ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

16-137.私、読めますよ

 
 ――!?

 リムが折った羊皮紙にはがあった。四隅に少しだけ書かれていた文様が折り目できちんと合わさり、それぞれが文字のていを成している。無論、ヒロにはこの世界の古語は読めなかったが、各々の断片がきちんと繋がって、一つの文字になっていることは分かった。

 表面とは違って、裏面は、折り紙の折り目や閉じ合わせた辺同士が露わになり、お世辞にも綺麗とはいえない。だが、それこそが石板の謎を解く鍵だったのだと一同は息を飲んだ。

「これでよい筈ですよ。昔は手紙を折り型にして送るなんて普通でしたから」

 リムの説明を聞いたヒロはハート型の羊皮紙を手に取った。

「リム、折るのは良いにしてもだ。何故ハートだと思ったんだ? 折り形なんて沢山あるだろうに」
「さっき、エルテさんが箱を開けたときに手の甲に浮かび上がった魔法印がハートだったからですけど」

 リムの答えにエルテがはっとした表情を見せた。思わず左手の甲に右手の人差し指を当ててなぞる。呪文を唱えていたのか、先程と同じハート型の印が彼女の白い肌に浮かんだ。

「ヒロさんには前にお伝えしましたけど、この魔法印はラクシス家当主の証。代々、受け継がれてきたものです。なぜこの形ハートだったのかようやく分かりましたわ」

 エルテが感慨深そうな表情で、ヒロに折った写しを見せて欲しいと手を伸ばした。ヒロは静かに頷いて手渡す。

 エルテは、ハート型の写しに書かれた文字をじっと観察していたが、やがて小さく首を振った。

「これは……、シャル、読めますか?」

 エルテがシャロームを見やる。シャロームはちょっと失礼というとエルテからハート型の写しを受け取り、じっと見つめた。が、目を閉じてふぅと一息ついた。

「エルテ、申し訳ありませんが、私では読めません。こんな文字は見たことがない。知り合いの学者に見せてもよいですが、あまり期待しない方がよいですね」

 シャロームはハート型に折った写しをそっとテーブルに戻した。その顔には落胆の色がありありと浮かんでいた。やっと手掛かりを掴めたと思ったのに、文字自身が読めなくては始まらない。ヒロ達は黙り込んでしまった。一人の精霊を除いて。

「どうしたんですか? 私、読めますよ」

 リムの言葉に一同は目を剥いた。ヒロは読んでみせてくれといって、ハートをリムに渡す。リムは、きょとんとした顔で、鈴の鳴るような声で読み上げた。
 

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