ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

15-128.今じゃ物好きでもない限り誰もいかないね

 
「フォーの迷宮だって!」

 ソラリスがテーブルに両手をついて身を乗り出した。テーブルに置かれた空のカップがカランと倒れた。リムはヒロとソラリスの間も視線を行ったり来たりさせて、きょとんとしている。まだよく事情を掴めていないようだ。

 ヒロは昨晩、ソラリスとリムに伝えた通り、昨日あった出来事とエルテの依頼について説明していた。フォーの迷宮という単語が出た途端、ソラリスが鋭く反応した。

「知っているのか? ソラリス」 

 少し吃驚した表情でヒロが返すが、ソラリスの耳にはその声は届いていないようだった。ややあって、椅子に座り直したソラリスはゆっくりと口を開いた。

「ウォーデン領に残っている数少ない未攻略の地下迷宮ダンジョンの一つさ。エマから北に二日くらいの山ん中にある」
「ほう」
「今じゃ物好きでもない限り誰もいかないね」
「何故だい?」
マナを吸い取られるエナジードレイン上に、モンスターの住処になっちまってるからさ。昔剣士をやってた頃、一度だけ行ったことがある。入口辺りでうろついている雑魚を狩る分には大したことねぇけど、奥に行けば行くほど数が増えるんだ。マナの吸い取りはゆっくりだから、ニ、三日は平気だけど七日以上はヤバい。だから、あまり奥にはいけないんだ。おまけに壁や床が脆くて派手に暴れると崩れちまう。それに内部構造なかが分かっている浅い階層は、お宝の類は大体取り尽くされちまって、大して残ってないよ。せいぜい雑魚モンスターを狩って、小銭や装飾品を取るくらいだね。苦労する割には実入りが少ないのさ」

昨日、シャローム商会で、エルテとシャロームから受けた説明と合致している。エルテは嘘をついていないとヒロは確信した。

「どれだけ広い迷宮なのか知らないが、七日も彷徨うろつかないといけないのか。入りっぱなしがヤバいのなら、ニ、三日したら一旦外に出てくればいいじゃないか」

 ヒロは、フォーの迷宮が地下にあると聞いて、それほど大きいものではないだろうと考えていた。地下に建造物を作るのは大変な土木作業を伴うからだ。それは、ヒロの元の世界の常識に照らし合わせてのものであったのだが、こちらの世界でも大差ない筈だ。

「地図も無しにか?」

 ソラリスはやれやれとばかり手を振った。あまり乗り気ではないようだ。

「ヒロ、お前が地下迷宮ダンジョンに入ったことがあるか分かんないけどよ。地図がない迷宮は何があるか分からないんだ。この路は安全か、罠がないか、モンスターは居るのか、どんな奴なのか。いちいち確認してからでないと進めない。舐めてかかるとすぐに迷ってしまうんだ。思っているよりずっと時間がかかるのさ。仮に、迷わなくても、モンスターに邪魔されたりすることだってある。未攻略迷宮は簡単に行けるところじゃないのさ」
「地図ならある。エルテが地図を入手したと言っていた」
地図それは本物なのかい?」

 間髪入れないソラリスの切り返しに、ヒロは詰まった。
 

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