学校一のオタクは死神でした。

ノベルバユーザー203842

第71話 時神

*第71話 時神*



「久しぶりです、ゼウス様!!」

「うん。久しぶりだね、セイレーンちゃん。無事で何よりだよ。」

「はいです!!このとおり、傷一つないです!!」

「なら良かった。」

くるくると回るエメラルド色の髪の少女、セイレーンを見ながらゼウスは微笑する。
目の前にいるセイレーンの背丈は希里より少し小さいくらいで、年は中学生くらいにしか見えない。しかし、これでも自分達神々と同様、見た目以上の歳をとっている。大きな変化は少ないが、稀に見る体の変化は別だ。現に、セイレーンは1体、長年の時を過ごし、知らぬ間に体が進化したようだ。
ふと、戦闘時は2体いたことを思い出し分裂出来るのか聞いてみたが、「分裂ってなんです?美味しいですか!!?」と、返答した。人格の方はどうなっているのかと聞くと、「人格ってなにです?美味しいものなのですか!!?」とトンチンカンな返答を貰ったので追求するのはやめた。何故なら基本的にセイレーンは“馬鹿”だからだ。
とは言え、後で会議はしなければならないだろう。何しろ、セイレーンは被害者であり、その加害者の姿を目視している可能性があるからだ。

「ところで死神様はどこに行ったのです?もう一度、きちんとお礼を言いたいです!!」

「あぁ…その事なんだが…。」

ゼウスは少し引きつったような笑を見せる。

「どうしたです?」

「いや、用事があるって言ってどこかに飛んでいっちゃったんだよね〜…」

「そうですか…」

すると、少ししょんぼりした表情を見せる。

「心配しなくていいよ。今日の昼には帰ってくるって言っていたから。その間、しばらくみんなと遊んでおいで。」

「はいですっ!!遊ぶでーすっ!!行ってくるです〜っ!!」

「行ってらっしゃい。」

“作り”笑顔でセイレーンを見送ると、はぁー、とため息をつき、頭を抱える。

「新がここにいない理由が、“本の発売日”だからとは言えないよね〜…」

少しだけ新の趣味の過剰さを不安に思うゼウスであった。
だが、趣味を持つこと自体は悪いことではない。たとえ、それが週刊誌や世間的に悪評をされているものだとしてもだ…
やはり少し不安だ。
週刊誌が筆者の意図的に総表現され工作されたものだとしても、不安になる。自分も筆を認める身であるがやはり世間はそんなに甘くないことは知っている。
今までそんなこと思っていなかった人でも、雑誌などでめちゃくちゃな文章を堂々とそんな事が書かれていたとしたら、たとえそんなこと思っていなかったとしても、それが世間の意見だと思い込んでしまう。
うーんと少しだけ唸るが、世間の意見をねじ曲げることなど無理に等しい。的の中心を射た意見ではないが、外してはいないから尚更だ。

「お飲み物はいかがですか?」

「ん?あぁ、頂くよぉおおおお!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

ゼウスは絶叫した。
理由は至極簡単。傍らにいた女性が原因である。

「うふふ…“妻”に内緒で少女達の観察とはいいご身分ですね?」

「い、いつの間にこっちの世界に来たんだね“ヘラさん”!?」

「それは秘密です。」

「そ、そうかい。」

ビクビクと震えながらニッコリと笑うヘラの顔を見る。

「ところで何を考えていたんですか?また浮気の事ですか?次は誰ですか?何人いるんですか?子供はもういるんですか?私はもう用済みですか?もう愛してはくれないんですか?私はこんなにも愛しているのになんで気づいてくれないんですか?」

ヘラは問い詰めながら、その光の無い瞳でゼウスを見つめながら、懐からナイフを取り出した。
ひぃいいい!!と叫びながらゼウスが否定する。

「いやいやいやいやいやいや!!!!今でも私は君を愛しているし、浮気なんかしてないよ!!!?考えすぎだよ!?」

「では何を考えていたんですか?妻である私にも言えないことですか?それともやっぱり…(ナイフがチラつく)」

「言えます!!言えます、はい!!じ、実は新の趣味についてね?」

「なんだ、死神さんの事ですか。安心しました。」

「え?続き聞いてくれないの?」

「安心しましたからもういいです。」

「そ、そうかい?」

「ええ(にっこり)」

あはは…と乾いた笑いをしながら、ゼウスは今でも思う。新の趣味であるオタ活の中から言葉を借りるならば、そう…



ヤンデレ怖っ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?



