転生先は現人神の女神様

リアフィス

閑話04 後始末と新たな従魔

アエスト大国王城。

バタバタと後始末に追われているうちに年越し間際である。
アエスト騎士達、更にその場に言わせたファーサイス騎士達の頑張りにより、被害は大きいながらも致命的ではない程度ですんだ。大国だからこそと言うべきか。

まず王都にある建物などの被害状況のチェック。
更に人的被害のチェック。
後はファーサイス騎士達の死体をファーサイスへと丁重に帰す。
などなど、やることは沢山だ。

王城の一室。
そこには王と王太子(第一王子)、ニコラス(第二王子)がいた。

「ニコラス、ファーサイスへと行って誠心誠意謝罪とお礼をしてきてくれるか? それと、我からのこの手紙をベルンハルト陛下に渡してくれ」
「分かりました」
「後はそうだな……新年のパーティーをやるかは分からんが……やるようならそのまま滞在して参加してくるといい。という事で、妻と娘も連れて行ってくれ」
「え、でも……」
「大丈夫だニコラス。こっちは任せておけ」
「兄上……分かりました……」

国王と王太子が国に残り……王妃と王女、そしてニコラスはファーサイスへと向かう事になる。
ファーサイスへの謝罪とお礼はもちろんあるが、王の書いた手紙にはしばらくうちの者を頼むと書いてあった。
つまり王妃と王女、ニコラスは避難だ。アエストの王都は荒れる。物理的には既に荒れているが、これから更に権力争いも交じるだろう。

「ああ、そうそう。ファーサイスへはダンサウェストではなく、東のアトランティスだったか? そこから行くようにな」
「アトランティス……ですか……」
「東門を担当していた騎士達が言うには、ファーサイスの馬車はそっちに行ったらしい。あの状況であっちに逃げるのなら、ファーサイスからはかなり信頼されているのだろう」

直接話してはいないが、治めているのが誰かは知っている。ファーサイスの収穫祭で見ているから。
収穫祭での印象は……見た目に似合わず間違いなく強く、敵には容赦しないタイプだろう。
それぐらいしか分からないが……アトランティスを信じると言うより、ファーサイスが信じているから、アトランティスを信用してみようか。と言う感じだ。

「分かりました。では、行ってきます」
「うむ、気をつけてな」
「はい。父上と兄上も」
「ああ」

ニコラスが部屋からでていき、部屋には王と王太子のみ。

「さて……、すまないな」
「父上が謝ることではありません。しかし、Sランク冒険者も雇っておいた方が良いのでは?」
「ううーむ……。今回失敗するわけにはいかん。そして失敗は我々の死か……」

今回間違いなく貴族達は現王を降ろしに来る。と言うか既に来ている。
そして、現王の弟を王にするのが目的だろう。
だが、王太子が既にいるのだ。王太子が王になればいい。現王はそうするつもりで、今回足を引っ張りまくってくれた奴らを問答無用で道連れにするつもりだ。
ゴミ共を我が子の為に片付けてから、席を譲る。
絶対に荒れる。分かりきっているから護りを固めるに越したことはないのだが。

「この近くにSランクいたか?」
「……やっぱり中央にはほぼいませんか」

中央はこの世界ではかなり安全というか、開拓されている。
よって、冒険者が稼ぐなら中央以外が理想なのだ。
Sランクとは現状冒険者のトップ。中央より他の場所で稼ぐなり、ちやほやされたいのが人の情。

「そう言えば、アトランティスの王が冒険者でSSSがどうのって話してませんでした?」
「確かに……いやいや、ダメだろう?」
「……ダメですかねぇ」


◇◇◇◇


「マイスター、昼頃アエスト王家の方が来るそうです」
「ふぅん……」

先行して『くるよ!』って教えてくれる人が来たのか。
先触れですか、律儀ですね。……いや、転移で行く私があれなのか。直す気はないが。だって、別の人転送させてから転移するとかそんな面倒な……。
……仕方ない、考えておくか。
手紙の配達役とかも考えないとダメですかねぇ……召喚体で何か……飛べた方が良いか。ワイバーン……ガルーダ……ペガサス……フェニックス……ダメじゃね?
どう考えても襲撃だろ……むぅ……。
まあ、とりあえず。

「ファーサイス行くのに通りたいだけなようだし、別に構わないわ。1日ぐらいは泊まっていくかもしれないし、部屋の用意だけしといて」
「はい」

……オートマタ便利だなぁ。AI積んだロボットとか、高性能ゴーレムよな。
量産したら人類の必要性が無くなるからやらないけど。

あー、おもてなしはできませんね。
うちには料理人なんかいないぞ? 私とジェシカの手作りだ。
ドラゴンステーキでいいかな? いや、でも魚介類食べたい気もする。
よし、ダンジョンで何か取ってくるか。海ステージあったろ。

ギルドーギルドー。

「あ、陛下」
「ちょっと魚介類食べたいから獲ってくるわ」
「あ、はい」

ダンジョンの受付嬢がルナフェリアを見つけ声をかけたが、歩みを止めず要件だけ伝え、奥に消えていった。
そして、それを見ていた冒険者達は……。

「魚介類てっと海ステージだよな? あれかなりの難所のはずなんだがなー」
「んだなぁ。鎧着てたらまず死ぬな。鎧着てなくても剣が錆びるおまけ付きだ。ぶっちゃけ割に合わん……」
「だよなー。ミスリルだと平気のようだが高いからなー」
「だなぁ。……と言うか、いつものドレスで行ったな? どう戦ってるんだ、あの人……」
「確かにな」

などなど話していた。
実際ルナフェリアの戦っている所を見たことある者はほとんどいなかったりする。
逆にファーサイスでは知っている者の方が多い。東の森制圧の時だ。


創造のダンジョン・海フィールド
8割が海水になっており、残り2割が一応陸になっている。
非常に綺麗な砂浜があるのでバカンスに最適……なんて訳がなく、水棲の魔物ばかりである。
敵がヒットアンドアウェイ戦法をしてくるため非常に腹立つフィールドだ。
まあ、魚が大半だからそうなるのはしょうがないと言えばしょうがないのだが。

ちなみに創造のダンジョンは大体5階層毎にフィールドが存在する。
森のフィールド、鉱山のフィールド、海のフィールドなどなど。
フィールドが同じでも、進めば進むほどそこにいる魔物が強くなっていく。
海のフィールドなら最初の方に来るのは、FとかDとかに指定されている様な魔物。
後の方に出てくるのは、シードラゴンとかクラーケンなどSSSがいたりする。
中間ぐらいならBとかAだったり。

