2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

13話 「誕生日プレゼント」

泣いたセレナを抱きしめ続けて数分たった時。

「もういいよ、ごめんね」

とセレナが言ったので、俺は手を離し、お互い地面に座った。

「………実はね、今日この川に来たのは、あの3人に仕返しするためだったんだ」

「あいつらがここに来るって知ってたのか?」

「うん、あの3人が私をイジメる時は、高確率でこの場所だったの。 だから、多分ここに来るだろうなぁって」

「ずっとあいつらに仕返しがしたかったのか?」

「んー…ルージュに会って最初の頃は、昔の事はもう忘れよう! って思ってたんだけどね、最近思うの、この世界には私とお母さんみたいに誰かに助けてもらったエルフは少ないんだろうなって」

エルフが人間から嫌われていることはセレナから聞いた、あれから俺はフローラやディノスに聞き、なぜエルフが嫌われているのかを調べた。

どうやらエルフは昔人間を襲っていたようだ、普段森に住むエルフがたまに人間の村にやってきて、食べ物を盗んだり、無差別に人を傷つけたりと、いろいろやっていたらしい。

だがそれはいまから100年以上も前の事らしく、その事が嘘なのか本当なのかは分からないらしい。

だが人間は臆病な生き物だ、

「またエルフが人間を襲うかもしれない」 
「エルフは人間よりも強い」
「エルフが暴れたら手がつけられない」

人間はこう思い、そしていつしか 「エルフは怖い種族だ」という風になっていったらしい。

「そう思ったら……なんかあの3人の事が急に許せなくなったんだ」

セレナはずっとイジメに耐えてきた。

だがそれは 力 が無かったからだ、力が無いのに反抗して、返り討ちにあうのが怖かったのだろう。

だが今のセレナは違う、今のセレナは魔術を覚えた、ディノスに言われて筋トレもしたため筋肉もついているはずだ。

「まだまだ理不尽にイジメられてるエルフはいっぱいいると思う、だからもしイジメられてるエルフを見かけたら、私が助けてあげたいの。 そして言ってあげるんだ、「人間は怖い人ばかりじゃないんだよ」って」

「………そうか」

セレナは本当に強くなった、あの3人に仕返しをするのは、セレナにとって”はじめの一歩”だったのかもしれない。

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「ねぇルージュ、私達っていつまで外にいればいいのかな?」

俺たちはあれからも川の近くに座り、いろいろな話をしていた。

時刻はもう夕方だった。

家を出てきたのが昼だったので、もう準備は出来ている頃だろうか。

「じゃあ、そろそろ帰るか?」

「うん!」

これでまだ準備が出来てなかったら……

うん、知らん。 
準備が出来てなかったら、知らん。

ちゃんと時間を指定しなかったディノスが悪い、うん。

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「よし、ついたな」

「話って何だったんだろうね?」

家についた、あとは扉を開けるだけだ。

だ、大丈夫だろうか、ちゃんと準備出来てるか?

さっきは知らんとか思ったけど、なんか心配になってきたぞ⁉︎

今日はセレナの誕生日パーティーでもあるわけだし、まだ準備出来てなかったらセレナはどう思うだろう。

………あと1時間くらい外で時間を潰すか? 本来なら今はもう夕飯を食べている時間だ、だが今日はパーティー、人数も多いし食べる量も多い。

………よし、あと1時間くらい散歩しよう。

「せ、セレナ? やっぱりあと1時間くらい……あれ?」

セレナがいない、まさか⁉︎

「ルージュ! 早く入ろうよ、もう寒いしさ!」

セレナが扉に手をかけ、開けようとしていた。

ヤバイヤバイヤバイ……ヤバイぞ…

「セレナッ! ま、待て! まだ早っ……」

俺はセレナの方に走り、扉を開けようとしている手を掴もうとした……だが……

ガチャ……という音と共に扉が開いた。

あ……終わった。

俺はそう思った、だが……

「「「「誕生日おめでとー‼︎」」」」

「へ?」

玄関にはディノス、フローラ、セルミナ、アレスの4人がいて、皆笑顔で俺たちを迎えていた。

セレナはまだ「えっ? なに?」と言って戸惑っている。

あれ? もう準備終わってたのか?

