ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
13-107.レーベの秘宝
「ヒロ。まずは貴方への数々の非礼、お詫び致します」
馬車が動き出し、しばらくしてから、シャロームが頭の帽子を取って胸に当て、軽く頭を下げる。合わせてエルテも頭を下げて謝罪の意志を示した。
「謝罪を受けるかどうかは話を聞かせて貰ってからだ。シャローム。その前に済ませておきたいことがある。君から頼まれたクエストだが、無事届けてきた。これが受取証と返品の品だ」
ヒロは肩から襷掛けにかけていたナップサックを正面に引き寄せると口を空け、品物を取り出した。
シャロームは、ネックレスの入った小袋とハンカチ程の大きさにカットされた羊皮紙を受け取ると、品物を一通りチェックした。次いで、受取証に記されたサインと印章を確認する。
「確かに間違いありません。有り難う御座います。申し訳ありませんが報酬は我が商会に着いてからにして頂けると助かります。今は持ち合わせていないのでね」
「そんな事は分かってるさ。だけど、その報酬が気持ちよく受け取れるものであるといいな。シャローム」
ヒロは多少挑発的な目線を、青年商人に向けた。シャロームとエルテは、二人の会話を聞く限り友人関係のように思われた。シャロームから依頼された配達クエストも、エルテの襲撃も元から示し合わせていたものだと思うと、いい気はしない。何らかの意図があった事は間違いないだろう。納得のいく説明を聞くまでは、報酬を受け取るのは止そうと決めた。
「もちろん私もそう願っていますよ、ヒロ、貴方の為にも、『レーベの秘宝』の為にも……」
(レーベの秘宝?)
シャロームは、何かを言いかけたヒロを手で制すると、受け取った小さな羊皮紙を懐に仕舞う。全てはウオバルに着いてからだということだ。直ぐに話をしないのは、あえて時間を取って、ヒロが落ち着くのを待つ意図があるのかもしれない。
ヒロは幌馬車の入り口から、外を眺めたが、黒黒とした路が続いているばかりだ。何度も走り慣れているからだろうか、馬車は路を滑るように走っていく。程なくウオバルに到着するだろう。
(一体、何がどうなっているんだ……)
黒衣の不可触がエルテだったことも驚きだが、自分を襲う理由も動機も全く分からない。何か大きな濁流に自分が巻き込まれてしまっているのではないか。そんな不安が心を満たす。
体感で三十分程経った頃、馬車はウオバルの正門をくぐった。
「旦那様、着きまして御座います」
御者を務めていた小男が振り向いて声を掛けた。馬車は虹の広場に止まっていた。
日が落ちてまだそれほど時間が経っていなかったが、立ち並ぶ建物の軒先にはランプが吊され、五色の通りを照らしている。
「ヒロ、申し訳ありませんが、ここで降りて下さい。緑の路以外は特別な時を除いて馬車が入るのは禁じられていましてね」
ヒロとエルテはシャロームの言葉に従う。先に降りたシャロームがエルテに手を差し伸べるが、エルテは軽く微笑みを返しただけで、その手は取らずに馬車を降りた。シャロームが合図を送ると、鷲鼻の小男は、鞭を入れ何処かへ馬車を走らせた。
「では、御足労願います」
無言で頷くヒロを確認してから、シャロームは自分の商会へヒロ達を案内した。
ヒロがふと周りをみる。薄暮が終わり、夜の闇が目を覚ます。天の星々はまだ寝ぼけ眼から醒めきっていなかったが、蓮月が登り始めていた。
遠くの山向こうにみえる月に、ヒロは目を細めた。
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