そして今ルナフェリアがいる海フィールドは中間ぐらいである。
食材目当てなら低くてもいいと思うだろう? 正直種類によるとしか言えない。
純正竜は総じて美味い。だが問答無用でSSS。こんなのいるのは最後の方。
当然魔物によっては食べれないのもいる。
フグの魔物版とか? 生物絶対殺すマン。どこ食おうが死ぬ。天敵に任せておけ。
なお、ルナフェリアは生物じゃないので関係ない。
グロマグロがA指定なのでここに来ただけだ。他に何かいないかな? というノリで。


さ……て……何獲ろうかなー?
やっぱマグロか? いや、カニもいいな。あ、ムニエルもいいな。
ふむ……白身魚か……。見覚えのないこの世界特有の魚はスルーするとしよう。

お、あれにしようか。スズキがいるじゃないか。私の知ってるスズキより二回り程大きい気がするが、味が変化ないなら些細な事だな。
さて、水着に着替えていっちょ行きますかね。


などなど考えながら海の上……の空で浮いて眺めていたルナフェリア目掛けて、勇敢な? 魚達が食べようと仕掛けていたのだが、尽く結界に弾かれ鬱々しくなったルナフェリアの魔力を込めた一睨みで散っていった。

もそもそと星晶シリーズを脱ぎ、パレオ付きのビキニを生成。
どうせ泳ぐ訳でもないのだが、何故着替えたかと言うと気分的な問題である。
体系的にスク水も浮かんだが、極一部が年齢からはかけ離れていたのでスク水はやめた模様。


まずスズキ数匹にー……グロマグロが向こうから来たのでこいつもしまっておこう。
これだけでいいかな? グロマグロも高級食材とか言ってたよなー。
あ……いいのいるじゃん。


アシェットキングクラブ
  足を広げると10メートルを超える超大型甲殻類。
  当然両手のハサミもでかく、非常に硬い。挟んだり叩いたりしてくる。
  竜種に負けぬ美味しさだが、海底を歩いて生活しているため、入手困難。


カーニ、カーニ。
お、2匹もいるじゃん。お持ち帰りー。

水中を文字通り『飛ぶように泳ぐ』ルナフェリア。と言うか『泳ぐ』と言っていいのか謎である。空を飛ぶように水中でも翼を使用しているのだ。しかも空中と速度が変わらない。魔力の消費量は空より多いようだが。本人からしたら誤差である。

食料として狩られている分まだマシだろう。ただ殺したい訳ではないし。
とは言えダンジョンの魔物は外とは違って知能はプログラムのような物だが。
外と同じように縄張り争いや、繁殖はするがあくまでそれは『フリ』である。
階層によってポップ数が決まっているから。
ただ場合によってちょっと一種に偏っていたりすることがある。
少しするとリポップするので、実際の海で狩るよりこちらの方が安心だ。生態系が崩れる事がない。つまり絶滅することがない。取り放題である。
問題はダンジョンなので、魔物との遭遇率が高く危険ということだ。
『実力があるなら宝物庫』それがこの世界のダンジョンの認識である。


ふむぅ……。
マグロ1匹、カニ2匹、スズキ人数分あればいいか。下準備必要だし撤収しようか。
おや? ホッケじゃないか。獲ってこよう。
マグロは刺し身、カニは……鍋かな? スズキは予定通りムニエルにしよう。
ホッケは……開いて干物だな。

「ただいま」
「お帰りなさ……なんですかその格好は!?」
「水に入る際に着る物よ。私の前世ではこういうのが主体だったのよ」
「……大胆ですね。下着と変わらないじゃないですか……」
「パレオが付いてる分、これはまだましな方ね。まあそれはともかく、良いの獲れたから1匹あげるわ」
「宜しいのですか?」
「自分達の分もあるから問題ないわ」

買い取り用の受付もあるが、量によってはそのまま奥に行く場合もある。
そちらに行ってどーんとカニを出す。

「うお! こ、これは!! アシェットキングクラブか!」
「知ってるのね」
「ああ、俺はシーフープから来たんだ。自分の店を持ちたくてな」
「ふむ。確かに今がチャンスではあるわね」
「ライバルもいない、土地も多い今のうちにと思ってな。しかしアシェットキングクラブが見れるとは……」
「ドラゴン並の美味しさらしいけど、私もまだ食べてないからねぇ……。まあ、好きに食べなさい」

料理人に任せ、撤収する。解体職人? 超便利ナイフがあるからいないわな。
うちにも料理人欲しいねぇ……。王宮料理人的な? うちは食料の消費が激しいから、正直自分で作るのは面倒なんだよねぇ……。主に精霊達が掻っ攫って行くんだけどね。
とりあえず処理だけやっておくか。魚切って下味付けとくだけだけど。
おっと、着替えておこう。


◇◇◇◇


ファーサイス王城の一室。そこには重鎮が集まっていた。
アエストに関しての緊急会議中だ。
そこにはハンネス殿下と迎えに行った騎士、侍女達の姿もある。

「―――以上で報告は終わります」

ハンネス殿下からの報告が終わった頃……いや、終わる前から既に重鎮達は殺気立っていた。
騒いだり喚き散らしたりはしない。ここにいるのは基本的に上流階級の皆様です。実力主義なだけに爵位的には下の方もいるけど、そう言う者も騒いだりはしない。
ここにいるからには有能なのだ。王族もこの場にいることだし。

逆に皆無表情で目が据わってるから怖いのだが。
ハンネス殿下は第二王子。王太子、第一王女、ハンネスと3番目の子だが王族だ。
王族を狙うとか宣戦布告も良いところだろう。

「……総隊長、小国はどうだ?」
「変わらず国境付近で訓練中です」

王の問に騎士団総隊長が答える。
ファーサイス西側に位置するダンサウェスト小国。
その騎士達が国境付近に拠点を作り滞在していた。
実施訓練だと言っており、すぐ南にある森や北の山へ入って行っている。
だが、ファーサイスからすれば黙ってそのまま受け取る訳もなく、当然警戒している。いつでもこっちに攻め込める状態なのだから。
そして状況を考えると……。

「やはり足止めか?」
「……恐らくは」

そう、ファーサイスの足止めだ。ファーサイスの騎士達は優秀と有名。
そして、ハンネス殿下からの報告。今ここにハンネス殿下がいることがまず予想外だろう。ファーサイスからアエストは片道でも一週間ぐらいはかかる。しかし、その過程をルナフェリアの"ゲート"がふっ飛ばした。
騒動が起きたその日の夕方にはファーサイスに到着とか、予想外も良いところだろう。

ファーサイスが知れば動く可能性が高い。自国民もいるのだから。でも、敵側からしたら動かれたら困る。なら動けないようにすればいい。
自分の国の近くに他国の騎士達がいたら動けないよね? という事だ。

