負け組だった男のチートなスキル
第十四話 代償
コウスケは洞窟で仰向けになっていた。
隣には、コウスケより倍以上の体長を持つ魔物が死体となって倒れている。あの最後の一撃で決着がついたのだ。今でもよく勝てたなと心底思う。
ハッキリ言ってしまえば勝てたのは奇跡に近かった。いくら強化を施したとはいえたかが人の身。負ける可能性の方が段違いに高かった。コウスケが勝てたのは強化という勇者のチートスキルに加え、そのスキルとの相乗効果が生んだ鑑定によって弱点部位が判明したこと、そして初めから痛んだ身体で戦ったことによる痛みに対する無関心さ、捨て身。それらが重なったことでギリギリの勝利を収めることが出来たのだ。むしろ万全な状態だったなら途中、痛みで怯み、そのまま死んでいた可能性もある。それは不幸中の幸いだった。
現在のコウスケの身体は限界を超え、普通の人なら自分の体を見てショック死してもおかしくない有様だった。そのこともあり、コウスケは起き上がれない。とはいえ起き上がれないのにはもう一つ大きな理由があった。
ペナルティー。特定のスキルを同時に複数使用した場合に起こる現象であり、強い力を持つスキルの同時使用の時に起こる可能性が高くなる。場合によっては死に至るほどの痛みを伴い、そのまま死んでしまう事もあるのだ。ペナルティーはそれほど危険な現象だった。
コウスケはもちろん、このペナルティーについては神から聞いていた。そのため今までスキルを同時に使用したことはない。しかし今回はそうせざる得ない状況に陥っていた。死ぬ可能性があると聞いていたコウスケにしてみれば、それは大きな賭けだったのだ。
加えて限界まで体を使った結果として、全身が引き裂かれるような痛みが襲い掛かってくる。それだけでも十分コウスケの生きる気力を奪うのには十分するほどだ。だがペナルティーはその痛みさえも上書きしてしまうほどだった。それは今まで受けてきた痛みでは形容できない。単純に身体が痛いという次元ではない。あえて例えるならば生命の根幹が傷ついた。そんな痛みだった。
しばらくコウスケは乾いたうめき声を発しながら、しかし動かすと痛い身体で必死に耐えていた。
「はぁ……」
かなり長い時間が過ぎ、ようやくコウスケのペナルティーによる痛みは薄れてきていた。とはいえ、未だ身体はボロボロのままであるため、それらの痛みは継続中である。
コウスケは顔を少し傾けて、目の前に横たわる魔物を見つめた。魔物を食らうことは慣れてきていたコウスケだったが、さすがに生肉を食らうということはしていなかった。しかし身体が動かせない今、残された選択肢は一つしかなかった――
「ステータス」
名前 高月光助
種族 異世界魔人(最適化中)
レベル 30
スキル <技能創造> 隠蔽 鑑定 強化
「ごほっごほっ!」
ステータスを見てコウスケは思わず先ほど食べた肉片が喉をくすぐりむせてしまう。
レベルがかなり上がっているだろうと予想はしていたものの、まさかここまで上がるとは思ってもいなかったのだ。倒した魔物は相当なものだったのだろう。
後は、変わるはずの無い種族が変わっていることぐらいだ。
だがとりあえず種族は置いておき、今は大切なスキルスロットを確認する。
『スキル「超感覚」を作りました。装備しますか? 空きスロットは2です』
今度は呆気に取られるコウスケ。思ったほどスキルスロットが増えていなかったからだ。ゲンジュが言っていたレベル10までが成長期というのは、スキルスロットの上限値も影響するのだろうか。それなら納得できるのだが。
とはいえ超感覚というスキルは、この洞窟にいる魔物が必ず持っていたスキルである。ということはここで生きていくには必要不可欠なのだろう。と判断したコウスケは早速スキルを作りだし、装備し使用した。
超感覚スキルの使用した感覚は、コウスケが行った感覚強化に近いものだった。だが強化スキルでは必ずついてくる他の感覚については敏感にはならない。
超感覚スキルは強化よりは鋭くはないが、使い勝手が良いスキルであることは確かだった。
超感覚スキルを得たコウスケは、大事な事に気が付いた。今も自分の身体の状態だ。
