闇夜の世界と消滅者
二十話 決定
陽美香の話を聞き終え、戀はうつむき何かを考えるように目を瞑った。
「黒い炎って………さっきの三觜島君が使っていたようなものですか?」
イルディーナはティナに問いかける。
それには戀が答えた。
「俺が使った黒い炎は、リーゴレッドが発したような魔法じゃないからな。別物として考えるほうがいいだろう」
戀の回答にティナも頷いている。
しかし、黒い炎というのに引っかかるのもまた事実。
戀も先ほど言った通り、戀が使った『殺鬼』から発せられた黒い炎は、あくまで『殺鬼』の持つ能力の一つでしかない。
黒い炎は、炎魔法と闇魔法の複合体が一般的なのだが、今回の場合、炎魔法に死術または呪術が取り込まれているのであろう。
つまり、リーゴレッドは何者かに死術か呪術をかけれられたのだろう。
「ですが、超大型魔物クラスのような霊獣ならともかく、超弩級魔物クラスのような神獣が死術や呪術にかかることなんてあるのでしょうか?」
鈴音は終始不思議そうに首をかしげている。
「神獣はその都市の守護神です。死術や呪術に罹ることはまずありえませんし、もしそんなことが起きれば、この都市は確実に滅びます」
陽美香もそう答えているが状況が状況なだけに断定はできない。
「それで? おれはいったい何を手伝えばいいんだ?」
戀は焦れたように問う。
「! 手伝ってくれるのかい?」
ティナが驚いたように目を見開く。
戀は照れくさそうにしながらも、その問いの肯定を示す。
「まあ、ここまで話を聞いてしまった以上、無視するわけにもいかないしな。それに時期的に行方不明者の件とも被っている。おそらく何らかの関係性があるはずだ」
戀はそう言って眼を鋭く細める。
「別に俺が参戦しても構わないだろう?」
「うん! 願いするよ! 君みたいな強い子ならいくらでも大歓迎だよ!」
「ですが兄様。兄様は今全力がほとんど出せない状態です。そんな体で行かせるのは、治療者として、そして妹として見過ごすわけにはいきません」
鈴音は断固として行かせないと言い張る。
「お前、自分のコードネームを平然と使ってるけど大丈夫なのか? メルガリアの関係者だってことを公言しているようなものだろ」
鈴音の言い分を無視し、戀は小声で鈴音に尋ねる。
「私はメルガリア支援部隊としてこの学園に入学させていただきました。ですので私がメルガリアの関係者だというのは学園の生徒全員が知っています。そんなことより兄様。私は絶対に兄様を危ないところに行かせませんよ」
…………話題をすり替えても鈴音には通用しないらしい。
「戀君、もしかして体調悪いの!?」
「え? いや別に大したことじゃない。ただ全力が出せないようにされているってだけで」
「じゃ、じゃあ三觜島君は私との戦いも衰弱状態で私に勝ったというのですか………?」
「う、うんまあ、そういうことになる……かな?」
そう答えると、イルディーナはがっくりと肩を落とし、まるで呪詛のようにぶつぶつと何かを呟き始めた。
「なんでこう私より実力が上の人は揃いも揃って化け物揃いなんですか………こんなの一生かかっても勝てる気がしないじゃないですか。そもそもの話としてですね…………」
なんだか、声をかけると呪われそうだったので、戀は見なかったことにした。
「それで? 戀君はいったいどこが悪いの?」
「だから本当に大丈夫だって。力が出せないとは言っても、全力の5割くらいなら出せるから」
「うーん、それならいいんだけど………」
ティナはまだ納得していない様子だ。
そんなティナを無視して、戀は迷宮の攻略についてのプランをたてる。
「まずは距離だな。その問題の迷宮までここからだいたいどれくらいかかる?」
「待ってください兄様。私はまだ了承した覚えは………」
「そんなに心配なら俺と一緒にくればいいだろ? 俺もお前がいれば安心だしな」
戀のその言葉に頬を朱く染める鈴音。
「わ、わかりました。本当はあまり気が進みませんが、兄様がどーしても! 私についてきてほしいというのであれば、私も異存はありません!」
「俺別にどうしてもとか言ってないんだけど………」
ここで言い返したら負けだと思ったのだろう。戀は特に何も言い返さなかった。
「で? どれくらいかかるんだ?」
再度尋ねる戀。
「ここからなら、最低でも4時間程度ですね」
戀の問いに陽美香が答える。
「迷宮の深さは?」
「一層から確認しされているだけでも百三十層はあります。おそらくまだまだ続いているでしょう」
その言葉に戀は絶句する。
従来の迷宮なら、小規模で十層、中規模で五十層、大規模で百層というのが一般的だ。さらに大規模迷宮などはかなり珍しいもので、現在発見されているだけでも十つしか存在しない。貴重なものだ。
本来超弩級魔物クラスが存在するはずの迷宮も大規模迷宮に属するはずだが、今回ばかりは少し異常だ。
