負け組だった男のチートなスキル

根宮光拓

第五十話 価値観

「ぼ、僕は自動……です」
「ん?」

 ヨハネが口をモゴモゴさせながら言った。あまりにも小さな声だったのに加え、自動に続く武器が思い浮かばない。そのためヨハネの言葉の予想さえつかず、ほとんど何を言ったのか分からなかった。

「ヨハネの武器は実際に見てみないと分からないと思います。僕たちも聞いただけでは分からなかったので」
「本当、発想が変なんだ」
「ひ、ひどいなぁ」

 二人からの言葉、主にアービスからの発言にヨハネはよわよわしく口を開いた。ということは新しい武器を自分で作り出したということなのだろうか。もしそうだとするなら凄い剣を作るなんかより断然すごいとは思うのだが、この才能もこの環境では認められないということなのだろう。

「これなんですけど……」

 ヨハネが秘密基地の奥から持ってきたのは筒のようなものだった。パッと見で、思いつく武器といえば吹き矢に見えなくもないが、吹き矢だったなら小人族でなくても作れそうなものだ。

「これは……」
「使ってみないと」
「分かりませんよね」

 二人がヨハネからそれを受け取ってコウスケへ渡した。使えということか。
 正直好奇心が抑えきれないコウスケは、遠慮なく筒を構えた。吹き矢を持つようなイメージで。

「そしてその紐に火を灯すんです」

 筒から垂れ下がる紐を指さしてドランが言った。
 慌てて口に持っていこうとした手を止める。どうやら吹き矢ではなさそうだ。

 それに紐に火、コウスケにある武器が思い浮かんだ。

「火縄銃……」
「え?」

 その呟きにいち早く反応したのはヨハネだ。先ほどまでの消極的な態度が嘘のように前のめりになってコウスケを見ている。

「火縄銃って何ですか?」
「あー、よくは知らないんだが、こんな筒に火薬を詰めた小さな火砲? 見たいなもんかな?」

 実際は見たことがないので具体的には説明できない。だがそれでも十分通じる物があったようでヨハネは感激したようにコウスケを眺めていた。

「そうです! まさにその武器はそれなんです! そうかぁ、火縄銃かぁ」

 ヨハネの変わりように戸惑う一同。

「コウスケさん、今までこの筒の名前が思い付かなかったんです。火縄銃、この名前貰っていいですか?」
「あ、あぁ」

 戸惑いながら頷く。ドランやアービスも戸惑っているところを見ると、そんな彼を見るのは珍しいのだろう。

「ヨハネ、良かったな」
「コウスケさん、何だか分かりませんけど有難うございます」
「ああ」

 早速この筒の名前が火縄銃という名前になったところで、試し打ちをしてみることになった。狙いは部屋の隅にある的のようなものだ。

「ファイア」

 紐に赤黒い炎を灯し、的に標準を合わせる。もちろん実際に銃を持つなんてことは初めてのため、テレビで見たような構えを見様見真似で行っている。だがそれが以外に好評なようで、三人は食い入るように見つめていた。
 そして放たれる銃弾。ズッシリと響く衝撃が本当に実弾を打ったのだということを実感させる。
 だが一つ誤算があった。

「――です」
「さ――」

 二人の声がまるで聞こえない。そう爆発音を至近距離で聞いたことによって聴覚が麻痺してしまったのだ。しかも『超感覚』を発動させたのも災いして、今ほとんど音が聞こえない状態に陥っていた。

 三人は笑顔でコウスケに話しかけてくるが、何一つ言葉が理解できない。
 未だ気づかない三人に対し、コウスケは耳を指差して耳が聞こえないということを伝えた。
 それに気づいたドランが二人へ説明をしている光景が目に入った。どうやら分かってくれたようだ。

 その後は聴力が回復するまで、ヨハネの土下座とドランとアービスから様々な発明品を見せてもらっていた。その中には魔石と呼ばれる不思議な鉱石を使ったものや、科学を使った機械など様々なものがいっぱいあった。だがそれらに武器として使える物は何一つなく、それだけが心に引っかかった。

「あー、戻った」

 声を出して聴覚が戻っているか確認をする。結構な時間が経ったが難聴にならなかっただけマシだ。これからは『超感覚』や『強化』を使う時は特に聴覚に注意をすることにしよう。と心に決めたコウスケだった。

「本当にすいません」
「いや、俺だって準備不足だった」

 『超感覚』さえ解いておけば、ここまで酷くはならなかったはずだった。それに銃が大きな音を鳴らすなんて知っていたコウスケにとって過失もあるといえばある。

「それにしてもコウスケさんはその、火縄銃? の扱いも知っているんですね」
「何となくだけどな」
「僕たちなんて打った時は、肩が外れちゃいましたよ」
「確かにそうだったな」

