カノジョの好感度が上がってないのは明らかにおかしい
第28話 光の当たらない暗闇の中で
「楽しかった~!」
六実はアトラクションから出るなり大きく背伸びをしてそう言った。
で、俺たちの得点だが、過去の最高記録を大きく塗り替えるほどの高得点だった。当然、それに比例してもらえるグッズも豪勢なものになるわけで……
「もふもふですー。かわいいー」
「こ、これは……うん、悪くない」
ティアと凛は、そんな感じでもらったエイリアンのぬいぐるみをもふっていた。エイリアンなのにもふもふでいいのかという疑問が湧かないわけでもないが、ティアが喜んでくれていることだしまぁいいだろう。
「馨くん、次どうしようか?」
ぬいぐるみと戯れるティアと凛を眺めて和んでいた俺に、六実がそう尋ねた。
「んー、そろそろ日も暮れそうだし帰るか」
「うん、そうだね。でも、さ、最後に一つだけ」
六実はそう言葉を切ると、後ろを振り向き、すこし上を見上げた。
「観覧車、か……」
俺はそう呟くと、もふるのをやめようとしない二人を呼んで観覧車へ向かった。
「馨くん、観覧車って好き?」
「え?」
突然の問いに俺は理解が追い付かず、六実に聞き返した。
「お兄様は観覧車に苦い思い出がありますからねぇ。ね、お兄様っ」
「別に、もう昔のことだろ」
俺のトラウマを掘り返そうとするティアに敢えて素っ気なく答えた。過剰反応してしまうと、ティアが話をどんどん広げていく恐れがある。
少し不思議そうな顔をする六実に、なんでもないからと弁明し、俺たちはゴンドラの中へ乗り込んだ。
狭いゴンドラに四人というのはきついかとも思ったが、俺以外は華奢な女子だったため、思いのほかスペースは空いた。別に女子と狭い空間でくっつかないといけないという状況を期待していたわけではない。うん、全然そんなことない。
微笑みながら外を眺める六実。
ぬいぐるみを抱いて離さないティア。
飛ぶ鳥を目で追いかける凛。
そして、その彼女らを見ている朝倉馨という人間。
過去のことを思いだしてしまうかもしれないという俺の心配は杞憂だったようで、この穏やかな空間に俺は心が安らいでいた。
空は、あの日より少し赤みがかっていたが、遊園地内が静かなのはあの日と同じだ。
太陽は既に地平線の向こう側へ沈んでいたが、それでもこの空は明るかった。
遠くに見える街には電気がちらほらと点き始めている。
そんな、他愛もないこと一つ一つを自分と重ね合わせてみたり、当たり前のことに妙な感慨を覚えたり。
もし呪いにかかっていなかったら、こんな風に世界を見ることなんてなかっただろうな、と呪いにまで少し感謝しだす始末である。
「馨くん」
六実の声に俺が目を向けると、彼女は俺を正面に見据えていた。
「今日はありがとね。楽しかった」
彼女は、ゆっくりそう言うと、俺へ静かに微笑みを向けた。
それに倣うかのように、ティアはまだ少し幼げをを残す笑顔を、凛は涼やかながらも温かさを感じさせる微笑みを、俺に見せた。
「俺はなにもしてないだろ、あと、誘ってくれたのはそっちの方だし」
「まぁ、確かにそうですね。馨さんは何もしてませんね」
「お前が言うなお前が」
そのコントのようなそこまで面白くないやり取りの後、ゴンドラ内はなぜか笑い声に包まれた。
みんな、きっとこの瞬間を大切にしたいんだ。俺はその様子を見てふと思った。
俺のような呪いがなくとも、人生において必ず別れというものは来る。彼女たちはそのことを知っているから、今を大切にしよう、今を必死に楽しもうとするのだ。
俺のように別れるのを、消えるのを恐れて、自分から離れるのではなく、その瞬間を、消えるまでの貴重な時間を楽しむ。
俺は彼女たちからそんなことを感じ、ひとり心が震えるのを感じた。
でも、それでは傷つくことを止めれないではないか。