「大規模迷宮を超える迷宮………超規模迷宮とでも呼ぶべきか」
「そんなことを言っている場合ではありませんよ」
そう言って陽美香は脱線しかけた話を戻す。
「迷宮の深さもさることながら、その中に生息する魔物のレベルも相当高いと思われます」
戀はその言葉に同意する。
普通の迷宮なら小型魔物クラスや中型魔物クラス、たまに大型魔物クラスが出現するくらいだが、これほどの深さを誇る迷宮となると、最低クラスで大型魔物だろう。
それにしても、と戀は肩を落としながら呟く。
「まったく………何かに巻き込まれるとは予想していたが、まさかこれほどのものにでくわすなんてな」
「戀君ってほんとにトラブルに好かれてるよね~」
ティナが呆れたように言う。
「好きで巻き込まれているわけじゃないんだがな」
戀は肩をすくめると、表情を引き締め、周りに問う
「冗談はさておき、早速その迷宮に向かいたいと思うんだが、それでもいいか?」
「ごめん戀君、私この後仕事があるんだ………」
「申し訳ありません。私もこの後予定が………」
「…………」
ティナと陽美香の申し出に戀はがっくり肩を落とす。
というか、腕利きであるティナやおそらくだが隠密のプロである陽美香なしで迷宮に挑めと言っているのだろうか。
戀はイルディーナと鈴音を見やる。鈴音なら別についてきても文句はない。肉親であり、同じ組織で活動してたが故に、鈴音の実力をその身で知っている。
だがイルディーナは違う。実力も学園内ではそれなりのものだろうが、これから向かうところはたとえAランクでも下手をすれば死ぬような場所のだ。
そして最も戀を悩ませているのは、彼女を信用してもいいのだろうか、ということだった。
「戀君。確かに君の言いたいこともわかる。でもここは私を信じてほしい。彼女は絶対に君たちを裏切ったりしない」
そう断言するティナの目を見つめ、数分。戀は観念したようにため息をついた。
「わかった。今回ばかりはティナの口車に乗ってやる。だが、もし不穏な動きをすれば、その時はお前を斬る」
そう言い戀はイルディーナを見やる。
イルディーナは戀から発せられる気に少しばかりたじろいだが、覚悟を決めたように戀を見つめ返す。
「はい。私も三觜島君の足を引っ張らないよう努力させていただきます」
こうして、迷宮《草薙》に向かうことが決定したのだった。
「黒い炎って………さっきの三觜島君が使っていたようなものですか?」
イルディーナはティナに問いかける。
それには戀が答えた。
「俺が使った黒い炎は、リーゴレッドが発したような魔法じゃないからな。別物として考えるほうがいいだろう」
戀の回答にティナも頷いている。
しかし、黒い炎というのに引っかかるのもまた事実。
戀も先ほど言った通り、戀が使った『殺鬼』から発せられた黒い炎は、あくまで『殺鬼』の持つ能力の一つでしかない。
黒い炎は、炎魔法と闇魔法の複合体が一般的なのだが、今回の場合、炎魔法に死術または呪術が取り込まれているのであろう。
つまり、リーゴレッドは何者かに死術か呪術をかけれられたのだろう。
「ですが、超大型魔物クラスのような霊獣ならともかく、超弩級魔物クラスのような神獣が死術や呪術にかかることなんてあるのでしょうか?」
鈴音は終始不思議そうに首をかしげている。
「神獣はその都市の守護神です。死術や呪術に罹ることはまずありえませんし、もしそんなことが起きれば、この都市は確実に滅びます」
陽美香もそう答えているが状況が状況なだけに断定はできない。
「それで? おれはいったい何を手伝えばいいんだ?」
戀は焦れたように問う。
「! 手伝ってくれるのかい?」
ティナが驚いたように目を見開く。
戀は照れくさそうにしながらも、その問いの肯定を示す。
「まあ、ここまで話を聞いてしまった以上、無視するわけにもいかないしな。それに時期的に行方不明者の件とも被っている。おそらく何らかの関係性があるはずだ」
戀はそう言って眼を鋭く細める。
「別に俺が参戦しても構わないだろう?」
「うん! 願いするよ! 君みたいな強い子ならいくらでも大歓迎だよ!」
「ですが兄様。兄様は今全力がほとんど出せない状態です。そんな体で行かせるのは、治療者として、そして妹として見過ごすわけにはいきません」
鈴音は断固として行かせないと言い張る。
「お前、自分のコードネームを平然と使ってるけど大丈夫なのか? メルガリアの関係者だってことを公言しているようなものだろ」
鈴音の言い分を無視し、戀は小声で鈴音に尋ねる。
「私はメルガリア支援部隊としてこの学園に入学させていただきました。ですので私がメルガリアの関係者だというのは学園の生徒全員が知っています。そんなことより兄様。私は絶対に兄様を危ないところに行かせませんよ」
