転生先は現人神の女神様

リアフィス

42 マースト商業国

さて、護衛はどのぐらいにしようか。
初級の召喚騎士には一応種類がある。攻撃の黒、防御の白。それぞれにランクがあり、このランクにより召喚に必要な魔力量が変わる。これにより肉体性能が決まることになる。どのぐらい余分な魔力を持たせるかで耐久と再生速度に影響が出る。
力や防御力、素早さは召喚時のランクによりある程度決まり、余分に持たせた魔力がそのまま耐久力と再生速度に変わる。持っている魔力で肉体を動かし、被弾時に再生させる。召喚時に持たせた魔力で体が維持できなくなると、召喚騎士は消えてしまう。

E+ダークナイト→C+ブラックナイト→A+カオスナイト→Sカオスロード
E+ライトナイト→C+ホワイトナイト→A+ホーリーナイト→Sホーリーロード

肉体的にはこのぐらいの強さとなるだろう。あくまでベースが、だが。ランクが上がることで武器や防具などの装備がだんだん豪華になっていく。見た目である程度のランクが分かる事になる。
だが、創造神様はサービス精神が旺盛なのか、この装備ある程度アレンジが可能だったりする。装備のテンプレートが弄れるのだ。そうすることにより、次から召喚する騎士はそのテンプレートに従い召喚される。まあ、その分余分な魔力が必要になるので、余程余裕がない限りするやつはいなさそうだが。

12体いれば十分か。黒と白6体ずつだな。黒と白二人一組にして、左右に分ければいいだろう。
カオスナイトはロングソードの双剣と、背中に大剣を背負っている。白より防御が低い代わりにスピードがある。
ホーリーナイトはロングソードとタワーシールドを持った、白い騎士だ。黒より防御が高いが、スピードが遅い。
正直攻撃力自体は大差ないが、双剣を使用した手数や、大剣の重量も込めた破壊力を持つ黒。白はロングソードしかないが、タワーシールドを持っているので、防ぎながらも攻撃ができる。
黒に遊撃をさせ、白は馬車の守りを徹底させる。白は黒よりスピードがないとは言え、流石に荷馬車の6台移動寄りは十分早い。
こいつらは鎧と武器だけの存在で、魔力により動いているだけだ。リビングアーマーとも言える。だから魔力さえあるなら走り続けることが可能だし、非常に使い勝手が良い。
弱点部位は無く、倒す時はダメージを与え魔力を無くすしかない。

これら《召喚魔法》が追加されてからそんな経っていない為、召喚士がどういった戦い方をするかはまだ不明。そもそもこれら《召喚魔法》がまだ一般的ではなく、どんなもんなのかが謎である。
どう活かすかは、召喚士次第だろう。


「来なさい……カオスナイト、ホーリーナイト」

東門から全員出るのを確認し、それぞれの配置に付いて出発する際、騎士達を召喚。予定通り黒と白二人一組にして、左右に分けて配置する。
アクト達人間は御者席にでもいてもらおう。人間の護衛もいるぞーというのと、体力の温存。
私は自分の馬車の中でのんびり過ごします。索敵はするけど。


特に何事も無く旅は進み、道から少しズレて昼休憩。馬も人間も食事を取り、再び進む。
ルナフェリアは馬車の中から見える景色を肴とし優雅に紅茶と果実を楽しむ。あくまで紅茶とジュースである。お酒ではない。
前世じゃお酒を作るのは許されていない。それ故果実酒ぐらいしか作り方を知らず、調べようとも特に思わなかった。故に何となく作り始めた果実酒だが、使っているのが聖域の果実だけあってこれまた美味い。しかし、お酒が好きと言うわけでも無く、アルコール特有のあれを神の体は別段なんとも思わない。よって、わざわざお酒を選ぶ理由が特になくなってしまったのだ。
それなら自家栽培されている聖域の果実を使ったジュースを飲んだ方が楽である。残量を気にせずがぶ飲みできるという意味で。
紅茶はファーサイス産の高級茶葉を買ってある。一応客用として買っといた物だが、出すような相手がいなかった。それ故、たまに気分で飲んでいる。

