異世界の村で始める獣人とのハーレム生活
第57話失意のどん底
「カエデ君、起きてください、カエデ君」
ルチリアの無事を待っている間に、いつの間にか眠ってしまっていたおれはモカの声で目を覚ました。
「モカ……ここは?」
「カエデ君が眠ってしまったので、書庫にある空き部屋を借りたんです」
「そっか……」
よく見れば俺が眠っているのは木製の長椅子。わざわざここまで運んでくれたのだろうか。
「そういえばルチリアは……?」
「それが……」
浮かない顔をするモカ。俺は急いで体を起こし、昨日ルチリアが運ばれた医療室に向かった。
「待ってくださいカエデ君!」
モカの呼びかけにも応じず、俺は中へ入る。そこで俺を待っていたのは、
「ルチリア……?」
眠った姿のままのルチリア。手術を施された後はあるが、昨日治療したであろう医者達の姿は見当たらない。
「カエデ君が寝ている間に……報告に来たんです。ルチリアさんは……胸部を槍で貫かれた事により」
後から入ってきたモカが背後で説明する。俺は縋るように彼女の元へ。口元に顔を寄せるが息をしている様子がない。
「私達が見つけた時点で既に死亡していたと……。元々体が弱い事もあって、ほぼ即死だったようです」
その瞬間、俺の中で全てが砕けた。
■□■□■□
その一報が私達の元に入ってきたのは、楓達が調べ物に出かけた翌日の夕方の事だった。
「は……? 今なんて言った」
「ですから、おたくの村に住んでいるルチリアさんが、今朝亡くなられました」
「嘘ぉ。嘘ですよねぇ」
「嘘ではありません。これは紛れもない事実です」
それを伝えに来たのは、向こうの島からモカがわざわざ送った使いだった。ポチ、ミルフィーナ共にその言葉を受け入れられない様子。勿論それを聞いた私も頭が真っ白になった。
「おい、冗談にもほどがあるだろ! どうしてルチリアが死ぬんだよ! 一緒に行ったカエデとモカ様はどうしたんだ」
「お二人の安全は確認できています。しかし一つ問題が向こうでは発生していまして」
「問題?」
「そのカエデという方が、部屋に立て籠もって出てこないんです。ルチリアさんの死を聞いた直後から、ずっとそのご様子で」
「カエデ……」
その言葉を聞いた私は、居ても立っても居られなず村を出ようとする。しかしそれはポチに止められてしまった。
「待てシズク、お前が今から一人で出たら危なすぎる」
「早く行かないと、楓が……」
「焦ったってどうにもならないだろ! カエデにだって一人になりたいはずだ」
「そうじゃないの! カエデ、このままだと多分本当に壊れちゃう」
私は知っていた。彼が……楓が抱え続けている秘密を。あれからずっと彼は心の闇を拭えていない。今度こそ助け出してあげないと、きっと彼の心は本当に壊れてしまう。
「シズク、どういう意味なんだそれは」
「カエデは……高校生の時に大切な人を失っているの。だけどその真実を受け入れられず、ずっと今日まで生きている。大切な人がいたという記憶すらも封じ込めて」
「じゃあカエデは、ルチリアが亡くなった事によって」
「とにかく急いで行かないと駄目なの!」
私はポチの制止を振り切り走り出す。私はずっと彼に助けられてばかりだった。だから今度は私が彼を助けなければならない。
(明里、私に力を貸して)
■□■□■□
忘れていたかった。ずっと。そうすればきっと楽になるだろうから。
『楓君、今日はどこへ行こうか?』
『うーん、千鶴はどこへ行きたい?』
『そうだなぁ。楓君とならどこへ行ってもいいかも』
『何だよそれ』
それは俺が高校生になって一年くらい経った時に出来た彼女の話。名前は小鳥遊千鶴。同学年の子で、偶然出会ったのがキッカケだった。
そう、でも時々偶然出会わなければこんな辛い思いをすることはなかったと思う時がある。
『楓君って今まで付き合った女の子とかいないの?』
『いないな。幼馴染はいるけど』
『え、よかったら今度紹介してよ』
『今度機会があればな』
どんどん思い出していく彼女との会話。声。思い出せば思い出すほど胸が苦しくなる。何で俺は二度もこんな辛い目に遭わなければならないのか? 誰か……教えてくれ。
「楓!」
閉じこもった部屋の外から声がする。それはこの島には付いてきていなかった人物。
「楓、しっかりして!」
「しず……く?」
どうして雫が今ここにいるんだ?
