二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~
最強の力と異世界へ旅立ち
「しかし……俺じゃあいつらには……」
そもそもこの状況がどうなっているかもよくわからない。
俺は底辺高校生。対して相手は不思議な力を使う異人。勝ち目は明らかにない。
少女は笑みを崩すことなく言葉を続けた。
「大丈夫。あなたには力がある。思い出して。あなたは最強の闇魔法使いよ」
「は……?」
瞬間、少女に握られていた手がぼんやりと光を放った。と同時に、なにか途方もない強烈なエネルギーを感じる。
「ほんのわずかだけ力を譲渡したわ。これがいまの私の限界。けれど、あいつらを追い出すには充分なはずよ」
「……そうか」
俺は短く返事をすると、少女を優しく地面に横たえ、男たちと対峙した。
この力。
やけに身体に馴染む。
これからなにをすればいいのかも、身体がなんとなくわかっていた。
俺はほとんど本能的に呟いた。
「使役するぞ……おまえたちの心臓を」
瞬間、俺の右手が激しく蒼に輝いた。そのまま右手をぎゅっと握り締めると、三人の男たちが胸部を抱え、苦しそうにもがきだした。激しく地面を転がりまわっている者もいる。
これが闇の魔法である。
相手の身体を完全に支配し、自由に操る、禁断の術……
そこまで考えて、俺は戸惑った。
なんで俺はこんなことを知っているんだ? それに禁断の術とか心臓の使役とか、なんか中二くさいぞ。
しかしながら、いま目の前に広がっている光景もまた現実だった。これは夢ではない。男たちは、俺の握る右手によって、実際にも苦しめられている。
俺は最後に、最大限の力を右手に込めた。
「ぐあああああっ!」
という、醜い悲鳴が三つ。
胸部から鮮血を迸らせながら、男たちはぐったりと倒れこんだ。
彼らに動き出す気配はない。俺が魔法を発動し、右手を握っただけで、本当に息絶えたのである。
俺が人を殺した。
その冷ややかな事実に、俺は呆然と自分の右手を見下ろした。
ーーいや、そうでもしないと俺が殺されていた。だから仕方のないことだ。現に少女も胸を抉られたではないか。
少女。
その言葉が脳裏に浮かび、俺は自分の脇へ視線を動かした。
致命的な重傷を負ったはずの彼女は、胸の大穴などまったく意に介さず、「よいしょ」とゆっくりと立ち上がった。
「さすがだね。記憶はなくしても、やっぱり才能あるよ」
「おまえ……その傷……」
「ああ、これ?」
少女はあっけらかんとした表情で自分の胸部を指し示すと、その手を後頭部にあてがい、てへへと笑った。
「これは本当に大丈夫だよ。私はいま、ここには存在しない。見えているだけなの。だからどんな傷を負っても本当の私には影響ないよ」
わけがわからない……
だがそれを言うのであれば、さっきから意味不明なことの連続だ。いちから説明してもらわないと、到底理解できるものではない。
「ごめんね。よくわからないよね。これからちょっとずつ、明らかになるから」
言うなり、またしても俺の手を握ってくる。
おい馬鹿やめろ童貞の俺になにをする! などと混乱する俺をよそに、少女は可愛げな微笑みを浮かべた。
「これからあなたを異世界へと招待します。お願い……みんなを、助けて」
セリフの後半はやや切迫した声だった。
助けるって……どういうことだ? と問いただす間もなく、俺はふいに、意識を失った。
★
「勇樹ー、起きなさい、朝ご飯よー」
目が覚めたのは、そんな声に呼ばれてだった。
「う、うーん」
寝ぼけ眼をこすりながら、俺はうっすりと目を開ける。エプロンを身につけた母親が、俺の布団を思いっきりまくりあげた。
「ほらなにしてんの! 早く起きないと遅刻しちゃうよ!」
「うーん、わかったっての……」
言いながらも上半身を起こそうとした、その瞬間。
俺の背筋を、冷たい感触がぞわりと走り抜けた。
母親?
馬鹿な。
俺はゆっくりと顔をあげ、「母親」を呆然と見つめた。
「母さん……なのか?」
「なに言ってんの、当たり前でしょ。ご飯できてるから、早く起きてきなさいよ」
そう言い残して、俺の部屋からドタドタと去っていく。
ひとり取り残された俺は、しばらく口を開けたまま、身じろぎひとつできなかった。
おかしいのだ。
俺に母親なんていない。いや正確には、俺が生まれてすぐに交通事故に遭って他界したはずだ。だから俺はこの歳まで男手ひとつで育てあげられてきた。
ではあの母親は偽物なのか。
そうは思えなかった。
なぜなら、俺が昔見た母親の写真と、まるでそっくりな風貌をしているからだ。
もちろん記憶の母と比べれば老けてはいる。順調に歳を重ねればこうなるだろうなあという母親の姿が、さっき俺を起こしにきた女に違いなかった。
いったいどうなっている。ここはどこだ?
