ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
23-190.ペンダント
「ヒロ、よく分からねぇんだけどよ。なぜ燭台を斬ったら、魔法が使えるようになったんだ?」
ソラリスが不思議そうな顔で尋ねる。
「あぁ、簡単な理屈さ。あの燭台の炎は、周りのマナを吸い取って燃える魔法の炎なんだろう? なら、このホールからマナが無くなったら、それ以上燃えることは出来ない筈だ。なのにあれは消えることなく燃え続けている。最初はほんの僅かなマナで足りるのかとも思ったんだが、此処のマナが空になるほど魔法を使っても、全然変化がない。だから、燭台が外に繋がっているんじゃないのかと思ったのさ」
「ヒロ様、燭台の中が空洞になってます」
リムが切り取られた燭台を覗き込んでいる。結構な勢いで空気が供給されているのだろう。リムの髪が燭台から吹き上げる風で揺れていた。
「とりあえずの応急処置は終わりました。でも動けるようになるにはまだ少し時間が必要ですわ。ヒロさん、もう一度青い珠でマナを集めてもよろしいですか?」
エルテがミカキーノとロンボクの様子を確認した後、ヒロに承諾を求めた。今の状態で無理して動くよりは、出来るだけ快復させてからの方がいいだろう。ヒロは無言で頷き承諾した。
エルテは、ソラリスが斬った燭台の傍に移動した。燭台の傍がよりマナを集めやすいのだろう。エルテは再び青い珠を発動させる。
エルテの伸ばした両手の先に、青く輝く光球が生まれた。燭台からのマナを吸収し、どんどん大きくなる。人の半身程の大きさになり、エルテが青い珠を解除しようとした矢先だった。
――キィーン、キィーン。
エルテの足下から鈴の音のような甲高い音がなった。ヒロ達が音の鳴る方を見ると、小悪鬼騎士が付けていた三角錐のペンダントが、ぼんやりと黄金色に輝いている。音はペンダントから出ていた。
次の瞬間、エルテの青い珠がペンダントに引き寄せられていった。エルテが慌てて引き戻そうとするが出来ない。解除を試みるもそれも効かない。
青い珠は、そのまま黄金のペンダントに吸い込まれていく。
――カッ。
突如、ペンダントが眩しい光を放つ。ホール全体を昼間のように明るく照らした。あまりの光の強さに正視できない。ヒロ達は腕を上げ、光を遮った。
ペンダントからの光はやがて凝縮し一つの形を現し始めた。
――クェエエエエエ。
光は獣の姿となった。青銀に輝くずんぐりした躰。尖った三角の頭に二本の長い角が後ろ向きに真っ直ぐ生えている。口には鋭い牙がいくつも並び、その姿はドラゴンのようにも、狼のようにも見える。だが背には翼はなく、首から背中にかけて白銀の鬣が生えていた。足は一対の前足だけで、後ろ足はない。尻から犬の様な尻尾があるが先端は海豚の尾鰭のように平たくなっていた。
大きい。全長十メートルは下らない。先程闘った巨人とも思えたガーゴイルがまるで子供のようだ。
「なんだこれは!」
ヒロ達はまだ倒れて動けないロンボクを庇うように周りに集まる。ソラリスがカラスマルを構え、エルテは燭台の脇で風魔法の詠唱を始めた。ヒロも炎粒を撃とうとしたが、ほんの小さな火種しか生み出せない。まともに魔法発動出来るだけの体内マナがないのだ。
青銀の獣は首を擡げると、口を開け、水流を吐いた。超高圧で発された水流は、ガーゴイルが乗っていた台座を直撃し、粉々に砕いた。
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