カノジョの好感度が上がってないのは明らかにおかしい
第12話 幼馴染+ヤンキー+リセット
 まったく、とんだ出費だ……。
 俺は壊したスマホを携帯ショップで買い換えた後、街をふらふらと歩いていた。
 様々な店が立ち並ぶこの通りは常にがやがやとした騒めきに包まれている。ティッシュ配りのお姉さんを華麗にスルーした俺は、財布の中身を確認して肩を落とした。
 現在の我が財政は実に危機的な状況となっている。残金は千円札が一枚のみ。それとレンタルビデオ店のカードと、コンビニのポイントカードしか財布には入っていない。
 もう一度俺がため息をついたとき、買いたてのスマホが振動し、通知音が鳴った。
 「機種変更完了です♪  これからも馨さんをナビゲートさせていただきますのでよろしくおねがいします!」
 そのスマホのディスプレイにはあざとく敬礼しながらウィンクする可愛らしいキャラクターが映っていた。
 「あぁ、よろしく。ところで、前々から思ってたんだがそのナビゲートってなんなんだ?」
 俺は素直な疑問をティアに向けてみた。
 
 「はい、私は馨さんを良き未来へ導くためのナビゲートをさせていただいています。まぁ、恋のキューピッドってところでしょうか?」
 「え?  お前に恋のアドバイスとかしてもらったことないんだけど……」
 「何言ってるんですか馨さん! いつも好感度を教えてあげてるのはだれですか?」
 ティアは恩着せがましく鼻をふふんと鳴らしながら威張ってきた。
 「はいはい、ティアさんですよ」
 俺はなんだか面倒くさくなったので、そうやって会話に終止符を打った。
 そのときだった。
 「うわっ!」
 「きゃっ!」
 
 俺の体に軽い衝撃が走る。
 その衝撃の原因は、実にラブコメ的だった。
 走って来た女の子が俺の体にぶつかったのだ。(パンは咥えてなかったが)
 少し時間をおいて、その女の子は俺の体に埋めていた顔を上げた。
 そして、俺の顔を見るや否や驚いた表情を見せて、こう言った。
 「私を……私を助けてくれ!」
    *    *    *
 で、俺は路地裏に引きずられてきた訳だが……
 顔近いって、顔!
 だれにも見られないところで話がしたい、なんて言われてこの路地裏に来たのだが、あまりにも狭すぎる!
 そのせいで、彼女と俺は身を寄せ合い、顔を付き合わせるような形になっている。
 彼女の顔は実に整っており、六実とも張りあえるほどびかわいい。
 髪は艶やかな黒髪の長髪で、服装は薄い青のロングスカートに藍色のカーディガンという出で立ちだ。
 紅潮しているように見える頬を隠すように俯く彼女をしばし見つめ、俺は確信した。
 こいつは望月凛だ。
 望月凛と俺は小学校時代からの付き合いだ。いや、正確に言えば、付き合いだった。
 すなわち、俺は凛との関係を一度リセットしているのだ。
 中学校の卒業式のこと、俺が特別な関係を望んでしまったばかりに……
 「そ、そんなに見つめられると、恥ずかしいぞ……」
 凛が先ほどまでに増して俯きながら、恥ずかしそうにそう言った。
 「っ! あ! すまん!」
 俺は慌てて目を逸らすと、しょうがなく、目線をビルの隙間から見える空へ向けた。
 まさか、こんな偶然があるとは……
 過去にリセットを起こした女子と再び出逢い、路地裏でなんだかいい空気になる。
 客観的に見るととても素晴らしいシチュエーションのようだが、本人から言わせていただくと、もどかしいの一言である。
 昔の楽しかった日々のことは彼女は忘れている。それなのに俺の方はそのことを覚えている。
 このなんとも言えない気持ちを吐き出せたなら、どれだけ楽になるだろうか。
 「あの、そろそろ事情を聞いてもらってもいいだろうか?」
 「あ、あぁ。わかった」
 彼女の一言によって俺の思考は遮断された。
 「実は私は、ある輩に追われているのだ」
 「ある輩?」
 俺が聞き返すと彼女はとても怯えたように言った。
 「あぁ、そうだ。本当に恐ろしい連中でな。何もかも自らの欲望のままに手に入れようとする」
 そんな恐ろしい輩がこのご時世にいるのか、と俺は少し戦慄を覚えた。
 だが、俺が思うより早くそいつは現れた。
 「みぃつけた〜」
 
