2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

46話 「半端な強さ」

今日は剣魔学園に入学してから3日目、昨日は魔術の授業だけだったが、今日は剣術と実践的な訓練をやるらしい。

……そして、今日はモーナとの戦闘がある。

俺の自業自得とは言え、ぶっちゃけやりたくない。
しかも負けたら罰と来た、いったいどんな罰なんだろうか……

「………おはよう」

俺は下がりきったテンションのまま教室の扉を開けた。

「おはようございます、ルージュさん。 眠そうですね?」

俺が剣を机の横に置き、席につくと、アリスがそう言ってくる。

そう、俺はあまり眠れてないのだ。

夜中の2時までは闇属性について考えていた、そしてやっと眠ろうと目を閉じた時、また声が聞こえてきたのだ。

向こうの奴らが話しかけてきた、「お前は異物だ」だのなんだのと……

おかげで一睡も出来なかった。

剣魔学園に来るまではこんな事一度もなかったのに、どうしてだろうか。

「あぁ…一睡も出来なかったよ…」

「え⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎」

「眠ろうとしても眠れなかったんだ…ところで、今いるのはアリスだけか?」

今はまだ7時という事もあり、教室にはアリスしかいなかった。

人が集まりだすのは大体7時30分くらいからだろう。

「はい、セレナさんもフィリアさんもまだ眠っていましたから」

「そうか…もしかしてアリスも眠れなかったのか?」

「いいえ、私はいつも6時には起きていますので」

「早起きだな」

やっぱり育ちがいいのだろうか、しっかりしすぎている。

「あ、そういえばルージュさん、今日って……」

「モーナ先生との戦闘だろ?」

「はい、その…」

アリスは言いづらそうに下を向く。

…なんだ?

「が、頑張って下さいね! 応援してますので!」

急に顔を上げたと思うと、少し顔を赤くして、拳をグッと握ってそう言ってきた。

「………」

「あ、あれ? ルージュさん?」

「……天使か」

「はい?」

何この子。 優しいし気が使えるし優しいし可愛いし優しいし何この子……

天使か。

「アリス様と呼ばせてくれ」

「えぇ⁉︎」

こんな人を呼び捨てにするなんて出来ない、崇めるべきだ。

タメ口で話すのもおこがましい。

「きゅ、急になんですか⁉︎」

「あなたの優しさに感動しました。 是非アリス様と呼ばせて下さい」

「嫌ですよ! やめて下さい!」

「そんな…! 」

「なに馬鹿みたいな事してるのよ」

俺とアリスが話していると、教室の扉が開き、フィリアが入ってきた。

「廊下まであんたの声聞こえてたわよ?」

「そんな事はどうでもいい! 今はアリス様の優しさについてだな…」

「お願いですからもうやめて下さいっ‼︎」

「はぁ…馬鹿馬鹿しい…」

俺の言葉にアリスは顔を真っ赤にして抗議し、フィリアは溜息をついて呆れた。

んー…ちょっとからかいすぎたか?

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あれから3人で軽く話しをした。

もちろんアリスをからかうのはやめた。

するとどんどん教室に人が増えてきて、セレナも登校してきて今は一緒に話している。

「それにしても、クリス遅いねー」

「だな、珍しい」

時刻は7時45分。

8時にはモーナが来る為、もう遅刻寸前だ。

アリス同様しっかり者であるクリスにしては珍しい。

……いや、まさか…

「ルージュさん? どうしました?」

俺の変化に気づいたのか、アリスが効いて来る。

「いや、クレア…クリスの妹が言ってたんだが、クリスは寝たらなかなか起きないらしい」

俺の言葉に皆絶句する。

今まで忘れていた。

って事はクリスは今も寝ている可能性がある…

「…ちょっと起こしに行ってくる」

「えっ、大丈夫? ルージュまで遅刻しない?」

「大丈夫だ。 猛ダッシュすればきっと大丈夫なはずだ」

「……その必要は無いみたいよ」

「ん?」

突然のフィリアの言葉に俺は疑問を抱く。

どういう事だ? と思っていると、教室の扉が勢いよく開いた。

「はぁ…はぁ…ま、間に合ったようだな…」

そこには息を切らしたクリスがいた。

「クリス! 」

「すまない…寝坊した」

「遅刻しなくてよかったね!」

「フィリア、なんでクリスが来るって分かったんだ?」

「廊下から足音が聞こえたからよ」

足音なんか聞こえたか…?

話し声に混じって一切聞こえなかったと思うが…

にしても、間に合ってよかった。

それからはクリスも交えいろいろと話をしていた。

「皆いるな」

8時ぴったりに教室の扉が開き、モーナが入って来る。

モーナが来たことにより、皆が一斉に静かになる。

「今日は剣術と実践的な訓練をやる。 自分の剣がある奴も授業の時は木刀を使え、木刀は全員分ある」

なんだ、自分の剣は使っちゃダメなのか。

まぁ、怪我させたら大変だもんな。

「では今から闘技場へ向かう。 場所がわからない奴が多いだろうから一緒に行くぞ。 迷った奴は…知らん」

そう言うとモーナは教室を出て行った。

すると教室にいた全員が立ち上がり、教室を出て行った。

だがモーナが向かった先は外ではなかった。

「まずは動きやすい格好に着替えてもらう」

俺たちの前には2つの扉があった。

1つは男子更衣室と書かれて居て、片方は女子更衣室と書かれていた。

俺たちはそこで学校指定の服装に着替えた。

因みに服の特徴は、上下黒のジャージだった。

この世界にもジャージってあるんだな。
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モーナについて行き、闘技場についた。

アリス達と戦闘した闘技場だ。 やっぱり広いな、50人が入っても狭いと感じないとは…

「よし、皆木刀は持ったな」

皆備え付けの木刀を持っている。

木刀を持つとディノスとの特訓の日々を思い出す。

「では2人組を作って打ち合いをしろ」

えっ⁉︎ これは…俺のトラウマの1つ…「はい2人組み作ってー」…だと…?

