二次元美少女と恋をしたいっ!←そんなことさせないですよ?

ハタケシロ

第77話 文化祭6

「シルクちょっといい?」

「なに?」

「もう何もしなくていいわ」

「ん、分かったよ」

「理由は聞かないの?」

「真昼姉さんの顔を見てれば何となくわかるしね。それに僕はあんまり女性には興味がないから」

「え?それはどういう意味で言ってるのかしら?」

「さぁね。でも瀬尾くんっていい男……冗談!冗談だってば!」

「ほっ……じゃあね。あの子達に迷惑はかけないように」

「分かってるよ。…………冗談とは言ったけど、瀬尾くんって面白い男の子だね」





急に背筋に冷や汗をかいたが、何だったんだろうが。

「どうかしましたか?陽向くん」

「いや、なんでもない」

5箇所あるうちの最初のチェックポイントについた俺たちは、台紙にスタンプを押す。
たぶん美術部が作ったであろうスタンプは、押すと美少女が現れるように掘られていて、ぜひ友達になりたいと思うほどの出来栄えだった。

「残念です。もう交代ですか」

「俺もそう思った。まさか何も無いまま交代するとは」

「何もするはずないじゃないですか。先生に言われた通り、ちゃんと楽しもうって決めたんですから」

「そうは言うけど、最近の桃は霧咲みたいな行動があったからな。警戒はしていた」

「なにか失礼な言い方ですね。いいんですよ私は。この時がとても楽しかったので」

普通の男子なら1発で恋に落ちるような屈託のない笑顔の桃。俺なんかとなにがそんなに楽しいんだか。



「次はお前か。セラフィ」

「なんなんですの?その嫌そうな顔は」

「そりゃお前嫌に決まってるだろ?」

何が悲しくて、3次元の女の子と一緒にスタンプラリーを回らにゃならんのだ。

「ようた?いいですの?このわたくしと回れるのは本当なら光栄なことですのよ?」

「じゃ俺そういうのいいから辞退するわ」

「!う、嘘ですわ!さぁようた行きますわよ!」

「腕を引っ張るな」



「待ってたわ。陽向さま!」

「思ってたんですけど様って」

「いいじゃない!好きに呼んでも!」

「まぁ、いいですけど」

ただ、様って呼ばれると、周りからの視線がヤバイんだよな。すぐに目を逸らされるから大丈夫……ってそんなに俺のこと嫌いですか皆さん。

「陽向さまもちゃんと真昼って呼んでよね?」

「はぁ……真昼さん」

「まぁ、合格かしらね」

「さっ、まずは何を食べようかしら?」

「スタンプラリーはいいんですか?」

「チェックポイントまでは近いし、ちょっと寄り道するだけよ。それに私って文化祭をちゃんと楽しんだことなかったから」

「そうなんですね」

「毎年、クラスの出し物で忙しかったから」

「でしょうね」

その美貌なら仕方ないだろうな。
俺ですら美人と思えるんだから。
この後、さんざん銀髪美少女もとい真昼さんに付き合わされた。1番短いはずの距離を1番長くかけて歩いた気がする。



