ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
16-141.この地図は一枚目ということか
「分かったかい? 紋章印に使っている赤いのは朱泥と言ってな、香料を混ぜているんだ。香料の配分と調合方法は本人しか知らない。紋章印一つ一つ全部違う香りがするのさ。だから、印の形だけを完璧にコピー出来たとしても、偽物だと分かってしまうんだ。勿論、偽造印に適当な香りを付けたものが出回ることもあるよ。でもそんなのは直ぐに嘘だってバレるから意味ないのさ。偽物だって噂になったら誰も相手にしねぇからな。少なくとも紋章印とその香りを知っている相手は騙されないね。あたいは、この紋章印を使う奴を知っている。香りも変わっていない。だから本物なのさ。まさか、まだウオバルに残っているとは思わなかったけどね」
ソラリスは懐かしい友に再会したかのような笑顔を見せた。ソラリスにそこまで言わせる人物とは一体誰なのか。ヒロはその人物に興味をそそられたのだが、そんな気持ちはもっと根本的な疑問に取って代わられた。
「ソラリス、今更な質問で悪いんだが、未攻略の迷宮なのに地図があるというのはどういうことなんだ? 結局攻略されているってことじゃないのか?」
「はっ、迷宮地図はな、一枚だけじゃ攻略されたって認められないんだよ。申請された地図が間違いないかギルドが確認クエストを出して、地図の通りだと確認できて始めて攻略したと認定されるんだ。ギルドは攻略したと認定した迷宮に対して、定期的に地図のとおりなのかの確認クエストを出してる。そうやって迷宮の状態や出現するモンスターの状況を把握してるのさ。クエストがないときは、その辺の攻略済みの迷宮をいくつか見繕って、ギルドがモンスター狩りのクエストを出すこともあるんだよ」
確かにソラリスのいう通りだ。ギルドとはいっても、いつもクエストがふんだんにある訳でもないだろう。だが冒険者も食っていかなくてはならない。そんなときに自前で斡旋できるクエストがあるとないのとでは大違いだ。あるいは、そうすることで闇の仕事に手を染める冒険者が蔓延る事を防いでいるのかもしれない。良く考えられた仕組みだな、とヒロは思った。
「そうか。この地図は一枚目ということか……」
ヒロは地図をテーブルに置いて腕を組んだ。この地図が本物であれば、フォーの迷宮が未攻略といっても単に認定されていないだけということになる。闇雲に探索するのとは訳が違う。
それでもヒロはエルテの依頼を受けるべきか迷っていた。未攻略迷宮の探索。目的はどこかに隠されているかもしれないレーベの秘宝を見つけて持ち帰ること。駆け出しの冒険者としてはハードルが高すぎるかに見える依頼だ。それにマナを吸い取る魔法が迷宮に掛かっているというのも気になる。
だが、ヒロ一人で行くわけではないという安心材料があることも事実だ。スティール・メイデンを退け、大学の教官や学生達を除けば、ウオバル最強かもしれないエルテが同行するのだ。それにベテラン冒険者のソラリスもいる。心強いメンバーであることは間違いない。
「エルテ、もし俺達がフォーの迷宮にいくとなったら、君も同行する、で良かったよな」
エルテはヒロの確認に大きく頷いた。
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