2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

64話 「サタンクロス、爆誕」

夕飯を食べ終えた俺は、部屋に戻り、ひたすら魔術の本を見ていた。

これは誕生日にフローラから貰った本だ、最近はテスト勉強で見る暇が無かったからな…

この本には初級魔法から中級魔法まで書いている。

今日貴族の家に浸入する身として、1つでも多く魔法を覚えておきたいのだ。

「浸入に最適な魔法は……お、いいのあるじゃないか」

それは風魔法の、消音サイレントと呼ばれる魔法だった。

ランクは中級、初級魔法と中級魔法では覚える辛さが全然違う。

だがそんな事は言ってられない。

俺は今日の11時頃に剣魔学園を出て、レガープ家に浸入する。
今は8時だから、あと3時間しかない。

日にちをずらすという手もあるが、一刻も早く解決させて、生物研究部を元に戻してやりたい。

「…消音サイレントとは、自分の足の裏に微量の風を発生させ、歩く際に出る音を消す魔法である。 ……なるほど、風加速ウインド・アクセルの制御版って感じか」

風加速は地面から足が離れる直前に足の裏に突風を発生させ、強制的に足を早く動かす魔法だ。

俺的には自分で作った魔術の中では1番使える魔術だ。

「やり方さえ分かればあとは簡単だな…」

俺は説明の通りに足の裏に微量の風を発生させた。 
コツが掴めていたから簡単に出来たが、コツが掴めていなければ多分本来はこんなに上手くいかないんだろう。 

足の裏に風を発生させたまま、少し歩いてみた。

だが……

「自分じゃよく分からないな……よし」

自分じゃ足音が消えているかよく分からなかった。

なので部屋を出て隣の扉を叩き…

「クリスー、ちょっといいかー?」

「なんだ? ルージュ」

クリスに部屋に入れて貰った。

「ちょっと新しい魔術を試したいんだ。 足音を消す魔術なんだけど、本当に足音が消えてるか聞いてほしい」

消音サイレントか、それぐらいなら、別にいいぞ」

「サンキュー、んじゃ、いくぞ」

俺はクリスの前で足の裏に風を発生させ、足踏みしてみた。

「……どうだ?」

「うん、足音聞こえなかったぞ、成功じゃないか?」

「よっしゃあ!」

この魔法を覚えたのはデカイぞ、まさか1分もかからずに中級魔法を覚えられるとは思わなかったが…

「だが、消音なんて何に使うんだ?」

「いやぁ……覚えといて損はないかなと思ってさ。 特に理由はないよ、ありがとな!」

俺は逃げるようにクリスの部屋をでた。

自室に戻った俺は、サンタクロースの服を出し、早速着てみた。

「…サイズは大丈夫そうだな。 それにしても、異世界でサンタクロースの服を着る事になるとはなぁ…」

次に骸骨型のハーフマスクを着け、ついでにサービスで貰ったネックレスも着けた。

最後に最近テスト勉強ばかりだったので一度も触ってなかった片手剣を背中に差した。

そして自分の姿を鏡で見てみた。

ふむ……

「サンタクロースが骸骨のマスクして剣を持ってる……怖すぎるだろ…」

ホラー映画なんかに出て来たらトラウマになるレベルだ。

これは今回限りでお蔵入りにしよう。

そう心に決め、寮を出る時間までゆっくり過ごした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……時間だな」

夜の11時、寮の消灯時間で、外出が禁止になる時間だ。

寮の入り口には常に見張りが立っている事は知っている。

だから部屋の窓からこっそりと外に出た。

「……早速使うぞ、消音サイレント…!」

覚えたての消音を使い、剣魔学園校門を目指して静かに歩く。

見張りに見つからないように慎重に歩いていたため、時間がかかったが、ようやく校門の近くに着いた。

だが…

「……見張りが居ないわけないもんなぁ…」

寮の入り口に見張りが居て、校門に見張りが居ないわけがない。

分かっては居たが、予想以上に数が多い。

見張りはなんと5人も居た、あれじゃあ見つからずに校門を抜けるのは不可能だ。

「……バレなきゃ心配ない…! 突風ウィンド…!」

校門から離れ、剣魔学園の周りにある壁の近くで、地面に突風を撃つ。

それにより俺の身体は上に飛び上がる。

「よっし、とりあえずは脱出成功!」

壁を超えて剣魔学園の外に出れた。
あとはレガープ家に行くだけだ。

「待ってろよハーネス。 悪魔サタンクロスが絶望をプレゼントしに行ってやる…!」

俺は屋根を伝って王城近くのレガープ家へと向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「確か見張りが居るんだよな…」

