異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第31話運ばれし幸せ

 その日は夜遅くまで本を読み漁ったのだが、結局収穫はなし。ルチリアが本を持ったまま眠ってしまったので、俺も自然な流れで就寝。
 で、翌朝。

「あ、おはようカエデ君」

「おはよぉ。早いなルチリア」

 俺より先に起きていたルチリアは、既に調べ物をしていてた。 俺はまだすぐには頭が回らないので、少し時間が経過してから始める事にする。

「あ、そういえばカエデ君。私一つ気になる事を見つけたんだけど」

「気になる事?」

「これなんだけど」

 そう言ってルチリアはある本のページを俺に見せる。そこに書かれていたのは、俺が気になっていた例の海底都市についてだった。

「やっぱりか。あそこまでしっかりしていた場所だから、何かの国だったのかなって思ったけど、その通りみたいだったな」

「うん。それでこれを見て欲しいんだけど」

  そう言ってルチリアは本ページを指さす。そこには神殿らしきものが写っていた。

「これってあそこにはなかったよね」

「でもこの資料に載っているということは、本当に存在しているかもしれないな。もしくは何かによって消されてしまったか。例えば魔物とか」

「それはあり得るかもしれないね」

 ある程度読んだところで、再びそれぞれ調べ物を再開する。海底都市の事についてもそうだが、ルチリアが調べたい事もこれといった資料を得られていない。

(そう簡単にはいかないのは分かっていたけど)

  俺の事はともかく、ルチリアが調べようとしている事は簡単には見つからない事だと思っている。

『私今まで一度も調べようとしなかったんだけど、自分の両親の事を知ろうと思っているの』

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「自分の親の事? そんなのここで調べて分かる事なのか?」

「以前話したと思うけど、私お母さんの記憶が全くないの」

「そういえば少し前に話していたな」

「今まではそれについてほとんど疑問には思った事がなかったの。そういうものなんだって。だけどカエデ君が頑張って自分の事を知ろうとしている姿を見て、私も向き合ってみようかなって思って」

 ルチリアの言葉には決意がこもっていた。でもその言葉を聞いて、俺は少しだけ疑問に思う事があった。

「でもさ、ルチリアの母親って、顔を覚えていないってくらいで、別に俺のように特殊な人とかではなかったんだろ?」

「そう。だから私も気にしていなかったんだけど、実はもしかしたら私のお母さんが、人間だったという可能性もあるの」

「え?」

 それは予想外だった。俺とは違ってルチリアは元からこの世界にいるれっきとした獣人な訳だし、その特徴もはっきりしている。

「そな事ってあり得るのか?」

「この世界にも普通に人も暮らしているし、不思議な話ではないの。でもカグヤさんから聞いた話だと、
 私のお母さんも何か特殊なものがあるらしくて」

「カグヤさんは教えてくれなかったのか?」

「カエデ君の時と違って、なんか話す事にためらっていて、それがどうしても気になるの」

「それは確かに気になるな」

 まあ、それで何もなかったらなかったで、それだけの話だし、ルチリアもその不安を取り除きたいのだろう。

「だからありとあらゆる資料を調べて、もし何かあったらそれを詳しく調べてみようかなって」

「なるほどな。それだったら俺も手伝うよ。それでルチリアのお母さんの名前は?」

「お父さんが言っていたけど、ハルナって名前なんだって」

「それいかにも人間みたいな名前だな」

 漢字で書いたら春奈とかその辺りの名前になりそうだ。

「とにかくよろしくね、カエデ君」

「ああ」

 と、そんな感じで昨日か海底都市と同時にルチリアの母親の事について調べているのだが、それよりもやはり優先して調べている事が俺にはあった。

(人が獣と化して、普段以上の力を発揮する事、か)

 それは昨日カグヤが言っていた獣化について。昨日の時点では調べるつもりはなかったのだけれど、書物を漁っていくとその単語がやたらと目に留まり次第にそちらも気になるようになった。

「なあルチリア、話の内容は変わるんだけどさ」

「どうしたの?」

「一週間前に俺が見せたあの力って、何で今までは起きなかったんだろう」

「うーん、私もその話については本当に分からないんだけど、カエデ君のお母さんは何度か使っていたし……」

「え?」

 ルチリアの言葉に思わず反応してしまう。別に母さんが何度か使っっていたとかそういうところではなくて、俺が反応したのは。

「ルチリア俺の母さんの事知っているのか?」

「え、あ、えっと』

 そういえば彼女は海底都市が魔物によって壊滅してしまった惨状を見たと言っていたが、それはつまりあの海底都市に暮らしていただろう母さんの事も知っている事になる。

「ルチリア、何か知っているのか?」

「知っているといえば知っている。その時カエデ君も生まれていたし」

「じゃあもしかして俺の事も、本当は前から……」

「隠していたけど、私とカエデ君はむかしからの知り合いだよ」



『元気な男の子が産まれましたよ、アイラ様』

 物語の始まりは二十年前へと遡ってく。一人の男の子が世に生まれ落ちた。男の子は獣人の母親から産まれながらも、その容姿は人間と変わらなかった。つまり獣人の血より人の血の方が濃い事になる。

『アライア! 良かった、無事に産まれたんだな』

『うん。産まれたよ元気な男の子が。どちらかというとあなたの血の方が濃いみたい』

『そうか。男の子が産まれたなら名前は……』

『カエデ、かしらね。何か女の子みたいな名前だけど、格好よさそうだし』

『そうだな』

 産まれたなら男の子の名はカエデ。それは後に山村楓として再獣人達の前に現れる事になる、少年の名前だ。

『よかったな、本当に……本当に……』

 二人の間に運ばれた新たな幸せ。だがそれは、のちに不幸へと変わってしまう事に、その時誰も知らなかった。

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