マスカットオレやペルシアオレ、ミックスジュースとかがマイブーム。ミルクはファーサイスで販売が終わる頃に行って、残った物を買い占める。果汁と混ぜる用とアイス行きだ。
精霊達は一口が小さいとは言え数が多いし、際限なく食べるからな。いくらあっても特に困らん。余ったら時間経過がない"ストレージ"にぶっ込んでおけばいい。
今回の旅の目的に、道中ファーサイスに無い野菜か香辛料を探すこともある。果樹もあれば万々歳だ。隅々まで探した訳じゃないからな……特にマーストの露店。地味に期待している。
いくらファーサイスと言えど、流石に季節的、環境的に育たない物は無い。だから、実のところ種類はそれほど無かったりする。
その点、聖域は関係ない。森にある聖域は四季の森とも言われる。季節関係なく育つ生物の楽園である。食べ物が沢山あるわけだからな。ファーサイスの北にある聖域の森も当然四季の森だ。この辺りで聖域の森、または四季の森と言えばあそこの事になる。

という事で、何か美味しそうな果樹、野菜、香辛料をチェックしながらの旅になる。世界を《月の魔眼》で眺めてた時に目立つ物は確保済みなんだけどね。パイナップルとか……バナナとか……。
この世界で発見されてなかったり、食べ物と認知されてなかったりするのもあるだろうからな……。
そうそう、神の体はパイナップルを気にせず食えるぞ! 口が荒れない。後何より、我が土地で採れるパイナップルは全部甘い! 酸っぱいのを引く心配がないから最高だ! 素晴らしい。あの硬くて酸っぱいパイナップルを気にしなくていいと言うのは最高だ。本当に、最高だ。
ちなみに、この世界ではパイナップルはアナナスと言われている。
更に、ココナッツもある。採れたてココナッツジュースが美味しい。さっぱり系ジュースだった。ただ……ココナッツってこんなでかかったっけ? バスケットボールぐらいあるんだけど……。バスケットボールサイズがゴロゴロ付いてるのにはちょっと笑った。人間の頭に落ちたら間違いなく死ぬけどなあれ。
ナタデココの存在を思い出し、試しにやったら作れたからフルーツポンチが地味にレベルアップしている。この世界のココナッツジュースは熱すると凝固し、ナタデココになる。何故かは知らん。


しかし、この異世界は平和と言えば平和だな。
馬車の旅といえは盗賊だろう。盗賊イベントは起きないんですかね?
ジェシカとエブリンが言うにはこの辺りは比較的安全で、盗賊が出るとしたらマーストと東の国境にある街の間らしい。そこもかなり人の通りがあるため、この辺りを狙う盗賊は少ないらしい。
マーストとファーサイス、大国を敵に回すより、小国群の方でちまちまやる方が盗賊的にはいいようだ。よって、本番はマーストを出てからだそうな。となると、当分は平和な旅か。

暗くなり始めた頃、道から少し外れ野営の準備をし始めたようだ。

「……楽ですね、この馬車」
「ほんとにね……」

ボソッと2人が呟いている。ええ、我々は特に準備してないからな。
基本的に商人は商人、冒険者はPTで準備に入る。自分達の物は自分達で用意するのが基本のようだ。商人によっては差し入れをくれたりするらしい。多少の差し入れで命を守ってくれるなら安いもんって事らしいな。
我々は馬車の中にキッチンがあるから……。ベッドも置いてあるし、これと言って特にすることがない。《思考加速》と《並列思考》を駆使して空間拡張を開発した甲斐があったな。

商人組とアクト組はそれぞれご飯を用意する人と、寝床の用意をする人に別れてせっせと動いている。私はそんな人達を窓から眺めていた。
ちなみに空間拡張しても窓の位置は変わらない。馬車本体の窓とリンクしている。この馬車の窓から中を覗くと、そこそこ広い部屋を見ることになる。不思議体験ができることだろう。

「……姉さんは準備しないんです?」
「する必要がないからねぇ」
「?」
「快適に旅するためにわざわざ作った特別製の馬車だし」
「えっ? まさかの自作ですか」
「中々の傑作よ。フフフフ……」

オープンキッチンと円卓、当然椅子も。更に扉が5つあり、寝室……と言う名のベッドが置かれている小部屋が3個にトイレ、そして流石にお風呂はないが、シャワーがある。
内部で使用された水はそれぞれ魔法で処理され綺麗な水に戻る。
だがまあ、気持ち的な問題で、水を貯めるタンクが3個用意されており、2個は"ウォーター"の魔道具。冷たいのと暖かいの。もう1個はトイレで使用する水のタンクだ。
シャワーで使った水は綺麗にされ、トイレに使用。トイレで使用した水も処理され綺麗な水になるが、そのまま熱して蒸気として屋根から外に排出する。キッチンの水はそのまま熱処理行き。トイレタンクが満タンの場合は、当然シャワーの水は熱処理行き。
それぞれタンクの残量がメーターで分かるように壁に付いている。トイレはトイレの、シャワー室はシャワーの、リビングは全部のが付いている。
基本的に水は"メディテーション"によりじわじわと自動供給されるが、魔力を流してやれば瞬時に補充される。馬車は基本移動するから"メディテーション"の効果は高い。移動でタンクを溜め、夜に使うのが基本になるだろう。


