2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

3話 「嫌われ者の種族」

「じゃあ、行きましょうか」

「うん」

俺は適当に自室のクローゼットを漁り、服を選び、着替えた。

着替えた後はリビングに行くと、母が俺に麦わら帽子を渡してきた。
どうやら今は日本で言うと”夏”らしく、外は凄く暑いらしい。

俺は麦わら帽子をかぶり、母と共に外へ出た。

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「…………………」

なんというか……日本にもありそうな村だった。
木で出来た家に、村人が耕している畑、水車など、日本でも探せば似たような村が見つかるだろう。

だが明らかに日本では見れない者もあった、生き物だ。

空を飛ぶ小さなトカゲ。

目がある植物、芽じゃないぞ? 目だ。

そういう物を見つけては、母に「あれは何?」「これは何?」と聞きまくっていた。

「ねぇ母さん、なんで植物には目がついてるの?」

俺がそう聞くと母は顎に手を当て

「え? んーと……母さんもよく分からないけど…敵から身を守るためじゃない?」

「身を守るって言っても、植物には足がないから逃げられないじゃん」

「うっ……ど、どこかには歩く植物がいるかもしれないわよ?」

なるほど、確かにいる可能性はあるな

「へぇ、いるなら1度会ってみたいな」 

「ルージュが旅をするようになったら会えるかもね?」

「旅?」

「えぇ、 もしもルージュが剣魔学園に入学して、卒業する頃には凄く強くなってるはずよ、そしたら、1人でも旅が出来るわ」

剣魔学園、この世界で剣や魔法の使い方を学ぶ所だ、俺は両親から、「剣魔学園に行くか行かないからルージュに任せる」と言われている。

だから俺は凄く迷っていたのだ。

「っと、そろそろ銅像の所につくわよ」

母にそう言われ前を見てみると、遠くの方に人が沢山いた、多分そこに銅像があるのだろう。

「あの人がいっぱいいる所に銅像があるのよ」

やっぱり、ならば後は1人でも大丈夫だろう。

「分かった! じゃあ後は俺1人で見に行くから、母さんは買い物してきていいよ!」

俺はなるべく子供っぽく言った、すると母は明らかに戸惑った感じで

「え…え⁉︎ ひ、1人で⁉︎ 怖くないの?」

「怖く? ただ銅像見に行くだけでしょ? 家までの帰り道も覚えてるから、1人でも帰れるよ?」

「る、ルージュって本当に5歳…?」

俺が首を傾げると、母は諦めたように

「はぁ…分かったわ、でも、絶対に危ない所には入っちゃダメよ? 知らない人にも…」

「ついて行かないから、大丈夫だよ。 ちょっと村を見て回るだけだから」

それを聞いた母は、「そ、そう?」とだけ言って、買い物をしに行った。

さて……

「剣聖か…」

どんな物だろうか、と思いながら、銅像の元へと向かった。

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「け、結構でかいな…」

剣聖の銅像は、思ったよりも大きかった。
俺が小さいからかもしれないが、そして肝心の剣聖は…

「なんか……見た感じ普通の青年だな」

銅像という事は剣聖とそっくりに作られているはずだ。

だが剣聖の顔や身体は思ったよりも普通だった。

俺は剣聖は、顔にいくつもの傷があり、身体は凄くゴツい人物だと思っていた。

だが、銅像の顔には傷は一切なく、身体もどちらかと言うと細めな身体だった。

「なんか……」

なんか…見てもそんな面白くなかったな。

「散歩でもして家に帰るか」

そう決め、俺は適当に村を歩き始めた。

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一つ分かった事は、この村は結構でかい村だという事だ。

子供の遊ぶ場所もちゃんとあり、良い雰囲気の村だと分かった。
村人もこちらが挨拶をすれば返してくれるし、皆が常に笑顔でいた。

良い村だ。

俺は川の近くに来ていた、もう随分歩き続けたので、少し休もうと思い、草むらに腰を下ろした。

「しかし…本当に異世界なんだなぁ…髪の色も眼の色も全員違う」

俺は草むらに座りながら、呟いた。

村人は全員髪の色が違った。 赤い髪、青い髪、黄色い髪など沢山の髪の色の人がいた。

だが、1人も黒髪はいなかった。 この村では黒髪は俺と母さんだけなのだろうか?