友達がいなかった俺にとってこれは地獄でしかなかった。

周りの奴らが次々とペアを作って行く中、俺はオロオロするしかなかった。

ふふ…だが今は違うぞ、なんたって今はクリスがいるからな。 あーペアを組む人がいるって最高だな‼︎

「クリス、一緒に……」

「クリスさん! 私とペア組みませんか⁉︎」

俺がクリスを誘おうとしたら、見知らぬ女子がクリスに話しかけた。

だ、誰だこの人は…

「ん? 君は…?」

どうやらクリスも知らないみたいだ。

「あ、私ナーシャと言います! 自己紹介の時からずっとクリスさんとお話ししたいと思ってたんです!」

「そ、そうか。 いいよ、組もうか」

「あ、ありがとうございます‼︎」

そう言うとクリスはナーシャと一緒に歩いて行った。

え……え…?

何これ…誰だよナーシャさん! 

まさか友達が出来てもこうなるとは思わなかった…

まずいぞ…どうしよう。

「あ、あの…」

「……ん?」

振り向くと、そこにはアリスが立っていた。

なんだ?

「もしよければ、私とペア組みませんか?」

「…‼︎ い、いいのか…⁉︎」

「はい、ジャンケンで負けてしまって…余ってしまったので、もしよければですけど…」

「……ア…」

「ア…?」

「アリス様ぁぁぁぁっ‼︎」

「ま、またですか⁉︎」

俺は膝をつき、アリスの手を握った。

なんと慈悲深い。 まさに天使…いや、女神だ‼︎

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「よし、ペアを組んだな。 では適当に打ち合いをしろ。 当然だが魔術は無しだ、剣だけでやれ」

ぶつからないように他のペアとの距離を開け、打ち合いを開始した。

「ルージュさんと剣で戦うのは初めてですね」

「そうだな、前は魔術対決だったもんな」

「負けませんよ…!」

「こっちこそだ! 行くぞ!」

そう言うと、俺はアリスに突進した。

風加速は使えないので、いつもより全然遅い。

「ふんっ!」

俺は思い切りアリスに剣を振り下ろした。

だが、そこにはもうアリスは居なかった。

「あ、あれ…?」

「こっちですよ!」

右側から声が聞こえ、俺の右脇腹に衝撃がきた。

俺はそのまま地面を転がる。

「は、速すぎないか…?」

「速くないですよ、ただ足の動かし方を工夫しただけです」

なるほど…剣術はそんな事もするのか。

いつもがむしゃらに剣を振ってたから分からなかった。

「なら…! ファイアー…‼︎」

「えぇっ⁉︎」

「あっ」

そうだ、魔術は使っちゃいけないんだ。

距離が離れたら魔術を使うというのが身体に染み込んでしまってるらしい。

危なかった。 もし魔術を使ってたらモーナになんて言われてたか…

「悪い、魔術ダメなの忘れてた」

「ビックリしました…気を取り直して、行きます!」

今度はアリスが突進してくる。

しかもただ真っ直ぐ来るわけではなく、左右に動きながら来ているため、分かりづらい。

「はあぁっ!」

「くっ…!」

次は左側から斬られた。 よろめいていると…

「まだまだです!」

アリスが剣でラッシュをかけてきた。

俺はそれを剣で防ぎながら下がる事しか出来なかった。

「くっ…この!」

俺は気合でアリスの剣を避け、アリスに向かって剣を振り下ろそうとした。

だが、アリスは既に次の動作に入っていた。

アリスは木刀を居合斬りのように腰の所に持って行き。

「遅いです‼︎」

そのまま俺の腹を斬った。

俺はそれにより勢いよく後ろに飛ばされてしまった。

地面を転がり、やっと止まったかと思うと…

「そこまでだ!」

モーナの声が響き渡った。

闘技場の時計を見ると、もう11時だった。

どうやら結構な時間打ち合いをしていたらしい。

…それにしても、全く歯が立たなかった。

魔術がないと俺はこんなに弱いのか、考えてみれば、俺の戦闘には全て魔術が絡んでいる。

移動手段に魔術、敵を騙すのに魔術、剣には常に魔術を纏わせ…

剣術は半端で、魔術に頼りきっている。

今のままではダメだ。 魔術なしでも戦えるようにならないと…

「ルージュさん、大丈夫ですか?」

アリスが地面に座っている俺に手を差し伸べて来る。

「あぁ、アリスは強いな」

俺はアリスの手を取り、立ち上がる。

アリスは剣術も魔術も強い。 

セレナとクリスは魔術が強い。

フィリアは剣術が強い。

この中で1番バランスがいいのは間違いなくアリスだ。

俺は魔術だけで、剣術は下の中くらいだろう。

もっと頑張らないと…

「では、次はルージュ・アルカディア。 やるぞ」

来た…。

モーナとの戦闘だ。

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