「…………姉さん、生産ギルド登録しないんですか?」
「この旅が終わったら考えるわ」
「これだけの物が作れるんですから、SSS行きますかね?」
「どーかしらね」
「……おっと、戻らないと」

生産ギルド本部のサブマスター、セザールからスカウトされているのだけどね。
"エンチャント"を使用して"インベントリ"や"ストレージ"を使えば、ファンタジー御用達アイテム鞄が作れるのよねぇ。生産ギルドと商業ギルドに登録してそれを売り出すのも面白いか。
調合でポーション作って売るのもいいし、果実を置いとくのもありか。
武器は売らんがな。とは言えアイテム袋、アイテム鞄も軍事利用できてしまうわけだが。

「……この馬車いくらになるんでしょうね」
「マナタイトクォーツで出来てるけど?」
「……素材は置いといても、空間拡張とこのシステムで相当。貴族……の中でも上流階級からかな……。王族でもそう買える値段じゃないと思う。今日1日乗ってたけど快適過ぎるね、うん」
「まあ売らないけど。マナタイト使ってるから作るの面倒だしこれ」

そんなこんな会話しつつも夕食を終え、シャワーも済まし、後は寝るだけ。
外に出て、召喚騎士を召喚し直すついでに、数を増やしておく。一定間隔で円形に配置する。
「近寄る魔物は切り捨て、人類の場合は守りに徹し、大きな音を出しなさい」
これで見張り代わりになるだろう。

「こいつらにやらせるから、見張りいなくてもいいわよ。安心できないなら勝手にやってて」
「……よし、寝るか!」
「「「おう!」」」
「「「えっ!?」」」

アクト組と商人組の差である。
アクト組は私の技量を知っているし、人柄もある程度知っているだろう。だが商人達は当然知らないし、召喚騎士も今回出番がなく、そもそも召喚騎士自体がまだ普及していない為知名度が低い。
不安なのはしょうがないか。自分達の命がかかっているからな。しかし、面倒だな……。いっそ魅了して黙らせ……無いな。
仕方がない、大盤振る舞いだ。


ルナフェリアの小さな手のひらに、野球ボール程の立体魔法陣が浮かび上がる。
浮かび上がったそれをそっと空中へ投げると、空中で止まり何かを待つように待機する。
ジェシカやエブリンまで何をするんだろうと眺めている。

後は―――子供に聞かせるように、子守唄のように詠う。

「2人の幼き少女は憧れた。正義を貫く者。民を導く者。主を守りし者。悠久の時を経て憧憬」

頭に浮かぶキーワードを一節一節しっかりと詠んでいく。

「夢見る少女は手を伸ばす。遙かなる高みへと。やがて目指すは主の隣。彼方の月を追いかける」

詠み進めていく度に、空中に浮かんでいる魔法陣は輝きを増す。

「彼女達の進む道は違えど、目指す先は揺るぎなく。己の忠誠に淀みなし」

立体魔法陣が形を変えていく。

「気高き忠臣は待ちわびる。主の役に立つ時を」

野球ボール程だった立体魔法陣は大きく広がり、強く輝く。

「今、願いを聞き届けよう―――」

そして、立体魔法陣は彼方と此方を結ぶ門となる。

「我が下へ馳せ参じよ! 気高き令嬢達よ!」

大きく広がり、強く輝いていた立体魔法陣と入れ替わるように、2人の女性が姿を現し跪く。

「剣の騎士、アストレート・リアレミア。御身の前に」
「知恵の騎士、マハ・リアミュール。御身の前に」

《召喚魔法》と《月魔法》の複合召喚である月の民の召喚。その中でも超級に位置づけられる2人だ。《召喚魔法》に人形ひとがたは恐ろしく少ない。人形は特殊なのだ。人類が使う魔法だからだろうが。
まず、当然普通に話せる。更に召喚騎士は魔力がなくなれば消えてしまうが、マナポーションを渡せば飲む。それにより魔力を渡さなくても回復手段がある。
そしてこの2人、超級に位置づけられるので、普通の人と同じように周囲のマナを吸収して魔力に変換可能。つまり力を使わなければ自動補給される。更に月の民の為魔力変換量が高い。
つまり、召喚により普通に人が増えた状態になる訳だ。死ぬことのない人がな。あくまでも召喚体の為、欠損しても魔力があれば回復するし、死ぬと言うか消えても再召喚すれば同じのが来る。
ただ弱点も人と似ており、心臓を貫かれるのはまだ大丈夫だが、首を飛ばされると即送還される。
まあ、首の皮一枚でも繋がってれば送還されずに治るわけだが。

