ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
13-108.黒衣の不可触に勝った男か(第二部エピローグ)
――石造りの小さな部屋。
天井まで届く本棚にびっしりと囲まれたこの空間で、ラスターは老執事の報告を受けていた。それは秘密裏に探らせていた、黒衣の不可触の動向に関するものだった。
「それは本当か?」
「はい。無名の冒険者と戦闘し敗れた由に御座います」
「その冒険者は何者か?」
「申し訳御座いませぬ。つい先頃ウオバルのギルドに魔法使いとして登録を終えたばかりで、遠い東の国からの流れ者としか分かりませぬ」
「ふん。まぁいい。それで黒衣の不可触の正体は分かったのか?」
「件の冒険者との戦闘で仮面を剥がされたようですが、顔まではっきりとは……。ただ、バレルの報告によりますと、黒衣の不可触は女だということで御座います」
「そんな事は分かっている」
ラスターはつまらなそうに答えた。黒衣の不可触とは、裏の依頼を通して何度か接触している。黒衣の不可触は一言も発せず、魔法筆写による意思疎通であったが、肌の白さと手の様子から女であろうとは推測していた。それが確定しただけのこと。特筆すべき情報ではない。
「……黒衣の不可触はどうしている?」
「自分を負かしたその冒険者と馬車に乗って、シャローム商会に向かったようで御座います」
「シャローム?」
「はい。馬車はシャローム商会のもので間違い御座いません。シャローム本人も姿を見せていたとのことで御座います」
「シャローム・マーロウがこの件に絡んでいるのか」
「それは分かり兼ねます。ですが黒衣の不可触の背後にシャローム商会がついている可能性は高う御座います」
「……」
「如何致しましょうか?」
「シャローム商会の取引を洗え。何処から何を仕入れ、誰に何を売っているかをだ。不可解な取引があれば報告せよ」
「はっ」
「それと……近いうちに黒衣の不可触はフォーの迷宮に行く筈だ。そちらの監視を怠るなとバレルに命じよ」
「畏まりました」
老執事が退出したことを見届けたラスターがぽつりと呟いた。
「黒衣の不可触に勝った男か……」
ラスターはその無名の冒険者に僅かな興味を覚えた。もしもその男が黒衣の不可触と対立関係にあるのなら、使い様によっては役に立つかもしれないという思いが過ぎる。
しかし今はまだその時ではない。まずは黒衣の不可触の動きを監視することだ。レーベの秘宝に繋がる手掛かりを黒衣の不可触が見つけてこないとは限らない。
「御前、もう暫くお待ちください」
ラスターは、薄暗がりの天井を睨んで呟いた。
第二部完
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