絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~
第五十三話 呼応(後編)
崇人は壇上に立たされ、考える。
果たして、インフィニティは呼び出せるというのか。
だが、呼ばなければ、崇人自身の命が危うい。
「さあ、呼ぶんだ。インフィニティを――世界最強のリリーファーを」
リーダーの言葉に、崇人は頷き、そして心の中で念じた。
(来てくれ――≪インフィニティ≫――!!)
その頃。
ヴァリエイブル帝国の城下にある倉庫。
「にしてもこのリリーファーは本当に動くんですか?」
『00』と書かれたリリーファー倉庫で、二人の清掃員が掃除を行っていた。片方の女性が、もう片方に訊ねる。
「なんでも、最強のリリーファーらしい。だが、動かせるのはわずか一人で、今は学生として居るとか聞いたことがあるぞ。まあ、ただの噂なんだがな」
「まさか。噂と言っても限度がありますよ。信じられる噂を流さないと」
「俺が流したわけじゃねえかんなー。噂が噂を呼んで、どっかからか流れてきて……それの繰り返しってわけだよ」
「なるほど。けれど、それって本当に聞こえませんよね。嘘としか思えませんよ」
そう言うと、男はガッハッハと大声で笑った。
ちょうど――その時だった。
ズン!! と地響きが鳴った。
「なんだこりゃあ!?」
男の清掃員は慌てふためいて、リリーファーの方を見る。
すると、リリーファーが、インフィニティが動き始めていた。
それには、誰も乗っていないはずなのに。
「……あのリリーファー、無人でしたよね!?」
「ああ……! どういうことだよこいつは!!」
インフィニティは、起動従士タカト・オーノに誘われて起動したのだということに、彼らはまだ知らなかった。
そして。
それからわずか数分後の出来事だった。
北方から、耳を劈く轟音が響き渡った。あまりの轟音で、誰もが耳を塞いだ。
「……来たぞ……!」
初めにそれに気がついたのは、リーダーだった。
崇人は空を見上げていたのだが、彼よりも早く気付くことはなかった。
「流石だよ、タカトくん」
リーダーはそう言うと手を叩いた。
「最強のリリーファー、インフィニティをここに呼び出させることが、本当にできたなんて! ……ははっ、本当に! 本当にすごいことだ!!」
リーダーはそう言って両手を広げ、笑う。
狂っていた。そんなことは、誰にだって理解できた。
赤い翼側からは拍手喝采が鳴り響く。それは、俯いた表情を揃って示している人質側と対比していた。
明らかに、赤い翼と呼ばれる人間は狂っていた。
しかし、テロリズムを行う集団は一般人から見れば狂っているように見えるのかもしれないが、彼らから見れば一般人もまた狂っているように見えるのだ。要は、立ち位置の問題で、誰が普通で誰が狂っているのかが解る。
「……狂っている」
「ああ、そうさ。君たちから見れば、私たちは狂っているかもしれないね。けれどね、世界はすでに狂っているんだよ。そして、私たちが正しいことを証明していく。それは、正しいことだ。何も間違っちゃいない」
そう言って、リーダーは崇人の蟀谷に、銃口を添えた。
「さあ――インフィニティに乗れ、タカト・オーノ」
「断る、といえば?」
「想像に難くないだろう?」
リーダーがシニカルっぽく微笑むと、崇人は大きくため息をついた。
「……解った。ただし、条件をひとつ言わせてくれ」
「言ってみろ」
「ここにいる人質を、全員生かして解放すると約束しろ」
崇人の言葉に、人質がざわつき始める。それを聞いて、リーダーは鼻を鳴らした。
「解った。いいだろう。だが……逃げ出すなよ? 何かした瞬間、人質を殺していく」
その言葉に、崇人は小さく頷いた。
インフィニティに乗り込むのは、崇人にとって本当に久しぶりの出来事だ。その『久しぶり』がまさかこのようなタイミングで実現するとは、崇人も予想だにしていなかった。
コックピットに入ると、OS――フロネシスが言った。
『――まったく、よくもまあ、のこのことこのインフィニティに乗ってきましたね。敵の命令にホイホイ従っちゃうわけですか。命も惜しい、訳ですか』
「そりゃ人間だからな。命も惜しい訳だ……じゃなくて、これから逆転すんだよ。逆転満塁サヨナラホームランってやつをこれから打ってやる」
『へえ? どんなやつなんでしょう。ちゃちゃっと見せて頂けませんか?』
なんだかこのOS、急に人間らしくなったな――そんなことを思いながら、崇人は命じる。
「――インフィニティ、発進」
崇人の声は、深く落ち着いたものだった。
◇◇◇
外では、インフィニティがゆっくりと動き始めたのを見て、リーダーは嘲笑していた。これで自らの野望を果たすことができる――これで自らの夢を叶えることが出来る――そう思うと、リーダーは笑いが止まらなかった。笑いを止める必要などなかった。
