ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
22-186.無敵の騎士
――バゴゴゴゴーン。
激しい爆裂音と共に、堅い大理石の床が切り裂かれ捲れ上がる。その亀裂は恐ろしい勢いで床を走り、正面のソラリスを襲う。ソラリスは一瞬早く逃れたが、亀裂はそのままヒロ達の脇を抜け、後ろの壁を抉った。
ソラリスのカラスマルの衝撃波も凄いと思ったが、小悪鬼騎士のはそれ以上だ。モンスター故のなせる技か。文字通りに人間技ではない。
――化け物か。
まともに剣で対抗できる相手ではない。そうヒロは直感した。ヒロは発動していた炎粒を小悪鬼騎士に投げつけた。先程、ロンボクの幻影魔法は何故か解除されてしまった。魔法攻撃が通用しないかもしれない。それが本当かどうか確かめたいという思いもあった。
ヒロの炎粒が命中するかと思われた瞬間、小悪鬼騎士の胸元の三角錐のペンダントが光り輝き、水色の弾丸が発射された。
ジュッ、と音を立てて、ヒロの炎粒はかき消された。
「水魔法ですか……噂は本当だったようですね」
小悪鬼騎士は魔法を使う。ロンボクがヒロに注意を促した。
「ロンボク、水魔法に相性がいい魔法は何だ?」
ヒロが問うた。ゲームだと相手の魔法属性によって与えることのダメージに差がでるのはよくある話だ。だがそれは何の根拠もなく決められた設定ではあるまい。実際にそれに近い相性がある筈だ。だが、ヒロの質問に対するロンボクの答えは予想通りかつ最悪のものだった。
「土か風。残念ですが、ヒロさんの炎魔法は相性最悪です」
「ロンボク、君は土か風の魔法を使えないのか?」
「一通りの属性魔法は使えますが、今は無理です。マナがありません。そうでなくてもエルテさんが……」
ヒロが後ろを振り向くと、エルテが詠唱を続けていた。ホールに残り少ないマナを集めて、魔法発動しようとしている。エルテは名うての風使いだ。マナさえ集めることができれば、あるいは……。
小悪鬼騎士がゆっくりと近づいてくる。
ヒロは腰の短剣を抜いた。下手な魔法よりも剣の方が頼りになるような気がした。だが、同時に自分の技量では一太刀すら浴びせることは出来ないだろうとも感じていた。ヒロの心に恐怖をブレンドした焦りが広がる。
「風迅旋!」
ヒロの後ろで魔法を発動する声が響いた。エルテの風魔法だ。このホールを守っていたガーゴイルを葬り去った風の刃が小悪鬼騎士の頭上から降り注いだ。
まだ、魔法発動出来るのか、というヒロの驚きをよそに、小悪鬼騎士は頭上を見上げ、左手を掲げた。胸元の黄金ペンダントが一際輝き、手の平から水流が迸る。渦は小悪鬼騎士の頭上で竜巻のような渦を巻いた。エルテの風の刃は渦の流れに軌道を逸らされる。その殆どは、小悪鬼騎士の周囲の床に突き刺さる結果に終わる。残った刃は渦を切り裂き小悪鬼騎士に向かったが、小悪鬼騎士の剣で受け止められ、全て弾き飛ばされた。
「ヒロさん。残念ですけどあれが精一杯です。先程ヒロさんから戴いた体内マナの残りも使って発動させました。これ以上は本当に……」
エルテは悲痛な表情を浮かべていた。ホールに殆どマナがないとロンボクが指摘する中、どうやって発動したのかと思っていた。死霊に対する魔法発動の為にヒロから抜いた体内マナの残りを今の魔法発動に当てたのだ。
だが、そのギリギリで振り絞った魔法もあっさりと迎撃されてしまった。マナが十分でなかったのか、それとも小悪鬼騎士の魔法が強力だったからなのかは分からない。ただ、今のヒロ達の魔法では通用しないという事だけははっきりしていた。
「ヒロ様! 小悪鬼騎士の胸元のペンダントです」
リムが叫ぶ。
「なに!?」
「あれが小悪鬼騎士に魔力を与えてるんです。引き離す事ができれば、魔法は使えなくなる筈です」
「ソラリス!」
ヒロが叫ぶより早く、ソラリスとミカキーノが小悪鬼騎士に向かっていた。
「ウォリァアアア」
  一息の間に、ソラリスが十歩の距離を詰め、一足一刀の間から逆袈裟懸けを見舞う。剣先が届くまでもう一歩の踏み込みが必要だったのだが、カラスマルの衝撃波が剣の軌道に沿って刃となって小悪鬼騎士の脇腹から肩を襲う。もちろん、胸のペンダントのチェーンを切る意図が込められていた。
小悪鬼騎士は柄を握った右手を引いて右脇腹の後ろに置き、剣で衝撃波を受けた。ビリビリと刀身が振るえ、ギインと高い音を立てる。音だけ聞けば、剣を交えたと思うに違いない。
小悪鬼騎士の受けによって、ソラリスの剣が生み出した衝撃波は軌道を逸らされた。小悪鬼騎士のペンダントが浮き上がり、振り子のように揺れたが、チェーンを切ることは出来ない。
そのソラリスの攻撃と同時に小悪鬼騎士の背後からミカキーノが斬りつけていた。プレートメイルがない剥き出しの皮膚の部分に切っ先が触れる。
――ガキン。
まるで岩でも斬りつけたかのような音を立て、ミカキーノの剣がはじかれた。斬りつけた部分は僅かに筋のようなものを残すのみで何ともない。小悪鬼騎士は、体を反転させ、返す刀でミカキーノを切りつける。ミカキーノはバックステップし、間一髪で避けた。
「硬ぇ……」
ミカキーノはそう呟くと、がくりと片膝をついた。小悪鬼騎士の剣は触れてはいなかったが、脇腹を押さえている。口の端から鮮血が流れ落ちていた。黒衣の不可触との戦闘で受けた傷が癒えていないのだ。
だが、それを差し引いても、小悪鬼騎士の剣の腕は確かなものだった。
剣を習い始めたばかりのヒロは初心者のレベルですらなかったが、それでも小悪鬼騎士の剣捌きは熟練のそれに見えた。ソラリスですら、まだ剣が届く間合いに入り込めないでいるし、唯一斬りつけたミカキーノの剣もダメージを与えるに至っていない。
小悪鬼騎士はソラリスとミカキーノの二人を同時に相手して渡り合っている。ドラゴン並と言われる硬い外皮に、人間を越えた膂力。それに加えて魔法発動を可能とするペンダントを装備している。
ヒロは一体どこから攻略すればよいのか途方にくれた。
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