「……いい加減小国との貿易遮断してやろうか?」
「癪なのは分かります……が、あそこのダンジョンで取れる魔物素材が便利なのは確かですよ?」

ダンサウェスト小国にはダンジョンが存在する。
ファーサイスは大国だ。日々美味しものを求めて人がやってくる。野菜は自国産で十分だが、肉類は別だ。
そして、その肉の安定供給にはダンジョンが非常に役立つ。
普通ならいるかどうかも分からない、何が来るかも分からない森を彷徨って戦い、その後持ち帰る必要があり大変だ。
だがダンジョンは移動しないし、階層によって出る敵は大体決まっている。ダンジョンによるがそこそこの広さしかなく、魔物を探すのは比較的楽だ。ダンジョンの場合向こうからやってくる事が多いし、生態系を考える必要も無い。

などなどの理由があり、ダンジョンは非常に重宝されるが、危険と隣り合わせなのは確かで何より数が非常に少ない。
ダンジョンは基本全てが謎で、発生条件などは分かっていない。
唯一分かっているのは、ダンジョン最深部にあるダンジョンコアを破壊するとダンジョンが消滅するということだけ。
基本的にダンジョンが見つかれば国が管理し、定期的に魔物が溢れないように間引きながら利用する。
基本的にこの間引き作業は冒険者ギルドが請け負う。冒険者達の稼ぎどころだ。

だがこのダンサウェスト小国、中央では珍しい人間至上主義の国だ。
と言っても中央はテクノス、マースト、アエスト、ファーサイス、ダンサウェストの5国、それとルナフェリアの治めるアトランティスしか無いが。
テクノスはそもそもドワーフの国と言われる。
他の国は大々的に受け入れるとは言ってないが、受け入れないとも言っていない。
アトランティスだけが例外で、世界で唯一爵位持ちの魔物すら受け入れると言っている。正確には法さえ守るのなら種族は問わないだが。逆に差別する者を受け入れない所だ。

冒険者というのは非常に決まりが緩い。
よって『様々な者』の受け皿となっている。つまり人間以外も多いのだ。
小国にはダンジョンがある。だが人間至上主義の国だ。人間以外は行こうとしない。よって、小国のまま発展しなかった。
しかもこの国、北は森と山、西は海、南は森となっており、色んな方向から魔物がやってくる。
そして上の理由から冒険者は少ない。
その為騎士達が育つわけだが、非常に残念ながら……ファーサイスの方が練度が上である。
元々ファーサイスの方が上だったが、最近はルナフェリアの気分転換で更に差が開く。


そんなこんなで、小国はファーサイスにとって脅威とはなりえない。
そして、ダンジョンからの魔物素材供給がなくなっても、どうにでもなる。
ファーサイスにはシーフープという港町があるのだ。食べる分には魚でいい。
ただ、国民達を考えると……戦争するよりは、貿易でいいかと思っていただけだ。

にも関わらず、何かと小国はちょっかいをかけてくる。現在の王になってからが特に酷い。いい加減鬱々しいのも確かだ。

「既にその問題は解決したも当然だろう? ダンジョンは北のアトランティスにもある。小国より遥かに優れた物がな。向こうには香辛料もあるし、わざわざ調子乗ってちょっかいかけてくる小国を選ぶ理由が無い」
「……確かに。アエストの件に無関係だとしても……」
「散々好き勝手やってくれてるんだ。理由は他にもいくらでもある。小国のことは置いとくとして、アエストか……。さて、どうしたものかな」

年越し近いというのに上層部の悩みは絶えない。


◇◇◇◇


「ようこそ、神都アクロポリスへ。マイスターの元へご案内します」

オートマタの侍女に案内されて、神都の中を目を丸くしながら進むアエスト一行。
裏からは何やらいい香りが漂っていた。
オートマタと香りに誘われ、お決まりのように屋敷ではなく裏の方へ向かう。

屋敷ではなく主に裏庭がルナフェリアのポジションとなっている為、やたら充実している。主にキッチンが。何の不自由もなく作ることが可能だ。

アエスト一行がやたら充実した裏庭スペースへ行くと、キッチンの前にルナフェリアが立っていた。

「ようこそ。見ての通り昼はもう少し待ちたまえ……食べるわよね?」
「え、ええ。よろしければ頂きたく」
「うむ。では王族はそのテーブルに。それ以外はあっちだ」

王族のテーブルは細かな装飾が施された物で、その他はシンプルなテーブルになっている。
こういう『差』はこの世界では必要なのだとブリュンヒルデが言っていた。
例え上の者が気にしない場合でも、下の場合が気にする時もあるので、用意しておくのが無難だと。
王族用と言ってもルナフェリアに普段使いされているテーブルだが。他の者達用のシンプルな奴を"ストレージ"から引っ張り出しただけだ。

アエスト一行が席に着くあいだにも、ルナフェリアの前にある複数のフライパンでスズキを使用したムニエルが作られていた。
それとは別に鍋でスズキからダシが取られたスープを作っている。

できたものはまず王族以外の者達に出す。
王族が食べるまで口にしないだろうからな。そして私はできたてが食べたい。
冷える事を考えると騎士達に犠牲になってもらおうと思う。
なに、文句は言わんだろう。と言うか、言えんだろう。

そして、新しくできたやつを自分の所と王族の所に置く。

「スープはバールと言う魚から取ったダシで作った物」
「ダシ……ですか」
「そしてメインはこれ、バール・ア・ラ・ムニエール。バールの切り身を小麦粉で包んで焼いた魚料理よ」

簡単な料理の説明だけして、さっさと食べ始める。
じゃないとヴルカンとシルヴェストルに食われる。

「うむ。上出来上出来。こんなもんでしょう」

もう一口食べようとしたらシルヴェストルが滑り込んできて、次はヴルカンが滑り込んでくるいつものお決まりを終え、普通に食べ進める。
が、アエスト一行は誰も食べていないようだ。

「ん……? 食べないの?」
「私が……」
「…………? ああ、毒見か。したければ気にせずするといいわ」

王妃が答えようとした時アエストの使用人がでてきた。
私が直接作ったからなー。物凄く難しいというか、扱いづらい事になるのか。

王族は当然として、貴族も料理は料理人がやり、使用人が運ぶ。
でも女帝の私が見える所で直接作り、私が運んだ。
あからさまに毒殺を疑うと言うのは少々問題があるのだ。
でも彼らが来る前から作り始めていたから、いないうちに仕込まれていた可能性も無いとは言えないわけで。
鑑定系統のスキルは一応レアスキルなのだよ。自分とシロニャン以外で持ってるのは、生産ギルドのセザール君とバルツァー商会でしか見覚えがない程度には。

毒見で気が済むのならすればいい。その程度で怒りはしない。
王族に万が一もあってはならないのだから、するべきだろう。
でもあれってさ、即効性の毒にしか意味なくね? 何時間も待つのかねぇ?
まあ、いいか。《状態異常無効》の私に毒は効かん。と言うか効く肉体無いし。
そもそもこれ自分で作ったやつだから気にせず食うが。

スープを飲もうと手に取ったら……。

「……具しか無いんだけど?」

犯人達をジトーと見るとススーと視線を逸らす精霊達。
顔突っ込んで飲んでるな思ったら全部飲みやがりましたか。
補充しよう……。

「……んん!? 飲み過ぎだお前達!」

鍋の方も半分ほど無くなっていた。
今回魚介をベースにしたからな……あんま作れてなかったが。
……まーいっか。次はコンソメでも作ろうかねぇ?