もう人形ひとがたでよくね? となりそうだが、状況によるだろう。人1人増やすより、亜竜召喚した方がいい時もある。ワイバーン呼べば乗って飛べるよ!
それ以外にも攻撃力が、防御力がって時にそれぞれに特化した者を呼んだ方が良いだろう。
まあ、月の民は総じて強いので、この2人は例外だが。

「呼んどいてあれだけど、物凄い頼みづらいわね……」
「何なりとお申し付け下さい」
「お役に立つのが我らの願いです」
「ふむ……。要件は夜の見張り。召喚騎士を指揮して警戒を」
「「畏まりました」」
「白騎士は任せますよ?」
「ええ、黒騎士は任せます」

黒騎士は剣の令嬢、アストレートが。白騎士は知恵の令嬢、マハが担当するようだ。

「えっと、ルナ様?」
「《召喚魔法》の中でも条件付きの、更に超級に位置する2人よ。上位の《召喚魔法》は門を繋げる詠唱と言うか、鍵というか必要でね。さっきのがそれ。つるぎの令嬢アストレートと、知恵の令嬢マハよ」
「やっぱり《召喚魔法》なのですね」
「そうよ。せっかく呼んだわけだし、これから連れて行くわ。自分で剣の騎士と知恵の騎士と言ったように、戦闘寄りだから護衛になるわね」

ジェシカとエブリンは一応冒険者ランクCはあるが、戦闘が得意というわけではない。正直《回復魔法》の方が得意であり、生きるために魔物を狩る必要があったと言える。
ブリュンヒルデが2人を教える時にどんなメイドにするか聞かれた。前世の知識が一応あったが、異世界も同じとは限らないので一通り教えてもらった訳だが、大体一緒のようだ。
家の掃除から料理の手伝い、更には着替えの手伝いなど、全てを担当する者は基本にいない。つまり……アニメとかに出てくる何でもござれのスーパーメイドはいねぇ!
あのブリュンヒルデもどんな場合でも対応する為、知識としては持ってはいるが、それでもそれ専門のメイドにはやっぱり負けるようだ。掃除が微妙らしい。そして料理は死んでたな。
ただ『もしもの時? その辺の動物でも魔物でも狩って焼きますよ』とか逞しいこと言ってたが。
いやまあ、逆にお城勤めだからこそ、全てをやる必要がないとも言えるんだけどね。下級貴族とかだと資金の問題上全てをやらざるを得ないメイドがいることにはいるらしい。

まあ、ジェシカもエブリンも私の身の回りのお世話をするのが基本で、地味に種類が多いメイドさんを2人に分けるように教えて貰った。
料理を担当するコックやキッチンメイドと言われる部分を平民のジェシカが。
元上流階級のエブリンは給仕や来客に対応するパーラーメイドと言われる部分などだ。
旅の際も料理はジェシカがしていたようだし、対人は基本エブリンがやっていたらしい。その為それぞれが得意な、できる仕事を割り振り教えていた。
前世のランドリーメイドやスカラリーメイドと言われる洗濯、皿洗い専門メイドがこの世界にはいないようだ。《生活魔法》の"ピュリファイ"で済むからな。

そして、月の民の2人は戦闘バッチリだが家事が死んでる。よって、それぞれ分かれているので悪くないだろう。他の者を使うのが上に立つ者の仕事。この世界はそれが普通であり、前世では考えづらいが、パシられる事に喜びを覚える人種がいるらしい。
一応言うが、変態ではなく忠義や忠誠の方だ。役目を与えられる=憧れの人に認められてる、的な状態だな。できないやつに頼みはしない。アストレートとマハもそっちの人間だ。人間と言っても、精神生命体の類だが。


つるぎの令嬢、アストレートは一言で言うなら男装の麗人。
髪はショートポニーの黒。切れ目で暗い赤の瞳。
服装は黒で軍服の様な服を着ている。長袖長ズボンにブーツ。ベレー帽。
腰にレイピアを差している。

知恵の令嬢、マハは一言で言うなら魔女。
髪はセミロングで、肩ぐらいの無造作ヘア。金髪。普通の目で暗い青の瞳。
服装は黒でこれぞ魔法使い的なローブを着ている。ツバの広い大きな帽子。
常に魔導書を持っている。杖と同じ役割を果たす。

