二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~

魔法少女どま子

リア充だった俺を舐めるなよ

 タワー内部はまるでダンジョンだった。

 俺たちが入った出入り口をスタートとして、天辺まで果てしなく螺旋状の床が続いているーーのだが。

 その床がとても怖い。

「わっ、わっ、おおっ!」
 恐怖のあまり野太い悲鳴を発しながら、俺はゆっくりと佐久間の背を追っていく。クラスメイトは時折呆れたように振り返ってくるが、この際構っていられない。

 なにしろ床が透けているのだ。半透明な翡翠色をしており、蛇やら竜やらのレリーフがそこかしこに散見される。

 のだが、登れば登るほど、透けた床面に遙か遠い地上が見えるのだ。手すりもなにもないし、怖いったらない。

「吉岡、きみは高所恐怖症だったのか」
「恐怖症でなくてもこの高さは怖いわ!」

 すでに俺たちはタワーの半分ほどを登りきった。視線を下向けば、半透明の床からは頭のおかしい光景がーー

 いや、下を見るからいけないんだ。

 気分転換を兼ねて、俺は周囲を見渡してみる。

 タワーの内部は翡翠色を基調としてつくられており、蛍のような小さな光源ーーたぶん生物ではなく、魔法がつくりだしているインテリアのひとつだろうーーがあちらこちらに舞っている。

 ときおり壁面に扉が設えられており、そこに魔法の訓練場や休憩室などがあるのだと佐久間は言った。

「着いたぞ」

 やっとのことで佐久間が歩みを止めた。

「この扉の先にリーダーがいる。まあ、同級生だし気兼ねする必要はないが、せめて最低限の礼儀はわきまえてくれよ」

 その言葉を意識半分に聞き流し、
「おまえら、エレベーターとかエレベータとか作ろうとは思わんのか」
 と突っ込んでみた。

 正直、もうこの高さを登りたくはない。

 佐久間は扉のドアノブを片手でつかみながら答えた。

「エレベーターは美しくない、というリーダーの考えさーーさあ、行った行った」

 訴えてやるーー俺をここまで恐怖させたことをな。
 という馬鹿馬鹿しい考えは脇に置いて、俺は開けられた室内に足を踏み入れた。

 佐久間はついてこないらしい。俺が完全に部屋に入ると、ガチャンという音を立てて扉が閉められた。

「初めまして。君が新人さんだね」
 ふいに声をかけられ、視線を前方に向ける。


 古山章三 レベル90

 HP 999/999 MP 9999/9999
 MA 9999 MD 9999


「……は?」
 思わず声が漏れた。

 視界に飛び込んできた数値は、常識をはるかに超えていた。

 俺の視線の先で、机に向かっているひとりの男。さっきまで読書でもしていたのか、分厚い書物が裏返って脇に置いてある。

 見渡すばかり本の山だった。壁面には巨大な本棚が置かれているが、それでもすべてを収納しきれなかったようで、何冊かがうずたかく床に積まれている。

 そう。
 異世界においてスクールカースト下位に属していた古山章三が、変わらない姿で俺の目の前にいた。

 古山は眼鏡を机に置くと、おもむろに立ち上がりながら言った。

「いや、久しぶり、と言うべきかな。君は覚えていないだろうけど、僕はかつて君のクラスメイトだったのさ」

 やはりだ。
 異世界においては確かに存在していたはずの彼が、この世界では姿形も見当たらない。思った通り、その理由は記憶操作によるものらしい。

 少々いらっとした俺は、すこしからかってみることにした。

「坂巻を校門で殺害したあと、みんなの記憶を操作し、その後このタワーをつくりあげた……だいたい、こんな手順だろ?」

 さすがにこれには驚愕したらしい。目を丸くして訊ねてくる。

「こりゃ驚いた……なぜわかったんだい?」
「俺だってもし魔法を手に入れたらそうするよ」

 嘘もいいところだが、これもリア充生活で身につけた立派な社交術だ。

 古山は満足そうに頷いた。

「なるほどね……嬉しいよ。君は大事な仲間になってくれそうだ」

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