闇夜の世界と消滅者
四話 魔物の森
「まあ、話は分かりましたけど」
戀の話を黙って聞いていたイルディーナは、話が終わると、不貞腐れたように呟いた。
「その話では今しがた私とぶつかるという光景が全く繋がらないのですが、それはどうやって説明するのですか?」
「ああ、そのことな。あれはちょっと前まで近くの公園の森の探索にな」
そう言いながら遠目に見える森をさした。
あの森はこの近辺の住人たちから〈魔物の森〉と呼ばれており、誰も近づかないという。
魔物の森はその名の通り、魔物が住んでいる場所である。
一般的にはヴァリアントと魔物は同じ扱いをされているが、圧倒的に違う点がある。
それはヴァリアントの体が魔粒子結晶でできているのに対し、魔物はもともと地球に存在した生物や物が自然の魔力を取り込み進化した、という点である。その姿は元の体の原形をとどめているものから、伝説上の生物の体をしたものまで存在する。これら魔物にはすべてランク付けされており、小型魔物クラス、中型魔物クラス、大型魔物クラス超大型魔物クラス、そして世界にわずか八体しか存在しない神獣と呼ばれる魔物、超弩級魔物クラスが、存在し、魔道騎士学園や魔物やヴァリアントを討伐することを生業とする冒険者たちが集まるギルドに報酬金が出ている。
そしてもう一つ特徴的な点がある。それは魔物に与えられた傷を治療しないと、その攻撃を受けた生物も同型の魔物に変身してしまうということだ。
基本的に魔物は決まった場所、つまり魔力が充満している場所を自分のテリトリーとしてそこから出ることはないので、その場に近づかなければ危険な目に遭うことはない。
訛った体にはちょうどいいと思い、特攻を仕掛けたのだが…………
「そしたら明らかに森の魔物じゃないやつがいるんだよ。だからそいつと喧嘩してさ………そしたら」
「ちょ、ちょっと待ってください」
なんだよ。話の途中だぞ。
そう視線で投げかけると、イルディーナはどうしても確認したいことがあるという風な目でこちらを見返してきた。
「魔物の森に入った? あそこに? 一人で?」
恐る恐るという風にこちらに問いかけてくる。
その問いに頷くと、
「何してるんですか!」
…………怒られた。
なぜ怒られたのかわからないと目で訴えるがそんなことお構いなしに彼女は捲し立てる。
「魔物の森に限らず、魔物の生息地帯に単独で入ることは学園で禁止されているのですよ!?
ああいった魔物の生息地帯には最低でもランクC以上の魔導士が同行することが義務付けられているのを知らないのですか!?」
「いや、俺昨日来たばっかだから、知らなくても当然だと思うんだけど………?」
この世界では魔導士のことをランク付けで位を決める。
下から順にE、D、C、B、A、Sの大まかに分けた六段階。
そこからAA、ABと細かく分けて十三段階になる。
「単独で、しかも何の装備もなしで行くなんて、無謀すぎます!」
「いや別に素手で挑んだわけじゃないん………」
「言い訳無用です!」
そこでイルディーナは何か思いついたらしく、
「私と剣技決闘してください」
そう言った。
「はぁ? お前何言ってんの?」
剣技決闘。メルガリアに所属していたころはよく戦友たちと賭け事としてやっていたゲームだ。
メルガリアのルールでは相手が気を失うまで戦うか、相手が降参するというものだった。このルールは基本的にどこの国でも採用しており、別段珍しいものはない。時々厳しすぎる条件が付いた剣技決闘があったりするのだが、それはさておくとして。
「一応聞いておく。学園のルールはいったいどんなものだ?」
「知らないのですか?」
だから俺はまだ部外者だつってだろ馬鹿にしてんのか。
「基本的な部分は国が採用しているものとなんら変わりません。ただ、勝利条件にひとつだけ追加項目があります」
そう言って、イルディーナは自分の胸の部分を指さす。
「ほら、ここにベルクリオ学園の校章があるでしょう? これを破壊することが勝利条件の一つに加わります。ティグナムのようなところではときどき死者でるほど厳しいものらしいですけど、うちは安全第一ですので」
気絶。
降参。
校章破壊。
………特に難儀することもないか。
戀はそう結論付けて、イルディーナに向かい合う。
「その申し立て、受けてたとう」
学生とはいえ生徒会長を務めているのだ。期待して損はないだろう。
「では、勝った時の報酬はどうしましょうか」
「………え?」
え、なに? 報酬出るの?
