絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第四十六話 対談

 アーデルハイトの部屋にたどり着き、崇人はドアをノックする。直ぐに、アーデルハイトから返事が来て、中へ入る。中に入ると、アーデルハイトが微笑みながら、テーブルに向かった席に座るよう促した。

「アーデルハイト、あのメールについてどういうことなのか、話してもらおうか」

 崇人は息が上がっていたのか、肩を上下させていた。恐らくは、走ってきたのだろう。そんな崇人を見て、小さく鼻で笑った。

「だから、メールの文面の通りよ。ヴィーエックが見つかった。それも、先程私達が作戦を実行していたティパモールでね。一先ず、タカトにだけは報告しておいた方がいいかな、と。まぁ、先ずは座りなさいな」

 アーデルハイトが再び座るよう促したので、崇人はそれに従う。崇人はアーデルハイトに面するかたちで椅子に腰掛けた。

「……それで、どうして先ずは俺なんだ? 全員に一斉で……メールすればいい話じゃないか」
「あなたは忘れているのかもしれないけれど、私達が実施している作戦は秘密裏に行っているものだから、そう簡単に外部には話せないのよ。そして、その作戦の実施中にヴィーエックが見つかった……とは言えないわけ。彼には一応、急病で入院を余儀なくされていたという適当な言い訳で乗り過ごしてもらうことにする」
「ヴィエンスが許すとは思えないがな……。まぁ、とにかく見つかって良かった」

 崇人はそう言って安堵の溜め息を漏らした。
 アーデルハイトは少しだけ声のトーンを下げて、話を続けた。

「ここからはオフレコね。……実は、ヴィーエックが『シリーズ』と思われる何かと接触したと言うのよ」
「……なんだって?」

 それを聞いて、崇人は眉をひそめた。もしそれが本当ならば大きな収穫になる、崇人はそう考えていたからだ。

「それで、ヴィーエックは、あいつは、何て言っていたんだ」
「何でもシリーズはある計画を遂行させようとしているだとか、シリーズは人間との共存を望んでいるらしく、まったく危害は与えられなかっただとか言ってたわ。まぁ、確かに彼の身体には傷一つついていなかったから、これは信じていいかもしれないけれど」
「人間との共存? だったら、あの時襲いかかったときはどう説明つけるつもりなんだ……?」
「そう。私もそこが引っかかっているのよ。本当に人間との共存を願うのだというならば、人間と対話の場を設けようという意志があってもおかしくない。しかし、その様子など全くない。にもかかわらず、『共存を望んでいる』と言った」
「……嘘をついている?」
「その可能性が高いね」

 アーデルハイトが呟くと、崇人は小さくため息をついた。

「……しかしまあ、君はほんとうによく見ると女性と見間違えるね」
「……………………………………………………は?」

 突然こいつは何を言っているんだと崇人は思ったが、アーデルハイトの目つきを見ると、それはまったく冗談ではなく、真剣な目つきだった。
 崇人はいやいやな表情でアーデルハイトの方を見て、

「ちょっと待てよ。俺はどう見ても男だろうが」
「いやー、身体が骨張ってもいないし、恐らく十人中十人がそう思うんじゃないかなあ? だって顔もどちらかといえば女性っぽいし?」
「ちくしょう! ここに来て体格に突っ込まれるなんてまったく思いやしなかったぜ!! 確かに同年代のオトコノコと比べればなんだか背が低いなあとは思っていたが!!」

 ここで崇人は自らの身体(これは『魔法』をかけられた状態ではあるが)について考える。
 崇人の身体は若返る魔法によって十歳に若返っている。それに関しては、崇人は問題ないとしていた。

「……肌も綺麗だしなあ。何か、ケアでもしているのか?」
「いいや、まったく」
「そいつは羨ましい。オンナノコというのは大変でな。肌のケアに数時間を費やすのが普通なんだよ」
「ああ。そうなのか。……だが、残念なんだけど俺は男だからな?」
「解っているよ、それくらい」

 アーデルハイトはニヒルな笑みを浮かべる。
 崇人はそれを見て、舌打ちをした。

「それで、ヴィーエックはどこにいるんだ? 明日の作戦とかを話しておきたいんだが」
「ああ。ヴィーエックなら、あそこに行ったよ」
「どこへ?」

 崇人の問いに、アーデルハイトは呟いた。

「――ヴィエンスの部屋に、だよ」


 その頃、ヴィエンスの部屋にはヴィーエックとヴィエンスがいた。

「……にしても、急病とはな。随分とピンポイントなところで来るものだな」
「いやあ、そのへんは自分の健康管理が問題ということで、不甲斐ないことになってしまって」

 ヴィーエックは頭を掻いて、小さく微笑んだ。ヴィエンスはテーブルに置いていた缶コーヒーを一口飲んだ。

「んで、俺に何の用だってんだ」
「明日の作戦についても聞きたいんだけれど。僕は少し、気になったことがあってさ。君は……どうしてそこまでリリーファーの起動従士という地位に拘るのかな、ってことがどうしても気になっちゃうんだよね」
「そんなこと、当たり前だ。この世界にいる人間にとって、起動従士の地位に立つということは大きな名誉だ。素晴らしいことだからな」
「……本当に、たったそれだけの理由なのかな?」

 ヴィーエックの問いに、ヴィエンスは眉をひそめる。

「何が言いたい」

 ヴィエンスは少しムッとしたが、ヴィーエックは変わった調子で話を進める。
 その頃、崇人はヴィエンスの部屋の前に来ていた。

「ったく、ヴィーエックも回復したなら一言くらいくれてもいいのに」

 そんなことを言いながら、ノックしようとしたが、部屋から声が聞こえてきた。
 そして――その声ははっきりと、ヴィーエックのものだとわかった。

「知らなかったよ……ヴィエンス、君が戦争孤児だなんて」

 ヴィーエックが放った言葉はヴィエンスだけでなく、ドアの向こうから聞いていた崇人の顔をも強ばらせた。

「なっ……馬鹿な。どうしてそれをお前が知っているんだ……!?」
「人の口に戸は立てられない。これは諺でも有名なことだぜ」
「そういうことじゃない!! どうしてお前がそれを知っているか、それを話せ!!」

 ヴィエンスが激昂するも、ヴィーエックは淡々と話す。

「クルガード独立戦争において、母親が幼いあなたをかばった。だから、母親は死に、あなただけが生き残った。つまりは、あなたは戦争孤児となったわけだ。何度でも言ってあげましょう。そして、あなたは戦争を憎むようになったのかは知りませんが……今は戦争の代行役である起動従士になろうとしている。何とも皮肉な話だとは思いませんか?」
「それ以上言うな、殺すぞ」
「どうぞ? ただし、あなたには人を殺せるとは、到底思えませんが」


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