 狭い路地の入り口で笑っているそいつは、じゅるりと舌で唇を舐めるとこちらに向かって走り出した。
 
 
 俺は壊したスマホを携帯ショップで買い換えた後、街をふらふらと歩いていた。
 様々な店が立ち並ぶこの通りは常にがやがやとした騒めきに包まれている。ティッシュ配りのお姉さんを華麗にスルーした俺は、財布の中身を確認して肩を落とした。
 現在の我が財政は実に危機的な状況となっている。残金は千円札が一枚のみ。それとレンタルビデオ店のカードと、コンビニのポイントカードしか財布には入っていない。
 もう一度俺がため息をついたとき、買いたてのスマホが振動し、通知音が鳴った。
 「機種変更完了です♪  これからも馨さんをナビゲートさせていただきますのでよろしくおねがいします!」
 そのスマホのディスプレイにはあざとく敬礼しながらウィンクする可愛らしいキャラクターが映っていた。
 「あぁ、よろしく。ところで、前々から思ってたんだがそのナビゲートってなんなんだ?」
 俺は素直な疑問をティアに向けてみた。
 
 「はい、私は馨さんを良き未来へ導くためのナビゲートをさせていただいています。まぁ、恋のキューピッドってところでしょうか?」
 「え?  お前に恋のアドバイスとかしてもらったことないんだけど……」
 「何言ってるんですか馨さん! いつも好感度を教えてあげてるのはだれですか?」
 ティアは恩着せがましく鼻をふふんと鳴らしながら威張ってきた。
 「はいはい、ティアさんですよ」
 俺はなんだか面倒くさくなったので、そうやって会話に終止符を打った。
 そのときだった。
 「うわっ!」
 「きゃっ!」
 
 俺の体に軽い衝撃が走る。
 その衝撃の原因は、実にラブコメ的だった。
 走って来た女の子が俺の体にぶつかったのだ。(パンは咥えてなかったが)
 少し時間をおいて、その女の子は俺の体に埋めていた顔を上げた。
 そして、俺の顔を見るや否や驚いた表情を見せて、こう言った。
 「私を……私を助けてくれ!」
    *    *    *
 で、俺は路地裏に引きずられてきた訳だが……
 顔近いって、顔!
 だれにも見られないところで話がしたい、なんて言われてこの路地裏に来たのだが、あまりにも狭すぎる!
 そのせいで、彼女と俺は身を寄せ合い、顔を付き合わせるような形になっている。
 彼女の顔は実に整っており、六実とも張りあえるほどびかわいい。
 髪は艶やかな黒髪の長髪で、服装は薄い青のロングスカートに藍色のカーディガンという出で立ちだ。
 紅潮しているように見える頬を隠すように俯く彼女をしばし見つめ、俺は確信した。
 こいつは望月凛だ。
 望月凛と俺は小学校時代からの付き合いだ。いや、正確に言えば、付き合いだった。
 すなわち、俺は凛との関係を一度リセットしているのだ。
 中学校の卒業式のこと、俺が特別な関係を望んでしまったばかりに……
 「そ、そんなに見つめられると、恥ずかしいぞ……」
 凛が先ほどまでに増して俯きながら、恥ずかしそうにそう言った。
 「っ! あ! すまん!」
 俺は慌てて目を逸らすと、しょうがなく、目線をビルの隙間から見える空へ向けた。
 まさか、こんな偶然があるとは……
 過去にリセットを起こした女子と再び出逢い、路地裏でなんだかいい空気になる。
 客観的に見るととても素晴らしいシチュエーションのようだが、本人から言わせていただくと、もどかしいの一言である。
 昔の楽しかった日々のことは彼女は忘れている。それなのに俺の方はそのことを覚えている。
 このなんとも言えない気持ちを吐き出せたなら、どれだけ楽になるだろうか。
 「あの、そろそろ事情を聞いてもらってもいいだろうか?」
 「あ、あぁ。わかった」
 彼女の一言によって俺の思考は遮断された。
 「実は私は、ある輩に追われているのだ」
 「ある輩?」
 俺が聞き返すと彼女はとても怯えたように言った。
 「あぁ、そうだ。本当に恐ろしい連中でな。何もかも自らの欲望のままに手に入れようとする」
 そんな恐ろしい輩がこのご時世にいるのか、と俺は少し戦慄を覚えた。
 だが、俺が思うより早くそいつは現れた。
 「みぃつけた〜」
 
 狭い路地の入り口で笑っているそいつは、じゅるりと舌で唇を舐めるとこちらに向かって走り出した。
 
 
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