そんな事を考えていたので、後ろにいた人達に気づかなかった。

「おい、どけよ」

それにしても、学校の件はどうするか…

「おい、聞いてんのか?」

決めるのなら早めに決めなくてはならない。

「おい、お前に言ってんだよ」

学校には10歳から行けるらしい、今俺は5歳、そして学校に行くまでの間、両親から剣術と魔法を教わる期間が必要だ、もし俺が学校に行くのなら、早めに決めなければ学校では落ちこぼれになってしまう。

「おい、こいつどうするよ?」

「もう良いんじゃね? 聞こえてないみたいだし」

よし、決めた。 これから5日以内に、学校に ”行くか” ”行かないか”を決めよう。

よし、もう家に帰ろう。 あまり遅いと母さんが心配するからな。

と、俺は立とうとした。 瞬間……

「おらぁっ!」

「うわっ⁉︎」

蹴られた。 思い切り、後ろから。

蹴られた俺は前のめりに転ぶ、そして振り返ると、同い年位の男の子が3人立っていた。 

そしてよく見ると、3人に囲まれている1人の人物がいた。 
その人物はフードで顔と髪を隠していたので、男か女かは分からないが。

「あの……いきなり何するんですか?」

俺は出来るだけ丁寧に問いかけた。

するとリーダーっぽい奴が

「お前が俺たちの話を聞かないからだろ! ここは俺たちのナワバリなんだ! でていけ!」

「ナワバリ?」

「あぁ! この村の子供ん中では、俺が1番強いからな! だからこの場所は俺のものなんだ!」

な…なんて勝手な奴なんだろう…

まぁ、俺はこの村で揉め事を起こす気はない。

素直に引き下がろう。 それが1番いい

「そうだったんですか。 すみません、俺知らなくて、今出て行きますね」

俺がそう言うとリーダーは明らかに上機嫌になり。

「おぉ! 分かれば良いんだ分かればな! お前素直な奴だな! 今度一緒に遊んでやるよ」

「本当ですか? ありがとうございます。 俺まだ友達居ないので、助かります」

「おう! 気にすんな! 俺は優しいからな!」

以外と良い奴なんだな。

俺は一度頭を下げてから、元来た道を引き返そうと歩き始めた。

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道を少し進んだ時、俺はある事に気がついた。

「あっ…麦わら帽子…忘れてきた……」

多分あのリーダーに蹴られた時に地面に落ちたのだろう。

「仕方ない、取りに行くか…」

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俺は先程の川まで戻ってきた。

「すみませーん! さっき麦わら帽子忘れてっちゃっ………て……」

俺は目の前の光景を見て言葉を失った。

先程の3人の男が、フードの子をイジメていたのだ。

フードの子に男達が蹴ったり、土を投げたり、水をかけたりと、いろいろな事をしていた。

イジメられてる子は必死にフードを抑えていた、髪か顔を見られたくないのだろうか?

頭を守っているせいで腹や背中を沢山蹴られていた。

まだ誰も俺に気づいてはいない。
まだ見てみぬフリをする事も出来るだろう。

だが、”助けなければいけない”、とそう思った。

俺は地面に落ちていた石を思い切り男に投げつけた、狙ったのは顔ではなく、身体だ。

「いてっ! なんだ?」

見事当たり、3人の視線が俺に向く。 

先程はこいつらを”良い奴かもしれない”と思ったが、もう微塵も思っていない。

こいつらはクズだ、子供の時にこんな事をしているのだから、きっと大人になっても変わらないだろう。

俺は先程のような丁寧な言い方ではなく、明らかに見くだしたような言い方で

「お前ら、何をしてるんだ?」

と言った。 

先程との俺の雰囲気の違いに3人は驚いた顔をしたが、すぐに元に戻り。

「なんだお前かよ、ビビらせんなよ! 今楽しく遊んでるところ何だからさ!」

「”遊んでる”? 何をして?」

「はぁ? 見て分かんないのか? こいつで遊んでるんだよ、こいつな? 何回蹴っても何も言わねぇの! 泣きもしないし、叫びもしない!」

「……その子は、お前らの友達じゃないのか?」

「はぁ? こいつが友達? 笑わせんなよお前! こんな奴が友達なわけねぇだろ!」

と3人は笑いながら、イジメられてる子のフードを掴んだ。

「そうだ、お前にも見せてやるよ! こいつの顔を見りゃ、なんでこいつがイジメられてるか分かるぜ?」

リーダーがフードを取ろうとすると……

「……! ……ぃ……ぃや!」

フードの子が初めて拒絶した、フードを取られまいと必死に抵抗している。

「おい! 嫌がってるだろ! 良い加減に…」

俺は1発殴ってやろうと走り出した。

すると、その瞬間、フードが破れた。

「………え?」

「……ぁ……ぃ、いやあああぁぁぁぁ‼︎‼︎」

イジメられてた子は、長い金髪に青い瞳を持つ可愛い女の子だった。 

「いやあああぁぁぁ! …見ないで…見ないでええぇぇぇ!」

女の子はその場にうずくまった。

金髪の可愛い女の子、それだけならイジメられるわけがない。

よく見ると、女の子の耳は普通の人間の耳ではなかった。

俺でもよく知っている、アニメやラノベによく出てくる種族の特徴……あの耳は……あの女の子は………エルフだ。

「どうだ! こいつはエルフなんだよ! エルフは嫌われものなんだ!」

ほとんどの物語でも、エルフは嫌われている事が多い、だが、その理由については書かれていない。

「なんで…なんでエルフってだけで、その子をイジメるんだ? エルフがどんな種族か知らないけど、全員が悪い奴ってわけじゃないだろ。
 エルフってだけでその子をイジメるのは、納得できない」

