二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~
いじめの末路
俺はただ立ち尽くしていた。
そうすることしかできなかった。
警察署の署長。
彼が、残りわずかだった佐久間のHPを残らず食らいつくした。
手頃にあった表彰状の額縁で、思い切り佐久間の頭部を殴打したのだ。佐久間はぎゅっと目を閉じ、その場に倒れた。
署長は、部下の敵を取ったとばかりに一瞬だけ微笑みを浮かべると、同じく気を失ったように膝から崩れた。 
ーーHPは命そのもの。
ーーHPを失った者は、本物の命までなくすことになる。
「おい、佐久間、おい!」
俺は慌てて同級生に駆け寄った。
こんなとき、蘇生アイテムがあればどんなにいいだろう。しかしここはどうしようもない現実であり、そんな便利なアイテムがあるはずもない。
HPやMPという数値化されたステータスは、ゲームに酷似しすぎているがゆえに、現実世界を生きているのだという危機感を忘れさせる。
しかし、同級生のHPはすでに0を切った。
つまり、彼はもうーー
佐久間祐司はほんのすこし目を開くと、力なく俺の腕を掴んだ。
「吉岡。おまえならきっと、古山に辿り着くことができる。頼む、あいつを……」
ただ、それだけを言い残して。
佐久間は大量の血液を吐き出し。
白目を剥き。
力なく、地面に全身を預けた。
あまりに無慈悲、そして簡潔。
だがこれは疑いようもなく現実で、だからこそ信じたくはなくて。
俺は無意識のうちに絶叫をあげていた。
《レベルが上がりました。
レベル25 吉岡勇樹
HP 21/335 MP 0/440
MA 6000 MD 4225
以下のスキルを修得しました。
・金色の魔法陣
・闇の衣
・空間転移 》
強敵を倒した影響か、かなりの経験値が俺に積まれたようだ。
トドメを刺したのは俺ではないが、ダメージの大半を与えた者に経験値を授与するシステムなのかもしれない。
だが、もはやそんなことを考えている余裕はなかった。
佐久間は死んだ。
それはなにものにも代え難い事実だった。
不意に、後ろから包み込まれる感触があった。
「吉岡くん」
高城の声だ。どうやら無事に警察官五人と渡り合ったらしい。
高城は俺の首に両腕をまわすと、柔らかな声音でささやいた。
「前、吉岡くんが言ってくれたことをそのまま言うね。ーー私だけは、あなたの気持ち知ってるから。佐久間くんも仲間にしたくて、頑張って、でもできなかった。その苦しさ、私だけは知ってるから」
その暖かな言葉は、俺の心をほのかに包み込んでくれた。
俺はしばらくの間、その温かさに身を委ねた。
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