驚いた顔をしていると、やっぱり知らなかったんですねと言いながら教えてくれる。
「剣技決闘を行う際にはいくつかの条件が必要になります。
一つ、お互いの意思確認。
一つ、剣技決闘場所の指定
そして最後に、デュエルに買った際にかける報酬を提示します」
報酬を提示する。それはつまり…………
「学園は剣技決闘をギャンブルとして扱っかているのか?」
「とんでもない!賭けをするのはあくまで生徒たちの闘争心を煽るためにしているんです。そんな野暮なことをするはずがありません!」
「どうだかな…………」
デュエルは簡単に言えばギャンブルである。
賢い奴ならこれを利用して儲けようとする奴もいると思うんだがな。
「ま、そんなことは置いといてだ。いつ、どこでやるんだ」
「はい。それについてはもう決めてありますから、明日の転入日の放課後に学長室まで来てください」
「わかった」
そうして戀とイルディーナは別々のほうに歩きだす。
学園転入初日から戦闘だなんて、本当についてないぜと思いながら。
戀の話を黙って聞いていたイルディーナは、話が終わると、不貞腐れたように呟いた。
「その話では今しがた私とぶつかるという光景が全く繋がらないのですが、それはどうやって説明するのですか?」
「ああ、そのことな。あれはちょっと前まで近くの公園の森の探索にな」
そう言いながら遠目に見える森をさした。
あの森はこの近辺の住人たちから〈魔物の森〉と呼ばれており、誰も近づかないという。
魔物の森はその名の通り、魔物が住んでいる場所である。
一般的にはヴァリアントと魔物は同じ扱いをされているが、圧倒的に違う点がある。
それはヴァリアントの体が魔粒子結晶でできているのに対し、魔物はもともと地球に存在した生物や物が自然の魔力を取り込み進化した、という点である。その姿は元の体の原形をとどめているものから、伝説上の生物の体をしたものまで存在する。これら魔物にはすべてランク付けされており、小型魔物クラス、中型魔物クラス、大型魔物クラス超大型魔物クラス、そして世界にわずか八体しか存在しない神獣と呼ばれる魔物、超弩級魔物クラスが、存在し、魔道騎士学園や魔物やヴァリアントを討伐することを生業とする冒険者たちが集まるギルドに報酬金が出ている。
そしてもう一つ特徴的な点がある。それは魔物に与えられた傷を治療しないと、その攻撃を受けた生物も同型の魔物に変身してしまうということだ。
基本的に魔物は決まった場所、つまり魔力が充満している場所を自分のテリトリーとしてそこから出ることはないので、その場に近づかなければ危険な目に遭うことはない。
訛った体にはちょうどいいと思い、特攻を仕掛けたのだが…………
「そしたら明らかに森の魔物じゃないやつがいるんだよ。だからそいつと喧嘩してさ………そしたら」
「ちょ、ちょっと待ってください」
なんだよ。話の途中だぞ。
そう視線で投げかけると、イルディーナはどうしても確認したいことがあるという風な目でこちらを見返してきた。
「魔物の森に入った? あそこに? 一人で?」
恐る恐るという風にこちらに問いかけてくる。
その問いに頷くと、
「何してるんですか!」
…………怒られた。
なぜ怒られたのかわからないと目で訴えるがそんなことお構いなしに彼女は捲し立てる。
「魔物の森に限らず、魔物の生息地帯に単独で入ることは学園で禁止されているのですよ!?
ああいった魔物の生息地帯には最低でもランクC以上の魔導士が同行することが義務付けられているのを知らないのですか!?」
「いや、俺昨日来たばっかだから、知らなくても当然だと思うんだけど………?」
この世界では魔導士のことをランク付けで位を決める。
下から順にE、D、C、B、A、Sの大まかに分けた六段階。
そこからAA、ABと細かく分けて十三段階になる。
「単独で、しかも何の装備もなしで行くなんて、無謀すぎます!」
「いや別に素手で挑んだわけじゃないん………」
「言い訳無用です!」
そこでイルディーナは何か思いついたらしく、
「私と剣技決闘してください」
そう言った。
「はぁ? お前何言ってんの?」
剣技決闘。メルガリアに所属していたころはよく戦友たちと賭け事としてやっていたゲームだ。
メルガリアのルールでは相手が気を失うまで戦うか、相手が降参するというものだった。このルールは基本的にどこの国でも採用しており、別段珍しいものはない。時々厳しすぎる条件が付いた剣技決闘があったりするのだが、それはさておくとして。
「一応聞いておく。学園のルールはいったいどんなものだ?」
「知らないのですか?」
だから俺はまだ部外者だつってだろ馬鹿にしてんのか。
「基本的な部分は国が採用しているものとなんら変わりません。ただ、勝利条件にひとつだけ追加項目があります」
そう言って、イルディーナは自分の胸の部分を指さす。
「ほら、ここにベルクリオ学園の校章があるでしょう? これを破壊することが勝利条件の一つに加わります。ティグナムのようなところではときどき死者でるほど厳しいものらしいですけど、うちは安全第一ですので」
気絶。
降参。
校章破壊。
………特に難儀することもないか。
戀はそう結論付けて、イルディーナに向かい合う。
「その申し立て、受けてたとう」
学生とはいえ生徒会長を務めているのだ。期待して損はないだろう。
「では、勝った時の報酬はどうしましょうか」
「………え?」
え、なに? 報酬出るの?
驚いた顔をしていると、やっぱり知らなかったんですねと言いながら教えてくれる。
「剣技決闘を行う際にはいくつかの条件が必要になります。
一つ、お互いの意思確認。
一つ、剣技決闘場所の指定
そして最後に、デュエルに買った際にかける報酬を提示します」
報酬を提示する。それはつまり…………
「学園は剣技決闘をギャンブルとして扱っかているのか?」
「とんでもない!賭けをするのはあくまで生徒たちの闘争心を煽るためにしているんです。そんな野暮なことをするはずがありません!」
「どうだかな…………」
デュエルは簡単に言えばギャンブルである。
賢い奴ならこれを利用して儲けようとする奴もいると思うんだがな。
「ま、そんなことは置いといてだ。いつ、どこでやるんだ」
「はい。それについてはもう決めてありますから、明日の転入日の放課後に学長室まで来てください」
「わかった」
そうして戀とイルディーナは別々のほうに歩きだす。
学園転入初日から戦闘だなんて、本当についてないぜと思いながら。
「ホラー」の人気作品
書籍化作品
-
-
75
-
-
29
-
-
1978
-
-
125
-
-
2265
-
-
93
-
-
35
-
-
39
-
-
49989
コメント