2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

21話 「ディノスとの別れ」

「さて、王都に戻ってきたぞ」

俺達はディノスと共に徒歩で王都へ戻った。

幸い、俺達が居た森は王都からそう遠くはなかったため、徒歩でも充分だったのだ。

「そういえば父さん、なんで俺達があの森に居るって分かったの?」

「あぁ、それはな。 ルージュがはぐれてすぐ探したんだが、中々見つからなくてな、明らかにおかしいと思って聞き込みをしたんだ」

「なるほど」

それで見つけたって事か、にしても運が良かったとしか言えないな。

「そうだ、アリス達はどうするんだ? 親の場所とか分かるのか?」

俺は後ろを振り返り、言う。

王都についたから、はいサヨナラ、ではいくらなんでも酷すぎる。

せめて、親の場所まで届けてやらないとな。

「私の親は王都にはいませんよ?」

「僕達の親もいない」

……は? 
なんでだ? まさか家出か⁉︎

「って事は、君達も入学するのか」

ディノスがアリス達に聞く。

入学? 入学って……え?

「君達”も”って事は、ルージュさんも剣魔学園へ入学するんですか⁉︎」

「驚いたな」

まさかこいつらも入学するとはな、なら王都に親がいないのも納得だ。

「あれ? じゃあクレアは? クレアはどうすんだ?」

「実は王都には僕の親戚が居てね、その人に預かってもらうことになってるよ」

「なるほどな」

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王都に入って少し歩いた所で、クリスが歩きを止めた。

「ん? クリスどうした?」

「僕の親戚の家がすぐそこなんだ、だから僕はここで別れるよ」

「そ、そうか…」

どうやらクリスとはここでお別れらしい。

なんか悲しいな、剣魔学園に入学すればいつでも会えるのに。

そう思っていると、クリスが突然手を前に出してきた。

「ルージュ、君のおかげで僕達は助かった。 僕が迷った時、君の説得がなければ、僕はどうなっていたか分からない」

「……そんなことねぇよ」

俺は許せなかっただけだ、フロウの考えが。

その結果、クリスに怪我を負わせ、クレアに怖い思いをさせてしまった。

感謝される資格はない。

「いいや、君のおかげだ。 だから、君は僕の目標だ」

「……は?」

も、目標? 

俺が?

クリスはそう言うと俺の手を強引に掴み、握手をした。

「君も剣魔学園に入るんだろう? 好都合だ、そこで僕は、絶対に君を超える」

お、おう……

クリスって意外と熱い男なのか?

「だからお願いだ、今度、僕と手合わせしてほしい」

「手合わせ?」

「あぁ、まだ君には敵わないが、いつかは君を倒してみせる」

「……分かった、今度手合わせしよう。 約束だ」

そう言って俺は手に力を込める。

なんか…いいな、こういうの。

ずっと、こういうのに憧れてたんだ。

「ルージュお兄ちゃん! また会おうね!」

「おう、元気でな」

「うん!」

クレアは笑顔で言う。

クレアも随分と俺になついてくれた。

王都に来る途中、強引に俺と手を繋ごうとして、クリスが寂しそうにしてたな。

「では、ルージュ、アリス、また会おう。 ディノスさん、今回はありがとうございました」

「あぁ、クリス君。これからもルージュと仲良くしてやってくれ」

「もちろんです」

そう言って、クリスはクレアと手を繋いで去って行った。

次に会うのは入学式か…

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クリスと別れて数分後、今度はアリスが止まった。

「アリス?」

「ルージュさん、私も、ここでお別れです」

アリスもか、まぁ、いつまでも一緒には居られないよな。

「クリスさんも言ってましたが、ルージュさんのおかげで助かりました。
本当にありがとうございます」

「……おう」

謙遜しても無駄な事は分かった。

なら素直に受け取ろう。

「はっきり言って、私はもう諦めてました、ですがルージュさんは最後まで諦めなかった。 それは、本当に凄いことです」

「…………」

「だから、私が言いたい事はクリスさんと同じです」

アリスが手を前に出す、俺も手を出し、握手する。

「いつか……いつか絶対に、あなたを超えます。
剣魔学園に入っても、仲良くしてくださいね?」

「……おう」

不覚にも、アリスの笑顔にドキッとしてしまった。

アリスはディノスにもお礼を言い、去って行った。

「ルージュ」

「何? 父さん」

「訓練を怠るなよ、あの子達は絶対に強くなる。 モタモタしてると、追い抜かれるぞ」

ディノスは真剣に言った。

そんな事……

「分かってるよ、今回、俺がどれだけ魔術に頼りすぎてるか分かったからな」

「ふっ…そうか」

ディノスは心底嬉しそうに言った。

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「あーっ! ルージュ、やっと帰ってきた!」

俺が宿に入ると、ベッドに座っていたセレナが走ってきた。

「ただいま、セレナ」

「もう、心配したんだからね⁉︎ ルージュが奴隷商人に連れてかれたって聞いて、私…」

「あぁ、悪かった」

「もう…」

セレナがめっちゃ怒っている。

まぁそりゃ怒るか……

その後もセレナに色々言われ、やっと落ち着いた時、ディノスが立ち上がった。

「さて、そろそろ俺も帰るかね」

「え、もう帰るんですか?」

ディノスはもう村に帰るらしい。

早すぎないか?

「今日ぐらい王都でゆっくりすれば…」

「いいや、帰る」

俺の言葉をディノスは遮る。

「お前達はここで暮らすんだ、いつまでも大人が世話するわけにはいかん」

「そ、そうか…」

ディノスにも考えがあるのだろう。

ならば、止める理由はない。

「なら父さん、1つお願いがあるんだ」

「なんだ?」

「もし、もし村に帰れる時が来たら、また手合わせしてほしい」

さっきクリスに言われ、ずっと言おうと思っていた。

俺はディノスに勝つ事は出来なかった、だから、俺は絶対にディノスを超える。

「あぁ、もちろんだ。 楽しみにしてるぞ、ルージュよ」

ディノスは、心底嬉しそうに、俺とセレナの頭を撫でた。

「よし…2人共。 じゃあな」

ディノスは振り返らずに、部屋から出て行った。

俺とセレナは追おうとはしなかった。


明日は剣魔学園の入学式だ、そこで、俺は絶対に強くなってみせる。

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