異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第54話姉の願い 妹の想い 後編

 明里の想いを俺は叶えると決めた。だから雫が明里の事で必死になっている時、俺は彼女を支えた。小学生の自分ができる事なんて数少なかったけど、俺はただ約束を守る為に彼女の側に居続けた。

『楓、私を一人にしてって言ったでしょ? 私一人で明里を助けるんだから』

『雫、ずっと眠ってないよ。目の下にクマがある』

『だから何なのよ! 私が頑張らないと明里が……』

 どれだけ雫が明里を大切にしていたか俺には伝わっていた。だからこそ、彼女には無理をしないでほしかったし、小学生の内から無理ばかりしていたら、彼女までもが倒れてしまう。
 だから俺は何度も彼女に無理をしないように言い続けたけど、雫はそれを聞かなかった。

 そう、明里が亡くなるその時まで。

『明里……目を覚まして。お願いだから!』

『明里……』

 結局無力な自分を思い知らされる事になった雫は、明里が亡くなってからしばらく外へ出てこなかった。そんな彼女の家を毎日訪れて、彼女が立ち直れるまで俺は言葉をかけ続けた。

『どうして毎日私の家に来るの? お願いだから帰ってよ!』

『皆心配しているよ? 雫のお父さんもお母さんも、そして僕も』

『心配なんてしないでいい。お願いだから私を一人にして……お願いだから……』

 彼女は引きこもっている間一度も部屋の扉を開けず、僕はドア越しに彼女に言葉をかけ続けた。

『かっちゃん、お姉ちゃんが一人にならないように側に居続けてあげて』

 今でもたまに明里の声が聞こえてくる時がある。その度に俺はこうやって思い出すのだ。雫の側に居続けたあの時間を。

「……」

 そして思い出した後は、こうして目を覚ます。そして目を覚ますたびに、俺は涙を流していた。

「カエデ? 目を覚ましたの?」

 俺が目を覚ました事に気がついたルチリアが、俺の元に寄ってくる。

「ルチリア……俺」

「馬鹿! 一人で無茶して、どれだけ皆が心配したと思うのよ! 馬鹿カエデ」

 そしてルチリアは、目に涙を溜めながら俺に抱きついてきた。俺はそれを受け止める。

「心配かけたな」

「大馬鹿よ! 何で怪我をしたなら早く言わないのよ。皆に分かるまで黙ってて! 私達の気も知らないで」

「ごめん」

「馬鹿、馬鹿」

 心配かけたのは分かっていた。俺がどれだけ無茶した事も。でもだからこそ俺は思う。守るべきものを守れても、こうして戻ってこれなかったら誰かを悲しませる事を。それを俺は明里の時に思い知った。

「本当にごめんな、ルチリア」

 ■□■□■□
 どうやら俺はあの事件から一週間近く眠っていたらしい。だからルチリアはすごく心配していたらしく、しばらく眠ってすらいなかったらしい。
 でもそれ以上に心配していたのが、雫だった。

「よかった、本当によかった。楓まで居なくなったら私壊れちゃうところだった」

「心配させたな雫」

「よかった、本当に……」

 俺が目覚めた事に安堵したのか、雫はその場で倒れてしまう。

「お、おい雫?」

 どうやら倒れたのは、俺を心配するあまりかなり無理な生活をしていたかららしい。それはモカやポチ達が本気で心配するくらいのものだったという。

「カエデはもっと強くならないとな」

「また修行しないとな」

「やっぱりカエデさんはぁ、黒魔法を覚えるべきなんですぅ」

「それだけはない」

 何はともあれ、雫が村を出た事によって始まった一連の事件は、一応決着。まだ分からないことは多いけど、こうして生きれた事を今は感謝しよう。


「カエデ君、私話したい事があります」

 一連の事件の翌日、モカが神妙そうな顔で一人で部屋を訪ねてきた。

「どうしたモカ、真剣そうな顔して」

「私達の先日の事件を受けて決めた事があるんです」

「決めたこと?」

「これ以上カエデ君やシズクに迷惑をかけないために、私一度自分の国に帰ろうと思うんです」

「帰るって、一人でか?」

「危険なのは承知です。でもこの前の事件で私の大切な人が傷つけられて、もう黙ってられなくなりました」

 モカの言葉一つ一つには決意がこもっていた。それは一国の姫としてではなく、一人の友人として大切な友のために立ち上がった一人の騎士のようだった。

「でも今お前の国は占領されているんだろ?」

「ほぼ占領されてしまっているのは確かです。でも向こうの本当の狙いは私。だから私は国に戻って交渉しに行くんです。もう私以外の仲間を傷つけないって」

「でもそしたらモカ、お前は」

「命の保障はないかもしれません。でもこれ以上、この島に私の揉め事を持ち込みたくないんです。私はシズクが辛い思いしている間、何もできなかったのが悔しいんです。だからせめてもの償いで、私はこのポカルミ村の方達とお別れします」

 モカが雫の事で一番気に病んでいるのは俺にも伝わっていた。だからその償いをしたいという気持ちは俺でも分かる。だが分かっても、それを了承する事はできなかった。

「それは駄目だモカ」

「止めても駄目です。私はお別れの挨拶をカエデにしに来たのですから」

「死にに行く仲間を、はいそうですかと見送れると思うか?」

「分かっています。でも、もう決めた事ですから」

「だったら俺は意地でも引き止めるよ」

 まだ腹の痛みが抜けないが、俺は立ち上がり部屋を去るモカの腕を掴んだ。

「離してください」

「それはできない。お前がいなくなる事で誰よりも悲しむのは雫だ。そんな雫の姿をお前は見たいか?」

「それは……。でも私は国の為に」

「だったら俺達を頼れ、モカ」

「え……?」

「俺達はお前の仲間だ。一人で戦おうとするな」

「でも、私のせいで皆が……」

「仲間の為ならこんな傷容易い。それよりも仲間に死なれる方がもっと痛い」

「カエデ君……」

「だから俺達をもっと頼れ、モカ」

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