ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
23-192.黄金水晶
「大丈夫か! リム!」
ヒロが駆け寄るより先に、エルテがリムを抱き抱える。応急の回復魔法を試みる。
永久の火の燭台を斬ることで、多少のマナが補給されたとはいえ、まだまだマナが少ないこのホールで掛ける回復魔法はささやかなものだったが、リムが気を取り戻すには十分だった。
「う……」
リムがうっすらと目を開ける。覗き込むヒロの顔をみて微かに微笑んだ。
「ヒロ様、御無事だったのですね。よかった」
エルテが回復魔法の強度を上げる。リムの顔にみるみる精気が蘇ってくる。よかった。大事には至っていないようだ。
「アークムは?」
リムは獣がどうなったのかと、ヒロに金の瞳を向けた。
「君に噛みついた後、急に上を向いて、そのまま消えてしまったよ。何が起こったのかさっぱりだ」
「……そうですか」
リムは体を起こした。驚くべき回復力だ。リムはヒロの制止も聞かず、ゆっくりと起きあがると、その辺りを歩き始めた。やがて、小悪鬼騎士から切り飛ばしたペンダントを見つけると、しゃがみ込んで拾った。
「リム?」
リムは、それを両手で包んで胸に抱くと、ヒロの元に戻ってきた。顔を上げると金色の瞳からぽろぽろと涙が溢れていた。
「……リム」
リムはヒロの前で両手を広げてみせた。その可愛らしい手の平には、光沢のある白地に茶の斑模様をした物体があった。
「巻き貝?」
ヒロが驚きの声を挙げる。小悪鬼騎士が付けていたペンダントは三角錐だった筈なのだが、今、リムが手にしているのは形は似ているが唯の巻き貝だ。何故、山奥の地下迷宮にこんなものが。困惑するヒロに、リムが静かに口を開いた。
「ヒロ様、エルテさん。これが……黄金水晶です。いえ、黄金水晶だったものです……」
「?」
「先程のモンスターの名はアークム。女神リーファが巻き貝に封じた精霊獣です」
「!!」
突如、ヒロの脳裏にウオバル図書館から借りたレーベ王の物語の一節が思い浮かんだ。女神リーファが自分の形見として黄金水晶をレーベ王に託した場面だ。
「あれは、ただの伝説じゃなかったのか」
「ヒロ様、前に……申し上げませんでしたか? あれは本当の話だったと」
「しかし、これはどうみても唯の貝だ。黄金にも水晶にも見えないが」
「はい。あの時、女神リーファはこの巻き貝を拾って、精霊獣アークムを封じてから、黄金水晶に錬成変化させました。でも、アークムがいなくなった今、元の巻貝に戻ったんです」
リムの説明にエルテが口を挟む。
「リムちゃん、これが黄金水晶だったという証拠はあるの?」
エルテの顔には困惑の色がありありと浮かんでいた。無理もない。エルテはラクシス家の再興を胸にレーベの秘宝を探し求めていたのだ。それなのに、この巻き貝がそうだと言われても、簡単に納得する訳にはいかない。彼女の少し尖らせた口がその気持ちを表していた。
「先程のモンスターが精霊獣アークムだということが一つ。そしてもう一つが宝箱の中に」
「どういうことなの?」
「宝箱の底に、黄金水晶が納められた経緯が書いてありました」
リムが宝箱を指さし、説明しますと言った。ヒロ達が宝箱に集まり、底を覗き込む。リムが金貨を脇に除け、底面を手で払うと、そこに古代文字が刻まれているのが見えた。
「此処に黄金水晶が納められたのは、精霊獣アークムを治療し、目覚めさせるためだったんです」
リムは古代文字を見つめ、その内容を語り始めた。
 
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