スープを皿に補充して戻ると精霊達はフルーツポンチパーティーに突入していた。
果実のレベルが上がったからなぁ。たまらなく美味しいんだあれが。

食べ始めたアエスト一行が『美味しいです』とか言ってるが当たり前である。
獲れたての美味しい物を美味しい調理法で作ったんだから、美味しくない方がビビるわ。だが私は夕食の方が楽しみだ。カニですよカニ。
普通にカニ鍋だな。茹でよう。この世界生食文化は無いようだし。
ファーサイスを出ると途端に魚介類を食べなくなる様だ。
まあ、この世界海に出るのはかなりリスクあるからな……。精々川魚ぐらいか。

一応褒めて貰ったわけだし、適当にスルーしておくが。
それはそうと……魔眼で分かっていても聞いておかんとな……。

「すぐに出るのかしら? それとも一泊ぐらいはしていく?」
「一泊させて頂ければと思いますけれど、宜しいですか?」
「いいわよ」

うちまで飛ばして来たようだからなぁ。
馬を休ませる必要もあるだろうし、何より王妃と王女にダメージがでかそうだ。
強行軍は辛かろうて。

「では、デザートを頂きましょうか。王族にしか無い……と言うのも可哀想か」

何かけち臭いとか思われるのも癪だし。

「えーっと……ピラカンススいる?」
「いるよー!」
「アレキサンドリア二房あっちに渡してくれる?」
「はーい」

花畑の方から飛んできたピラカンススに、アレキサンドリア二房をアエストの護衛、世話役の方に持っていって貰う事にする。よろしく。
ちなみにピラカンススは花の妖精ピクシーのリーダー格だ。
……嫌がらせじゃないよ? 妖精達により味が調整されたんだよ。
ちゃんと食べれるようになったよ。ちなみに種無しだ。素晴らしい。

王族の方は1人1個普通にカットされた果実だ。
果実は果実でも女神の雫だが。

「君達今デザートが果実1個でがっかりしたわね? 騙されたと思って食べてみなさい。文句なら食べた後に聞いてあげましょう」

私は……ブランシェ(ラ・フランス)にしようかなー。
花の妖精4人によってマスカットが二房運ばれてきた。
つやつやで綺麗なエメラルドグリーンのブドウ。
マスカット・オブ・アレキサンドリアだ。

「こ、これは……」
「いっぱい付いてるから、複数に出すには便利よねぇ……」

ブドウの女王、哀れな使われ方であった。実際便利なのだ、仕方がない。

「種無いし、皮がかなり薄くなってるから丸ごといけるわよ。逆に取る難易度急上昇したけれどね」

ちなみに王妃はペルシア(モモ)、王女はアーウィン(アップルマンゴー)、王子はナシを選んだ。
王妃がパクっと食べるとパチパチと瞬きしてしばらくフリーズしていた。

「こんな美味しいの初めて食べました……」
「それ1個でファーサイスの農家達が2年近く暮らせるからね」
「……えっ?」

ファーサイス農家達の給料は平民以上、貴族以下ぐらいになる。

「下級貴族で1年ちょい。伯爵ぐらいで半年前後。王族で一月ぐらいかしらね」
「「「えっ」」」

目の前にある果実ガン見である。
正直私もこの値段設定は頭おかしいと思うが、付けたのバルツァー商会だし。

「だから我が土地の果樹、果実に手を出した者は問答無用で重犯罪奴隷へと落ちると法で決まっている。食べたから分かるでしょう? その価値が」
「確かに、間違いなくまた食べたくなりますね……食べるのが勿体なく感じます」
「早く食べないと腐るわよ」


食後は非常に平和で、木洩れ日と魔力光が降り注ぐ中穏やかな時を過ごす。
過ご……したかったのだが、来客だ。

「マイスター、冒険者ギルドマスターが会えないかと」
「うん? マスターがこっちに来てるの?」
「はい」
「珍しいわね。大体手続きがあったりとかで私が行った方が早いのに」

魔眼で見ると確かにいる。が、見覚えのない者もいる。……移住希望者か。
他国の王族がいるのはある意味好都合か。
しかし、冒険者ギルド本部のマスターが役人みたいになってるな。
もう少し人が増えたら役所とかも作るべきか?
まあ、ともかく。

「通して」
「分かりました」

またしても獣人ですか。今度は狐か。狐は確か保有魔力量に優れた種族だったな。
獣人は比較的肉体言語を好むが、狐は魔法寄りだったか。

「おう、悪いなへい……か?」
「客人がいるけど気にしなくていいわよ」
「いや、うん? ……アエストの王妃様か!」

知ってるのか、ギルマス。
まあ、大国の王妃ならだいたいの人が知ってるのか?
ギルド本部のマスターと言うと組織のトップ……前世で言う大手企業の社長見たいなもんだから、こっちも有名と言えば有名か?

王妃に挨拶しているギルマスを眺めつつ、マスカットオレを飲む。
うむ、元の果実が変わったから更に美味しくなったなこれ。

「あー、それでだな。まず冒険者ランクSSSの上、EXの項目を作成した。これはもう本部のギルマスと、既にいるEXランク全員が認めない限りなれない物になる。それで権限と言うか、扱いとしては名誉冒険者的な奴になる」
「……なるほど」
「決定権はあくまで本部ギルマスが1番上だが、その下ぐらいの権限はあると思っていい」
「他のギルドマスターより権限上になるってこと?」
「もしくはその同等ぐらいの、結構曖昧な感じなんだ。だから、EXはそう簡単にさせるつもりはない」
「ふむ……。せめて私の目の前でドラゴン単騎討伐してもらいましょうか」
「そりゃいいな。それ最低条件な。後は本部ギルマス、他のEXランクが大丈夫だと太鼓判を押さない限り不可にしよう」
「つまり、現状私と貴方が認めないと不可能なわけね」
「そうなるな。という事で時間が空いた時にギルド来てくれ。EXに変える」
「分かったわ」
「後は、移住希望者だとよ」