「ルージュ、セレナちゃん! ビックリしたでしょう?  実はね、母さん達サプライズパーティーを計画してたのよ!」

「サプライズ…パーティー?」

「そうよセレフィーナ、セレフィーナとルージュ君の誕生日は1週間しか離れてなかったから、一緒に盛大に祝っちゃおう! って話になってたのよ」

俺はサプライズパーティーという事は今日の朝まで知らなかったが、俺とセレナの誕生日を一緒に祝うということは前から知っていた。

この前フローラとセルミナが楽しそうに話していたから、なんだろうと思い盗み聞きしてしまったのだ。

「えっ、ルージュと私って誕生日そんなに近かったの⁉︎」

「そうらしいな、俺もビックリしたよ」

「ふふ…さぁルージュ、セレナちゃん! もうパーティーの準備は出来てるから、早く手を洗っておいで!」

「「はーい」」

俺とセレナは言われた通り手を洗いに洗面所へ向かった。

洗面所に向かおうとした時、ディノスとアレスが無言で俺の両肩に手を置いてきた。

2人の顔を見ると、よくやった、とでも言いたそうな顔をしていた。

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「さて! ルージュとセレナちゃんが来たし、そろそろ始めるか‼︎」

皆が席に座り、皆がディノスの方を向く。

椅子はテーブルの端にそれぞれ2個ずつ置かれており、俺とセレナ、フローラとセルミナ、ディノスとアレスのペアで座っている。

「じゃあ、ルージュ君、セレフィーナ。 誕生日おめでとう!」

アレスの掛け声にディノス、フローラ、セルミナも おめでとう と言ってくる。

「「ありがとうございます‼︎」」

俺たちはお礼を言った。

向こうの世界ではこんなお祝いはしてもらえなかった。

俺が高校に入るまでは貧乏だったので仕方がないが、父が会社で成功し、お金持ちになったあとでも、俺の誕生日にはショートケーキが1つ置いてあっただけだった。

両親からはなにも言われず、俺は誕生日はこういうものなんだなと思いながら無言でケーキを食べていた。

だが今でははっきり言える、あの両親は、俺を愛してなどいなかったのだ。 
中学時代まではどうだったかは分からない、だが高校時代は明らかに両親は俺を他人に自慢する為の”道具”としか見ていなかった。

でも”今”の両親は違う、ディノスとフローラは、間違いなく俺を愛してくれている。

アレスとセルミナもそうだ、あの2人も、ちゃんとセレナを愛している。

だから、こうやって祝ってもらっていることに感謝をしよう。

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「よし、母さん。 そろそろいいんじゃないか?」

「そうね、もう皆たっぷり料理を食べたし」

ディノスとフローラがそんな会話をする、なんだ?

「じゃあセルミナさん、行きましょう」

「はい!」

フローラはセルミナを連れてキッチンへ向かった。

なんだ?