アストレートはキリッとしたクール系の美女だ。パット見イケメンだが、男と思われる事はまず無いだろう。目に見えて胸部装甲があるからな……。うん、でかい。
マハは見た目には無頓着系の美女だ。物凄い地味なローブに無駄にでかい帽子をしている。基本的に本を読んで過ごす。実際《土魔法》で椅子を作り持ってた本を読み始めたからな。ローブの為体型は分かりづらいが、こいつもでかい……。ちなみにジェシカとエブリンは並だ。普通。

アストレートとマハに任せて馬車に戻ろうとしたら、シロニャンがムクッと起きて、頭から飛び降り空中で光りに包まれた。
光はすぐに収まったが、そこには青銀のセミロング、紫の瞳、2枚の白い翼を持った……幼女がいた。私より小さい幼女がいた。どうやら能天使パワーズを倒したようだ。この世界の天使の階級は役割というより強さしか表さないがな。天使ではまだまだ弱いな。

てってと歩いて抱き付いてきたのでギュッとしてあげると表情が緩んでいた。かわいい。
離れる気が無さそうなのでそのまま抱えて馬車に撤退。シロニャンを抱えて布団でごろごろする。
こちらも魔眼で監視はしつつ、1日目が終わった。

◇◇◇◇

「敵影ありませんでした」
「変わりなく」
「そう、ご苦労様」
「「勿体なきお言葉」」

アストレートとマハのこれにも慣れないといけないのか……。

「このまま私の護衛に付きなさい」
「「畏まりました」」

郷に従え……そのうち慣れるか……。数百年もあれば慣れるだろ、ははは。……数百年あって慣れなければ逆に問題か。大丈夫だ、適応力には自信がある。実害が無い事は別に気にしないとも言う。

朝ご飯もそれぞれ食べ、道に戻り先に進む。道とは当然ちゃんと整備された物ではなく、長年の商人や冒険者達の移動により踏み固められた道だ。馬車が並んで通れる程度には広い。
太陽が登り始めた頃に出発し、進む。この世界は安全ではないのだ。1秒でも早く着きたいところだろう。我々は一番後ろを付いていく。

「相変わらず真面目ですね」
「お前がだらしないのだ……」

座っている私の後ろに立っているアストレートと、少し離れたソファーで本を読んでいるマハの会話である。

「常に気を張っていると疲れますよ? 真面目なのは良いことですが、真面目すぎるのは考えものです。今は休むときです」

何度か話した後にアストレートが折れ、マハの隣に座った。そんな中、我々3人は肉を齧っていた。ドラゴンジャーキーうめぇ。うめぇけど問題がある。

「そろそろシードラゴンの肉の在庫がヤバいのよね……」
「ずっと食べてますからね……」

そうなのだ。肉はほぼシードラゴンのだっただけに、40メートル級とは言え流石に無くなる。シードラゴンは細長い蛇みたいな竜だが、細長い言ってもドラゴンだ。大人数人で手を繋いで囲む程度の太さはある。たまにシェフが肉買いに来てたしな……。
ドラゴン仕留めるか、代わりの肉が美味しいのを狩らねばな……。正直ウルフとかオークの肉も普通に美味しかったけど。

「シードラゴンって結構狙い目よね……。お肉美味しいし、ドラゴンだから全身使い道があるし……なにより、海にいるだけに大きい」
「海だから人類は狙えませんからねー」
「そうね。ライバルがいないのも大きいわよね……」

ジャーキーうめぇ……。まあ、肉については考えておこう。
旅に出て1日しか経っていませんが、ぶっちゃけ暇です。女神様、早くも旅に飽きる。……移動が超遅いから風景も対して変わらんし、食べるしかやることが無い。

「正直な事言っていい?」
「……どうしました?」
「暇なんだけど? 普段旅してる人達何してるの?」
「基本的には周囲の警戒をしていますね……魔物に盗賊に少しでも早く対応するために」

ジェシカに苦笑しながら言われてしまった。魔物や盗賊は召喚騎士達が対応するしなぁ……。常に《月の魔眼》と《透視の魔眼》で監視衛星的なのと、《月の魔導》で魔力感知してるけど、片手間で済んじゃうんだよねぇ……。スペックが高すぎるのも考えものだな……。

