異世界の村で始める獣人とのハーレム生活

りょう

第15話黒い日とその前夜

 ポチやルチリアから背中を押された日の晩、俺は明日への不安が消えず眠れずにいた。

(もしかしたら明日、俺死ぬかもしれないな)

 何せ明日の鍛錬の相手はミルフィーナ。前回とその前に既に地獄を見せられているので、正直生きた心地がしない。

(あれから時々悪夢にうなされるし、このままだと確実に命を落とすよな)

 あの薬を飲まされてから、どうも夢見がよくない。そのせいで何度も目を覚ますし、その日が近づいてくると体が震え出す。現に今もそうだ。

「どうしたのカエデ君、眠れてなさそうだけど」

 隣のベッドからルチリアの声が聞こえる。今彼女の家に居候している俺は、何故か部屋は用意されずルチリアと同じ部屋で眠っていた(勿論布団は別)。

「あ、悪い起こしちゃったか?」

「ううん。私もまだ眠れてないの」

「そうか……」

「それで、カエデ君はどうして眠れないの?」

「いや、実は……」

 ミルフィーナの事についてルチリアに話す。彼女はそれを聞くなり、クスッと笑った。

「何がおかしいんだよ。こっちは真面目なのに」

「ごめんなさい。そういう反応する人初めて見たから」

「初めてって、誰だって同じ反応するだろ」

「それがそうでもないの」

「え?」

 いや、あんなの見せられたら、誰だって怖くて逃げ出したくなる。黒魔術なんて言葉を聞いただけでも、拒絶する人だっているに違いない。

 それなのに何故?

「この世界では……というよりは私達にとっては当たり前のものなの。黒魔術って。皆幼い頃から学ばされているし、それに特化している獣人だっている。ミルフィーナみたいにね」

「じゃあルチリアも使えたりするのか?」

「ほんの少しだけね。それはポチだって一緒。だからカエデ君の反応が面白くて」

 だから彼女達はこれまで、俺がいくら危ないと言っても止めなかったのか。そうだとしたら、俺も少しは慣れないといけないのかな。

「いやいや、俺は普通の人間。ノーマルタイプ。ルチリア達とは身体の作りも違うって。だから怖いものは怖いよ」

 慌てて弁明するが、しばらくルチリアからの返事が返ってこない。寝てしまったのだろうか。

「私達とは違う……か」

「ルチリア?」

「カエデ君の言う通り、私達は獣でカエデ君は普通の人間。私達が普通だと思っても、あなたにとっては普通じゃないもんね」

「いや、別にそういう意味で言ったわけじゃ……」

「ごめんねカエデ君」

 ルチリアはその言葉を最後に、そのまま眠ってしまった。

 静かになった空間で再び一人になった俺は、少し前のカグヤの言葉を思い返していた。

(獣と人、相容れない存在……そして俺はその二つを繋ぐ架け橋になりうる存在……か)

 本当に俺はそんな存在になれるのだろうか?

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 翌日、案の定ミルフィーナの黒魔術の教えを請う事になった俺は、昨晩の事もあってか少しだけ落ち着いて彼女の家に入った。

(流石に二度目となれば、この部屋の空間も慣れたよな)

 相変わらず真っ暗なミルフィーナの部屋。中では俺がやって来たことに気がついてないのか、ミルフィーナが何やら怪しい作業をしている。
 だが初めて来た時よりは恐怖を感じなかった。いや、本当は感じていたのかもしらないけど、俺はそれを何とか受け入れようとしていた。

「あれ〜、まだ時間じゃないですよぉ?」

 俺が部屋に入って来たことにやっと気がついたのか、ミルフィーナが作業の手を止める。

「ちょっと早く来てもいいかなって。今のうちに慣れておきたいし」

「そうですかぁ。でも〜、私嘘は嫌いですよ〜」

「嘘? 俺ついた覚えはないけど」

「隠しても無駄ですよぉ。昨日ルチリアちゃんと何かあって、不安になったから私の元に来たんじゃないですかぁ?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「今朝ルチリアちゃんに会ったら、少し元気がありませんでした。何があったのか教えてくれないでしょうか」

 いつもののんびりとした口調とは変わって、真面目に聞いてくるミルフィーナ。どうやら全てお見通しだったらしい。

「実は昨日の夜……」

 一通りの話をする。改めて振り返ると、もしかしたら俺は彼女を傷つけてしまったのではないかと思ってしまう。あの言葉は一種の差別用語だ。だから傷ついてもおかしくはない。

「なるほど。そういう事ですか」

「俺は全くそういう気はなかったんだけど、やっぱり駄目だったのかな」

「そうですね。カエデ君もちゃんと言葉を選ぶべきだったと思います」

「そうだよな……」

「でもそれが正しい反応でもあります。だからそんなに気を落とさなくても大丈夫です。きっとルチリアちゃんだって分かってくれますよ」

「そうだといいんだけど……」

 俺は改めて昨日の自分の発言を後悔していた。だから帰ったらちゃんと謝らなければならないと思った。

「さてと、そろそろ始めますよカエデ君」

「始めるって何を?」

「楽しい楽しい黒魔術の時間で〜す」

「ま、待ってミルフィーナ。その片手に持っているものは、絶対飲めるものじゃないって」

「レッツ試飲!」

「試飲で死んでたまるかー!」

 無事に帰れたら、の話だけど。

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