異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第51話私のヒーロー

「シズクちゃんにそんな過去が……」

 俺が一通り話し終えると、ルチリアが最初に言葉を漏らす。他の皆も結構驚いているのか、喋ろうとしない。

「私そんな事も知らないで、シズクにあんな事言ってしまっていたんですね」

「モカが気に病む必要はないぞ。そもそも知らなくて当たり前の話なんだし、雫だってモカを責める事なんてないと思う。ただ問題なのは……」

 雫はこの島の事に詳しくない。その彼女が一人で飛び出してしまったという事は、色々な危険がある。特にあの神殿周辺を歩いていたら、魔物に襲撃される危険性がある。

「早く見つけ出さないと、いろいろ危険な状態だよな絶対」

「魔物やこの前カエデが遭遇した、モカ様の追っ手が今この島にいるんのよね。だから早く助けに行かないと」

「ああ。ただ皆に頼みがある。今回雫が勝手に村を飛び出した事を責めないでくれ。あいつはあいつなりの正義があって、少しでもルチリア達の力になろうとしたんだから」

「こんな話を聞かされたら責め様にも責められないわよ。ただ、後悔しないためにも早く見つけないと」

「そうだな。皆よろしく頼む」

 俺は全員に頭を下げる。ああは言ったものの、俺は雫をずっと心配していた。彼女は昔から隣にいて、色んな思い出を分かち合ってきた。

 明里の事も、そして今回の事も。

 だから絶対失ってはいけない。何か起きてしまう前に早く見つけないと。

「よし、皆行くぞ!」

『おー!』

 無事でいてくれ、雫。

 ■□■□■□
「お主が否定するのはいくらでも構わぬ。じゃが、それは変えられぬ事実なのじゃ」

「どうして諦めようとするんですか! 何かいい方法があるに決まっています」

 私は憤慨していた。簡単に命を諦めるなんて事が、とても許せなかった。でも同時に不安も生まれる。

 本当に方法がそれしかないのではないのか、と。

 日本にだって治療できない病気はいくらでもある。明里がそうであったように、救えない命があるのは勉強してきて分かっていた。だからこそ私は不安になってしまう。

「どうして関係のないお主がそこまで怒る? ただの人間じゃろお主は」

「私は……医学を勉強しているんです。だから少しでも力になればと思って」

「そうか、医学を学んでおるんじゃな。なら尚の事教えよう。お主の世界にもそれがあるように、この世界にも救う事のできぬ病がある」

「それが獣化病だと言うんですか?」

「何度も言うておるじゃろ。それにその病気は……」

 と、カグヤさんが何かを言いかけたところで、何かに反応したのか体をビクッとさせる。

「体を伏せるのじゃ、シズク」

「え、は、はい」

 咄嗟に私は体を伏せる。そのわたしの頭上を何かが通り過ぎるのを感じる。

「っ! よりによって、こんな場所で出くわすとはのう」

 私の真上を通った何かを弾き飛ばしたカグヤさんは、そんな事を呟く。

「まさかこんな所でお会いするなんてな、カグヤ」

「噂には聞いてはおったが、本当にお主が直々に王女を追っているとはのう。カルマ」

 私の背後から男性らしき声が聞こえる。この世界に来て、楓以外の男の人の声を聞いたのは初めてだ。

「お前も王女を守るのか。そんな事無駄だと言うのに」

「無駄ではない。あの方を守る事には意味があるのは、お主も知っておるじゃろ」

「知ったような口を」

 王女とは恐らくモカの事を言っているのはすぐに分かった。そういえばこの前楓が襲撃にあったって言っていたけど、その犯人は彼なのだろうか。

「それにしてもまさか、ここに人間がもう一人いるなんてな。さては、何かを企んでるな」

「何も企んではおらぬ。それより雫、お主は先に村に戻るのじゃ。何をしようにもしないにも、今この島を一人で歩くのは危険すぎる」

「え? でもカグヤさんは?」

「妾の心配はおらぬ。さあ逃げるのじゃ」

「は、はい」

 私はすぐに立ち上がり、カグヤさんに背を向けて走り出す。今なら村へ戻れば、誰かを助けに呼べるはず。早くルチリアちゃんでも、楓でもいいから助けを呼ばないと。

「簡単に逃すと思うか」

 だが私の動きを読んでいたのか、私の眼の前には沢山の兎の獣人が。

「そこをどきなさいよ!」

 だけど私はそれに怯むことなく、隠し持っていた短剣を両手に持ち、突破を試みる。

「でやぁ」

「なっ、その動きは」

 私は風の如く、獣人の群れへと入っていき、そのまま突破した。その間に敵は短剣で斬りっけておいたので、何匹の獣人は倒せただろう。

「シズク、お主まさか……」

「あいつを追え! 仲間と合流される前に仕留めるんだ」

「そうはさせないぞ!」

 頭上から別の声がする。この声は……。

「雫には手出しさせない!」

「楓……」

「ったく、一人で思いつめているなら相談くらいしてくれよな」

 私の前に現れたのは一人のヒーロー。どんな時も私を助けてくれたたった一人のヒーロー。明里を亡くした時も、一人で閉じこもる私を外へ連れ出してくれた大切な人。

「馬鹿……。相談できたならとっくにしてたわよ」

「なら、少しでも頼れよ。モカや皆がお前の事を心配していたんだから」

「ごめん……」

 楓だった。


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