カノジョの好感度が上がってないのは明らかにおかしい
第16話 あらゆる期待をこの世界は裏切る
 バスの車内に沈黙が訪れた。
 車掌さんは、若いっていなぁ、みたいな顔でニヤニヤしてるし、六実はポカーンと口を開けて呆然としている。
 俺? 俺は今までの人生の中でバカにしてたバカップルの皆さんに対し、心の中で懺悔しておりました。
 まぁ、バスが終点に着いたという事実は変わりないので、ニヤけながら帽子をちょいと上げる車掌さんに軽く会釈しつつ、バスを降りた。
 「まったく、ビックリした〜……」
 「そうだな……って、六実、あんなことしてごめん! 」
 俺はバスから降りるとすぐに六実に頭を下げた。
 「え? ……ふふっ」
 俺が謝ると、彼女は驚いた顔をした後、静かに笑った。
 「え? 俺何かおかしいこと言ったか?」
 「あ、いや全然! ただね、ちゃんと謝るんだなぁって」
 「そりゃぁ、あんなことして謝らないわけにはいかないだろ」
 寝ている間に唇を奪うなど、男として恥ずべき行為であり、六実にも恥をかかせてしまった。それを謝らないでどうする。
 「でも私、嬉しいな。自分の彼氏がそういうのしっかりしてる人だと思うと」
 六実はふふっと笑いながら、そう言い、俺の額を、人差し指でツンと突き刺した。
 「じゃあ私もう行くね」
 「あ、近くまで送るよ」
 「ううん、大丈夫。本当にすぐそこだから。また学校でね」
 彼女はそう言うと、まるで妖精のように俺の視界から消えていった。
 六実もいつか消えてしまうのだろうか。今まで出会った数々の人のように。
 「消えてほしくないなぁ……」
 俺は無意識にそう呟いていた。そして、それに呼応するがごとく、もとい呼応するべくスマホのバイブが鳴った。
 「馨さん、落ち着いて聞いてくださいね」
 ディスプレイを見ると、そこには神妙な顔のティアがいた。
 「小春さんの好感度、今どのくらいかわかりますか?」
 「ティア……まさか!」
 ティアは、俺が驚きの声を上げると斜め下に視線を落とした。
 マジかよ。またかよ。なんでだよ。なんで俺ばっかり。なんで、みんな消えていっちゃうんだよ。
 どんなに楽しい思い出を、記憶を作ったとしても、後に残るのは悔恨と自責の念のみ。
 こんな世界、生きてて意味なんかあるんだろうか?
 「ティア、教えてくれ。今の六実の好感度は……?」
 「はい、22パーセントです」
 時が止まった。あらゆるものが動きを止め、沈黙……したかのように思ったが、何事もなかったように電灯が闇の光をもたらした。
 「下がってるな」
 「下がってますね」
 え? なんで? ここは上がってて俺が悲劇の主人公になる流れだよね?
 あ……!
 そういうことか。六実は、俺との好感度アップイベントの時に好感度が下がってたし、ダウンイベントの時は上がってた。つまり……
 「あ、小春さんの好感度の表示は逆になってるんじゃないかとか幼稚なこと言い出すのやめてくださいね」
 「いやお前、そんなの表情でわかるわけないだろ!?」
 「馨さんの安直な思考回路を推察するのなんて片手間にできるような仕事ですよ」
 だからもうちょっと棘抜けっての。なんだよ、千本まで棘増やして偽物の恋とか始めちゃうのかよ。
 で、逆表示が違うとなると……
 「六実は性格破綻者で、他人に対する好感度がおかしくなってるというのは?」
 「馨さんの脳味噌はそこらの赤味噌と中身を入れ替えても性能変わらないんじゃないですか?」
 なんだよその脳味噌。万能すぎんだろ。あの坊主頭もそこまでの逸品を生み出すとは……侮れんな。
 「とにかく、馨さんは家に帰ることを最優先に考えたほうがいいんじゃないですか?」
 「え、なんで? ……って、どこだよここ」
 よく周りを見回すと、ここはどこにでもありそうな住宅街の一角で、俺は一度も来たことのない土地だった。
 日はもう沈み、空は紫、いや濃い藍色に染まっている。
 急いで帰らなければ。
 俺がそう思い立ち、マップアプリを開いた瞬間、スマホの電源が完全に落ちた。携帯ショップで受け取る前に、充電を最大にしてもらっておけば……
 俺はそんな無駄な後悔に思考を割くのは無駄だと判断し、バス停の時刻表を確認する……が、さっきのがバスは最後だったようでもうバスは来ない。
 さて、どうしたものか……
 表面的には悩んでいるものの、俺の内心ではもう行動することは決まっていた。
 六実の家を捜し、タクシーを呼んでもらうか泊めてもらう。それしか方法はない!