…………話題をすり替えても鈴音には通用しないらしい。
「戀君、もしかして体調悪いの!?」
「え? いや別に大したことじゃない。ただ全力が出せないようにされているってだけで」
「じゃ、じゃあ三觜島君は私との戦いも衰弱状態で私に勝ったというのですか………?」
「う、うんまあ、そういうことになる……かな?」
そう答えると、イルディーナはがっくりと肩を落とし、まるで呪詛のようにぶつぶつと何かを呟き始めた。
「なんでこう私より実力が上の人は揃いも揃って化け物揃いなんですか………こんなの一生かかっても勝てる気がしないじゃないですか。そもそもの話としてですね…………」
なんだか、声をかけると呪われそうだったので、戀は見なかったことにした。
「それで? 戀君はいったいどこが悪いの?」
「だから本当に大丈夫だって。力が出せないとは言っても、全力の5割くらいなら出せるから」
「うーん、それならいいんだけど………」
ティナはまだ納得していない様子だ。
そんなティナを無視して、戀は迷宮の攻略についてのプランをたてる。
「まずは距離だな。その問題の迷宮までここからだいたいどれくらいかかる?」
「待ってください兄様。私はまだ了承した覚えは………」
「そんなに心配なら俺と一緒にくればいいだろ? 俺もお前がいれば安心だしな」
戀のその言葉に頬を朱く染める鈴音。
「わ、わかりました。本当はあまり気が進みませんが、兄様がどーしても! 私についてきてほしいというのであれば、私も異存はありません!」
「俺別にどうしてもとか言ってないんだけど………」
ここで言い返したら負けだと思ったのだろう。戀は特に何も言い返さなかった。
「で? どれくらいかかるんだ?」
再度尋ねる戀。
「ここからなら、最低でも4時間程度ですね」
戀の問いに陽美香が答える。
「迷宮の深さは?」
「一層から確認しされているだけでも百三十層はあります。おそらくまだまだ続いているでしょう」
その言葉に戀は絶句する。
従来の迷宮なら、小規模で十層、中規模で五十層、大規模で百層というのが一般的だ。さらに大規模迷宮などはかなり珍しいもので、現在発見されているだけでも十つしか存在しない。貴重なものだ。
本来超弩級魔物クラスが存在するはずの迷宮も大規模迷宮に属するはずだが、今回ばかりは少し異常だ。
「大規模迷宮を超える迷宮………超規模迷宮とでも呼ぶべきか」
「そんなことを言っている場合ではありませんよ」
そう言って陽美香は脱線しかけた話を戻す。
「迷宮の深さもさることながら、その中に生息する魔物のレベルも相当高いと思われます」
戀はその言葉に同意する。
普通の迷宮なら小型魔物クラスや中型魔物クラス、たまに大型魔物クラスが出現するくらいだが、これほどの深さを誇る迷宮となると、最低クラスで大型魔物だろう。
それにしても、と戀は肩を落としながら呟く。
「まったく………何かに巻き込まれるとは予想していたが、まさかこれほどのものにでくわすなんてな」
「戀君ってほんとにトラブルに好かれてるよね~」
ティナが呆れたように言う。
「好きで巻き込まれているわけじゃないんだがな」
戀は肩をすくめると、表情を引き締め、周りに問う
「冗談はさておき、早速その迷宮に向かいたいと思うんだが、それでもいいか?」
「ごめん戀君、私この後仕事があるんだ………」
「申し訳ありません。私もこの後予定が………」
「…………」
ティナと陽美香の申し出に戀はがっくり肩を落とす。
というか、腕利きであるティナやおそらくだが隠密のプロである陽美香なしで迷宮に挑めと言っているのだろうか。
戀はイルディーナと鈴音を見やる。鈴音なら別についてきても文句はない。肉親であり、同じ組織で活動してたが故に、鈴音の実力をその身で知っている。
だがイルディーナは違う。実力も学園内ではそれなりのものだろうが、これから向かうところはたとえAランクでも下手をすれば死ぬような場所のだ。
そして最も戀を悩ませているのは、彼女を信用してもいいのだろうか、ということだった。
「戀君。確かに君の言いたいこともわかる。でもここは私を信じてほしい。彼女は絶対に君たちを裏切ったりしない」
そう断言するティナの目を見つめ、数分。戀は観念したようにため息をついた。
「わかった。今回ばかりはティナの口車に乗ってやる。だが、もし不穏な動きをすれば、その時はお前を斬る」
そう言い戀はイルディーナを見やる。
イルディーナは戀から発せられる気に少しばかりたじろいだが、覚悟を決めたように戀を見つめ返す。
「はい。私も三觜島君の足を引っ張らないよう努力させていただきます」
こうして、迷宮《草薙》に向かうことが決定したのだった。
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