そう思って周囲を見渡すが、正真正銘、ここは俺の部屋だった。学習机に、漫画やラノベ、ゲーム機……それらが乱雑に散らばっている。
そもそもこの状況がどうなっているかもよくわからない。
俺は底辺高校生。対して相手は不思議な力を使う異人。勝ち目は明らかにない。
少女は笑みを崩すことなく言葉を続けた。
「大丈夫。あなたには力がある。思い出して。あなたは最強の闇魔法使いよ」
「は……?」
瞬間、少女に握られていた手がぼんやりと光を放った。と同時に、なにか途方もない強烈なエネルギーを感じる。
「ほんのわずかだけ力を譲渡したわ。これがいまの私の限界。けれど、あいつらを追い出すには充分なはずよ」
「……そうか」
俺は短く返事をすると、少女を優しく地面に横たえ、男たちと対峙した。
この力。
やけに身体に馴染む。
これからなにをすればいいのかも、身体がなんとなくわかっていた。
俺はほとんど本能的に呟いた。
「使役するぞ……おまえたちの心臓を」
瞬間、俺の右手が激しく蒼に輝いた。そのまま右手をぎゅっと握り締めると、三人の男たちが胸部を抱え、苦しそうにもがきだした。激しく地面を転がりまわっている者もいる。
これが闇の魔法である。
相手の身体を完全に支配し、自由に操る、禁断の術……
そこまで考えて、俺は戸惑った。
なんで俺はこんなことを知っているんだ? それに禁断の術とか心臓の使役とか、なんか中二くさいぞ。
しかしながら、いま目の前に広がっている光景もまた現実だった。これは夢ではない。男たちは、俺の握る右手によって、実際にも苦しめられている。
俺は最後に、最大限の力を右手に込めた。
「ぐあああああっ!」
という、醜い悲鳴が三つ。
胸部から鮮血を迸らせながら、男たちはぐったりと倒れこんだ。
彼らに動き出す気配はない。俺が魔法を発動し、右手を握っただけで、本当に息絶えたのである。
俺が人を殺した。
その冷ややかな事実に、俺は呆然と自分の右手を見下ろした。
ーーいや、そうでもしないと俺が殺されていた。だから仕方のないことだ。現に少女も胸を抉られたではないか。
少女。
その言葉が脳裏に浮かび、俺は自分の脇へ視線を動かした。
致命的な重傷を負ったはずの彼女は、胸の大穴などまったく意に介さず、「よいしょ」とゆっくりと立ち上がった。
「さすがだね。記憶はなくしても、やっぱり才能あるよ」
「おまえ……その傷……」
「ああ、これ?」
少女はあっけらかんとした表情で自分の胸部を指し示すと、その手を後頭部にあてがい、てへへと笑った。
「これは本当に大丈夫だよ。私はいま、ここには存在しない。見えているだけなの。だからどんな傷を負っても本当の私には影響ないよ」
わけがわからない……
だがそれを言うのであれば、さっきから意味不明なことの連続だ。いちから説明してもらわないと、到底理解できるものではない。
「ごめんね。よくわからないよね。これからちょっとずつ、明らかになるから」
言うなり、またしても俺の手を握ってくる。
おい馬鹿やめろ童貞の俺になにをする! などと混乱する俺をよそに、少女は可愛げな微笑みを浮かべた。
「これからあなたを異世界へと招待します。お願い……みんなを、助けて」
セリフの後半はやや切迫した声だった。
助けるって……どういうことだ? と問いただす間もなく、俺はふいに、意識を失った。
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「勇樹ー、起きなさい、朝ご飯よー」
目が覚めたのは、そんな声に呼ばれてだった。
「う、うーん」
寝ぼけ眼をこすりながら、俺はうっすりと目を開ける。エプロンを身につけた母親が、俺の布団を思いっきりまくりあげた。
「ほらなにしてんの! 早く起きないと遅刻しちゃうよ!」
「うーん、わかったっての……」
言いながらも上半身を起こそうとした、その瞬間。
俺の背筋を、冷たい感触がぞわりと走り抜けた。
母親?
馬鹿な。
俺はゆっくりと顔をあげ、「母親」を呆然と見つめた。
「母さん……なのか?」
「なに言ってんの、当たり前でしょ。ご飯できてるから、早く起きてきなさいよ」
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おかしいのだ。
俺に母親なんていない。いや正確には、俺が生まれてすぐに交通事故に遭って他界したはずだ。だから俺はこの歳まで男手ひとつで育てあげられてきた。
ではあの母親は偽物なのか。
そうは思えなかった。
なぜなら、俺が昔見た母親の写真と、まるでそっくりな風貌をしているからだ。
もちろん記憶の母と比べれば老けてはいる。順調に歳を重ねればこうなるだろうなあという母親の姿が、さっき俺を起こしにきた女に違いなかった。
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