ゼウスの豆腐メンタルが崩壊寸前であった。



* * *



時は数時間前、場所は“アメリカ”、ロサンゼルスのとある酒場。
木製の建築物にオレンジ色のランプが天井から吊られ、カウンターには映画で見るような酒樽まで置いてある。その酒樽とは明らかに値段が違うようなワイン瓶が混じり、懐に余裕があると踏んでいた酔った男は、女にそれを振舞い、会計時にキモを冷やす姿を見るのはこの1時間あまりで何回見ただろうか。空の色は暗いが仕事を終えた者達が騒ぎ、美酒に酔いしれていた。
その中でも、カウンター席に座る女性は極めて輝いていた。派手なドレスや豪華な宝石が散りばめられたアクセサリーを身につけている訳では無い。服装はthe OLといったスーツ姿であるが、色白の肌に相応しい白銀の長い髪はその整った顔をより一層際立てていた。

「よお、姉ちゃん。俺と一緒に飲まねぇか?」

ふとその女性に話しかけたのは金髪の筋肉質の男だった。その顔はとても真面目そうとは言い難く、ベロベロに酔っていた。

「断る。人を待っているの。」

「連れねぇ事言うなよ。さっきからずっと一人で飲んでるじゃねぇか。」

「もうすぐ来るわ。あと、“10秒”ほどでね。」

「あ?」

「9、8、7、…」

「ハッハッハ、ナイスジョークだ。そんな事より俺と遊ぼうぜ。な?」

「4、3、…」

すると、男はふと足音が聞こえてくることに気がついた。ゆっくりと振り返ると、そこに1人の少年が立っていた。すると、男はその少年の服装を見ると吹き出して笑った。

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!なんだそのふざけた服装は!!宴会の練習でもしてたのかよお前ww」

「遅れてすまない(スルー)」

「いいえ、構わないわ。私が呼びつけたんだし(スルー)」

「ひゃひゃひゃ、へ?」

「お前、酒なんか飲んでんのか?酔っ払うなよ?」

「いいの別に。それより、そこのデカブツどっかにやって。」

「デカブツって俺のことかぁ!?」

「お前以外誰がいる、帰れ。(真顔)」

「なんだとこのクソチビ!!」

男は顔を真っ赤にし、額に血管を浮かばせながら少年の胸倉を掴んだ。
すると、少年は掴んできた男の腕に触れると、クイッと軽く捻る。それと同時に男の体も腕と同じ方向に回り、一瞬宙に浮いたかと思えば、少年が浮いた男の腹を容赦なく蹴り飛ばす。男は肺の中の空気を吐き出しながら店の扉へ一直線に吹き飛んだ。
運良く店に入ろうとした男が扉を開けたおかげで、吹き飛ばされた男は外へ放り出された。少々悲鳴が聞こえたが、吹き飛ばされた男は白目を向いて気絶していた。

「で?突然呼び出した上に、久しぶりに顔を見せた理由はなんだ?“時姉ときねぇ”。」

新が女性の隣に座りなが尋ねた。
新は親父に本の発売日だからと嘘をつき、アメリカへと来ていた。空を飛んだため、面倒だから武装は解かず、店まで入ってきたらこの有様だ。男の少しチビと言う発言にイラつき吹き飛ばしてしまったが、加減をしたので問題は無いだろう。
そんな嘘をついてまで隠して来た理由はこれだ。

“実の姉”に呼ばれたからである。

彼女の名前は神藤 時子ときこ、“時神”である。新の姉にあたる存在であり、唯一の血の繋がった姉弟である。神の双子とは、人間的に言えば遺伝子の相似である。新と時子の遺伝子は時間が離れているとはいえ、全くと言っていいほど同じだった。試しにDNA鑑定してみた結果血縁だと判断された程にだ。そのせいか、覚醒した新の髪の色は時子の髪のそれと良く似た色と髪質だった。

「久しぶりにその呼び方されたわ。」

「当たり前だろ?もう“20年”も会ってないんだからな。」

新がメニューを見ながらそう言うと、時姉は少しだけワインを口に含む。

「そう、“この世界は”もう20年経っていたのね。」

「ん?あぁ、なるほど…」

違和感のある言葉に新はすぐに納得した。

「で、時姉は“いつの時間”の時姉なんだ?」

そう尋ねると、時姉は今の時間は何時か新に聞いた。面倒くさそうに新はスマホを出して今の時間と月、年を見せた。

「…今から“23年と5ヶ月前”。」

「なるほどね…」

時神は文字通り時間を司る神。
自分の好きな時間を覗くことができ、その時間の中に入ることもできる。タイムスリップすることが出来るのである。

「で?23年と5ヶ月前から遠路はるばる何か御用ですか?お姉ぇ様?あ、すいませんハンバーガーとポテト貰えます?」

注文を店員に伝えながら時姉に問う。店員から酒はいるかと聞かれたが、未成年と一言言うと少しだけ納得したような顔をされ調理し始めた。


「私、“死ぬ”らしいの。」

「ブフッ!?」

口に含もうとした水を吐き出しそうになり、噎せた。

「はぁ!?何時!?」

「16年と8ヶ月前。」

「それって…時姉が“結婚”してからすぐあとじゃねぇか!?」

「そうね。」

と一言だけ答えるとワインを口に含む。

「まぁでも俺たちは死んでも死なないけどな…」

「違う、私は死ぬ。」

時姉はそれを一言で否定した。

「は?だって時姉は俺達と同じ神だろ?」

「そうね………“16年前”までは…」

「………どういう事だ。」

額から冷や汗を1つ垂らす。
時姉は遠いものを見るような目で言った。
まるで過ぎたことだとでも言うかのように…








「私、結婚する前に“人間に転生”したの。」








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