2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

56話 「休日の料理対決」

今日は休日。 セレナ達と遊ぶ日だ。

俺は今待ち合わせ場所である花畑のベンチに座っている。
時刻は9時30分、ちょっと早く来すぎたか?

いや、遅れたら何言われるか分からないしな。

「………暇だなぁ…」

「ん? あれ、ルージュ君?」

「ん……? あっ…」

俺に話しかけて来た人物、それは、生物研究部部長のシルフィだ。

「ルージュ君もお出掛け? その服可愛いね!」

「別に普通だと思うんですけど…」

今の俺の服装はシンプルだ。

茶色の7分丈のズボンに灰色のTシャツだ、普通のはずだ。

「いやぁ〜、制服しか見たことなかったけど、可愛い子には何着せても可愛いんだね! 」

「はあ…どうも。 シルフィさんも服、似合ってますよ 」

シルフィは青のロングスカートに白の服を着ている、清楚系の服装だ。

俺の言葉にシルフィは笑顔のまま。

「ふふ…ありがと」

とだけ言ってきた。

そうだ、せっかくあったんだから入部の事言わないとな。

「シルフィさん、入部の件なんですけど…」

俺がそう言うと、シルフィは慌てて手を振り…

「あっ…いいよいいよ気にしなくて! ごめんね気を使わせちゃって!」

「……はい?」

何言ってるんだこの人は。

「流石にしつこ過ぎたよね! 私達別に怒ったりしてないから!」

「あの…何言ってるんですか? 俺は入部するのが遅れるって言いたかったんですけど…」

「え…?」

一体この人は何を言ってるんだ? 

「あ、あれ? 入部してくれるの?」

「当たり前じゃないですか」

「だ、だって昨日部室に来なかったから…てっきり逃げる為に入部するって嘘ついたのかと…」

「そ、そんなことしませんよ」

この人には俺がそんな鬼畜野郎に見えてるのか…?

あの状況で嘘つくとか絶対出来ないぞ。

「じゃあ…なんで昨日部室に来なかったの?」

……もう言うしかないか。 また勘違いされたら困るしな。

「実は、来週のテストが終わるまで入部は認めないって言われたんですよ」

「えっ、そうなの⁉︎ あ、でも来週なら大丈夫だね。 部活の期限は再来週までだから」

「そ、そうなんですけど……赤点取ったら補習が終わるまでダメらしいんですよね」

「……もしかして、ルージュ君って勉強苦手?」

「はい…赤点だけは絶対取らないように頑張ります」

「なんか……ごめんね」

期待させたのはこっちだしな。 あのシルエットの件もあるし、赤点だけは絶対に取っちゃダメだ。

「それじゃ、この話は終わりにして、ルージュ君は今日何する予定なの? まさかデート⁉︎」

「違いますよ! クラスメイトと遊ぶんです、何するかは教えてもらえなかったけど……そう言うシルフィさんはデートですか?」

「違うよ! ただ服を買いに行くだけだよ!」

そう言うとシルフィは花畑にある時計を見て…

「あ、もう10時になるね。 じゃあ私は行くね、テスト頑張ってね!」

「はい。 お気をつけて」

「は〜い」

気の抜けるような返事をしながらシルフィは校門の方へ向かっていった。

さて…今は9時55分。 セレナ達遅いな。

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「………遅過ぎないか?」

時刻は10時30分。 集合時間をとっくに過ぎている。

あれ? まさかのドタキャン…?

「あ、ルージュ‼︎」

やっと来たか。

「ご、ごめんね! 準備に時間かかっちゃって…」

「いや、大丈夫だけど…アリスとフィリアは?」

来たのはセレナだけで、アリスとフィリアは居なかった。

「2人はまだ準備してるよ、私はルージュを呼びに来ただけ」

「準備…? 出掛けるんじゃないのか?」

「え? 違うよ? 今から案内するからついて来て!」

なんだ、待ち合わせするくらいだから出掛けるのかと思ったが違うのか。

ついて来て、と言われたので、断らずについて行く事にした。

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「……なぁ、なんで校舎の中に来るんだ? 」

「まぁまぁ、もう少しで分かるから」

今俺達が居るのは初等部校舎、なぜ休日まで学校に来なければ行けないのか。

セレナは教室へは行かず、迷わず二階へ上がり、そのまま歩き続けた。

「ついた! ここだよ」

「ここは……」

そこには、「家庭科室」と書かれた教室があった。

……なんで家庭科? 

