負け組だった男のチートなスキル

根宮光拓

第二十七話 爆撃者

 ほとんどの五感を奪われたコウスケに周りを確認する術は無かったが、恐らく今起こっていることぐらいは想像できた。とはいえ、このまま何も感じない状態であれば、寝首をかかれること間違いない。
 そう思っていたのだが、コウスケはそのまま誰かに抱きかかえられ、この場を移動させられた。少なくとも、盗賊たちではないようだ。なら老人だろうか。

 その後、どこかに下ろされた。それからしばらく経ち、ようやくコウスケの五感が戻る。戻ったところでまず入ってきた情報は、視界いっぱいの老人の顔だ。

「うわっ!」
「ひどいですな」
「ふふふ、コースケの気持ちも分からなくはないわよ」

 やはり抱えてくれたのは老人だったようで、マリーと共に安全な場所に連れてこられたようだ。にしても、あのローブの男はまた行動しなかったということか。あの男なら盗賊のボスがどうなろうとも動揺しないと思っていたのだが。

「にしても何で爺が? それにコースケは私がつけてるっていつから知ってたの?」

 不満げな顔でマリーが二人へ質問を飛ばした。
 二人は顔を見合わせて口を開く。

「そりゃあ……」
「最初からですかな」

 二人の言葉にマリーはますます不満げに頬を膨らませた。

「では、コウスケ殿。私の尾行も初めから?」
「そうですね」

 コウスケは気付いていた。自分をつけていたマリーをさらにつけている老人の存在を。それゆえのあの行動だったのだ。普通ならただでさえ武器が少ない状況で当たる可能性の低い短剣なんて投げるわけがない。

「いやはや私もまだまだですな」

 老人は笑みを浮かべながらそういった。だがコウスケが彼に気づくことが出来たのは『強化』による索敵時であり、『超感覚』では引っかかりもしなかったのだ。それだけでもかなりの隠密行動の力がある。
 ちなみにマリーは『超感覚』を発動した瞬間に察することが出来た。

「それで、あの後どうなったんですか?」

 コウスケの言葉でマリーと老人の顔が引き締まった。

「親玉の方は戦闘不能ですな、ですが、あの男は分かりませぬ」
「そうですか……」
「早くお父様を助けないと」

 コウスケの本音は、このまま逃げておきたかった。例え辺境伯が取り残されていようとも。もはやマリーたちに手を貸す理由はほとんどない。あれほどの盗賊たちを殺したのだ。盗賊の味方説を疑われる可能性はほとんどなくなっている。

「コースケ、お願い」

 マリーも何か察したのか、コウスケに涙目になってその碧眼を向けていた。

「分かったよ」

 決してマリーの涙に心動かされたわけではない。奴に何か引っかかりを覚えたのだ。しかも何か重要な事のような気がする。これを逃したら悔いるほどの。

「じゃあ今すぐにでも準備をしましょう」
「いや、俺一人で十分だ」
「ダメよ! 危険だわ」
「我々では足手まといということですか」

 マリーは必死に首を振ってコウスケの言葉に拒否を示すが、老人は穏やかにそういった。

「そういうことです」

 オブラートに包む理由もない。現実を突き付けてやったほうが効率的にも断然良い。

「……でも」

 その言葉が相当効いたのか、マリーはすっかり意気を失った。

「お嬢様、ここは男を立てて上げようではないでしょうか」
「……そうね」
「は?」

 老人の助け船なのか分からない発言によってマリーはようやく折れてくれた。

「コースケ、必ず無事に帰ってきなさいよ」
「……約束は出来ない」
「な、何で? これぐらいいいじゃない」
「はぁ、分かった。死なないようにするよ」

 コウスケはそう言って駆けだした。マリーが何か言っているような気がするが無視した。


 血の匂いを辿り、先ほどの戦場に戻ってきた。
 現場は何も変わっておらず、死体の山である。唯一変わったことと言えば、盗賊のボスが座り込んで今にも死にそうな顔をしていることぐらいか。