ギルマスとの話が終わった後、後ろで待機してた狐の獣人の人と話しを進める。
狐の獣人は男女の2人。まだ若く20前半。

「種族問わす受け入れるらしい、と村に来た冒険者の方が教えてくれたのです」

聞いた話しでは、東側の北の方にひっそりと村があるのだが、小国が殺されたくなかったら……と言って食料などを持ってくんだと。
食料ならまだいい方で、娘を持ってかれる家もあるとか。
土地に愛着があると言えばあるが、あんな暮らしをするのなら……暮らせる場所があるのなら出来る限り早く移動したいと、深々と頭を下げられた。

「当然許可はします」
「「っ! ありがとうございます!」」
「ただし、入る際の法を守る者のみ。そして、村にいる時とは生活が変わるでしょう。馴染む努力をするように。差別はしないが、差別する者は邪魔だから受け入れない。差別はしないが区別はする。我が国は適材適所、実力主義を地で行く予定よ。人格、能力問題ないのなら他の国で言う貴族にすらなれるでしょう」
「我々にも仕事をくれる……と!?」
「差別はしないが区別はする?」

差別はしないが区別はする。当然のことだろう。魚に陸で暮らせとか無理な話だ。
多彩な種族が集まるのなら、種族に合った土地を用意するのは当然のこと。

仕事に関しては種族による給料の差は基本的に無い。
ただ、ちゃんとした理由があるのなら種族的な差は認めるが、最低額は決まっているのでそれを下回る事は許さない。
例えば配達の仕事。『空を飛べる種族の給料が少し高い』などは納得できるので認める。空路は早いからな。
更に水運の仕事で泳ぎの得意な種族の給料が少し高いなどだ。そう言った差は認める。これは適材適所にも当てはまるからだ。

ただし、種族によりあからさまな扱いの差は認めない。
例えば、配達の仕事。『飛べる種族と飛べない種族の給料の差』はさっきの通り認める。が、飛べる種族と飛べない種族で『食事の量が違う』などの差は一切許さない。これは区別ではなく差別と判断する。
食事の量は食べる本人が決める事であって、部外者が勝手に決める事じゃない。

「以上。これはどうなんだ? と思ったら聞きに来なさい。この土地で最終的に判断するのは女帝である私。恨みを買うから無理だ? 気にするな。死人は喋らん」

私は結構ウロウロするので、抜き打ちチェックもばっちりだ。
私ルナフェリア。今貴方の後ろにいるの……が転移で可能です。

「この土地の門の前と貴方達の村を"ゲート"で繋ぎましょう。さっさと話と荷物を纏めて来なさい」
「「えっ?」」

横にいつものデザインの"ゲート"を出現させる。

「出来る限り早い方が良いのでしょう?」
「い、行くぞ!」

"ゲート"を通る前にペコリとしてから、バタバタと通っていった。
一度"ゲート"を閉じ、こちら側をこの土地の門の前に繋いでおく。
そのうち来るだろう。

「それにしても、悪いわね。何か役人のような事させて」
「あー、これぐらい別に構わん。俺らも助けられた恩があるしなぁ。それに現状どうしても冒険者達が多いから、まず俺の方に話が来るんだよな。建物も目立つし」
「やっぱりこの屋敷じゃ普通すぎるかしら?」
「まあ、そうだな……」
「自分が使わない挙句に、基本使うのが身内だからやる気でないのよねぇ……」
「いっそ客人用と割り切ったらどうだ? 日帰りできる距離じゃないんだ、泊まって行くんだろう?」
「……なるほど、それは良い。王族を泊める用の建物として作ればいいのか」
「国の中心だ。見栄えってのはあるに越したことはないからな」
「思いつき次第変えるとしましょう」
「おう! じゃあ俺は帰る。では王妃様」

王妃にはしっかりした動作で挨拶してったくせに、私相手には手を振り振りして超軽い感じで帰っていった。
私、女帝なんだが? 立場的には王妃より上なんだが? あれれー? 我、神ぞ?
まあ、いいんだけどねー。魔力による威厳とか雰囲気とかはわざと遮断してるし、態度も割りと適当だからなー。


その後は緩やかに時間が経ち、引っ越してきた狐の獣人達は冒険者ギルドへ。
こっちはこっちでカニ鍋パーティーをして、アエスト一行は屋敷でおやすみ。


月明かりと神霊樹の魔力光に照らされる、寝静まり返った神都アクロポリス。
ルナフェリアは精霊達と静かにティータイムを過ごしていた。
ジェシカやエブリンも寝ているので、ルナフェリアとシロニャンと精霊達だけだ。
妖精達も好きな所で寝ている。


この穏やかな時に、1日の情報を整理しておくのだ。
更にマナが吹き出す特異点……龍脈の確認。土地のシステム……セキュリティーゲートなどが問題ないかなどの確認なども済ませる。

「……たまには木登りというのも……いいかもしれないわね……」
「ちゅ? (木登り?)」

シロニャンを頭に載せ、翼を広げてふわりと浮き上がる。
適当な高さの1つの太い枝に腰掛ける。

「魔眼で見るのとはまた違って、これはこれでいいかもしれないわね」

月明かりと魔力光だけに照らされる世界。昼間とは違った顔を見せる。
この世界は日が落ちれば人類は眠る。夜は人類以外の時間だ。

「む……? ほう、客人か。人じゃないが」

結界があるのでそれなりの距離離れているが、フクロウが1羽飛んでいた。
問題は爵位持ちということか。流石にフクロウに人の部分は無さそうだ。
となると……何かしらのユニークスキル持ちか?

……ふむ。これは面白い。

《言語理解》
  言葉が分かる。
《適応強化》
  周囲の環境に適応する能力が強化される。
《隠密飛行 Lv4》
  静かに飛ぶ事ができる。

《言語理解》は爵位持ちならデフォだ。ベアテも持ってる。ただ、フクロウじゃ声帯の関係上話すのは無理そうだな。
ただ、《適応強化》と《隠密飛行》これユニークだな?
《隠密飛行》はそのまま《隠密》と《飛行》の複合スキルだな。
《適応強化》が面白いな。暑さや寒さなどを無効はできないが、すぐ慣れるのか。これだけだと微妙に聞こえるが、周囲に強い敵ばっかだとそいつらと殺り合える様になるってことだよな……? その強い環境に適応するのだから。
……ああいや、必ずしも強くなるという訳でも無いのか。
そいつらに見つからないようになる……と言うのもある意味適応だな。《隠密飛行》か、なるほど。
何はともあれ爵位持ち、上手く生きてきてると言うわけか。

白と黒の縞々。かっこいいなこいつ。……メスだけど。
戦うつもりは無さそうだな? 興味がある状態で様子を見ているのか。
フクロウいいなーとか思ってたんだよねー。あいつ魔物だし、従魔ならんかなー?
交渉してみようかなー? 問題はあいつでかいんだよなー。フクロウの大型種って前世でも結構でかいらしいけどさ。自分が縮んだ分余計にな……。
まあ、サイズはどうでもいいか。交渉してみよう。