(そっか、もう)
ルチリアの事向こうに伝わっているのか。ポチやミルフィーナも辛いだろうな。ずっと一緒に生きてきた仲間だもんな。
「ここを開けて楓、私楓と話がしたい」
「それはできない……。俺はもう誰かの顔も見たくない」
「そんな事言わないで! あんたが弱気になってどうするのよ」
「弱気になったっていいだろ! 俺はちゃんと返事をする事が出来なかったんだよ、ルチリアに。本当は自分の中の気持ちにも気づいてた。それなのに……どうして……どうして」
その気持ちを伝えるべき人物を、失わなければならない。
「馬鹿……。本当に楓は馬鹿よ。ううん、大馬鹿よ」
「何だと」
「千鶴ちゃんを失った時も同じ事言って、私を遠ざけた。あの時から何も変わってない。だから大馬鹿者なの」
「千鶴は……千鶴は関係ないだろ!」
「関係あるわよ! 私だって大切な仲間を失ってショックなのに、自分だけ被害者ぶって。私の気持ちも考えた事はあるの!」
雫の声が響く。
「私だってあの時千鶴ちゃんを失って、すごくショックだった。でも強くなろうとそれを受け入れた。それなのに楓はどうしていつまでも受け入れようとしないのよ!」
「受け入れているさ! 受け入れているはずなんだ。なのに」
俺はどうして今になってこんなに過去に縋ろうとするんだ。
ルチリアの無事を待っている間に、いつの間にか眠ってしまっていたおれはモカの声で目を覚ました。
「モカ……ここは?」
「カエデ君が眠ってしまったので、書庫にある空き部屋を借りたんです」
「そっか……」
よく見れば俺が眠っているのは木製の長椅子。わざわざここまで運んでくれたのだろうか。
「そういえばルチリアは……?」
「それが……」
浮かない顔をするモカ。俺は急いで体を起こし、昨日ルチリアが運ばれた医療室に向かった。
「待ってくださいカエデ君!」
モカの呼びかけにも応じず、俺は中へ入る。そこで俺を待っていたのは、
「ルチリア……?」
眠った姿のままのルチリア。手術を施された後はあるが、昨日治療したであろう医者達の姿は見当たらない。
「カエデ君が寝ている間に……報告に来たんです。ルチリアさんは……胸部を槍で貫かれた事により」
後から入ってきたモカが背後で説明する。俺は縋るように彼女の元へ。口元に顔を寄せるが息をしている様子がない。
「私達が見つけた時点で既に死亡していたと……。元々体が弱い事もあって、ほぼ即死だったようです」
その瞬間、俺の中で全てが砕けた。
■□■□■□
その一報が私達の元に入ってきたのは、楓達が調べ物に出かけた翌日の夕方の事だった。
「は……? 今なんて言った」
「ですから、おたくの村に住んでいるルチリアさんが、今朝亡くなられました」
「嘘ぉ。嘘ですよねぇ」
「嘘ではありません。これは紛れもない事実です」
それを伝えに来たのは、向こうの島からモカがわざわざ送った使いだった。ポチ、ミルフィーナ共にその言葉を受け入れられない様子。勿論それを聞いた私も頭が真っ白になった。
「おい、冗談にもほどがあるだろ! どうしてルチリアが死ぬんだよ! 一緒に行ったカエデとモカ様はどうしたんだ」
「お二人の安全は確認できています。しかし一つ問題が向こうでは発生していまして」
「問題?」
「そのカエデという方が、部屋に立て籠もって出てこないんです。ルチリアさんの死を聞いた直後から、ずっとそのご様子で」
「カエデ……」
その言葉を聞いた私は、居ても立っても居られなず村を出ようとする。しかしそれはポチに止められてしまった。
