかっていいよ?」
「えっ? いや、大丈夫だよ?」
「主様よ、儂を膝の上に乗せてもいいんじゃぞ? 儂くらいのサイズなら、気にもならないじゃろ?」
「膝の上にッ!?」
そんなこんなで六人乗りの馬車に身を寄せ合い、航大たちは港町へ向かっているのだが、荷台の中では早くも壮絶な『乙女たちの戦い』が繰り広げられていた。
「でも、おにーさんはきっと私の隣に座りたいって思ってるはずなんだけどなー?」
「「……むっ」」
航大を中心に置き、それぞれ左右に陣取るユイとリエルが熾烈な戦いを演じる中で、楽しげに様子を見守っていたはずのシルヴィアが、更なる燃料を投下していく。
「おい、シルヴィアッ! 変なこと言うなってッ」
「えー? おにーさんはもっと素直になるべきだよ? ちっちゃな胸よりも、大きな胸に挟まれたいって」
「む、胸ぇッ!?」
どこか小悪魔的な笑みを浮かべるシルヴィアが放つ爆弾。それは航大の両サイドをガッチリと固めているユイとリエルにクリーンヒットする。
「…………」
「…………」
航大は正面に座るシルヴィアへ視線を固定しているのだが、両腕から感じる確かな形を持った冷気に冷や汗を禁じ得ない。左右から突き刺さる視線が痛く、どうしてもそちらの方を見ることができない。
「……航大」
「主様よ」
無言を貫く航大に逃さないと言わんばかりに、感情の篭もらない声で名前を呼ぶのはユイとリエル。
「……航大は胸が好きなの?」
「主様よッ、小さくても良いところはあるんじゃぞッ!?」
「いや、あの……その……」
「……航大、私の胸……触ってみて?」
「そうじゃッ、小さい物の良さを主様に教えてやろうッ!」
「だああああぁぁッ! やめてくれええええぇぇッ!」
航大の腕をガッチリと握り、自分の胸を触らせようとしてくる女の子二人。
シルヴィアに負けたくないという一心から、無茶苦茶な行動に出る二人に航大は振り回される。あの手この手で自分が優位であると誇示するユイとリエルに対して、一線は超えてはならぬと航大は絶叫して抵抗する。
「あははははははッ! すっごいおもしろーーいッ!」
「はぁ……まだ城を出たばかりなのに、大丈夫なのか……コレ……」
阿鼻叫喚な様子を見せ始めた馬車の中で、ただ一人蚊帳の外といったライガは暴れまわる航大たちを見て溜息を禁じ得ない。
そんなこんなでコハナ大陸を目指す航大たち一行は、波乱の様子を見せながらもしっかりと一歩ずつ前進していくのであった。
◆◆◆◆◆
「へぇー、ここが港町なんだ。でっかい船があるねッ!」
「そうだな。ここから各大陸へ船が出るんだ」
馬車に揺られること数時間。
航大たちは眼前に広大な海が広がる小さな港町へと辿り着いた。
港には何隻も船が止まっていて、その大きさもそれぞれである。
元気な様子で飛び出してきたシルヴィアは、眼前の海と船を見て楽しげな声を漏らす。今までハイラント王国の貧民街で生活をしてきた彼女にとって、外の世界というには驚きの連続なのであった。
「それで、私たちはどの船に乗るの?」
「うーん、アレじゃないかな?」
シルヴィアの問いかけにライガは周囲を見渡して、一際大きな船を指差す。
「えっ、あんなに大きい船に乗るの!?」
「まぁ、大陸間の連絡船ってのは泊りがけの移動になるからな。人も大勢利用するし、そこそこの大きさがないとな」
ライガが指差す先。そこには豪華客船とは言わないまでも、人間が見上げるくらいの大きさを誇る船があり、航大たちと同じようにコハナ大陸を目指す人たちが列を成していた。既に船への搭乗手続きが進んでいるようで、航大たちも手続きをしなくてはならなかった。
「じゃあ、手続きしてくるからよ、航大たちはここで待っててくれよ?」
「…………了解」
後ろを振り返りライガが声をかけるのは、二人の少女に両側をガッチリと捕まれ、疲労困憊といった様子を見せる航大だった。
「……航大、まだちゃんとした答えを聞いてない」
「そうじゃそうじゃッ! あの無駄に大きな脂肪を蓄えた小娘と、儂たち……どっちを選ぶんじゃッ!」
「いや、どっちを選ぶって言われても……」
「……ハッキリしないのは良くないと思う」
「そうじゃそうじゃッ!」
ハイラント王国から港町へ向かう途中。
小悪魔な王国騎士の少女が放った爆弾の余韻はまだ残っていて、航大はユイとリエルから苛烈な質問攻めに遭っていた。
「大変そうだね、おにーさんもッ」
「お前のせいだろうがあああああああああああぁぁぁぁッ!」
まるで他人事のようにケラケラと笑う王国騎士・シルヴィアに、航大はありったけの怨嗟を込めた咆哮を上げるのであった。
コハナ大陸・アステナ王国を目指す旅路はドタバタの内に開幕を告げる。
長い旅路の果てにあるものとは――。
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