いくら楽しんで、大切にしたところで、それが消えるという事実は変わらない。それどころか、それに触れれば触れるほど、別れの時の傷は深くなる。それなら、そんなことなら……逃げる方が楽じゃないか。
でも、俺は……
「こちらこそ、今日はありがとう。あと……これからも、よろしくな」
でも俺は、たとえ傷つくことになったとしても、逃げる方が楽だと知っていたとしても、俺はこのいまを楽しみたい。彼女たちと時間を共有したい。
俺はそう心の中に決心し、彼女たちにそう言った。
俺のその言葉に、彼女たちは再び素晴らしい微笑みを見せてくれた。
空は少し暗くなっていたが、その闇の中に一つ、一番星が輝いていた。
* * *
「あー疲れたー」
「そうですねー。でも楽しかったです!」
「あぁ、そうだな」
俺とティアは、六実と凛と別れた後、家路を二人辿っていた。もう空は完全に闇に包まれており、俺の視界を確保するのは道沿いに並ぶ電灯のみだ。
「なぁティア。一応聞いておくが、今六実の好感度はどれくらいだ?」
俺は隣を歩くティアにそう尋ねてみた。
今までの数値からして大体の予想はつくが、用心しておいて損はない。
「はい、小春さんの好感度は約24パーセントです」
「ですよねー」
俺は六実の好感度を聞いた瞬間、げんなりした声を上げた。
「しかし」
ティアは、妙に重い声でそう言葉をつないだ。
「好感度が、80パーセントを超えたんです。凛さんの。望月凛さんの好感度が」
ティアは、俯いて、心の底から悲しそうにそう言った。
「……嘘だろ?」
俺は電灯の光の当たらない、闇の中立ち止まった。
「いいえ。嘘じゃない正確な真実です」
ティアは、俺の数歩前、こちらを振り向くことはせずに淡々と言った。
そして、彼女は一つ息を吐くと、こちらをゆっくりと振り向いた。
「今度は何を選択しますか?」
その声は、無慈悲で、儚げで、冷たくて、今にも泣き出しそうな声だった。
六実はアトラクションから出るなり大きく背伸びをしてそう言った。
で、俺たちの得点だが、過去の最高記録を大きく塗り替えるほどの高得点だった。当然、それに比例してもらえるグッズも豪勢なものになるわけで……
「もふもふですー。かわいいー」
「こ、これは……うん、悪くない」
ティアと凛は、そんな感じでもらったエイリアンのぬいぐるみをもふっていた。エイリアンなのにもふもふでいいのかという疑問が湧かないわけでもないが、ティアが喜んでくれていることだしまぁいいだろう。
「馨くん、次どうしようか?」
ぬいぐるみと戯れるティアと凛を眺めて和んでいた俺に、六実がそう尋ねた。
「んー、そろそろ日も暮れそうだし帰るか」
「うん、そうだね。でも、さ、最後に一つだけ」
六実はそう言葉を切ると、後ろを振り向き、すこし上を見上げた。
「観覧車、か……」
俺はそう呟くと、もふるのをやめようとしない二人を呼んで観覧車へ向かった。
「馨くん、観覧車って好き?」
「え?」
突然の問いに俺は理解が追い付かず、六実に聞き返した。
「お兄様は観覧車に苦い思い出がありますからねぇ。ね、お兄様っ」
「別に、もう昔のことだろ」
俺のトラウマを掘り返そうとするティアに敢えて素っ気なく答えた。過剰反応してしまうと、ティアが話をどんどん広げていく恐れがある。
少し不思議そうな顔をする六実に、なんでもないからと弁明し、俺たちはゴンドラの中へ乗り込んだ。
狭いゴンドラに四人というのはきついかとも思ったが、俺以外は華奢な女子だったため、思いのほかスペースは空いた。別に女子と狭い空間でくっつかないといけないという状況を期待していたわけではない。うん、全然そんなことない。
微笑みながら外を眺める六実。
ぬいぐるみを抱いて離さないティア。
飛ぶ鳥を目で追いかける凛。
そして、その彼女らを見ている朝倉馨という人間。
