2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

90話 「眷属」

「け、眷属…?」

「あぁ、俺様達が使う技は唯の人間には使えないんだよ」

龍族が使う技…あの”風龍魔術”もその一種なんだろうな。 
……ん? って事は龍神剣術を使うディノスも眷属って事か?
ディノスも龍族の村に来た事があるのだろうか。

「そういう事なら、分かりました」

断る理由はないので了承する。
強くなるためにはなんでもやってやろう。

「そうか。 んじゃセレスかグリム、どっちの眷属になる?」

レイニクスが2人に手を向けて言う。
すると、俺が何かを言うより先にセレスが勢いよく立ち上がり、自分の胸を叩く。

「私の眷属になりなさい! 私は聖龍連合のリーダーだし、ルージュの力になりたいの!」

「…有難いけど…いいのか? 血を飲ませるんだぞ?」

血を他人に提供する。 それで思い浮かべるのは献血だ。
献血と言えば注射。 俺は注射が嫌いだ。 小さい頃に注射をした事があるが、号泣した記憶がある。

「それがどうしたの?」

そい言いながらセレスは自分の人差し指の先を片手剣で軽く傷をつける。
するとその傷から血がポタポタと落ちてくる。

マジかよ、俺が昔注射で号泣したのってセレスぐらいの歳の時だったんだけど…

「よし、んじゃセレスで決まりだな。 ルージュ、セレスの血を飲むんだ」

「は、はい」

俺はしゃがんで口を大きく開けると、セレスが俺の口の上に人差し指を持ってくる。
そして、セレスの血が俺の口に数滴入る。
血特有のなんとも言えない味がした直後、俺の心臓の鼓動ががドクンドクンと早くなった。

「うっ…!」

俺は立っていられずに地面に膝をつく。 すると畳み掛けるように身体が熱くなり、手足に
凄まじい痛みがやって来た。

「あ……ああああアァァァッッッ!!!」

身体の内部からくる痛みに耐えられず地面をのたうち回る。

「る、ルージュ君!?」

「ルージュ! どうしたの!?」

セレスとグリムが声を掛けてくるが、喋れる余裕はない。

「大丈夫だ。 これは龍族の血を体内に入れた時に起きる症状だ」

レイニクスが2人に説明する。

…それを先に言えよ…!!
と、文句を言ってやりたかったが、今度は右手の甲が物凄く熱くなってきた。
右手の痛みは全身の痛みとは比べ物にならない程だ。

「あああァァッッ! ああアァァッ!」

今度は右手を抑えて蹲る。 こんな事をしても痛みが引かない事は分かってる。 
だが止める事は出来ない。

「手の甲が熱くなってきたか。 ならもう終わるぞ。 耐えるんだ」

右手が焼けているかのように痛い。
まるで火の中に手を突っ込んでるみたいだ。

だが、レイニクスの言った通り、徐々に痛みが引いていった。 

「はぁ……はぁ…」

痛みが引いた後も、俺は数分動く事が出来なかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数分後、ようやく楽になってきた俺は、地面に座って自分の右手を見てみた。

「…なんだこれ」

なぜ右手だけが焼けているように痛かったのか、今やっと分かった。
刻印だ。 俺の手の甲には、赤い刻印が出来ていたのだ。

だが、俺の刻印はセレスとグリムの物とは違う物だった。

「それは眷属の証だ。 龍族の刻印と眷属の刻印は別物なんだ。 だから刻印を見れば、そいつが龍族か眷属か1発で分かるって訳だ」

「なるほど…」

これで俺も龍族の眷属になったって訳か。
これでやっとスタートラインだ。

俺は勢いよく立ち上がり。

「じゃあ早速龍族の技を教えて下さい!」

と頼みこんだ。 

「いや、今日の修行はここまでだ」

「え!? いや、俺はまだやれます! 」

冗談じゃない。 時間がないんだ、1分1秒でも無駄にしたくない。

だが、そんな俺の頭をレイニクスは強めに叩く。

「馬鹿かお前は。 少しは自分の体を労れ。 修行は明日から本格的にやる」

「でも…!」

「安心しろ。 そんなに急がなくてもお前は絶対に強くなれる」

「………」

拳を強く握り、渋々頷く。
こう言われてしまっては、無理にお願いする訳にはいかない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あの後、俺達はレイニクスの後に続いて洞窟の中を歩いていた。
修行場所の空間から少し歩くと、扉が見えてきた。

洞窟の中に扉があると物凄い違和感がある。

「ここがお前達の部屋だ。 ベッドは丁度3つあるからな」

そう言ってレイニクスは扉を開けると、3つのベッドと、それぞれのベッドの横にランプがあった、壁には四角い穴が空いていて、そこから外を見る事が出来る。

外はもう夕暮れだった。

「俺様は食料を取ってくるから、お前達は休んでろ」

そう言ってレイニクスは俺達を部屋に残して出て行った。

俺達はとりあえず自分が寝るベッドを決め、その上に座る。

「龍化、凄かったわね!」

セレスが目をキラキラさせながら言う。
確かにあれは凄かった。 あれを使えるようになれば全ての技の威力が上がる。

「僕、修行について行けるか心配だなぁ…」

「大丈夫よ! 一緒に頑張りましょ!」

不安そうに呟いたグリムに、セレスは笑顔で言う。

「…うん。 頑張ってみるよ」

そんな2人を見ながら、俺はカノン達の事を考えていた。
予定では今日、ローガは龍族の村の近くの森に滞在するはずだ。

部屋の壁に空いている穴から外を見ると、周りは森に囲まれていて、そして遠くの方に龍族の村が見える。 
この事から、今俺達が居るこの場所が龍族の村から離れているのが分かる。

ーーーーなら、もしかしてこの近くにローガが居るんじゃないか?

そんな考えが、俺の頭をよぎる。
一度考えてしまうと止まらない。

今レイニクスと一緒に行けば助けられるんじゃないか?
別に7日後を待たなくても、今行けば…

「わぁ! 綺麗な景色ね!」

いつの間にか隣に来ていたセレスの言葉で、俺は考えるのを止める。

俺は馬鹿か。 何の為に今この場所に居るのかを考えろ。 
強くなる為だろ。 強くなって、ローガを倒して、カノン達を助ける為にここに居るんだ。

助けてもらう為じゃない。 ローガを倒すのは俺だ。 これだけは、他人に頼っちゃダメな事なんだ。

「はぁ……本当に馬鹿だな俺は」

「急にどうしたの?」

セレスが首を傾げて聞いてくる。

「いや、何でもない。 3人で絶対に強くなろうな」

俺がそう言うと、セレスとグリムは笑顔で頷いた。

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