ディノスとアレスはずっとニヤニヤしてるし……

そんな事を思っていると、フローラとセルミナはすぐに戻ってきた。

2人で白い箱を持って。

あ、分かったぞ。

「さぁメインの登場よ!」

「オープン!」

テンションがめっちゃ高いフローラとセルミナが箱を開け、中から出てきたのは……

「わぁ! ケーキだ‼︎」

そう、ケーキだ。

大きな丸いケーキだった。

「ふっふっふ、驚いたか? ルージュよ」

「うん、随分とデカイね…」

「ふふふ…私とセルミナさんがお昼からずっと作ってたからね!」

「めっちゃ美味いからな! 感動して泣くんじゃないぞ?」

「ん? なんでお父さんがケーキの味を知ってるのかしら?  私、味見を頼んだ覚えはないけど?」

「あ……」

フローラがめっちゃニコニコしている、なのにめっちゃ怖かった。

まだフローラの方が怖いが、セレナの怒り方にそっくりだ、セレナも成長したらあんなに怖くなるのだろうか……

「ま、まあまあフローラさん! 落ち着いて!    早くケーキを食べましょう! ね?」

フローラを全力で説得するセルミナ、だがセルミナの横でめっちゃ冷や汗をかいているアレスの事は、言わないほうがいいだろう。

その後フローラが冷静になったので、俺たちはケーキを食べ始めた。

「えっ美味っ⁉︎」

「美味し〜‼︎」

めっちゃ美味いのだ、ビックリした。

俺は甘いものが好きなので、向こうの世界ではよく人気の甘いものを沢山食べていた。

だがこのケーキは今まで食べた甘いものの中でもトップクラスに入る美味しさだったのだ、下手したら一位かもしれない。

この世界の材料がいいのか、フローラとセルミナの料理の腕がいいのか分からないが、とりあえず言っておこう。

異世界最高!!!

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ケーキが無くなり、夢のような時間が終わってしまった。

もうパーティーも終わりか……と思った時。

「さぁーて最後のメインイベントだ‼︎」

ディノスが大きな声で言った。

メインイベント? てっきりケーキがメインイベントかと思ったが違うのか。

「じゃあまずは母さんとセルミナさんから!」

「「はーい」」

名前を呼ばれたフローラとセルミナは、2人で部屋を出て行った。

そしてすぐに戻ってきた。

手を後ろに回しながら。

「ふふふ…2人に私達からプレゼントがあります!」

「プレゼント?」

「そうよセレフィーナ、2人ともあと4日後には剣魔学園の入学式でしょ? 2人が入学しても困らないように、2人の役にたつ物を選んだの」

「私たちの…」

「役にたつ物…」

するとフローラとセルミナは俺たちに渡すプレゼントを見せた。

俺たちに渡された物…それは本だった。

俺とセレナには、それぞれ同じ本が渡された。

「母さん、この本はなに?」

「その本はね、初級魔法から中級魔法までの事が詳しく書いてある本よ。 ルージュは父さんと戦う時、いろんな魔法を使って戦うから、その本がピッタリかと思ったの」

「なるほど」

正直、これは超ありがたい。

フローラの言った通り、俺の戦い方は魔法がメインだ。

なので魔法の事が詳しく書いてあるのはありがたいのだ。

「フローラさんからセレフィーナは魔術が得意だって聞いてね。 フローラさんと一緒に選んだのよ」

「お母さん……ありがとう‼︎」

セレナはセルミナに抱きついた。

よっぽど嬉しかったのだろう。

まぁ俺も嬉しいしな。

「んじゃ次は俺らだな」

「えぇ、そうですね」

と言ってディノスとアレスは部屋を出て、すぐに戻ってきた。

「よし、ルージュ! セレナちゃん!」

「俺たちからのプレゼントは、これだ!」

そう言ってディノスとアレスは俺たちにプレゼントを見せた。

「こ、これは……」

「まぁ初心者用だがな、流石にいつまでも木刀じゃマズイだろ?」

俺たちに渡されたのは、剣だった。

木刀ではなく、ちゃんと刃がついた本物の剣だ。

俺には鞘と共に片手剣が渡され、セレナには……なんだあれ?

「セレフィーナにはこれだ」

「なに…これ? 随分と細いね」

「この剣は”レイピア”っていう種類の剣なんだ」

「レイピア?」

「そう、ディノスさんから聞いたんだが、セレフィーナは突きをよく使うらしいね」

「あっ…言われてみれば…そうかも」

「このレイピアは突きをするのに最適な武器だ。 ディノスさんから聞いて選んだんだ。 気に入ってくれたかい?」

「うん……うん! お父さん、ありがとう! 」

セレナはアレスにも抱きついた。

仲が良いなぁ。

「ルージュよ、お前も抱きつきたいなら抱きついてもいいぞ?」

そう言ってディノスは腕を広げ、「ホレ、ホレ」と言ってくる。

「結構です」

「え? あ、そ、そう?」

ディノスがガッカリしたように肩を落とした。

そんなにショックなのだろうか。

まぁ抱きつきはしないが、お礼は言っておこう。

「母さん、父さん。 誕生日プレゼントありがとう。 大事にするよ」

「えぇ」

「あぁ」

俺がお礼を言うと、フローラとディノスは笑った。

そして、俺とセレナの誕生日パーティーは終わった。

剣魔学園の入学式まで、あと4日だ。

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