セレナが扉を開けると…

「あっ、おはようございます! ルージュさん」

「………おはよ」

エプロンを着けたアリスとフィリアが居た。

 アリスが白いフリルついたエプロン、フィリアが何もついて居ない白いエプロンだ。

「えっと…訳が分からないんだけど…」

「ふふふ…もう教えてあげる、今日はね、私達3人で料理対決をする事になってるの!」

セレナは青いエプロンを着けながら言った。

「料理対決?」

「うん! でもね、肝心の審査員が居ないから…」

「ルージュさんにお願いしたと言う訳です」

「あんたはただ私達の料理を食べて、どれが美味しかったか言ってくれるだけでいいわよ」

「なるほどね」

この3人がどれくらい料理が上手いか分からないが、料理が食べれるのはありがたい。

だから腹は空かせておけと言っていたのか。

「じゃあ早速料理を始めようか!」

セレナがそう言うと、3人は各々で食材を取り出した。

「制限時間は12時までです!」

今は10時40分、残り1時間とちょっとか。

セレナ達はそれぞれ料理を始めた。

俺はそれをずっと観察していた。

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まずセレナだ。

セレナは…正直1番不安だった。

アリスやフィリアは分からないが、セレナが料理をしているところを俺は見た事がない。

だが……

「……手際いいな」

テキパキと料理をしていた。

セレナはボールに卵を入れ、それを混ぜていた。
そしてボールの中に何やら調味料などをバンバン入れていた。

「セレナは何を作るつもりなんだ?」

「ん? まだ内緒!」

そう言うと、セレナは鍋を出し、温め始めた。

その間にセレナ4つのカップを取り出し、それに先ほど作った卵生地を流し込んだ。

……まだ何を作ってるか分からない。

だが、手際がいいので期待だな。

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次はアリスだ。

アリスは肉を取り出し、フライパンで肉を焼いていた。

そのフライパンで肉を焼いている間、アリスは様々な野菜を切っていた。

「何作ってるんだ?」

「秘密です!」

アリスも手際いいな。 まぁ…なんとなく料理出来そうなイメージはあったしな。

ていうかなんでも出来そうなイメージだ。

野菜を切るのも危なげないし。

野菜を全て切った後、焼いている肉をひっくり返し、また焼き始めた。

何を作ってるか分からないが、これは期待だな。


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次はフィリア。

フィリアは魚料理だ。

なんの魚か分からないが、今はその魚の鱗を取っている。

その様子は宛ら職人のようだ。

「フィリアは何を作るつもりなんだ?」

まぁ、また秘密やら内緒やら言われると思うけどな。

「……………」

え、無視⁉︎ 

反応せずにただただ無言で魚の鱗を取っている。
久々にフィリアに無視されたな…

「……まぁ見てなさい」

フィリアはそう言うと、フィリアは鱗を取り終わった魚を物凄いスピードで切り始めた。

この場合は切るじゃなくて捌くって言った方がいいのか?

あっと言う間に魚を大きめに切り終わると、フィリアはフライパンを温め始めた。

3人とも火を使う料理か。

魚料理…期待だな。

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あれから3人は料理を続け、今は11時30分だ。
最初の方は3人の事を見ていたが、もう仕上げに入っているため、俺は自主勉をしていた。
料理対決の後に4人で勉強する事になっているが、時間は有意義に使わないとな。

「えっと……複数の属性魔術を合わせ、違う属性の魔術にする事をなんと言うか…。 複合魔術だな」

そう言いながら答えを見る。
そこには複合魔術と書いていた。

「よし、当たり」

もう剣術基礎と魔術基礎ら完璧だな。

武術基礎と古代文字も大体分かるようになって来たし、勉強の成果はあったな。

俺はそのまま、3人の料理が出来るまで勉強を続けた。

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「出来た!」

「出来ました!」

「出来たわ」

3人が同時にそう言い、俺は勉強を止める。

「誰のから食べればいいんだ?」

俺がそう言うと、3人はジャンケンを始めた。

そして、負けたらしいフィリアが皿を持って来た。

「はい、どうぞ」

「……これは?」

「ソテー? と言うものらしいわ。 この前お店で見て、見よう見まねで作ってるみたのよ」

見よう見まねでこのクオリティかよ。

味はどうなのか…

「んじゃ、いただきます」

俺はナイフで切り、フォークでソテーを食べた。

え、美味っ…なんだこれは…高級魚か何かか?