 ドランとアービスが笑顔でそう言ってくるが、脱臼をそう簡単に言われても反応に困る。少なくとも軽傷ではないはずだ。
 それにそうなる恐れがあるのに構えについて教えてくれなかったということは、彼らもまだこの銃の構えを確立出来ていなかったということなのだろう。もしわざとならとんでもない奴らである。

「コウスケさんのお陰で僕の武器が使い物になりそうです」

 ヨハネが力強く言った。先ほどの弱々しい彼とはまるで違って見える。それだけ自分に自信がついたということなのか、それとも一時的な興奮によるものなのか。

 そんなこんなでしばらく、先ほどの暗い雰囲気とは打って変わって銃に関して楽しい会話が続いた後、魔物に試し打ちしたい等、色々話が広がってしまった。

「で、外に出たわけだが」
「すいません、僕たちもヨハネのあの顔を見るのは久しぶりで」
「それに、ああなったヨハネは誰にも止められないしな」

 ドランとアービスからそんな言葉がかけられ、コウスケは仕方がないと割り切り、遠い目で輝く顔のヨハネを見ていた。本当の天才には変わり者が多いと聞くがあれがそうなのだろうか。

「ヨハネー! コウスケさんは疲れているんだから、早く終わらせなよ」
「分かってるー」

 ヨハネはそう言いながらも顔は前を向き進んでいく。そういえばこの地域で魔物に会った記憶がない。

「ここら辺に魔物なんているのか?」

 魔物が何を食らうのかは知らないが、この殺風景な土地に生き物が住み着くとは思えない。

「いえ、地上には山頂くらいでしょうね」
「ならどこに?」

 まさか今から山を登るなんて言わないだろうな。

「あそこです」

 ドランの指さした先には大きな穴が開いていた。また洞窟かと思うと顔が引き攣る。

「あれは?」
「坑道の入り口です。小人族はあそこから魔石や鉄鉱石なんかを掘り出して、武器などの材料にしているんです」
「そこに魔物が?」
「はい、どういうわけか」

 地上にはいない魔物が坑道に出ると言うのは何とも不思議な話だ。それに魔物探しで入るほど、中には魔物がたくさんいるということなのだろうか。

「それに近頃は坑道内に魔物が増えてきていて」
「最近じゃあドリウスにも出るようになってて」

 アービスから聞きなれない言葉が出された。

「ドリウス?」
「えっと、小人族の地下都市の名前です。小人族唯一の都市なんです」

 そう聞くとドリウスというのが小人族にとって首都のような役割をしているのだろう。

「他の小人族は皆その、ドリウスにいるのか?」
「はい、僕たちみたいに秘密基地で過ごす人もいますけど、基本的はドリウス内で生活しています」

 ドランから聞いていくと、ドリウスという都市に非常に興味が湧いてきた。

「ヨハネがいない!?」

 少し話をしていた隙にいつの間にかヨハネが消えていた。恐らくというより確実に坑道内に一人で入ったのだろう。
 コウスケはドランとアービスに急かされるようにして坑道に続いた。

「これは?」

 坑道内に入って思ったことはそれだ。通路内には不思議なランプが続いておりそれが坑道内を照らしていた。

「これは魔石灯と言って、魔石の魔力を使った照明灯です」

 魔石というのがイマイチ分からないが、とりあえず不思議な鉱石ということにして、今はヨハネを追うべく速足で進んでいく。

「ぎゃー!!」
「ヨハネ!?」

 通路の奥からヨハネの声が響いてきた。
 そこへたどり着くと、ヨハネが四方をコウモリと蜘蛛の魔物に囲まれている。あれでは一発毎に装填するあの銃じゃ対処出来ない。

「刺激しないようにゆっくりとこっちに来て」

 ドランがヨハネを落ち着かせるように声をかけるが、ヨハネは混乱しているようでまるで聞こえていないようだった。しまいには銃を打とうと火を点火し始める始末だ。あれではこちらにも被弾しかねない。

「しょうがねえ」

 コウスケはすぐさま道具袋から槍を取り出すと同時に『強化』を施して飛び出した。

「ギギッ!」

 コウモリの魔物が初めにこちらへ襲い掛かってくる。それを動体視力で避け、蜘蛛の魔物の背中を突き刺した。
 次にヨハネから銃を奪い取り火を点ける。だが直ぐには発砲されないことは承知の上だ。
 そのわずかの時間の間に、残りの蜘蛛魔物を槍で排除していき、そろそろ時間が来たと思った瞬間に、振り向いて銃を構えた。

「え!」

 ドランとアービスがビクッと体を震わせる。それもそうだ、突然こちらへ銃を向けられたのだから。
 だがコウスケの狙いはそこではなく、その前にいるコウモリの魔物だ。

 ――発砲音が耳をつんざく。
 それと同時にコウモリの魔物が一体、地へ堕ちる。

「後は……」

 槍を放り投げ、残る一匹のコウモリを後ろの地面へと突き刺した。
 これで掃除が完了した。

「すげえ……」
「その槍……」
「……ごめんなさい」

 それぞれが別の感想を口にした。

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