「待てシズク、お前が今から一人で出たら危なすぎる」
「早く行かないと、楓が……」
「焦ったってどうにもならないだろ! カエデにだって一人になりたいはずだ」
「そうじゃないの! カエデ、このままだと多分本当に壊れちゃう」
私は知っていた。彼が……楓が抱え続けている秘密を。あれからずっと彼は心の闇を拭えていない。今度こそ助け出してあげないと、きっと彼の心は本当に壊れてしまう。
「シズク、どういう意味なんだそれは」
「カエデは……高校生の時に大切な人を失っているの。だけどその真実を受け入れられず、ずっと今日まで生きている。大切な人がいたという記憶すらも封じ込めて」
「じゃあカエデは、ルチリアが亡くなった事によって」
「とにかく急いで行かないと駄目なの!」
私はポチの制止を振り切り走り出す。私はずっと彼に助けられてばかりだった。だから今度は私が彼を助けなければならない。
(明里、私に力を貸して)
■□■□■□
忘れていたかった。ずっと。そうすればきっと楽になるだろうから。
『楓君、今日はどこへ行こうか?』
『うーん、千鶴はどこへ行きたい?』
『そうだなぁ。楓君とならどこへ行ってもいいかも』
『何だよそれ』
それは俺が高校生になって一年くらい経った時に出来た彼女の話。名前は小鳥遊千鶴。同学年の子で、偶然出会ったのがキッカケだった。
そう、でも時々偶然出会わなければこんな辛い思いをすることはなかったと思う時がある。
『楓君って今まで付き合った女の子とかいないの?』
『いないな。幼馴染はいるけど』
『え、よかったら今度紹介してよ』
『今度機会があればな』
どんどん思い出していく彼女との会話。声。思い出せば思い出すほど胸が苦しくなる。何で俺は二度もこんな辛い目に遭わなければならないのか? 誰か……教えてくれ。
「楓!」
閉じこもった部屋の外から声がする。それはこの島には付いてきていなかった人物。
「楓、しっかりして!」
「しず……く?」
どうして雫が今ここにいるんだ?
(そっか、もう)
ルチリアの事向こうに伝わっているのか。ポチやミルフィーナも辛いだろうな。ずっと一緒に生きてきた仲間だもんな。
「ここを開けて楓、私楓と話がしたい」
「それはできない……。俺はもう誰かの顔も見たくない」
「そんな事言わないで! あんたが弱気になってどうするのよ」
「弱気になったっていいだろ! 俺はちゃんと返事をする事が出来なかったんだよ、ルチリアに。本当は自分の中の気持ちにも気づいてた。それなのに……どうして……どうして」
その気持ちを伝えるべき人物を、失わなければならない。
「馬鹿……。本当に楓は馬鹿よ。ううん、大馬鹿よ」
「何だと」
「千鶴ちゃんを失った時も同じ事言って、私を遠ざけた。あの時から何も変わってない。だから大馬鹿者なの」
「千鶴は……千鶴は関係ないだろ!」
「関係あるわよ! 私だって大切な仲間を失ってショックなのに、自分だけ被害者ぶって。私の気持ちも考えた事はあるの!」
雫の声が響く。
「私だってあの時千鶴ちゃんを失って、すごくショックだった。でも強くなろうとそれを受け入れた。それなのに楓はどうしていつまでも受け入れようとしないのよ!」
「受け入れているさ! 受け入れているはずなんだ。なのに」
俺はどうして今になってこんなに過去に縋ろうとするんだ。
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