負け組だった男のチートなスキル

根宮光拓

第四十五話 町の外れ

 野心家な長耳族たちの後をつけてるコウスケら。いつ着くのかは分からないが、ある程度進んだところで気づくことがあった。

「そういえば、このまま魔人族丸出しで首都に入れるのか?」
「えっと……時期が時期ですもんね」

 ミュエルが言わずとも分かっていた。今は他種族に対して敏感な時期であり、特に魔人族には過敏に反応しかねない。何しろ族長の娘が攫われているのだから。
 そしてその族長の娘であるミュエルと一緒に行動する魔人族なんて誘拐犯以外考えられない。つまり高確率で冤罪をかけられることは目に見えて分かる。

「今更引き返すってのもな」
「ですよね」

 このまま行けば厄介なことになるが、ここで引き返した所で特に行き先もない。どちらをとっても面倒なのは変わりなかった。

「進むしかないか」
「分かりました」

 引き返す方が何だか勿体ない気がしたコウスケは進むことを選択した。ミュエルはあくまでコウスケの決断に従ってくれるようだ。

「首都の名前は何て言うんだ?」
「アルドカルナと言います」

 地理が苦手だと言っていたが流石に首都の名前くらいは分かっていた。分からないと言われたらどうしようかと思ったが安心した。
 しばらく無言で歩く。


「そういやミュエルのお父さんは何をしてるんだ?」

 堪らず質問をするコウスケ。何もかもミュエルがソワソワしだすのが悪い。

 とはいえ質問は聞いておきたいことではある。ミュエルの母親が長耳族長だということは分かったが、その夫は何をしているのか気になるところだ。妻が出世した男の立場というのも気になる。

「お父様も政治に携わっています」
「そうなのか」

 ならミュエルの父親も族長派で共に戦っているのだろうか。

「ですけど、お母様の考えと少し違っていて……」
「ん?」

 まさか攘夷派とでも言わないだろうな。もし夫婦喧嘩というオチならそれに巻き込まれた身にもなってほしい。

「お父様はお母様の亜人族が手を取り合ることには賛成しているんですけど、他の種族に対しての考えは少し違っていて、他国の種族は手を取り合う必要はないと思っている人なんです。しかも私が攫われたから……」
「もっとその考えを助長させてるってことか」

 ミュエルの両親は完全に対立しているわけではないようだが考えは若干違うらしい。言わば族長派の中にも穏健派と強硬派があるようだ。本当複雑すぎてやってられない。

「ミュエルにとってお父さんは悪い人なのか?」

 ミュエルの感性に尋ねてみた。今までミュエルは悪い人か良い人かで人を判断しているからだ。どう線引きしているかは分からないが、とりあえず悪い人に助けを請うわけにはいかない。今の所、彼女の判断に従うことが最善の手であるのは間違いないからだ。

「完全に悪いとは言えないけど……」
「微妙か」

 それもそうだ。自分の親を悪人だなんてハッキリ言えるわけもない。
 だが頼るべき人物はハッキリした。やはりミュエルの母親である族長様だ。今の所、族長様しか魔人族のコウスケに先入観なく穏やかに話してくれそうな人が思い浮かばない。

「族長は町のどこに?」
「中央だったと思います」
「中央かぁ……」

 町のはずれならコソコソとバレずに行けたかもしれないが、中央となると正面突破はまず無理だろう。いくら族長派の町とはいっても、ミュエルの話を聞く限りでは族長派の中の強硬派に捕まればコウスケの無事に確証がなくなってしまう。それでは本末転倒だ。
 しかも見えてきた首都の外壁のようなものを見る限り、バレずに潜入は無理だ。

「潜入は無理そうだなぁ」

 あの時キィンクの変装スキルを作っておけば良かったと軽く後悔する。あの時は戦闘スキルが必要だったので仕方がなかったが、こういう時に本当に必要なのは力押しではなく隠密、攪乱出来るスキルだ。

「どうしましょう?」
「うぅむ」

 今の所コウスケに打つ手はなかった。恐らく町に入る時にも今の状況だと警備も厳重になっているはずなので、そもそも入れない可能性だってある。一番の問題はコウスケが魔人族の容姿を持っていることだった。何でよりによって誘拐した種族が魔人族なのだろうか。えらい風評被害だ。

 手がない今、どうやって町の中に入るか。それが可能になる方法はただ一つ、協力者の存在だ。ただコウスケに長耳族の知り合いなんてキィンクぐらいしかいないし、そのキィンクは今頃ロイヒエン王国で密かに行動をしているはずで今は協力は得られない。
 ならミュエルはどうだろうか。彼女なら族長の娘という大きな肩書を持っている。

「ミュエル、首都に誰か知り合いとか友達とかいないか?」
「友達? えぇっと……」
「いなかったらいいんだけど」
「あ! エルシィク叔母さんなら」
「叔母さん?」
「そう、確か首都の外れに住んでたような」
「よし、尋ねてみよう」

 ミュエルの交友関係が思いのほか役に立ち、新たな目標が見つかった。叔母さんということは、父親か母親、どちらかと血縁関係があるということになるが、もし父親の方ならコウスケを見て良い思いをするだろうか。
 だが今はそれ以外に方法がない。イチかバチかかけてみる価値はある。

 ミュエルはここまで来たら道を思い出したらしく、コウスケの前に出て案内を始めた。極力周りに存在を悟られないように『超感覚』を使って気配を伺いながら慎重に歩みを進める。もちろんミュエルにも安全な場所を支持してだ。

「こっちです」
「結構離れたな」

 首都と思われる外壁からは結構離れた場所にミュエルは進んでいく。もはやここは町とは言い難い。こんな場所に住むなんてよほど変わり者だ。

「着きました」

 森が少しだけ開けた場所に小さな小屋がポツンとあった。まさかこんな小さな家が政治を担当しているどちらかの血縁者が住む家だとは思うまい。

 コウスケは小屋の前に立ち、『強化』を使って中の様子を調べた。数人いるようなら引き返すことを考えてだ。
 だが小屋の中は主に一人の人の生活音しか聞こえてこない。『強化』を使っているので、よほど隠密に長けた者かそれに準ずるスキルを使用していないと逃れるのは困難だ。

「大丈夫だ」

 コウスケの許可が出ると、ミュエルはすぐさま小屋の中に飛び込んだ。

「叔母さん!」
「誰だい? こんな場所に」
「私だよ、ミュエル」
「ミュエル!? 本当にあのミュエルかい?」

 行方不明の誘拐された少女が目の前に現れた時の人の反応はこういうものだろう。冷静にいられる方がおかしい。

「コウスケさんが助けてくれたんだ!」
「コウスケ? 誰だいそれは」
「あの人だよ!」

 ミュエルの紹介を受けコウスケは出来るだけ謙虚な姿勢で会釈をする。ここで警戒されては元も子もない。

「ま、魔人族!」
「違うって、コウスケさんは良い人なの」
「……ミュエルがそういうならそうなんだろうけど」

 その言葉にホッと息を吐くコウスケ。ミュエルのスキルは折り紙付きだったようで何よりだ。

「コウスケといったかね? とりあえず入りなさい」
「はい」

 エルシィクから招かれてコウスケはゆっくりと小屋の中に入った。小屋の中は外から見たのと変わらず小さく一人で暮らすのがちょうど良いくらいの大きさだった。

「じゃあ、話してくれるかい」
「はい」

 そうしてコウスケは、エルシィクに今までの状況を説明し始めた。

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