「という事で、私は思考の渦に取り込まれて来るので、よろしく」
「あ、はい」

ベッドにダイブしメロンのぬいぐるみを取り出しごろごろする。
えっと、考えなきゃいけないことは…………。


そう言えば、最近ろくに戦ってないな……。
ファーサイスの騎士達とは召喚騎士にやらせてたし、私自身がさっぱりだな。
ただこう……戦場最前線でドレスを身に纏い、最小限の動きだけで敵を殲滅していくのってロマンだよね。……そのロマンと、思いっきり体を動かしたい本能がせめぎ合うんだ……。選べるゲームでは基本近接職を選ぶもんで……。
ドレスを着た幼女が、最前線で寄ってくる敵を片っ端からなぎ倒していくのよくない? でもな、見るのが良いんであって、自分でやったら見れないじゃん? 悩ましい。
実は言うほどこの体で戦闘してないから、戦闘スタイルが確定してない。騎士達とは訓練だから《剣術》なら《剣術》、《槍術》なら《槍術》と騎士達に合わせてるのよなぁ。
ドレスで走り回るのは何かスマートじゃないし、転移を駆使するか? 移動は転移、攻撃は《魔導武装》を使用するとして……そうなると戦闘スタイルは……。
基本手だけの動作で魔法を使う感じか? 手のひらを相手に向けて防ぎ、手を振って斬る? 正直直立不動でも問題なく可能だが、それはちょっとかっこよくない。そして、何が起きてるのか分かりづらいから動作はいるな。
あ、でも月杖持つなら片手塞がるな? あー、でもあれって、浮遊するのはそうしたからだけど、何故か後付いてくるんだよな……。まあ、便利だからいいんだけど。普段持つにはでかいし……。私今132センチぐらい。月杖、2メートル強。2人分はあるね、うん。
とりあえず、ブリュンヒルデの言っていた、動作は余裕を持って優雅にを目指します。全力ダッシュで殴り掛かるなんてしません。目の前に転移してぶん殴ります。

後は今分身体が開拓中の土地か……。現状結界を張ってマナ濃度を上げてる最中。御神木もあるので非常に上昇が早いが、何分土地がファーサイス王都並にあるので、時間がかかる。それでもまだ森の方が広いしな。あの森は相当広い。
国といえは城だが、城を作るか悩むな……。いっそマナタイトクォーツで水晶城でも作ってやろうか……。最高の防御力を誇る城が……必要か? 城の下まで辿り着かせる気なんか無いが?
しかし、城はその国の象徴にもなるしなぁ……。どうせやるなら全力でやるか。
城に巨大なルナクォーツを仕込んで空間拡張で更に広げるか? 精霊達は多いし、土地はあればあるだけ困らない……か。
この空間拡張が何らかの原因で解除された場合、拡張された部分にいた物は外に放り出される。家ごと放り出されたりするので、都市にする場合はかなり考えねばなるまい……。まあ、困ったらやればいいか。それよりも建物に使用するべきだな。小さい建物で十分な広さを確保できるわけだし、公共施設であるギルドにまず使用してみるか。城は普通にでかいのじゃないとあれだしな……。
城はマナタイトクォーツを表に、内部はルミナイトかアダマンタイトを使用するか。マナタイトクォーツだけで作るとスケスケの城になってまう。


さて、そんなこんな考えたり、分身体の方に集中してたらファーサイスの領土ギリギリにある街に着いたようだ。この街は特にこれと言った特色はない。ファーサイスと言うだけあって、農業は当然のように盛んだが。強いて言うなら、宿屋が多い。ファーサイスとマーストの交易が盛んだからだろう。この街に寄る人が多いため、宿が中々儲かるようだ。国ができたらうちもここを経由する事になるだろう。
人の行き来はそれなりにあるが、いい意味で穏やかな街と言える。

召喚騎士で若干ざわついたが、街に着いたので一先ず召喚解除。先頭から順に街に入っていく。
この街も王都程ではないといえ、軽い城壁があり、各門に騎士達がついているようだ。この騎士達は定期的に入れ替えが行われるようだ。この街が良いと言う者は固定で就けるようだが、それ以外は定期的な入れ替えにより、派遣される事になる。
私も騎士達の所に行っている時、度々見ない顔がいたり、今までいたのがいなくなったりしていた。理由はこうやって入れ替わりがあるからだ。

「あれ? 師匠! お出かけですか?」
「冒険者としてベリアドースに用があってね。折角だから馬車の旅してるの」
「ベリアドース……ギルド本部ですか?」
「そうそう。今のメンバーはうちの侍女2人と召喚体の2人、後シロニャンね」
「ルナフェリアの召喚体:月の民、個体名:剣の令嬢アストレート・リアレミア。知恵の令嬢マハ・リアミュールですか。召喚体はこう見えるのですね」
「今後召喚体だという者が来たら、名前を見せてもらいなさい。本当に召喚体ならこの2人のようにできるはずだから。基本的には他と同じく見えないけど、召喚体なら術者が可能よ」
「分かりました!」

