ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

17-151.ミスリル・チェインメイル

 
 カダッタの指示に従い、鎖帷子をカダッタに渡すと、カダッタはそのままギムに手渡した。ギムは相変わらず無言で、店の奥にある古惚けた椅子に腰掛けると、腰ベルトに取り付けた小さな鞄から何やら道具を取り出して作業を始めた。

「ヒロ殿、しばしお待ち願えますかな。親方がヒロ殿の帷子を微調整しますのでな」
「何か拙いところでもあったのか?」
じきに分かります。御心配は要りませんな」

 少し心配顔を見せたヒロに、カダッタは笑って手を振った。ほんの五分くらいだろうか。親方が帷子を持って戻ってきた。ヒロの前に白銀に輝く防具を手渡す。無論、もう一度試着しろということだ。今度はヒロが自分で鎖帷子を着た。

 ギムは右手に持った鞭の先端を左手で包み込むポーズで立ったまま、ヒロに大きく腰を捻る動きを見せた。同じ様に動けということなのだろうか。ヒロは先程よりもさらに大きく捻ってみる。しかし今度はチャリとの音さえ立てず、ヒロの体にぴたりと密着して動いた。先程よりも数段動きやすい。ヒロの顔が自然と綻んだ。

 親方は満足そうに頷くと、鞭を懐にしまう。そしてカダッタに何かを渡すと、店の奥へと消えた。

「ギム親方はヒロ殿の帷子を微調整したのですな。さっきよりも動きやすくなった筈ですが、分かりましたかな」

 カダッタは手の平を広げて、先ほどギム親方から受け取ったミスリルの小さな輪を三つヒロに見せた。

「最初の試着で音がした腰の辺りのチェーンを抜いたのですな。その場でぴたりと調整出来るのはギム親方くらいでしてな。この鎖帷子が一級品である秘密でもありますな」
「確かにさっきよりも全然動きやすいし、更に軽くなった気がするよ。確かに絶品だ」

 そうでしょうとも、とカダッタが心底嬉しそうに破顔する。カダッタはそのまま、ヒロとリムに鎖帷子の手入れ方法と注意点について説明する。脱いだ鎖帷子は錆を浮かせないよう乾拭きした後、果物油オイルを吹きかけ、陰干しすること。チェーンに歪みや切れていないか毎日きちんと点検すること。万が一、チェーンが切れていたら、その場でかしめて埋めておくことなどだ。

「一つや二つチェーンが切れていても、平気なんじゃないのか?」
「そんなことはありませんな。切れたチェーンは他のチェーンに引っ掛かる危険がありますぞ。チェーン同士が引っ掛かると動きが制約されることがありますからな。絶対放置してはいけません」

 ヒロの意見はカダッタに即座に否定された。そして更にソラリスが追い打ちを掛ける。 

「ヒロ、あたいは壊れたチェーンが引っかかって、戦闘中に動けなくなった馬鹿を何人も見たことがあるよ。横着者は長生きできねぇのさ。もっとも、カダッタのミスリル鎖帷子は滅多な事では切れやしないけどね。用心と手入れは怠らないことさ」
「そうか。そうするよ」

 ヒロは素直に答えると、カダッタに鎖帷子の残りの代金を支払った。
 

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