過去のことを思いだしてしまうかもしれないという俺の心配は杞憂だったようで、この穏やかな空間に俺は心が安らいでいた。
空は、あの日より少し赤みがかっていたが、遊園地内が静かなのはあの日と同じだ。
太陽は既に地平線の向こう側へ沈んでいたが、それでもこの空は明るかった。
遠くに見える街には電気がちらほらと点き始めている。
そんな、他愛もないこと一つ一つを自分と重ね合わせてみたり、当たり前のことに妙な感慨を覚えたり。
もし呪いにかかっていなかったら、こんな風に世界を見ることなんてなかっただろうな、と呪いにまで少し感謝しだす始末である。
「馨くん」
六実の声に俺が目を向けると、彼女は俺を正面に見据えていた。
「今日はありがとね。楽しかった」
彼女は、ゆっくりそう言うと、俺へ静かに微笑みを向けた。
それに倣うかのように、ティアはまだ少し幼げをを残す笑顔を、凛は涼やかながらも温かさを感じさせる微笑みを、俺に見せた。
「俺はなにもしてないだろ、あと、誘ってくれたのはそっちの方だし」
「まぁ、確かにそうですね。馨さんは何もしてませんね」
「お前が言うなお前が」
そのコントのようなそこまで面白くないやり取りの後、ゴンドラ内はなぜか笑い声に包まれた。
みんな、きっとこの瞬間を大切にしたいんだ。俺はその様子を見てふと思った。
俺のような呪いがなくとも、人生において必ず別れというものは来る。彼女たちはそのことを知っているから、今を大切にしよう、今を必死に楽しもうとするのだ。
俺のように別れるのを、消えるのを恐れて、自分から離れるのではなく、その瞬間を、消えるまでの貴重な時間を楽しむ。
俺は彼女たちからそんなことを感じ、ひとり心が震えるのを感じた。
でも、それでは傷つくことを止めれないではないか。
いくら楽しんで、大切にしたところで、それが消えるという事実は変わらない。それどころか、それに触れれば触れるほど、別れの時の傷は深くなる。それなら、そんなことなら……逃げる方が楽じゃないか。
でも、俺は……
「こちらこそ、今日はありがとう。あと……これからも、よろしくな」
でも俺は、たとえ傷つくことになったとしても、逃げる方が楽だと知っていたとしても、俺はこのいまを楽しみたい。彼女たちと時間を共有したい。
俺はそう心の中に決心し、彼女たちにそう言った。
俺のその言葉に、彼女たちは再び素晴らしい微笑みを見せてくれた。
空は少し暗くなっていたが、その闇の中に一つ、一番星が輝いていた。
* * *
「あー疲れたー」
「そうですねー。でも楽しかったです!」
「あぁ、そうだな」
俺とティアは、六実と凛と別れた後、家路を二人辿っていた。もう空は完全に闇に包まれており、俺の視界を確保するのは道沿いに並ぶ電灯のみだ。
「なぁティア。一応聞いておくが、今六実の好感度はどれくらいだ?」
俺は隣を歩くティアにそう尋ねてみた。
今までの数値からして大体の予想はつくが、用心しておいて損はない。
「はい、小春さんの好感度は約24パーセントです」
「ですよねー」
俺は六実の好感度を聞いた瞬間、げんなりした声を上げた。
「しかし」
ティアは、妙に重い声でそう言葉をつないだ。
「好感度が、80パーセントを超えたんです。凛さんの。望月凛さんの好感度が」
ティアは、俯いて、心の底から悲しそうにそう言った。
「……嘘だろ?」
俺は電灯の光の当たらない、闇の中立ち止まった。
「いいえ。嘘じゃない正確な真実です」
ティアは、俺の数歩前、こちらを振り向くことはせずに淡々と言った。
そして、彼女は一つ息を吐くと、こちらをゆっくりと振り向いた。
「今度は何を選択しますか?」
その声は、無慈悲で、儚げで、冷たくて、今にも泣き出しそうな声だった。
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