両腕、両足はもはや機能せず、片目も潰れ、全身骨折という悲惨な状況だ。動くことはまず無理である。当たり前だが、痛みも継続中である。
もちろんコウスケは人間である。腕が生えたり、傷が瞬時に治ったりなんてことはあり得ない。つまりこのまま体力が回復するまでジッとしていても動けるようにはならない。と思っていたコウスケの脳内に、あの機械的な声が響いた。
『種族変化に伴い、消費スキル「更新」を所得しました。残り30秒後に使用されます』
消費スキル、種族変化について色々知りたいことがあったが、それよりもコウスケを驚かせたのは、そのアナウンスの有無を言わせない物言いだ。加えての30秒と言う猶予があるのも緊張感を増大させる。ジェットコースターの上っている期間の焦らされているあの感じだ。
10秒、20秒と時が過ぎる。一体何が起こるのか分からない。それも一層恐怖心を思い起こさせ、せめて痛くないことを望むコウスケ。もう痛い思いは嫌だった。
そしてその時が訪れた。
『消費スキル「更新」が発動します』
だが運命は無常である。
アナウンスと同時に襲ったのは痛み。形容できない異次元の痛みだったペナルティーとは違い、今回の痛みはちゃんと身体から発生しているということが分かった。だがその痛みはあの魔物と無茶をしながら戦った時の痛みを遥かに超えていた。もはや死ぬんじゃないかというほどだ。
そんな痛みが身体から起こるなんて誰が考えただろうか。身体が引き裂かれ、焼かれ、捻じ切られる。それらの感覚が同時に来ているような痛みだ。死んだほうがましだと考えてもおかしくない痛みだ。
――何故、こんな目にあわなければならないのか。
そもそもこんな目にあった原因は誰にある?
勇者、クラスメイト、学生、召喚した王族。全てが憎い。
だが力が足りない。
力が欲しい。全てを覆せるようなチカラガ。
あいつらを、理不尽を……コワスタメノチカラガ。
痛みの中でコウスケの心に芽吹いていた黒い感情が成長していく。確実に芽吹いたその感情は決して消えうせることはないだろう。
憎しみを抱きながら、痛みに耐え続けるコウスケ。
検討むなしくコウスケは痛みのあまり気を失った。
隣には、コウスケより倍以上の体長を持つ魔物が死体となって倒れている。あの最後の一撃で決着がついたのだ。今でもよく勝てたなと心底思う。
ハッキリ言ってしまえば勝てたのは奇跡に近かった。いくら強化を施したとはいえたかが人の身。負ける可能性の方が段違いに高かった。コウスケが勝てたのは強化という勇者のチートスキルに加え、そのスキルとの相乗効果が生んだ鑑定によって弱点部位が判明したこと、そして初めから痛んだ身体で戦ったことによる痛みに対する無関心さ、捨て身。それらが重なったことでギリギリの勝利を収めることが出来たのだ。むしろ万全な状態だったなら途中、痛みで怯み、そのまま死んでいた可能性もある。それは不幸中の幸いだった。
現在のコウスケの身体は限界を超え、普通の人なら自分の体を見てショック死してもおかしくない有様だった。そのこともあり、コウスケは起き上がれない。とはいえ起き上がれないのにはもう一つ大きな理由があった。
ペナルティー。特定のスキルを同時に複数使用した場合に起こる現象であり、強い力を持つスキルの同時使用の時に起こる可能性が高くなる。場合によっては死に至るほどの痛みを伴い、そのまま死んでしまう事もあるのだ。ペナルティーはそれほど危険な現象だった。
コウスケはもちろん、このペナルティーについては神から聞いていた。そのため今までスキルを同時に使用したことはない。しかし今回はそうせざる得ない状況に陥っていた。死ぬ可能性があると聞いていたコウスケにしてみれば、それは大きな賭けだったのだ。
加えて限界まで体を使った結果として、全身が引き裂かれるような痛みが襲い掛かってくる。それだけでも十分コウスケの生きる気力を奪うのには十分するほどだ。だがペナルティーはその痛みさえも上書きしてしまうほどだった。それは今まで受けてきた痛みでは形容できない。単純に身体が痛いという次元ではない。あえて例えるならば生命の根幹が傷ついた。そんな痛みだった。
しばらくコウスケは乾いたうめき声を発しながら、しかし動かすと痛い身体で必死に耐えていた。
「はぁ……」