……と思って彼? 彼女? メスだから彼女か。の前に行ったらあっさり従魔になるって。魔物にも個体差があるってことか。
名前は……エマニュエルにしましょう。

最適化に入ったエマニュエルを抱えて裏庭へ戻る。
私の身長は132センチ。エマニュエルは大体100センチ前後だ。マジ大型種。
なかなかもふもふでいいな。
ベアテの時は起きる時にマナを吸い込んでたな……今回も警戒はしておくか。
ここは龍脈あるから大した問題は無いだろうが。
餌の問題は魔物だから問題ないし……特にすることはないか。


アエスト一行と朝ごはんを食べ、食後にファーサイスへと知らせを転移させる。
そしてお昼食べた後、アエスト一行をファーサイス北門に"ゲート"で送り込んだ。
後はのんびりするかな。おっと、冒険者ギルド行っていこう。


名前:エマニュエル
種族:テクノープレデターアウル
性別:女性
身分:魔王種
称号:忠実なる従魔
年齢:46
スキル
【武闘】
  《格闘術 Lv5》《暗殺術 Lv7》
【魔法】
  《攻撃魔法 Lv6》《防御魔法 Lv4》《補助魔法 Lv5》《生活魔法》
【生産】

【身体】
  《体力強化 Lv8》《魔力強化 Lv8》《身体制御 Lv10》
  《痛覚耐性》
【その他】
  《跳躍 Lv9》
【種族】
  《暗視》《万能感知 Lv10》《危険感知 Lv6》
【固有】
  《言語理解》《適応強化》《隠密飛行 Lv4》
  《透視の魔眼》《千里眼》


起きたエマニュエルはこんな感じだった。
種族はテクノー(テクノスのある北の山)に住むプレデターアウルだ。
プレデターアウルは隠密と飛行に優れた種族だ。そのテクノー種で大型である。
元々なかなかの強さである捕食者で、かなり力強い。
プレデターアウルはAとされ、その中でも大型のテクノー種はA+ぐらいだ。
まあ、飛行系は飛べない者からすれば総じて強いわな。

戦闘スタイルは空からの不意打ち型。魔法は風と雷が主体。
防御より補助が高いのは、自分に補助をかけてから不意打ちで一気に仕留めるからだろう。《防御魔法》の出番があまりない訳だな。
【種族】として《暗視》を持ち、感知系が高い。
【固有】は爵位で得たのに加え、私との契約で魔眼2種を得た様だ。私との契約に……私の従魔として適応したのだろう……。これは強いぞ?

ベアテと戦ったらベアテが勝つけど。ベアテ裁縫ばっかしてるけど、戦ったら強いんですよ……伊達に自力で魔王種なってない。
蜘蛛だし、梟からしたら相性最悪だわな。

さて、家のデザイン考えないとなー。


◇◇◇◇


「ああ、ハンネス殿下。無事で何より……」
「それはこっちのセリフだよ、ニコラス殿下。怪我はない?」
「かすり傷すら無いよ。皆が体を張って護ってくれたからね……」
「僕もそうだったよ……。ああ、陛下の所に案内するね」

ファーサイス王城へとやって来たアエスト一行を、同級生で親友であるハンネス殿下がお出迎え。
挨拶した後軽く話、父である王の元へと案内する。
今回は王妃ではなく、ニコラスが対応すると先に伝えてある。
外交の経験を積ませる為だ。母である王妃は今回サポート要因。
今回はとりあえず謝るだけだからだ。それ以上のことはもう少し、ちゃんと落ち着いてから王同士でやるだろう。

ファーサイス側が気になるのは今のアエストの状況と、今後どうするか。
一通りの謝罪を終えた後、アエストの王からの手紙を渡す。
この手紙によってどうするつもりか、というのはファーサイスに伝わった。
今回の事がどうして起きたか……も。国の恥だ、普通は隠しておくだろうに。
だが、それを敢えて伝える事も謝罪の1つだろう。

「なるほどな……。予想はしていたが、そうか……」

今回の事件は……。
貴族が他国の者に金を積まれた裏切り者の存在。
王家は当然それに気づいていたし、何度も手を打とうとしたが、その度に他の貴族達が邪魔をする。
この裏切り者に便乗し、現王の退位を狙い王弟の即位を狙っている野心家共だ。
王家や王派からしたらそれどころじゃない。国がなくなったら貴族も何も無いのだ。それに気づかない馬鹿共のせいでしょっちゅう頭を抱えていた。
国のトップが変わるのに何故お前達が今と同じ立場でいられると思うんだ?
しかも今回は他国が絡んでいる可能性が高いんだ。敗戦国の者が今まで通りの訳がない。

つまり、今までは現王派と王弟派と裏切り者を裏から操る者。これらの権力争いだった訳だが、ここに来て裏切り者側が動いた。
しかも、武力の方向で崩しに来たのだ。
王弟派の馬鹿共も漸く今回のヤバさに気づいたのだろう。当然もう遅いが。

そして、現王は王太子に席を譲る……前にこの馬鹿共を道連れにするつもりだ。
厄介事、厄介者を少しでも減らしてから息子に譲りたいと思うのは、どこの王も同じだろう。そこで片付けるまで妻や娘、息子をどうか頼むと書いてあった。
今年中に片付けるつもりらしい。余程ムカついていたのだろう。
準備は既に出来ているようだ。

「と、言うことだ」
「……なるほど。つまりは己の力を、器を過信した馬鹿共のせいですね」
「まあ、そうだな」

ファーサイスは実力主義。立場にふさわしい能力が求められる国。そんな国からしたらアエストのバカ貴族共には殺意すら湧くだろう。
今回はハンネス殿下やアーレント伯爵令嬢だって巻き込まれているんだ。
そして、優秀な者が亡くなっている。
アエストの王がやらないのなら、ファーサイスの騎士達がやるだろう。
アエストの王がやると言い、王妃、王女、第二王子揃って頭を下げたから渋々大人しくしているだけなのだから。
これで王が生温い処分をしようものなら喜んで乗り込んでいくだろう。
国が大好きな愛国者共は狂信者とも言える。国を馬鹿にしようもんなら喜んで乗り込むだろうよ。
しかもファーサイスの騎士達はやり通すだけの実力があるからたちが悪い。

それに、どうやら向こうで死んだ者達を綺麗にして、運んできてくれたようだから大人しくしている。

「王都をくまなく探し、全員お連れしたと思うのですが……」
「……どうだった?」
「はい。ルナフェリア様が言う者以外、全員揃っておりました」
「そうか。では、家族を全員呼べ。仕事中の者も呼んで良い。会わせてやれ」
「畏まりました」
「来るまで一先ず休憩としよう」