ルナフェリアの召喚体:ホーリーナイト
ルナフェリアの召喚体:カオスナイト
などと表示されるが、アストレートやマハのように個体名がある場合はそちらも表示される。元々名があるやつもいるが、名付けも可能。その場合、元からか付けたのかは色違いで一目で分かる。

夕方の到着なので、そのまま各自宿をとり、同じ時間に門に集合し出発するようだ。
さて、ここで問題だ。私がやりすぎたせいだろう。宿より馬車の方が快適空間だろうというのが容易に想像できる。シャワーあるしね? 基本この世界は《生活魔法》で済ませてしまうようだ。まあ、綺麗にはなるからな。わざわざお風呂やシャワーを浴びたりしないようだ。基本的には魔石使うことになるし、コスト考えると娯楽でしか無い。

結局馬車を置かせてもらい食事だけして、馬車で寝た。
見たところ女5人と1匹旅ですが、4人が私のお世話と護衛なわけで。5人と1匹中、睡眠が必要なのが2人だけだし、これ部屋どう分けんの? 状態だったので、結局全員馬車。
ジェシカとエブリンは命を狙われていたので、できれば側に置いておきたい。あの暗殺はぶっちゃけ雑すぎるだろう。また来ないとも言い切れないからな。

そしてゴロゴロしてる時に思ったが、やっぱアストレートとマハを2人に付けるのが安定だな。
私に護衛一切つけないのはどうなの? 言われたけど、よくよく考えたらこう見えてシロニャン護衛じゃんな。私とシロニャン、他4人で分ければよくね?
とは言えまだ《变化の秘術》で抜け殻の時間が長いからなぁ。ある程度落ち着いたら、戦闘訓練したいところだな。《变化の秘術》で実践は積んでるだろうが、技術面が怪しそうだからな。
まあ、シロニャンが落ち着いたら宿はそうするとしよう。


そう問題がある訳もなく、朝早く街を出る。次はマーストだ。
マーストは商業ギルド本部があったな……どうするか。商業ギルドに登録して店を出し、稼いだお金は国に回す……と言うのもありなんだが。実は調合にも興味あるのよね。ポーション作って売るのもいい。登録だけでもしておくか。
旅が終わったら生産ギルドのセザール君に会いに行くのも良いな。

◇◇◇◇

ファーサイス王都からマーストまで荷馬車の商人だと約1週間程。
マースト商業国というだけあって、商業都市だ。東が、西が商業区だなんて分かれていない。全体が商業区だ。そこかしこに店が、露店がある。大通りは当然、少し外れた道にすら店が立ち並ぶ。流石に売り物によってある程度分かれているようだが。

行商人と冒険者があちこちから集まり、また旅立って行く。
行商人は各地から持ち込んだものを店に売り込み、売れると思った物を買い入れ各地に持って行く。冒険者は行商人の護衛でやってきて、掘り出し物を探し彷徨い、再び護衛として出ていく。
そんな国がマースト商業国。ルナフェリアがファーサイス以外で初めて訪れる国だ。


マーストの南門に並び、中に入った後商人から依頼達成の印を貰い、解散となる。
アクト達と冒険者ギルドに寄り、報告して彼らともお別れだ。

「では姉さん、またどこかで!」
「うむ、またどこかでな」

すっかり夕暮れなので、宿でも取るか。警戒する必要もないし。上から少し下ぐらいの宿にしてみよう。明日1日はぶらついて、明後日には出発でいいだろう。

冒険者ギルドで聞いた宿に行き、2部屋取る。宿に関しては、特に言うこともないな。まあこんなもんか、正直普通だ。いや、奇抜よりはいいだろう、うん。

「うん、いい宿だね」
「やっぱあの馬車異常ですよね……これがいい宿です」

エブリンとジェシカの言葉はスルーしておこうと思う。
人の形になったシロニャンを抱きしめてゴロゴロ過ごした。

シロニャンは寝る時人の形、普段はハリネズミで頭の上で落ち着いたようだ。なんでも普段から人の形は密着度が不満らしい。
手を繋ぐだけじゃ物足りない。腕に張り付くのは歩き辛い。かと言って常に抱っこやらおんぶは辛い。と言うか見た目的にあれだ。幼女が幼女をおんぶしてる感じになる。
よって、ハリネズミ状態で頭の上に乗った方が座りがいいらしい。上に乗るわけだから密着度的にもいいようだ。そして寝る時は人の形で一緒に寝る。
まあ、方や《月の魔眼》方や《変化の秘術》で一切動かないが。