「おや、戻ってきたのか」

 ローブの男も位置を変えておらず冷めた口調でコウスケに言い放った。

「ああ、そこの人質を助けに来たんで」
「はは、やってみなよ」

 ローブの男は余裕の態度だ。

「ファイア」

 コウスケは早速魔法をその男へ放った。

「おっと、無粋な真似をするなぁ、しかも何だいこれ」

 あっさりと赤黒炎は躱されたが、男はその炎の色に少なからず関心を抱いたようだ。
 だが答えてやる義理はない。問答無用でコウスケは地面に手をつき魔法を唱えた。

「グラウンド」

 男の四方を囲むように地面がせり上がる。
 そして男の上方向から炎を降らせた。このままいけば間違いなく当たるが――

 突然の爆発音が響き渡る。
 あっという間に男の周りを取り囲んでいた土壁は砕け散り、炎も難なく躱される。

「容赦ないねえ」
「うるせえ、しゃべりすぎだ」

 いつになく苛立っているコウスケ。相手のひょうひょうとした態度もそれに拍車をかけている。

「しょうがないな」

 男はどこからか剣を取り出した。おそらくコウスケと同じ道具袋でも持っているのだろう。それに倣いコウスケも槍を取り出した。

「やっぱり槍か、相性最悪だなぁ」

 全くその気もない態度で言う男。
 コウスケは『強化』を施した脚力で一気に間合いを詰め、槍を突き出した。

「っ! 危ないなぁ。さっきも思ったけどその力、スキルだよね」
「言うと思うか?」
「だよね、鑑定してもいいんだけど、もう少し楽しもうか」

 いつまでも余裕の態度を崩さない男。
 コウスケは何度も突きを放ち続ける。時々来る剣さばきも避けながら。
 激しい戦闘が行われているにも関わらずこの場は静かだ。何故なら、一度も武器が衝突していないからだ。
 この戦闘で不利なのはコウスケだ。理由は奴の剣に下手に触れられないからである。恐らく爆発を起こすスキルを持っていると考えると、槍で触れるだけで爆発が起こる可能性がある。それ故に慎重に攻めなければならないでいた。

「もしかしなくても僕のスキルに気づいてるよね」
「どうだかな」
「っち、生意気な奴だ」

 次は打って変わって男の方が激高し始める。コウスケの態度、攻めの姿勢に嫌気がさしたのだろうか。
 男は乱暴に剣を振るう。当たれば勝ちだという優位性があるが故の行動だ。
 だがコウスケにも有利なものがあった。

「くそっ」

 悪態をつく男。まるでコウスケに剣が当たらないのだ。
 そうコウスケの優位性は、槍の攻撃範囲が。剣よりも長く、一点突きの姿勢で攻めれば、剣に攻める余地はない。

「はぁはぁ」

 すっかり息を切らした男は、コウスケから距離を取った。次に地面の石を拾う。

「死ねよ!」

 男が叫びながら石を投げつけてきた。咄嗟のことに飛び避けるコウスケ。その時男の口元が上がるのが見えた。

「しまっ――」

 コウスケの声を打ち消すほどの爆音が響く。そう彼は石を爆弾にしたのだ。

「ははは、僕に歯向かうからだ」

 土煙が晴れる。そこには左腕が血まみれになったコウスケがいた。だが今回は目を閉じたため視界は失われていない。

「っち、まだ生きてやがるか」
「……はぁ!」

 コウスケは一瞬で『強化』を腕に施しノーモションで槍を男へ投げつけた。
 とてつもないスピードの槍に加え、不意を突かれた男は、槍を頬を掠め、フードが引き裂かれた。

「やっぱりか……」

 コウスケはそう呟きながら、頭を覆っていた顔を隠すバンダナを外した。

「魔族だと!?」
「鑑定することを勧めますよ」

 コウスケの忠告を聞き男はコウスケをジッと睨み付けた。次第に変わる顔色。そして二人同時に口を開いた。

「ノボルセーンパイ」
「コウスケ……っ!」

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