ルナフェリアが言う者とは、ブリュンヒルデなど体が残っていない者だ。
ブリュンヒルデが来ていた聖魔布などは、ハンネス殿下を連れてきた時に渡している。その際に体が残っていない者は報告済みだ。跡形もなく消し飛んだからな。


「民達を護ってくれた騎士達に感謝と、巻き込んでしまったことに深く謝罪を」

集まった死んだ騎士達の家族に深く頭を下げるアエスト王家。

「頭を上げてください。悲しくないと言えば嘘になりますが、恨んではいませんよ。少なくともうちの息子は自ら立候補したのです。そして、見事成し遂げたのですから……」
「うちもですよ。それに見てください。非常に満足そうではありませんか。少なくともこの顔を見てグダグダ言うつもりはありません。良くやったアルベルト……お前は我が家の誇り。自慢の息子だ」


死んだ騎士達は国葬を行うようだ。
今年最後に済ませ、年を越したらいつも通りパーティーを行い、切り替える。


「父上と兄上が心配なんだよねぇ……」
「騎士達が護衛に付くんだろう?」
「そうなんだけどね。内容が内容だから、後がない者は確実に動くだろうからさ。Sランク冒険者にも護衛依頼を出したらどうかって思ったんだけど」
「あー、でも中央には少ない……と言うかほぼいないからね……」
「そうなんだよね。それにSランクでも色々いるからさ……」
「確かにね……。安心して王家の護衛を依頼できる冒険者となると難しいね」
「口が固くて、今後も利用しない様な者なんてねぇ……」
「王家との繋がりだよ? そんな人物は……あー……」
「……もしかして心当たりある?」
「いや、うん。あるにはあるけど……あの方は……」

話し合いも終わり、ハンネス殿下とニコラス殿下が話していた。
世間話……と言うには少々あれだが。

「できれば教えて欲しい! 父上と兄上の命がかかっているんだ! 下手したらそのまま国が……!」
「うーん……教えるのは別に良いんだけど。僕もよく知らないんだよね。ほとんど話したこと無いし、今まで学園にいたからさ。下手したらニコラス殿下の方が詳しいかも?」
「うん?」
「アトランティス建国の女帝、ルナフェリア陛下だよ。一応冒険者だよ?」
「…………あー! いやでも、陛下に陛下を護らせるって……ああ、それで歯切れが悪かったんだね……」
「まあね……。でも、条件としては十分だと思うよ? 口は堅いし、利用は……外交の方でネッチリやられるかもしれないけど……まあそこはね」

苦笑気味のハンネス殿下に比べ、むむむ……と思考顔のニコラス殿下。

「僕より父上や宰相の方が詳しいから、そっちに聞いた方が良いかな? 後総隊長とかも詳しかったかな」
「ううーん……」
「……乗り気じゃないね?」
「あー……こういうのも何だけどなんかこう、苦手なんだよね……」

そういうニコラス殿下は苦笑というか若干引き攣っていた。

「そう言えば、エーリック殿も言ってたなー」
「エーリック殿が?」
「うん。危険とは違った感じだけど、何か落ち着かないって」
「うーん?」
「王家の……特に王の前にいる時に似てるけど、それとも微妙に違う感じだって。どうも向こうから見える所にいるとソワソワするとか言ってたよ」

エーリックはマーストトップの三男だ。《危険感知》が非常に高い友人。
本人は気づいていないが、女神の前にいるから落ち着かないだけである。お偉いさんの前で落ち着かないあれ。
『この人の前で下手なことするなー!』と言う魂の叫びである。

「あの人の目は何ていうか、怖いんだよね……。別に睨まれているとかじゃないと思うんだけど……」
「あー、父上とかがあまり目は見ない方が良いぞって言ってた」
「え、そうなの?」
「うん、あの人魔眼持ちなんだって。しかも複数の。だから一種の武器と同じで、本能的に危機感を覚えるとかなんとか?」
「複数の魔眼持ちっているんだ……」
「まあ、とりあえず父上の所行ってみようか。うちとしてもアエストの現王や王太子が殺されるのは避けたいだろうし」
「……分かった」


ファーサイスの執務室。国王と宰相がお仕事中。

「父上、少々宜しいですか?」
「……ハンネスか、入っていいぞ」
「ニコラス殿下もいます」
「ふむ? ちょっと待て」
「はい」

一応見られては拙そうな書類を隠してから、許可を出し部屋へ入れる。

「どうした?」
「父上に相談があって、ルナフェリア陛下って冒険者でしたよね?」
「ああ、恐らく世界最強だろうな」
「ニコラス殿下が父上と兄上の護衛を頼めるような冒険者はいないかって」

ハンネスがそう言いながら、ニコラスへと顔を向ける。
当然王と宰相もニコラスの方へ顔を向けると、ニコラス殿下は申し訳なさそうに軽く頭を下げる。

「王子としても家族としても、心配でして……」
「なるほどな。ふむ……」
「確かに、ルナフェリア様が付いてくれれば安心ですが……問題は依頼料や報酬ですかね……」
「…………お金はもらえるなら国の運営に回すだろうからな」
「ですね……」

実は少し前、ファーサイスもやられていた。
内容は『グノーム(地の精霊)の加護、いらない?』である。
ファーサイスからしたら超欲しい、地の精霊の加護。しかも原初の精霊のだ。
範囲は王都全体。しっかりした地の精霊の加護を貰えるが、値段は察して欲しい。
少しでも安くしようとあの手この手と交渉し安く契約! と、一同喜んだ。
が、後々加護を受けた後の収穫速度などの計算をすると、してやられた感満載だった。掌でコロコロされてたわけだ。

そもそも根本的なあれだったのだ。ファーサイス人は優秀が故に深く考えすぎた。
アトランティスはそもそも野菜を作っていないから、ファーサイスにグノームの加護を与えて野菜を沢山作らせ、うちに寄越せ? ってだけだった。
ファーサイス側も損がある訳でもなく、何も言えない。
外交組はしばらく魂が抜けていたらしい。
正体を知っている、魔眼を知っている上層部からは生暖かい優しい目を向けられたらしい。それが更にダメージを与えていた訳だが。彼らに悪気はない。ただ純粋に気の毒だっただけだ。相手が悪すぎた。

ファーサイスから野菜を仕入れる。代わりに香辛料。
ファーサイスの野菜収穫速度が上がる。こちらにやってくる野菜も増える。
ファーサイスからしたら入ってくる香辛料が増える。
入ってくる香辛料が増えれば扱える店が増え、更に他国からの客が増える。それはつまり国としての収入も増える。
どっちにも得があるから何も言えないのだ。

「確かに、報酬は必要ですね……潰した貴族から巻き上げそれを報酬に回せば良いのでは?」

非常ににこやかに言い放ったニコラス殿下。12歳とは言え王族。強かである。
王と宰相はニコラスに目を向けパチパチと瞬きをしていた。
ハンネス殿下は親友だけあって性格を知っている。苦笑していた。