かなり長い時間が過ぎ、ようやくコウスケのペナルティーによる痛みは薄れてきていた。とはいえ、未だ身体はボロボロのままであるため、それらの痛みは継続中である。
コウスケは顔を少し傾けて、目の前に横たわる魔物を見つめた。魔物を食らうことは慣れてきていたコウスケだったが、さすがに生肉を食らうということはしていなかった。しかし身体が動かせない今、残された選択肢は一つしかなかった――
「ステータス」
名前 高月光助
種族 異世界魔人(最適化中)
レベル 30
スキル <技能創造> 隠蔽 鑑定 強化
「ごほっごほっ!」
ステータスを見てコウスケは思わず先ほど食べた肉片が喉をくすぐりむせてしまう。
レベルがかなり上がっているだろうと予想はしていたものの、まさかここまで上がるとは思ってもいなかったのだ。倒した魔物は相当なものだったのだろう。
後は、変わるはずの無い種族が変わっていることぐらいだ。
だがとりあえず種族は置いておき、今は大切なスキルスロットを確認する。
『スキル「超感覚」を作りました。装備しますか? 空きスロットは2です』
今度は呆気に取られるコウスケ。思ったほどスキルスロットが増えていなかったからだ。ゲンジュが言っていたレベル10までが成長期というのは、スキルスロットの上限値も影響するのだろうか。それなら納得できるのだが。
とはいえ超感覚というスキルは、この洞窟にいる魔物が必ず持っていたスキルである。ということはここで生きていくには必要不可欠なのだろう。と判断したコウスケは早速スキルを作りだし、装備し使用した。
超感覚スキルの使用した感覚は、コウスケが行った感覚強化に近いものだった。だが強化スキルでは必ずついてくる他の感覚については敏感にはならない。
超感覚スキルは強化よりは鋭くはないが、使い勝手が良いスキルであることは確かだった。
超感覚スキルを得たコウスケは、大事な事に気が付いた。今も自分の身体の状態だ。
両腕、両足はもはや機能せず、片目も潰れ、全身骨折という悲惨な状況だ。動くことはまず無理である。当たり前だが、痛みも継続中である。
もちろんコウスケは人間である。腕が生えたり、傷が瞬時に治ったりなんてことはあり得ない。つまりこのまま体力が回復するまでジッとしていても動けるようにはならない。と思っていたコウスケの脳内に、あの機械的な声が響いた。
『種族変化に伴い、消費スキル「更新」を所得しました。残り30秒後に使用されます』
消費スキル、種族変化について色々知りたいことがあったが、それよりもコウスケを驚かせたのは、そのアナウンスの有無を言わせない物言いだ。加えての30秒と言う猶予があるのも緊張感を増大させる。ジェットコースターの上っている期間の焦らされているあの感じだ。
10秒、20秒と時が過ぎる。一体何が起こるのか分からない。それも一層恐怖心を思い起こさせ、せめて痛くないことを望むコウスケ。もう痛い思いは嫌だった。
そしてその時が訪れた。
『消費スキル「更新」が発動します』
だが運命は無常である。
アナウンスと同時に襲ったのは痛み。形容できない異次元の痛みだったペナルティーとは違い、今回の痛みはちゃんと身体から発生しているということが分かった。だがその痛みはあの魔物と無茶をしながら戦った時の痛みを遥かに超えていた。もはや死ぬんじゃないかというほどだ。
そんな痛みが身体から起こるなんて誰が考えただろうか。身体が引き裂かれ、焼かれ、捻じ切られる。それらの感覚が同時に来ているような痛みだ。死んだほうがましだと考えてもおかしくない痛みだ。
――何故、こんな目にあわなければならないのか。
そもそもこんな目にあった原因は誰にある?
勇者、クラスメイト、学生、召喚した王族。全てが憎い。
だが力が足りない。
力が欲しい。全てを覆せるようなチカラガ。
あいつらを、理不尽を……コワスタメノチカラガ。
痛みの中でコウスケの心に芽吹いていた黒い感情が成長していく。確実に芽吹いたその感情は決して消えうせることはないだろう。
憎しみを抱きながら、痛みに耐え続けるコウスケ。
検討むなしくコウスケは痛みのあまり気を失った。
コメント
ノベルバユーザー602508
とても面白いですね。続きが気になってしまう良い作品です。