自分の欲望が漸く満たされる。それを考えると、リーダーは笑いが止まらない。欲望、欲望、欲望、欲望――! 彼の頭は、それだけで覆い尽くされていた。絶望と、欲望と、希望と、それらが凡てごちゃまぜになっている。
その中でも際立って、欲望という存在が彼の頭を満たしていく。
欲望というものが満たされていくと、脳内からアドレナリンが分泌される。
「ひい……ひい……、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、ひひ、ひひひいいいひひひひひいっひっひひひっひっひっひっひひひひいひひひひひっひっひっひっひhっひひいいいいい!!」
リーダーは天に向かい、笑う。それはまるで、壊れたラジオのように、引き伸ばしたものだった。
それを見て、群衆は『変わり者』だと改めて思い知る。しかし、彼はそんなことを元から気にも留めていなかった。
「そうだ…………! 壊せ……! 壊すんだ、凡てを。そうして破壊が破壊を生み、破壊が再生を生み、再生が破壊を生む……! 凡て、凡てがそういう輪廻によって成り立っているぅ……! 凡て、凡て!!」
「リーダー、気を確かに」
「私はいつもこの調子だろう!? ……ああ、インフィニティよ、最強のリリーファーよ! 私に破壊を、混沌を、絶望を、見せてくれ……!」
その言葉は、インフィニティに載っている崇人にも聞こえていた。
「なんだあいつ? とうとう狂っちまったか?」
『アドレナリンの異常分泌により、精神が攪乱している様子です。直ぐには正気を取り戻さないでしょう』
「なるほど」
崇人はそれを聞いて、微笑む。
「――ならば、盛大に事を起こせるな」
インフィニティは会場をゆっくりと闊歩していく。それを、ショットガンを構えて見つめる『赤い翼』の人間たち。
だが、リーダーの作戦は、ある意味賭けでもあった。
インフィニティは最強のリリーファーだ。仲間にすれば、これほどまでにいい事はない。
しかし、敵になれば真逆になる。これ以上までに、必要ない存在はいない。だが、倒すのも一苦労だ。そのことを考えると、起動従士である崇人を早々に殺しておいて、誰にもインフィニティを使えないようにする方が得策なのだ。
しかし、リーダーはあえてそれを選択した。多少のリスクを背負ってでも、それを行うのが――彼の存在意義だからだ。
果たして、インフィニティは呼び出せるというのか。
だが、呼ばなければ、崇人自身の命が危うい。
「さあ、呼ぶんだ。インフィニティを――世界最強のリリーファーを」
リーダーの言葉に、崇人は頷き、そして心の中で念じた。
(来てくれ――≪インフィニティ≫――!!)
その頃。
ヴァリエイブル帝国の城下にある倉庫。
「にしてもこのリリーファーは本当に動くんですか?」
『00』と書かれたリリーファー倉庫で、二人の清掃員が掃除を行っていた。片方の女性が、もう片方に訊ねる。
「なんでも、最強のリリーファーらしい。だが、動かせるのはわずか一人で、今は学生として居るとか聞いたことがあるぞ。まあ、ただの噂なんだがな」
「まさか。噂と言っても限度がありますよ。信じられる噂を流さないと」
「俺が流したわけじゃねえかんなー。噂が噂を呼んで、どっかからか流れてきて……それの繰り返しってわけだよ」
「なるほど。けれど、それって本当に聞こえませんよね。嘘としか思えませんよ」
そう言うと、男はガッハッハと大声で笑った。
ちょうど――その時だった。
ズン!! と地響きが鳴った。
「なんだこりゃあ!?」
男の清掃員は慌てふためいて、リリーファーの方を見る。
すると、リリーファーが、インフィニティが動き始めていた。
それには、誰も乗っていないはずなのに。
「……あのリリーファー、無人でしたよね!?」
「ああ……! どういうことだよこいつは!!」
インフィニティは、起動従士タカト・オーノに誘われて起動したのだということに、彼らはまだ知らなかった。
そして。
それからわずか数分後の出来事だった。
北方から、耳を劈く轟音が響き渡った。あまりの轟音で、誰もが耳を塞いだ。
「……来たぞ……!」
初めにそれに気がついたのは、リーダーだった。
崇人は空を見上げていたのだが、彼よりも早く気付くことはなかった。
「流石だよ、タカトくん」
リーダーはそう言うと手を叩いた。
「最強のリリーファー、インフィニティをここに呼び出させることが、本当にできたなんて! ……ははっ、本当に! 本当にすごいことだ!!」
リーダーはそう言って両手を広げ、笑う。
狂っていた。そんなことは、誰にだって理解できた。