レガープ家の近くに着き、俺は侵入の計画を立てていた。

見張りが居るなら正面から行くのは無理だ。

しかもハーネスが居るのは最上階の三階。 三階に行くまで他の見張りに見つからないわけがない。

ならば……

「直接三階のハーネスの部屋に侵入だ」

幸いレガープ家の塀は剣魔学園の壁よりも低い。

先程のように突風で壁を超え、レガープ家の敷地内に入る。

「…おぉ…今考えたらこれバレたらかなりマズイよな……逮捕どころじゃない…」

だがバレなきゃ犯罪じゃない。 

レガープ家の庭には見張りは1人もいなかったのでスムーズに建物の近くに行けた。

やはり貴族のランクによって見張りの数も変わるんだろう。

「…ちょうどこの上か。 突風…!」

今日は突風が大活躍だ。

ハーネスの部屋のベランダに立ち、窓を触る。

まぁ当たり前だが鍵がかかっている。

だがこの世界にはセキュリティセンサーなんて物はない。

石弾ロック・シュート

だから窓を割っても警報が鳴る事もないから誰にも気づかれない。

「ん……? な、なんだ…⁉︎」

…部屋の主以外にはな。

「初めまして、ハーネス様。 私は悪魔サタンクロスと申します」

「誰だお前…! い、今すぐに見張りを…! ……ひぃっ…!」

今にも叫び出しそうなハーネスの顔に、片手剣の先端を向ける。

ハーネスは恐怖で顔が歪んでいる。

「叫ばない方がいいですよ。 怪我をしたくなければね」

「…わ、分かった…」

ハーネスは涙目になりながら頷いた。

…なんか貴族の家なのに簡単に侵入出来ちゃったな…

「な、何が目的だ…? 金か? 金ならいくらでも…」

「いらない」

「なっ…⁉︎」

「おれ……じゃない…。 私がここに来た目的、それは、あなたの犯した罪について、お話したいと思いましてね」

「罪だと…?」

目を見開いてハーネスが聞き返してくる。

どうやら自分が罪を犯しているという事は自覚しているらしい。

なら容赦はしなくていい。

「そう。 ベリフィア、この名前に覚えはありますか?」

「…………」

「覚えは、ありますか?」

答えなかったので今度は剣を突きつけて聞く。

すると…

「あ、ある! あるから…やめてくれ…!」

「あなたの罪については全て分かってます。 ベリフィアを何も知らない一般人に持たせ、何らかの方法でベリフィアを一般人が持っている時に破壊。
そしてベリフィアを持っていた一般人に弁償させる。 あってますか?」

ハーネスはゆっくりと首を縦に振った。

今すぐにでも殴りたくなったが、拳を握り耐える。

「なぜ、そんな事をしたんですか? あなたは貴族だ、金はあるはずでしょう?」

「……足りないんだよ」

「足りない…金がですか?」

「そうだ。 金が足りない、勿論、生活をする分には困らない、むしろ満足する程金はある。 
だが、レガープ家のランクを上げるには金がまだまだ足りないんだよ! お父様がそう言ってたんだ!」

つばを撒き散らしながら、ハーネスが言う。

貴族のシステムは分からないが、どうやら貴族は金を持ってないとランクアップが出来ないらしい。

「ランク…それを上げてどうなるんですか?」

「レガープ家の名がより有名なものになる」

「……は?」

それだけか? それだけの為に、サラの大切な場所を奪ったのかこいつは。

「……氷結フリーズ…」

「むぐっ…⁉︎」

氷結でハーネスの口を凍らせ、喋れなくする。

そして……

「まずは右足」

「んんんー!」

次に右足の下から氷結で凍らせていく。

膝まで凍らせた後…

「左足」

左足も同じく膝まで凍らせる。

「このまま一気にあなたの身体を全て凍らせる事も可能ですが、凍らせてもよろしいですか?」

「んー! んー‼︎」

ハーネスは必死に顔を横に振る。

俺としては問答無用で凍らせてもいいのだが…

「なら、約束をしてほしい。 明日、あなたが騙した人全てに謝罪し、騙し取った金を全て返却して下さい」

「……‼︎」

「返事は? 「はい」か「いいえ」か、どっちですか」

そう言うと、ハーネスはゆっくりと首を縦に振った。

「それは良かった。 じゃあ明日、学校を休んででも全ての人に謝罪してくださいね。
もし明日謝罪をしなかったら…」

ハーネスの方に右手を向け…

光矢フォトン・アロー

光矢をハーネスの顔のすぐ横に突き刺す。

「私はいつもあなたを見ています。 もし明日謝罪をしなかったら、これがあなたを貫く事になるでしょう」

俺はそう言って窓の方へ歩いて行った。

「んー⁉︎ んー!」

「あぁ、口ですか? 叫ばれたら怖いので、誰かが来るまで我慢しててくださいね」

ハーネスの氷を溶かさずに、俺はハーネスの部屋を出て、来た道と同じ道を通って剣魔学園へ帰った。


「悪魔サタンクロス、任務完了」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品