ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

19-163.大陸にはこの程度の迷宮はザラさ

 
 ソラリスが腰にぶら下げた皮の水筒を取り出して一口含むと、ヒロに渡す。カダッタの所で仕入れた腐らない水『マルマ』だ。ヒロもごくりと飲む。清冽な冷たさが喉を潤す。何も入っていない純粋な水だ。

 ヒロは水筒を隣のリムに渡すと、ふぅと一息つく。そしてエルテに地図を見せてくれと言って手を伸ばした。

「意外と広いな。ここまでと思わなかったよ」
「そうでもないさ。大陸にはこの程度の迷宮はザラさ」
「モンスターの住処という割には、まだ出喰わしていないな」
「第一階層はね。冒険者が散々狩って回ったから、モンスター奴らも出てこなくなっちまってるのさ」

 ヒロはエルテから渡された地図に目を落とす。暗くて見辛い。それを察したリムが人差し指をちょいと動かす。リムの魔法の光球がヒロの頭上に移動して地図を照らしてくれた。

「……下に降りるには、階段か何かあるのか?」
「そうさ。あたいは第二階層までしか行ったことないけどね」

 ソラリスが宙を見つめたまま答える。何かを思い出しているようだ。

「階段は、奥へ続く通路を真っ直ぐいって突き当たりを右にいけばあるよ。あたいの記憶に間違いなければね。今の所、此処に来るまでの道のりはあたいの記憶どおりだったし、地図も合ってるよ」

「そこを降りたら第二階層か……モンスターはそこから出てくるんだな。強いのか?」

 ヒロが手元の地図で、ソラリスが言った通りの道を指でなぞる。奥の通路の突き当たり右に斜線が三本書かれ、その上に矢印がある。多分これが階段の印なのだろう。

「昔来たときは小悪鬼ゴブリンに黒曜犬、コボルドといった奴らばかりだったな。仲間の冒険者の中には邪鬼オーガに遭ったと言ってたのもいたが、今は分かんねぇな」
「そうか」
「奴ら程度なら、群れでこない限り大したことはないよ。邪鬼オーガはちょっと厄介だがな」

 ソラリスは鼓舞するかのように言った。ヒロには、それが自分に向けられたものなのか、彼女自身に向けられたものなのか分からなかった。厄介だという邪鬼オーガがどういうモンスターなのか聞こうかと思ったが、ヒロにはもう一つ気になることがあった。早いうちに確かめておきたい。ヒロは隣に座っているエルテに声を掛けた。

「エルテ。君が付けている額のサークレットだけど、術者がマナを吸い取られないための魔法具マジックアイテムと言っていたね。それは、この迷宮のマナ吸引エナジードレインも防いでくれるのか?」

 エルテが操るマナを吸い取る魔法「青い珠ドゥーム」はその性質上、術者自身がマナを吸い取られないよう保護しなければならない。エルテが額に付けている白いサークレットは、「青い珠ドゥーム」によってマナを吸い取られる事を防ぐ魔法具マジック・アイテムなのだ。

「私もそれを期待していたのですけれど、まだ分かりません。元々、フォーの迷宮内マナ吸引エナジードレインは、ゆっくりなものとされていますから。先程の魔法の炎に近づけば分かるかもしれませんけれど……」

 エルテの返答にヒロはかぶりを振った。
 

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