「やっと私の番ですね」

「ついにお前の番だな霧咲」

1番警戒している霧咲がついに来た。
桃といいセラフィといい何もなかったが、こいつだけは何をしてくるか分からん。
警戒を怠るわけにはいかないな。

「そんなに構えないでくださいよ。ちょっと舐めるだけですから」

「何をだ!?」

いきなり飛ばしてきやがった。
もうやだ。誰か助けて。

「冗談です。あ、そう言えばかっしーなんですけど、順番が待てないらしくて関さんと一緒に回るそうです」

「なのか」

「はい!なので次はかっしーの番だったんですけど連続で私になりました!」

「まじでか!」

お、おう…。
なんてこった。
1番厄介なやつが連続で一緒なんて。

「皆さんの許可も得ているんでぬかりはないです」

「なんのぬかりがないんだ?なんの」

なんだろうな。霧咲の言う一言一言が絶妙に怖いんだが。

「では行きましょう!」

「おう」

とりあえず何事もなければそれでいい。

「そう言えば、景品もあるらしいですよ?」

「へーなのか」

アニメのBlu-rayとかか?それとも嫁の抱き枕?
何にしても期待が膨らむな。

「宿泊チケットとかですかね!」

「それはない!」



「お、陽向」

「智和」

最後のチェックポイントまであと少しというところで、智和に会った。隣には涼しそうにりんご飴を舐めている柏木が居る。

「俺の暇つぶしの役割もここまでかな。うし、陽向。あとは三人で行けよ」

「いやいいって。俺は霧咲の相手だけで精一杯だ。柏木も増えたらさすがにこたえる。それに、ここまで2人で来たんなら最後まで2人で行けよ」

「おい陽向。なんだ今の言い方?」

「え?」

「関?」

いつもと違う雰囲気の智和に柏木が不安そうに呟く。
霧咲もまたどうしたのか分からない様子で立っていた。

「今の言い方だと柏木さんが邪魔みてーな言い方じゃねぇか」

「……俺はそのつもりで言った」

正直に言おう。邪魔だ。
柏木に限ったことじゃなく、この状況下でたと誰であろうが邪魔だ。

「陽向ちょっと殴り合いしないか?」

そう言った智和の表情は真剣そのもの。
いつも爽やかに笑っている智和とは別人のようだ。

「それはどうい……っ!?」

「関!?」

「関さん!?」

俺が答える間もなく、智和が殴りかかってきた。
油断していたせいもあるが、反応が遅れて、もろに食らった。

「ってぇな……このヤロー!」

「ぐっ……!!陽向ぁああ!」

何発食らったのか、逆に何発入れたのかは分からなかった。
ただ、この時、覚えているのは俺たちを必死に止めようとした霧咲と柏木の声だけだった。

「ハァ、ハァ」

「ハァハァ」

殴り疲れた俺達は互いに大の字に寝転がった。
不良やヤンキー相手に喧嘩をした事は何度かあったが、こうして友達と喧嘩をしたのは初めてかもしれない。

「どうして殴った?」

「陽向の発言にイラッとしたからに決まってんだろ」

「すげー頬がいてーんだけど?」

「嘘つけよ。俺なんか陽向のパンチほぼもろに貰ってるんだぜ?それに比べて俺が陽向に決めたのは最初だけだぞ?」

「智和って弱いんだな」

「うるせー陽向が強すぎんだよ」

「まぁ鍛えてるからな。無駄に」

影で鍛えてて良かったぜ。
いや、良くないのか?わかんね。

「俺の気持ちは伝えたつもりだぜ陽向」

「あぁ、なんとなく分かった」

「嘘つけよ」

「ほんとだって」

「陽向は鈍感つーかチキンだからな。それがいつか女の子たちを傷つける」

「…………分かってる」

「分かったねーよ。まぁ、あれだちゃんとしろってことだ」

「あぁ」

「じゃないと俺が柏木さんに告れねーからな」

「はぁ!?」

「は、はぁ!?」

「告れねーって智和!柏木のことがす」

「バカ声が出けーよ!近くに本人がいるんだぞ!?つか、やっぱわかってなかったのな!」

「いや、だってなぁ」

まさかそうだったとは。
全然気づけなかった。

「行けよ。陽向」

「ん?」

「3人で行ってくれ。お前にコテンパンにされたあとじゃ気まずくて一緒に歩けねぇ」

「智和から来たのにな」

「うるせぇ。それにスタンプラリーの景品けっこう豪華らしいぞ。ただ最後のスタンプがなかなか押せないって言ってたけどな」

「そうか」

俺は立ち上がり、智和に手を差し出す。
が、智和は早くいけよと手で合図を出した。

「私は関の手当てするよボロボロだし」

「そうか。わりぃ」

「本気出しすぎ」

「ついな」

「最初はヒヤヒヤしましたけど、陽向さん青春してましたね」

「なんか恥ずかしいから言わないでくれ」

この瞬間から俺と智和は友達から親友に変わった気がした。

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