ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
5-039.魔法力
ヒロの目の前にある水晶玉は、先ほどエルテが出した水晶玉と同じソフトボール大の大きさだったが色が付いておらず、無色透明だった。それが小さめの座布団のようなものの上に置かれている。如何にもといった形りだ。
「こちらに手をかざして、お得意の魔法の第一詠唱をお願いします」
このような類の測定はよくやっているのだろう。ラルルは慣れた感じでヒロに伝えた。だが、魔法を使えないヒロにはラルルの言葉が理解できなかった。
「済まない。魔力測定をするといっても、俺は魔法を使えるわけじゃないんだ。第一詠唱と言われても分からない。それを知らないと測定できないのかな?」
ラルルはヒロの目を見て、一瞬怪訝な顔をしたが直ぐ元の笑顔を見せる。クレーマーにも慣れているのだろうか、落ち着いた様子で応対する。
「そうですか。では、基本詠唱で測定させて戴きます。『エシ・ラムド・リバルム』と唱えていただけますか?」
ヒロはもう一度呪文を確認してから、右手を水晶玉の上に掲げた。ヒロの隣でリムが息を詰めて水晶珠を見つめている。ヒロは大きく息を吸って、呪文を唱えた。
「エシ・ラムド・リバルム」
一瞬、ヒロの右手が熱を持ち、手の平の周りに小さな空気の渦が出来たかのように見えたが、直ぐに消えた。水晶玉には特に何の変化もない。リムが心配そうな顔でヒロと水晶玉を交互に見つめていた。
「エシ……ラムド……リバルム」
もう一度、ゆっくりと詠唱する。しかし結果は同じ。水晶玉はうんともすんとも言わない。ヒロの目の前に置かれたときのまま透明な輝きを放っている。
「……ゼロですね。魔法力」
ラルルが意外そうな視線をヒロ、続いてソラリスに向けた。それはそうだろう。魔法力測定を依頼しておきながら、魔法力ゼロなのだから。それでもラルルは平静を保っていた。が、平静でなかったのはソラリスの方だった。
「なに? 何かの間違いじゃねぇのか。ヒロは炎の上級魔法を使ったんだぜ。あたいはこの目で見たんだ!」
ソラリスが目を剥いて反論する。ロンボクはおやという顔をして少し首を捻っただけだったが。
「申し訳ありませんが、測定に間違いは御座いません。ただしそれほど精度よく測れるわけではありませんので、詳しい測定は大学で行っていただければ宜しいかと……」
尚も反論しようとするソラリスをヒロが止めた。肩に手をやりもういいよ、と首を振る。
「魔法使い登録している冒険者の中でも、魔法力がそれほど多くない方もいらっしゃいますから……。魔法使いに転職するには、最低限の魔法力がないといけないのですけれども」
「いや、別にいいよ。どの職種を選んだところで、どのみちスキルがないから同じだ。それに、承認クエストだと、職種は関係ないんだろう?」
「はい。基本的に承認クエストは、職種は関係ありません。ただ、クエスト中にモンスターと出会った場合には、その種類によって得手不得手はありますけど」
「そんなにモンスターがでるのか?」
「いえ、『深淵の杜』に行かない限り、頻繁に出会うことはありませんよ」
「深淵の杜?」
「はい。此処からすこし北にいったところにある杜です。昔からモンスターが住処にしていて、オークやコボルドなど強いモンスターも出たりします。大体、中級以上の冒険者の方しかいきませんね」
「物騒な杜が近くにあるもんだね」
「はい。ですが、腕試ししたい冒険者にはもってこいの所でして、大学に通う生徒達の実習にも使われたりしてます」
「へぇ」
「最近は、見たこともない凶悪なモンスターも出現したという報告も上がってきてます。特別に用が無い限り近づかないほうがいいですね。『深淵の杜』へ行くようなクエストはモンスター狩りが殆どですから、それ以外では行くことはないと思いますけれども」
「そうか、ありがとう」
ヒロはラルルに礼を言うと、ソラリスとロンボクに向き直る。
「ソラリス、ロンボク、見てのとおり俺に魔法力は無いようだよ。手間を掛けさせて悪かったな。どうやら俺は冒険者になっても、モンスター狩りなんて無理そうだ」
「でも、おかしいですね」
ヒロの言葉にロンボクが疑問の声を上げる。右手で口元を覆い隠すようにして目を伏せ、考え込んでいる。
「ヒロさん、魔法力が少ないというなら兎も角、全くのゼロの人は逆立ちしたって魔法なんて使えません。増してや、ソラリスさんが見たという、炎柱なんて到底無理ですよ」
「いや、でも俺の魔法力は御覧の通りだ。百歩譲って魔法力が有ったとしても、自由に使えないと意味がない。やっぱり偶々だったということにしておくよ」
「そうですか。でも機会があったら、大学できちんと見て貰ったほうがいいですね」
「そうかもな。ありがとう」
ヒロの感謝の言葉に、どういたましてと応じたロンボクにソラリスが紅い瞳を向ける。
「ロンボク、あたいらは、明日も此処に来るけど、お前はどうするんだ?」
ソラリスは当然だという顔をした。明日もヒロに付き添う気満々だ。ヒロは、自分一人で大丈夫だと思ったが、ソラリスの好意を無駄にしちゃいけないと心の中で承諾した。
「いや~。待ち人来たらずですよ。今日待ち合わせのパーティの仲間が明日になるって、さっき使いから連絡がきましてね。また明日出直しますよ」
「そうか。じゃあまた明日だな」
ソラリスは白い歯を見せて、にっかりと笑った。
 
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