闇夜の世界と消滅者

三浦涼桜

三十一話 阿賀崎黑葉 3

 富士の樹海に行った日から、彼女と一緒に行動することが多くなった。
 婚約者というのもあるのだろうが、他人との交流が少なかった戀にとって、阿賀崎黑葉という存在は新鮮なものであった。

 他人から見れば、二人ともあまり表情が変わらないため、仲がいいのか悪いのかわからなかったのだが。

 今更な話ではあるが、戀は戦闘能力が群を抜いて高い。
 5歳の時点ですでに軍人相手に余裕で勝利して見せるほどである。
 朱雀院家に拾われたのも、この戦闘力があってこそのものであった。

 この異常なほどの戦闘力があるがゆえに、実の家族からも忌避されたのだが、黑葉にとって戀はテレビから出てきたヒーローに見えていた。

 そして、戀ほどではないにしろ、黑葉もかなりの化け物具合である。
 黑葉の力、それは圧倒的な霊力にある。
 当時、魔力というものが存在はしなかったものの、魔力とは似ても異なる不思議な力があった。

 それが霊力と呼ばれる存在である。
 この力をつかえるのは、陰陽師や呪術師といった、いわゆる霊能力者と呼ばれる者たちのみであり、一般的には、霊能力など存在しないとさえ言われていた。
 そのような家系でしか受け継がれぬはずの能力が、阿賀崎家の長女である黑葉に現れた。

 それも、かなり強力な力として。
 ゆえに阿賀崎家は隠した。彼女の力が露見すれば、彼女の身が危ないことは目に見えている。
 しかし、いくら情報統制をしたところで、いつかはばれるもの。
 そこで目を付けたのが、互いに協力体制を敷いている朱雀院家に引き取られた少年である。

 その少年の圧倒的な実力を聞いたとき、阿賀崎雄介は考えた。
 その少年に守ってもらったらいいのではないかと。
 しかし、戀は一応近衛隊にも入っている。
 どういう風に理由をつけようか考え抜いた末に、答えは決まった。

 婚約させればいいじゃないか、と。
 まあ、黑葉の意見も尊重しながらの結果だったのではあるが。

 ともあれ、こうして婚約が決まり、引き合わせてみれば、ものの数十分で仲良さげな様子。
 婚約させて正解だったなとほくそ笑む雄介であった。

 ◇ ◇ ◇

 黑葉と知り合ってから既に四年が経った。
 黑葉とは婚約を結び、二人の仲はかなり縮まったようだ。
 お互いが化け物のような力を持っているせいか、互いに与える影響は絶大だった。

 戀は黑葉から霊力の扱い方を。
 黑葉は戀から体術や狩りの仕方、人を殺す技法などを互いに教えあった。

 時には他の近衛隊のメンバーと組み手をしたりと、有意義な時間を過ごしていた。

 そして、運命の日がやってきた……………………
 

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