二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~

魔法少女どま子

【転章】 佐久間裕司

 いつからだろう。俺が女性恐怖症になったのは。

 小五のときか。

 いきなり女子に避けられるようになった。

 俺の配る給食だけを、ある特定の女子が受け取らなくなった。
 それに同調するように、他の女も俺から遠ざかるようになった。

 理由は「顔がキモい」から。

 ただそれだけ。

 生まれてくるときに、人は顔の美醜を決めることはできない。
 俺だってこんな顔に生まれたくはなかった。イケメンでなくとも、せめて人に忌避されるような顔面にはなりたくなかった。

 でも、クラスの女にはそんな理屈は関係ない。
 顔が醜いという理由だけで、俺を菌のように扱う。俺の目の前で、俺に聞こえるようにして、俺の悪口を言う。

 中学生になった。 
 俺だって年頃になったし、女の子と仲良くしたかった。
 願わくは恋人なるものをつくりたかった。

 だが人は年を重ねても愚かなままだった。

 顔が不細工という理由だけで、普通に接するどころか、まるで腫れ物のようにあしらってくる。思春期の俺の淡き願いは叶わぬものだと、中一の頃から悟った。

 俺は女嫌いになった。
 初めから相手が嫌ってくるのだ。
 そんなゲスどもと絡むつもりは一切ない。

 女なんて嫌いだ。
 死ねばいいのだ。

 そう思ったほうが楽になる。期待すればするぶんだけ傷つく。
 だったら最初からなにも期待しないほうがいい。女なんて最初からいないものとして考える。

 でも。

 吉岡勇樹。
 おまえはなんなんだ。

 つい最近まで、俺と一緒に女どもに嫌われていたじゃないか。それがなんだ。なんで高城絵美と仲良くなっているんだ。

 それに、おまえを見る高城の目。あれは絶対におまえに惚れている。

 ありえない。

 レベルの低い争いではあるが、俺とおまえなら、俺のほうがまだ見られる顔だ。それなのに。

 なぜ。なぜなんだよーー 

 なんでおまえはいじめっ子どもの肩を持つ。そいつらが憎くないのか。坂巻を殺したいんじゃなかったのか。

 そんなふうに考えているうちに、俺は気づいてしまった。

 俺は女嫌いなんかじゃない。
 傷つきたくないから、無理をして遠ざかるようになったのだと。

 本当は羨ましかった。楽しそうにみんなと打ち解けるリア充が。恋愛という土俵に立てる男みんなが。

 そして、もうひとつ気づいてしまった。

 あれほど忌み嫌っていたいじめっ子たち。

 いつの間にか、俺も奴らと同種になってしまっていた。俺たちはいじめっ子を殺すだけに留まらず、本来は無関係な警察まで我が手中に収めようとした。

 あのときの署長の顔は、間違いなく、数年前まで俺が浮かべていた表情そのものだ。

 そんなふうに考えていたから、動きが鈍っていたのかもしれない。

 吉岡の剣が時折俺を掠め、直撃はしないまでも、取り返しのつかないダメージを負ってしまっていた。

 俺の剣先もときどき吉岡の頬を駆けていくが、そもそも、あいつは闇魔法を使っている。ダメージの総量は俺のほうが高い。

 とうとうHPが2になったところで、俺は死を確信した。

 こんな。
 こんな報われない人生ってあるのか。
 誰にも認められず、あまつさえ同じいじめられっ子に殺されるなんて。

 俺は、俺はいったいなんだったんだ……

 気づいたとき絶叫をあげていた。死ぬのが怖かった。 

 だが、吉岡は俺にとどめを刺さなかった。奴も相当疲れ果てていたのだろうが、俺に最後の一撃を見舞わずに、床に膝をついた。

「……なぜ、殺さない」

 小さく、俺は呟いた。

「仲間が、欲しいんだよ」

 同じくかすれた呟き声が返ってくる。

「仲間……? おまえ、本気で古山たちを止める気か」

「ああ。このままじゃ、また多くの被害が出ちまう。その前に……」

 被害、か、
 俺は薄い笑みを浮かべた。

 やはりわからない男だ。その被害者とはつまりいじめっ子のことだ。そんな奴らを救っても仕方ないのに。

 だが、たしかに古山は危険だ。

 このまま警察署を制圧して、いったいなにをするつもりだったのか。明らかに「いじめっ子への復讐」の域を超えている。

 いじめっ子を許すことは到底できそうにない。だが、古山を止めないといけないのは事実だ。

 だから俺は言った。
「古山を止めるという点においてのみ、俺はーー」

 瞬間。
 頭部にすさまじい衝撃が走り、目の前が真っ暗になった。

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