花は示す 花は祝ぐ

ノベルバユーザー149578

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眠さにとろけてきた頭には、史月の言っていることがそのまま入ってこない。
ふぁと大きなあくびを右手で隠し、左手で襖を開けると同時に史月がひもを引っ張った。
かちんかちんと2回引っ張ることで完全に電気が消える。


開けた向こうは小さな豆電球が1つついている、先ほどまでいた部屋よりも一回り小さい寝室だった。
オレンジ色の電球に照らされているのは大きな1組の布団に枕が2つ。


「!?」


ここでひなこはばっちり目が覚めた。
襖を開けた格好のままあんぐりと口を開ける。意味が分からない。
その横をすり抜けて寝室に入った史月は何とも思っていなさそうに敷かれた布団へと腰を下ろす。


「いやいや、ちょっと待てや」
「何だ?」
「何だやないやろ! 布団1組しかあらへんぞ!?」
「花示と花祝は寝るときも一緒だって言っただろう」
「そういう意味!?」


せいぜい寝る部屋が一緒くらいにしか思っていなかったひなこ。思わず叫んだ。
まさか布団まで一緒とは。ぐっと息を詰まらせて立ち尽くしているひなこを振り向きながら不思議そうに見上げる史月。


「どうした?」
「・・・ま、ええか。女の子同士やし」
「何が?」
「何でもあらへんねん」


そう言ってあきらめたように肩を落とすと、ひなこは後ろ手に襖を閉め、布団に近づき上から垂れ下がる紐を史月に了承を取ってからひっぱり明かりを消した。そのまま先に布団にもぐっていた史月に迎え入れられるようにして布団に入った。


そこまではよかったが、ぺとりと史月の細い指がたいして大きくもないひなこの胸に触れる。


「なななななな、何やっとんねんあんた!」
「温かい」
「はあ!?」
「人って温かいんだな。どくどくしてる」


当たり前やろ、してなかったら死んどるわ! と怒鳴ろうとして、ひなこは気付いた。


家族のいない史月、花示として大切に育てられてきた史月、こんな広い家に独りぼっちの史月。そんな史月に親しく触れる人など、今までいなかったのではないかと。


そう思うと怒鳴ろうとしていた気持ちがしぼんでいく。


(そうゆうことなら、好きなだけ胸貸しちゃる!)


女は度胸! と変なところで度胸を発揮するひなこだった。
大人しくなったひなこを不思議そうに見て、胸から手を放す史月。もう気は済んだらしい。


「ひな」
「ん?」


今度はぎゅっと抱き着いてくる。
ふわりと甘い椿の匂いと石鹸の香りが混ざり合った匂いが鼻先をかすめて、ひなこの胸がどくんと跳ねた。


「ど、どないしてん?」
「俺のひな、俺の花祝」
「お? おお」
「大事な、俺のひな。幸せにする」


ゆったりとした口調で、ひなこを抱きしめながらうわ言のように言う史月にひなこは顔が赤くなっていくのがわかる。どくどくと胸がうるさい。


(なんやこれ!)


答えなんて出ないそれに身を固くさせていると、史月がひな? と少し離れて顔をのぞき込んできた。
唯一の救いは消した電気のおかげで暗闇の中、顔が見えないということだろう。


それでも言っておかねばならないと、ひなこはうとうとしかけている史月に自分から抱き着きながら、口を開いた。


「あんな、ふみ」
「ん?」
「うちが幸せにしてもらうんやなくてな」
「ん」
「2人で、幸せになろうな」
「・・・ああ」


礼をいうようにぎゅっと抱きしめられ、そのあとすぐにすーすーと寝息にが立てられる。
ちゃんと伝わったんかなあと苦笑しつつ、ひなこも目を閉じて心地いいだるさに意識を沈めたのだった。

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