 俺は、そこそこやばい状況だというのに、スキップなんかしながら上機嫌に六実を捜し始めた。
 でも、なんでこんなにたくさん家があるのに一軒たりとも明かりが点いていないのだろうか。
 俺は一瞬疑問に思ったが、すぐに思考は六実を捜すことに引き戻された。
 
 
 車掌さんは、若いっていなぁ、みたいな顔でニヤニヤしてるし、六実はポカーンと口を開けて呆然としている。
 俺? 俺は今までの人生の中でバカにしてたバカップルの皆さんに対し、心の中で懺悔しておりました。
 まぁ、バスが終点に着いたという事実は変わりないので、ニヤけながら帽子をちょいと上げる車掌さんに軽く会釈しつつ、バスを降りた。
 「まったく、ビックリした〜……」
 「そうだな……って、六実、あんなことしてごめん! 」
 俺はバスから降りるとすぐに六実に頭を下げた。
 「え? ……ふふっ」
 俺が謝ると、彼女は驚いた顔をした後、静かに笑った。
 「え? 俺何かおかしいこと言ったか?」
 「あ、いや全然! ただね、ちゃんと謝るんだなぁって」
 「そりゃぁ、あんなことして謝らないわけにはいかないだろ」
 寝ている間に唇を奪うなど、男として恥ずべき行為であり、六実にも恥をかかせてしまった。それを謝らないでどうする。
 「でも私、嬉しいな。自分の彼氏がそういうのしっかりしてる人だと思うと」
 六実はふふっと笑いながら、そう言い、俺の額を、人差し指でツンと突き刺した。
 「じゃあ私もう行くね」
 「あ、近くまで送るよ」
 「ううん、大丈夫。本当にすぐそこだから。また学校でね」
 彼女はそう言うと、まるで妖精のように俺の視界から消えていった。
 六実もいつか消えてしまうのだろうか。今まで出会った数々の人のように。
 「消えてほしくないなぁ……」
 俺は無意識にそう呟いていた。そして、それに呼応するがごとく、もとい呼応するべくスマホのバイブが鳴った。
 「馨さん、落ち着いて聞いてくださいね」
 ディスプレイを見ると、そこには神妙な顔のティアがいた。
 「小春さんの好感度、今どのくらいかわかりますか?」
 「ティア……まさか!」
 ティアは、俺が驚きの声を上げると斜め下に視線を落とした。
 マジかよ。またかよ。なんでだよ。なんで俺ばっかり。なんで、みんな消えていっちゃうんだよ。
 どんなに楽しい思い出を、記憶を作ったとしても、後に残るのは悔恨と自責の念のみ。
 こんな世界、生きてて意味なんかあるんだろうか?
 「ティア、教えてくれ。今の六実の好感度は……?」
 「はい、22パーセントです」
 時が止まった。あらゆるものが動きを止め、沈黙……したかのように思ったが、何事もなかったように電灯が闇の光をもたらした。
 「下がってるな」
 「下がってますね」
 え? なんで? ここは上がってて俺が悲劇の主人公になる流れだよね?
 あ……!
 そういうことか。六実は、俺との好感度アップイベントの時に好感度が下がってたし、ダウンイベントの時は上がってた。つまり……
 「あ、小春さんの好感度の表示は逆になってるんじゃないかとか幼稚なこと言い出すのやめてくださいね」
 「いやお前、そんなの表情でわかるわけないだろ!?」
 「馨さんの安直な思考回路を推察するのなんて片手間にできるような仕事ですよ」
 だからもうちょっと棘抜けっての。なんだよ、千本まで棘増やして偽物の恋とか始めちゃうのかよ。
 で、逆表示が違うとなると……
 「六実は性格破綻者で、他人に対する好感度がおかしくなってるというのは?」
 「馨さんの脳味噌はそこらの赤味噌と中身を入れ替えても性能変わらないんじゃないですか?」
 なんだよその脳味噌。万能すぎんだろ。あの坊主頭もそこまでの逸品を生み出すとは……侮れんな。
 「とにかく、馨さんは家に帰ることを最優先に考えたほうがいいんじゃないですか?」
 「え、なんで? ……って、どこだよここ」
 よく周りを見回すと、ここはどこにでもありそうな住宅街の一角で、俺は一度も来たことのない土地だった。
 日はもう沈み、空は紫、いや濃い藍色に染まっている。
 急いで帰らなければ。
 俺がそう思い立ち、マップアプリを開いた瞬間、スマホの電源が完全に落ちた。携帯ショップで受け取る前に、充電を最大にしてもらっておけば……
 俺はそんな無駄な後悔に思考を割くのは無駄だと判断し、バス停の時刻表を確認する……が、さっきのがバスは最後だったようでもうバスは来ない。
 さて、どうしたものか……
 表面的には悩んでいるものの、俺の内心ではもう行動することは決まっていた。
 六実の家を捜し、タクシーを呼んでもらうか泊めてもらう。それしか方法はない!
 俺は、そこそこやばい状況だというのに、スキップなんかしながら上機嫌に六実を捜し始めた。
 でも、なんでこんなにたくさん家があるのに一軒たりとも明かりが点いていないのだろうか。
 俺は一瞬疑問に思ったが、すぐに思考は六実を捜すことに引き戻された。
 
 
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