「……ど、どうかしら? やっぱり美味しくない?」

俺が無言だったので、不安げにフィリアがそう聞いて来た。

「いや…美味すぎてビックリしたんだ。 これはどんな高級魚を使ったんだ?」

「こ、高級魚?」

フィリアが首を傾げながら聞き返して来た。

あれ? このパターンは…

「これ、高級魚でも何でもないわよ? ブルーアイズフィッシュっていう普通の魚よ」

やっぱり…普通の魚でこんなに美味いんなら、高級魚はどんだけ美味いんだよ。

その後もよく味わいながらブルーアイズフィッシュのソテーを食べ終える。

「ご馳走様でした」

「はい、どうも」

フィリアが空になった俺の皿を取り、洗いに行く。

「あ、洗うくらい後で俺がやるぞ?」

「いいわよ別に」

フィリアは流し台に皿を置くと、次はアリスが皿を出して来た。

アリスのは肉料理だ。

「一角イノシシのサイコロステーキと、山菜のスープです。 お召し上がり下さい」

「お、おう…いただきます」

なんか高級料理店に来たみたいだな。

イノシシか、食べた事ないな。

サイコロステーキは食べやすいように一口サイズになっていて、ちゃんと食べる人の事を考えてくれてるのが分かる。

サイコロステーキを食べてみると…

これも美味かった。 魚とはまた違う食感と旨味があり、魚には魚の、肉には肉の美味さがある事を分からされた。

「どうでしょうか?」

「美味いぞ、イノシシは食べた事なかったが、毎日食べたいくらいだ」

「ありがとうございます」

アリスは笑顔でお礼を言って来た。

お礼を言いたいのはこっちだけどな。

野菜のスープも暖かくてとても美味かった。

「ご馳走様でした」

「はい!」

「じゃあ最後に私だね! はい、どうぞ」

フィリアは魚料理、アリスは肉料理と来て、セレナは何を作ったのか。

そう思いながら見てみると…

「え…プリン?」

「わ、よく分かったねルージュ! 食べた事あったの?」

「え? いや…」

この世界にもプリンがあったのか…? 
甘いもの好きの俺はプリンが大好物だ。

「王都に来てから初めてプリンの事を知ってね、作ってみようと思ったんだ!」

なるほど…ドーラ村ではプリンの事は知られてないのか、なら俺が知らなかったのも当たり前だな。

それにしてもプリンよ…また会えるとは思わなかったぞ。

「でもルージュ、よく一目でプリンって分かったね」

「あ、あー……実は俺も王都で初めてプリンを見てさ、ずっと食べたいなーと思ってたんだよ」

「なるほどね! ルージュ甘い物大好きだもんね!」

セレナは俺が甘い物好きなのを知っている。 だから今回スイーツをチョイスしたのか? 
だとしたらナイスすぎるぞセレナ!

「いただきます!」

久しぶりのプリンだ。

スイーツ用のスプーンでプリンを掬う。

おぉ……プリン独特のこのプリンプリンとした感触…これは正にプリンだ!

そのままプリンを口に入れると…

「………うぅ…」

「え、ルージュ⁉︎」

「どうしました⁉︎」

涙が出て来てしまった。

これはプリン、日本にいた時のプリンと同じ味がした。

この味が懐かしすぎて、つい感動してしまったのだ。

「いや…美味すぎてな…」

「い、いつでも作ってあげるから! 泣かないで!」

「ほ、本当か⁉︎」

マジか⁉︎ いつでもプリンが食べれるのか⁉︎ 

なら俺どんなことでも出来ちゃうぞ!

その後もよく、よーく味わいながらプリンを食べ終えた。

「あぁ…終わってしまった…俺の天国プリンタイムが…」

「あー…はい、これも食べていいよ」

プリンを食べ終えたことに後悔していると、俺の前にまた新たなプリンが現れた。

あぁ、そういえばセレナはカップを4つ使ってたな。

「でもこれセレナのだろ?」

「私はいつでも作れるから、ルージュ食べていいよ?」

それは…本当にありがたい。 

ありがたいが……プリン愛好家として、それは絶対に出来ない。

「1つ、プリンはよく味わって食べる事。
 2つ、プリンに感謝しながら食べる事」

「る、ルージュ?」

「3つ、人のプリンは絶対に取らない事。
これが、プリンを愛する者達の掟だ 」

まぁ、者達って言っても俺しか居ないけどな。

「だからセレナのプリンは受け取らない。 プリンの美味しさをより多くの人に知ってもらいたいんだ」

「……よく分からないけど…本当にいいの?」

「あぁ、構わん」

そう言うと、セレナは残ったプリンをアリスとフィリアに渡し、プリンを食べ始めた。

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「さて、では料理対決の勝者を決めましょうか!」

「まぁ…勝者は分かりきってるけどね」

フィリアが諦めたように言う。

「ははは…」

セレナも苦笑いだ。

「よし、んじゃ勝者を言うぞ。 最初に…フィリアのブルーアイズフィッシュのソテーも、アリスの一角イノシシのサイコロステーキも、めっちゃ美味かった。 どっちも金払ってでも食べに行きたい一品だった」

「あ、ありがとうございます…」

「どうも…」

「だが…プリンを出されちゃな…やっぱり好物には勝てなかった。 と言うわけで、勝者はセレナのプリンだ!」

「やったー!」

「まさかルージュさんが甘い物好きだったとは思いませんでした…」

「幼馴染だからこその勝利ってわけね」

料理対決は、セレナの勝利で幕を閉じた。


やはり、どんな美味い料理を出されても、どんな高級な料理を出されても、結局は自分な好物が1番なのだ。

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