◇◇◇◇

日が昇ったら起きて朝ご飯を食べ、5人と1匹で街を練り歩く。
探すのは何よりも食料品だ。それ以外はどうにでもなる。香辛料や野菜、果実だ。できればその産地の情報を手に入れられれば完璧だ。物さえ手に入れれば精霊達がやってくれる。探すとしよう。

今うちで採れる果実は……マスカット、ブドウ、リンゴ、ペルシア(モモ)、ナシ、メロン、レイシ(ライチ)、スンラ(ラ・フランス)、バナナ、アナナス(パイナップル)、ココナッツ……だったか。後ユズもあったな。
香辛料系は塩に砂糖3種、唐辛子だけか。胡椒やオリーブ、醤油は購入している。
さて、何があるだろうか。個人的にはバニラとカカオが欲しいですねぇ? ふと、ココアを飲みたくなる時がね。チョコも欲しいし。ただ、売ってるココアパウダーって調整された物だからねぇ……あれを再現するのは大変そうだ。

「ここらに並んでるのはファーサイス産のようね」
「野菜と言えば基本的にファーサイスですからね」

うーむ。ファーサイスにない物と言えば、気候の違いなどで育てられない物だが、そうなるとマーストで探すのは難しいか。いくら商業国とはいえ、保存の問題があるから鮮度問題がな……。しかもこの世界はでかい。前世の……6番世界である地球の倍だとか言ってたからな。移動手段が馬車で広いから時間がかかる訳で。
そしてこの世界は地上と海の割合が、海寄りだけど大体半々。そして地上の約6割程が未開の地。人類の行動範囲が地上の4割だとしても広さはそれなり。私は当たり前のように使っているが《空間魔法》の時間経過のない"ストレージ"は人類からすれば中々のレア。ゲームで言うならSRぐらいか。転移系はSSRかな。EXとか揃えるならレジェンド……LRかな?
まあつまり、望み薄だ。田舎の村の特産品だったり、そもそも発見されてないとかもあり得る。なんたって地上の6割は魔物の領域だ。海とかもっと頭おかしいからな……。

頭おかしいと言えば、冷静に考えるとキノコ類を最初に食べようと思ったやつも大概よな。あの見た目やぞ。相当勇気いるだろ。まあ、そう言う狂人のおかげでもある訳だが。
ああ、でもこの世界は基本ポップアップで名前ぐらいは教えてくれるからな……《鑑定》のスキルか魔眼があれば食べれるかどうかも分かるし、体張る必要はあんまないか。

野菜とか武装の名前は、この世界の者ならデフォルトでポップアップにより見える。本当に名前だけだが。それ以上は個人の知識やスキルとか魔眼が必要だ。


まあ、キノコの事はどうでもいいとして、目新しい物は特に無いな……。
ファーサイスは年中暖かい、テクノスは年中寒い。マーストとアエストはどっこいどっこい……。
無いと困ると言う訳でもないから、別にいいと言えばいいのだが……正直絶対欲しいと言うやつは《月の魔眼》で本気で探すし。サトウキビと唐辛子は割りと本気だった。

ま、欲しいのが無いならないでしょうがないか……。

「カカオとか無いかしらねぇ……」
「カカオって……チョコレートのあれ?」
「知ってるのか、エブリン」
「チョコレートは王族とか上流階級の一部貴族用だから、こんなところには無いかと……」
「…………」

そう言えば、前世でもチョコは高級品扱いだったな……。工場は無いわけだし、量産は無理か。となると、高級店……露店じゃなくて普通に商店行かなきゃダメか?

「しかも基本的に予約制とかだったような……」
「…………」

ガックシですわ。さらば、ココアとチョコレートアイス……。

「エブリン」
「はい」
「産地は?」
「えっと……」
「ぶっちゃけ完成品よりそっちが目当てよ」
「これから行く東側だと……小国群の中の南の方、確か村の特産品とかなんとか聞いたような……」
「西だと南の方の村でも採れるとか? でもあの村も実は亜人の村から物々交換だとか聞いた気がしますね」
「流石、村々を回っただけあるわね……貴女達」
「ふふん」

エブリンが並の胸を張ってドヤ顔しているがそれはスルーして、カカオの場所はある程度分かったので、《月の魔眼》で探しておこう。

後は特に探さず練り歩くか。

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