「はっは! それはありだな。まあ、受けてくれるかは本人に聞いてみると良い」
「「えっ?」」
「今貴方の後ろにいるの」
「「うわぁっ!」」

突然背後から聞こえた少女の声に跳ね上がる王子2人。
今度は王と宰相が苦笑していた。

そこには当然のようにルナフェリアがいた。

「アエストの第二王子からの依頼で、アエストの国王と王太子の護衛。だとさ」
「ふーん……別に良いわよ」
「えっ、そんな簡単に……」
「人類から護るぐらい簡単だわ」

ニコラス殿下はびっくり顔でファーサイスの王へと顔を向けるが、変わらず苦笑したまま頷いていた。

「ただ、冒険者ランク上がったから依頼料跳ね上がったわよ?」
「SSSなったのか?」
「SSSの上、EXになったわ」
「……新しいランクか!?」
「名誉冒険者的なランクらしいわよ。純正竜単騎討伐ってSSSランクより上よねって言ったら作られたわ」
「ふむ? 確かにな……」
「料金に関しては父上……王と詰めて欲しいのですが、潰した貴族の資金をと思っているのですが」
「ふむ……。それに追加でアエストがうちを認めてくれるなら良いわよ?」
「む……。それは私に決める権限はありませんね……」
「まあ、王家からの依頼としましょうか。向こうがそれでいいというのなら護りましょう。では、早速向こうと話し合いといきましょうか。"ゲート"」

ファーサイスの執務室と、アエストの執務室が"ゲート"で繋がる。

「な、なんだ!?」
「父上! 兄上まで!」
「「ニコラスか!?」」
「久しいな、アエストの王よ」
「む? ベルンハルト王……か?」
「うむ。アトランティスの女帝による"ゲート"で繋がったのだよ」
「なに?」
「ニコラス殿下が、父と兄の護衛をして欲しいと言うのだけれど」

アエストの王と王太子はキョトンとしていた。
まさか本当に話していた本人が来るとは思ってもなかったのだ。
そもそも王に王が護られるというのもどうなんだと思うから、無いなと思ったはずなのだが。
……だが、そうとなれば話は早い。早急に契約が決まる。
現王は退位するつもりなので、王太子の方ともだ。
現王が報酬を用意し、王太子がアトランティスを認める事になるだろう。

「潰した貴族達の平均資産とアエストがアトランティスを認める……。良いでしょう。かすり傷1つ付けさせやしないわ。何なら食事もうちで摂ればいい」
「ふむ、毒殺対策か。確かにありだな」
「そう言えば……」

ルナフェリアがちらっと周囲のメンバーを確認後……。

「シルヴェストル、中の音が聞こえないようにしてちょうだい」
「ほーい」
「これでこの会話は外には聞こえない。……《侵食魔法》というのがあるのだけれど、知っていて?」
「《侵食魔法》だと? 響からして碌なもんじゃ無さそうだな……」
「元々魔物が使う魔法だったのだけれど、魔法形態が変わった今、使えるものがいてもおかしくはないわ。《侵食魔法》とは、毒や呪いといった状態異常を引き起こす魔法……」
「「「なっ!」」」
「断言してもいい。絶対に使う人間はいる。毒となる物を持っていなくても作れてしまうのよ。警戒しておきなさい。魔法だからレジストが可能な分まだマシね」
「なるほど。実際の毒との違いはレジストが可能かどうか、ですか」
「そうね。用意が楽な分レジストによって効果が低いのが《侵食魔法》。対策としては《強化魔法》のレジスト系を使用しておくのが1番ね。"エクステントオールレジスト"」

これで今この執務室にいる者達には、ルナフェリアによる魔法で対抗率が上がった。余程のことがない限り、切れるまでは安全だろう。
シルヴェストルによる"サイレント"を解除し、解散!

ルナフェリアは護衛任務を始める。


◇◇◇◇


「さて、我の退位前にやり残したことを済ませようと思う。……覚悟はできておろうな?」

アエスト王城・会見の間。
王と王太子はもちろん、貴族達も勢揃い。

「膿を残しておく訳にはいくまい?」
「こうなった原因は王のせいでしょう!」
「……そうだな。我がさっさと処罰しなかったのが原因だろう。だからこそ退位する前に、全て片付けてから次代に渡すのだ」

1人の貴族が反撃するも取り付く島もない。
と言うか、反撃した貴族はいい度胸をしている。ただのバカの可能性が高いが。

「今まで散々邪魔してくれた全ての者を処罰する」
「「「なっ」」」

声を上げるのは心当たりがある者。
ざわめく中で1人の貴族がしっかりした声で王へと問いかける。

「今回はそれをするだけの出来事だ。他国にまで迷惑をかけている壮大な……な。ここで我が手緩い処罰を与えてみろ? ファーサイスの騎士達が攻めてくるぞ? それを望むというのならそうしてみるか? 貴様らは甘く考えすぎだ。嘗めるのも大概にしろよ?」
「王よ、あまり削りすぎては国が回りませんぞ?」
「分かっている。その辺りは宰相と決めた。忙しくなるのは確かだが、回りはする。心配するな」
「……左様ですか。王の決定に従いましょう」

問いかけた貴族は元々王族派。確認をしたかっただけである。
まともな貴族からしたら何も言うことはない。証拠があるのなら尚の事。
普段からおかしいのだ、あいつらは。

「くそっ! やってしまえ!」

その叫びと共に動き出す者達がいた……が。
すぐに地に伏せた。
それを見て愕然とする叫んだ貴族。

「な……に……? ぐあっ!」

そしてその貴族も地に伏せた。

「私も忙しいから、くだらないことで時間かけないでくれる?」
「往生際が悪くて済まないな」
「どこにでもああいう小者はいるものよ」

準備は既に整っていたのだ、ならばさっさと片付けてしまおうという事で、護衛依頼が決まってから数日後に開始したのだ。
何も襲撃や暗殺をわざわざ待つ必要もあるまい。

「―――以上から、今回は国家反逆罪とする。異論はないな?」

異論はでなかった。
まともな者達からしたら何も言うことはない。
該当者からしたら最早言葉が出ない。さっきまでの元気はどこへやら。すっかり青褪めて項垂れていた。

「連れて行け」

王の言葉により近衛達が該当者を連れ出して行った。

「……うむ。では、来年より王は王太子へと譲る。覚悟は良いな?」
「勿論です」

アエスト大国は新たな若き王へと変わる。
まだまだやることは多い。
王都もボロボロだし、学園も丁度休みに入ったとは言え、目処は立っていない。
忙しくはなるが、膿は取り除いた。
進むのみである。

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