俺がそう言うと、女の子は驚いたように顔を上げ、俺を見た。

見れば見る程可愛い顔をしている。

リーダーは怒りで顔を赤くしながら

「うるせぇ! エルフは悪い種族なんだ! 理由なんか知らねぇ! お父さんが言ってたから悪い奴なんだよこいつは!」

そう言ってリーダーは女の子の髪を掴んだ

「だからこいつはイジメられて当然なんだよ! お前もイジメられたくないなら、一緒にこいつをイジメろ!」

なるほど、脅しか。

あの女の子みたいにイジメられたくなければ、あいつら3人と同じ事をしろと…

「…分かりました…俺はイジメられたくないので、今からそっちに行きますね」

俺がそう言った瞬間、女の子が泣きそうな顔をした。

……そんな顔をしないでほしい…

「おぉ! そうか! やっぱりイジメられたくないもんな!」

「…はい、先程は強い言葉を使ってすみませ…うわっ⁉︎」

上機嫌に話すリーダーの前で俺は躓いて転んだ……フリをした。

転んでる間に地面の砂を出来るだけズボンのポケットに入れ、立ち上がる。

「はははっ! マヌケだなぁ! よし! じゃあ俺らは見てるから、思い切り蹴ってやれ!」

3人は横に並び、俺の後ろに立つ、俺は砂の入ったポケットに手を入れ、女の子の前に行く。

女の子は諦めたように目を閉じる、俺は女の子に向かって

「ごめんな…」

と声をかける、すると

「…ぃ…いえ…蹴られるのは…怖いですから…」

と言ってきた、優しい子だ、この状況でも、俺に後悔させないように言ってくれた。

俺はポケットの砂を握りしめ

「ごめんな…怖い思いさせて……もう、大丈夫だ」

俺は振り返り、握りしめた砂を3人の顔にかけた。
3人共並んでいたので、綺麗に全員の顔に砂をかける事ができた。

「うわっ!」
「なんだ! 砂が目に!」
「目が痛ぇ!」

3人共目を開けられずにいる、『即興目潰し作戦』大成功だ。

俺はまずリーダーを

「おりゃ!」

思い切り殴った。 リーダーはそのまま転び

「イデェ!」

と殴られた頬を抑えて泣き叫んだ。

俺はそのまま残りの2人も殴る。

殴られた3人は泣き叫んでいる、なんだ…この村で1番強いと言うのは嘘なのか…?

俺はリーダーの髪を鷲掴みし、耳元で

「これ以上殴られたくないなら、もう今日は家に帰れ」

リーダーは涙を流しながら頷く、俺はリーダーを地面に叩きつけ

「なら、さっさと行け。 10…9…8…7…」

「わわわっ! おぉお前ら! 早く行くぞ!」

俺がカウントを始めると、そそくさと3人は去っていった。

3人が見えなくなったのを確認してから、俺は女の子の元へ行く。

「えっと……とりあえず…大丈夫…なわけないか…」

女の子はずっと驚いた顔で俺を見ている。

「な…なんで…」

「ん?」

「な、なんで、た、たす、助け…て、くれたの?」

「あぁ…最初に言っただろ? エルフってだけでイジメるのは納得できないって」

「で…でもさっきは…私を…」

「あ、さっきのは嘘だからね? 俺は君をイジメるつもりなんかなかったし、さいしょから助けるつもりだったよ」

どうやら本当に俺にもイジメられると思っていたらしい。

「で、でも…私は…エルフで…」

「そんなの関係ないよ、そりゃエルフにも悪い奴はいるだろうけど、人間にだって悪い奴はいるんだ。 エルフだけ責められるのは、おかしいよ 」

俺がそういうと、女の子は突然泣き出した。

「え⁉︎ な、なんで泣くの⁉︎ 何⁉︎ どこか痛いの⁉︎」

俺が本気で焦っていると、女の子は涙を手で拭いながら。

「ご、ごめんなさい…私…そんなこと言われたの…初めてで…」

「あぁ…そういう事ね…」

俺は女の子の頭を撫でる、最初はビクッとしたが、だんだん大人しくなっていった。

きっとこの子はずっと1人だったんだろう。

俺と同じだ。

「ならさ」

俺はこの子の気持ちが分かる。

あの時の俺には、味方が1人も居なかった。

この子にも、今まで味方は居なかっただろう。

1人はつらい、だから

「俺と、友達にならない?」

俺は、ずっと言って欲しかったこの言葉を、この子に言った。

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