寵愛の精霊術師

触手マスター佐堂@美少女

第74話 永遠の伴侶





 ――懐かしい思い出に浸っていた意識が、現実へと帰ってくる。

 そうしている間にも、カミーユの胸に突き刺さっている『常闇の蔓』はその数を増やし、彼女の存在を食らっていった。

「あとは、任せましたよ……」

 驚愕に目を見開くエーデルワイスの姿に、カミーユは場違いな感傷を覚える。

 思えば、『憤怒』に覚醒してから、エーデルワイスとはずっと共に過ごしてきた。
 よき友人だった。

 『色欲』の魔術師エーデルワイスならば、必ずこの世界の罪を裁くことができる。
 そう信じて、『憤怒』の魔術師カミーユは、その瞳をゆっくりと閉じる。

 自身の中から、徐々に『憤怒』が抜け落ちていく。
 それは紛れもなく、何本もの『常闇の蔓』によってカミーユの存在が削られている感覚に他ならない。

「おや?」

 もはや光など無くなったはずの視界に、一点の光が差し込んだ。
 光は、徐々に人の姿を形作っていく。

 その姿が明瞭になると、カミーユの頬から一筋の雫がこぼれ落ちた。

「……そうですか。一緒に、来ていただけますか」

 その呟きは誰にも聴こえることなく、闇に溶けていく。

 返事が来ることなど望まない。
 ただそこにいてくれさえすれば、それで十分すぎた。



「愛しています。あなただけを、いつまでも」



 万感の想いを込めて、目の前で微笑む愛しい夫の手を取り、カミーユは暗い奈落の奥底へと沈んでいく。



 その手を最後まで離さないまま、カミーユの意識は霧散した。

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