赤い翼側からは拍手喝采が鳴り響く。それは、俯いた表情を揃って示している人質側と対比していた。
明らかに、赤い翼と呼ばれる人間は狂っていた。
しかし、テロリズムを行う集団は一般人から見れば狂っているように見えるのかもしれないが、彼らから見れば一般人もまた狂っているように見えるのだ。要は、立ち位置の問題で、誰が普通で誰が狂っているのかが解る。
「……狂っている」
「ああ、そうさ。君たちから見れば、私たちは狂っているかもしれないね。けれどね、世界はすでに狂っているんだよ。そして、私たちが正しいことを証明していく。それは、正しいことだ。何も間違っちゃいない」
そう言って、リーダーは崇人の蟀谷に、銃口を添えた。
「さあ――インフィニティに乗れ、タカト・オーノ」
「断る、といえば?」
「想像に難くないだろう?」
リーダーがシニカルっぽく微笑むと、崇人は大きくため息をついた。
「……解った。ただし、条件をひとつ言わせてくれ」
「言ってみろ」
「ここにいる人質を、全員生かして解放すると約束しろ」
崇人の言葉に、人質がざわつき始める。それを聞いて、リーダーは鼻を鳴らした。
「解った。いいだろう。だが……逃げ出すなよ? 何かした瞬間、人質を殺していく」
その言葉に、崇人は小さく頷いた。
インフィニティに乗り込むのは、崇人にとって本当に久しぶりの出来事だ。その『久しぶり』がまさかこのようなタイミングで実現するとは、崇人も予想だにしていなかった。
コックピットに入ると、OS――フロネシスが言った。
『――まったく、よくもまあ、のこのことこのインフィニティに乗ってきましたね。敵の命令にホイホイ従っちゃうわけですか。命も惜しい、訳ですか』
「そりゃ人間だからな。命も惜しい訳だ……じゃなくて、これから逆転すんだよ。逆転満塁サヨナラホームランってやつをこれから打ってやる」
『へえ? どんなやつなんでしょう。ちゃちゃっと見せて頂けませんか?』
なんだかこのOS、急に人間らしくなったな――そんなことを思いながら、崇人は命じる。
「――インフィニティ、発進」
崇人の声は、深く落ち着いたものだった。
◇◇◇
外では、インフィニティがゆっくりと動き始めたのを見て、リーダーは嘲笑していた。これで自らの野望を果たすことができる――これで自らの夢を叶えることが出来る――そう思うと、リーダーは笑いが止まらなかった。笑いを止める必要などなかった。
自分の欲望が漸く満たされる。それを考えると、リーダーは笑いが止まらない。欲望、欲望、欲望、欲望――! 彼の頭は、それだけで覆い尽くされていた。絶望と、欲望と、希望と、それらが凡てごちゃまぜになっている。
その中でも際立って、欲望という存在が彼の頭を満たしていく。
欲望というものが満たされていくと、脳内からアドレナリンが分泌される。
「ひい……ひい……、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、ひひ、ひひひいいいひひひひひいっひっひひひっひっひっひっひひひひいひひひひひっひっひっひっひhっひひいいいいい!!」
リーダーは天に向かい、笑う。それはまるで、壊れたラジオのように、引き伸ばしたものだった。
それを見て、群衆は『変わり者』だと改めて思い知る。しかし、彼はそんなことを元から気にも留めていなかった。
「そうだ…………! 壊せ……! 壊すんだ、凡てを。そうして破壊が破壊を生み、破壊が再生を生み、再生が破壊を生む……! 凡て、凡てがそういう輪廻によって成り立っているぅ……! 凡て、凡て!!」
「リーダー、気を確かに」
「私はいつもこの調子だろう!? ……ああ、インフィニティよ、最強のリリーファーよ! 私に破壊を、混沌を、絶望を、見せてくれ……!」
その言葉は、インフィニティに載っている崇人にも聞こえていた。
「なんだあいつ? とうとう狂っちまったか?」
『アドレナリンの異常分泌により、精神が攪乱している様子です。直ぐには正気を取り戻さないでしょう』
「なるほど」
崇人はそれを聞いて、微笑む。
「――ならば、盛大に事を起こせるな」
インフィニティは会場をゆっくりと闊歩していく。それを、ショットガンを構えて見つめる『赤い翼』の人間たち。
だが、リーダーの作戦は、ある意味賭けでもあった。
インフィニティは最強のリリーファーだ。仲間にすれば、これほどまでにいい事はない。
しかし、敵になれば真逆になる。これ以上までに、必要ない存在はいない。だが、倒すのも一苦労だ。そのことを考えると、起動従士である崇人を早々に殺しておいて、誰にもインフィニティを使えないようにする方が得策なのだ。
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